いきいき!エバーグリーンラブ: 老化を遅らせる運動法は?

2017年3月24日金曜日

老化を遅らせる運動法は?

例えば、傷の治りが遅くなるとか、打ち身の痛みや、寝違え、捻挫、筋肉痛など、年とともに、治りが遅くなることを感じたことはありませんか?

モチロン若い方は想像もできないでしょうが、アラフォーを過ぎたあたりからこのことを感じている方は多いはずです。

ヒトだけでなくすべての生物(真核生物)は老化と死はプログラムされていて避けられないのですが、それを遅らせることはできます。

ヒトの場合の唯一の方法は、
本来の体の機能を十分に引き出すこと
つまり、運動することです。


では、どうして運動が老化を遅らせることができるのでしょうか。
そして、老化を遅らせるための運動はどうやって行えばよいのでしょうか?
このブログをお読みの方はお察しがつくでしょう。
キーワードはミトちゃんです。
ミトコンドリアの数で若さが決まる

今日はそのヒントになる研究を紹介して、老化に対抗する運動法と、老化にブレーキを掛ける仕組みについてみてみましょう。

運動によるタンパク質生合成の向上で、加齢に伴う身体・代謝の変化へ対応できる

Matthew M. Robinson et.al. Enhanced Protein Translation Underlies Improved Metabolic and Physical Adaptations to Different Exercise Training Modes in Young and Old Humans.Cell Metab. 2017 Mar 7;25(3):581-592. 

How exercise -- interval training in particular -- helps your mitochondria stave off old age

【研究の参加者】
18~30歳の若年者群と、65~80歳の高齢者群それぞれ36名(男女)

【研究の方法】
上記の若年者群と高齢者群に
  1. 高強度インターバルトレーニング(自転車マシーン)
  2. 筋力トレーニング
  3. 高強度インターバルトレーニング+筋力トレーニング
をそれぞれ行ってもらい、参加者の大腿筋群から細胞のサンプルを取って、
  • 細胞内での小器官の働き
  • 筋肉量
  • インスリン感受性(低下により糖尿病リスクとなる)
について測定し、それぞれの運動との関連を調べた。

【研究の結果】
  • 筋力トレーニングはどちらの群でも筋肉量を増加させた
  • 高強度インターバルトレーニングは、若年者群ではミトコンドリアの能力を49%増加させ、高齢者群では69%も増加した
  • 高強度インターバルトレーニングではこれらの効果に加えて、インスリン感受性を改善した
  • 高強度インターバルトレーニングは加齢に伴う筋肉量低下はあまり改善させなかった

【研究から考えられること】
  • 老化を遅らせるためには、週当たり3~4回の高強度インターバルトレーニングと、筋力トレーニングを組み合わせることがよいと考えられた。
  • 仮に、忙しいので1つの運動パターンを選択しなくてはならないとすれば、高強度インターバルトレーニングはお勧めだが、それだけでは、筋肉量低下は防げそうもない。
  • しかし、全く運動しないよりははるかにましであろう、と研究者らはコメントしている。

いかがでしょうか。
研究者らはこの論文で、
老化に対抗していくには、どのような運動が良いか
だけでなく、
この研究によって、運動が細胞内の器官の機能を向上させる仕組みがいくつか明らかになった 
ことを強調しています。

具体的には、
自転車マシーンによる高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)では、ミトコンドリアが独自に持つミトコンドリア遺伝子からのRNAの複製が増加し、ミトコンドリアタンパク質*ができて、老化に伴うミトコンドリア機能低下が抑えられ、さらには改善さえして、筋力増強に有用なタンパク質の生合成も増加していた
ことが示されました。

老化防止の鍵はミトコンドリア にある

この研究では、高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)で、ミトコンドリアの機能と質が改善し、タンパク質生合成の能力が向上したということは、細胞の小器官としてタンパク質の製造工場を務めるリボソームの若返りを促したものと考えられる、としています。

*ミトコンドリアタンパク質とは
ミトコンドリアタンパク質のうち約21%は、ミトコンドリアが総ての細胞や細胞内小器官のエネルギーであるATPを作るために必要な、ミトコンドリア内膜にある電子伝達系(図)と呼ばれるところにあるタンパク質(酵素)のセットに使われています。
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ミトコンドリアは外膜と内膜で囲まれ、内膜には電子伝達系という5つの酵素のセットがある。ミトコンドリア内では、食物から得られた化合物から水素イオンと電子を取り出す。水素イオンは内膜を通じて大半が汲み出され、電子は電子伝達系で受け渡されて、最終的に、これも取り込まれた酸素と、汲み出されなかった分の水素イオンとが反応して水ができる。その時にできる外膜-内膜のすき間と内膜内の水素イオンの数の差(電位差)が電気エネルギー(電荷の流れ=稲妻に相当)を生み出して、電子伝達系のタービン(電子伝達系のATP合成酵素)を回して、ATPを効率よく作る。同時に、TCA(クエン酸)回路も回して、ATPを作り、食物からの化合物の反応で二酸化炭素もできる。この一連の反応が呼吸(細胞呼吸)である。このように、ミトコンドリアの活動には酸素が不可欠である。有酸素運動がミトコンドリアを活性化させることが解る。

この酵素セットによって、ミトコンドリア内で呼吸が行われて、エネルギーであるATPができるのです。
このATPを受け取ったリボソームは、エネルギーとしてATPを使って、細胞に必要なタンパク質を作ることができます。
ミトコンドリアは、体(細胞)が要求するエネルギーに見合った数の酵素セットを作って、要求に応えていると考えられます。
その要求とはつまり運動することですね。
運動をしない人のミトコンドリアは、わざわざ酵素セットを新たに作らないと思われます。
ミトコンドリアの数で若さが決まる
   ミトコンドリアが酵素セットである電子伝達系を新たに作る能力が若さの秘訣
   と言えるでしょう。

さらに、この研究者らは、
参加者から細胞のサンプルを取った大腿筋は筋肉細胞である。
筋肉細胞は、脳などの神経細胞や心筋細胞などと同様に、細胞分裂しにくい細胞の一種であり、再生しにくい。
高齢者群でも運動によって、ミトコンドリアの機能が改善し、筋肉量が増えるということは、運動による筋肉の再生が観察されたということである。
筋肉細胞と同じく、再生しにくい脳の細胞や心筋細胞の再生にも運動の効果が期待できる
としています。

アンチエイジングとして、食べ物や、健康食品・サプリメント、各種ダイエット法などがいろいろ宣伝されていますが、やはり運動に勝るものはありませんね。
外からあれこれ栄養素や成分を摂ったところで、ミトコンドリアに代表される細胞の中の器官を運動で刺激して、自ら大切な体の部品(タンパク質)を作らせて補修させることに上回る効果はないということです。

例えば、骨の構成成分のコラーゲンは筋肉と似た性質のタンパク質で出来ています。
コラーゲンはサプリメントなどで外からは取りこめませんから、骨が脆くなりつつある人は、運動してその人の骨にぴったり合ったコラーゲンを、ミトコンドリアとリボソームに作ってもらうことが骨粗鬆症防止に有効ということですね。

まとめると、健康に役立って老化を防ぐベストな運動法は、基本的には、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)+筋力トレーニング
ですが、忙しければ、最低でも
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)
を行えば効果ありということでしょう。

中高年や高齢者では、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)だけでは筋肉の低下を防げないので、筋力トレーニングをプラスする
のがお勧めということですね。

また、老化にブレーキをかけるのは、
有酸素運動によりミトコンドリアとリボソームを活性化して、細胞の中で修復のためのタンパク質を生合成させること
にあるようです。

このことから、運動と合わせて、普段の食生活でも修復するタンパク質の原料となる食事由来のタンパク質(アミノ酸)の摂取も大切であることがわかります。

サプリメントも健康食品も薬も、運動してこそ役に立つ

逆に言えば、どんなに食事やサプリメントや健康食品で、良い栄養成分を摂っても、運動しなければ、せっかくの原料を体の修復用のタンパク質や化合物に作り変えてもらえないということになります。
昔からよく言われる、「良好な新陳代謝」とは、運動と適正な食事の2本立てで初めて成り立つものなのですね。

恐らく、運動せずにこれらの栄養成分をせっせと食べたり飲んだりしても、体が過剰なカロリーと判断して、脂肪としてため込むか、吸収されずに消化器に負担をかけるだけの素通りになる可能性が高いと思います。

 サプリメント健康食品が効果を発揮するには、上でお話ししたミトコンドリア電子伝達系が働く必要があります。
「これを飲んでいればOK!」と宣伝するサプリメント健康食品???ですね。

このことは多くの生活習慣病の薬にも当てはまると思います。
糖尿病の薬も、高血圧治療薬も、高脂血症治療薬も、骨粗鬆症治療薬も、 運動と併用して初めて効果が出る 
と思ったほうが良いと思います。

運動とミトコンドリアについてはこちらの記事も読んでください。
運動・ミトコンドリア
ミトコンドリアの数で若さが決まる
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2 件のコメント:

  1. はじめまして、質問を一つ。

    「高強度インタバルトレーニング(100%強度)は高齢者でも健康被害なしに実行できますか」

    当サイトでもそうなのですが、高齢者対象に推奨されているのは「高強度インタバルトレーニング(有酸素運動)」となっていて、私のトレーニングとは違うのではないかと心配になりました。

    私は肥満体の高齢者です。簡易計測のVo2MAXですが年齢体重からすればかなりいい。47
    ごく軽い動脈硬化があります。

    整形外科のジムで、「坂を登るのがつらい」と相談したら、エアロバイクのショートインタバルが推奨されました。500m全力走と90秒ジョグの5本、とLSDです。500m全力走は後半足が動かなくなるくらいの全力走ですし、完全な無酸素運動です。終わった後はヘロヘロになりますが、しばらくすると回復、次の日には残りません。自転車でフィールドを走る方が全体としてははるかにきつく感じます。(こちらも当然95%強度は使うのですが、休みもおおいので、実走はレペ走に近くなるでしょう。)

    ということでショートインタバル一見問題なく行えていますが、長期的な健康被害は出ないのでしょうか。

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    1. コメントありがとうございます。

      高強度インターバルトレーニングとは、厳密には「有酸素運動」だけではなく、短時間の無酸素運動とをインターバルする運動形式のことです。定義はいろいろあるようですが、下記が分かりやすいかと思います。

      https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%BC%B7%E5%BA%A6%E3%82%A4%E3%83%B3%
      E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%8
      3%B3%E3%82%B0

      要するに、「無酸素運動=筋力増強訓練」と「有酸素運動=持久力増強訓練」の組み合わせが大切なのです。
      加齢とともに、筋力の増強=速筋の強化は困難になります。これは生理的に不可避です。しかし、持久力ならびに、現状の筋力を維持することは可能です。
      加齢とともに、「無酸素運動=筋力増強訓練」の負荷をむやみにかけると関節などの付属器官の物理的な障害を招くために、「無酸素運動=筋力増強訓練」の割合の高い運動を推奨しないものと思われます。
      ですので、持久力と、年とともに低下する筋力維持ができれば運動のスタイルはあまり気にせずともよいのではないでしょうか。
      ご質問者の場合は、
      >500m全力走をして、しばらくすると回復、次の日には残りません。
      ができるということは、十分に「無酸素運動=筋力増強訓練」の予備能はあるけれど、
      >自転車でフィールドを走る方が全体としてははるかにきつく感じる
      ことから、血管心肺機能をはじめとした持久力が落ち始めていると考えるのが自然です。
      つまり肥満と「軽い動脈硬化」に起因する全身機能の低下と思われます。
      誠に失礼を申し上げますが、ご質問者の場合は、無酸素運動をして筋力をつけるより、肥満を遠ざけることのほうがより健康的と思われます。
      肥満は慢性的全身炎症をもたらし、万病のもとです。
      ご質問の限られた情報からのみお答えするのは、限りがありますが、まずは、有酸素運動とカロリー制限・嗜好品制限などの食事療法を並行的に行い、適正体重にすることが肝要かと存じます。

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