いきいき!エバーグリーンラブ: 「除菌」は人類を滅ぼす?

2015年6月14日日曜日

「除菌」は人類を滅ぼす?

いきなりですが

クイズ1

次のグループのうち、一番健康なのはどれでしょう?

グループ3では炎症を起こす遺伝子が多く発現していた グループ2と3では、1に比べて病原性を持った細菌がたくさん腸内に認められた グループ1の腸内細菌は3/4以上が乳酸菌だったのに対し、グループ2では13%、グループ3では3.6%だった

  1. 戸外で泥まみれになって生活する
  2. 屋内で雑居する
  3. 屋内で、一匹ずつ個室を与えられ、定期的に抗生物質を服用する




実際にブタで行われた試験の結果、1のグループが一番健康であることがわかりました。

どのような点で健康かというと、
  • グループ3では炎症を起こす遺伝子が多く発現していた
  • グループ2と3では、1に比べて病原性を持った細菌がたくさん腸内に認められた
  • グループ1の腸内細菌は3/4以上が乳酸菌だったのに対し、グループ2では13%グループ3では3.6%だった
乳酸菌とは、炭水化物をエサにして発酵させて乳酸を作る細菌のことです。
悪臭の原因となる腐敗菌に対抗することから、善玉菌と呼ばれていますね。

腸内細菌は運命共同体

ブタの実験では、衛生的な環境で育つと、本来必要な腸内細菌が育たないということが証明されたことになります。

クイズ2

では、健康な成人にはどのくらい腸内細菌がいると思いますか?
参考まで、ヒトの体は約40兆個の細胞で出来ているとされます。
  1. 10億
  2. 1兆
  3. 100兆

こたえは 3.の100兆。
自分自身の細胞の数より多いんです。

そして、これらの腸内細菌は、ヒトが人類になるずっと前から、環境の変化に応じて利害関係を保ちつつ、共存してきました。

中には病原性の高い細菌もいて、感染した相手(宿主)を殺してしまったこともあるでしょう。
そういう細菌は、感染する相手を失ってしまう、つまり宿主を殺してしまうので、次第にヒトの間では受け継がれていかなくなります。
あるいは、宿主を殺さない程度に病原性が弱くなることで、仲良く共生できるようになる場合もあります。

ヒトは細菌を食べて成長する!

遺伝子を受け継ぐならば理解できるけれど、「細菌を受け継ぐ」ってどういうこと?と思われるかもしれませんね。

腸内細菌は、生まれるときにお母さんの腟で譲り受けることができます。
妊娠すると腟の性状が変わって(腟内が酸性に傾く)、細菌が住みやすくなり、腸管から細菌が移動してきて赤ちゃんが生まれる準備をするそうです。
帝王切開で生まれた赤ちゃんは、自然分娩で生まれた赤ちゃんに比べて、腸内細菌が少ないといいます。
帝王切開では赤ちゃんが産道(腟)を通らないからですね。
産道で、赤ちゃんはお母さんの細菌を飲み、自分の腸内に受け継ぐというわけです。

生まれてからも、スキンシップや、離乳食を摂る時期にお母さんが噛んだ物を食べさせてあげることでも、受け継がれます。

赤ちゃんには、何でもかんでも口に入れる時期がありますね。
そうすることで、身の回りの細菌を体の中に取り込んでいるんです。
これも、「何でも口に入れる」好奇心を持った赤ちゃんが成長しやすいために、遺伝子としてそういう性格(?)が定着していったということなのでしょう。

なので、おもちゃを消毒したり、外で地面に座らせなかったりするのは、大事な感染源を取り除いてしまうことになります。

腸内細菌は、一度体内に入ればOKというものではなくて、常に接触し続けていないと維持できないようです。

腸内細菌が免疫のシステムを作る

では、腸内細菌は一体、腸の中で何をしてくれているのでしょう?

ヒトが自分では栄養素として利用できないものを、代謝してくれる細菌もいます。
ヒトの代謝酵素の代わりをしてくれるわけです。

でも、もっと大切な役割があります。
腸内細菌は、ヒトの免疫の作用を鍛えてくれるのです。
これは、生まれて間もない時期の方が効果が大きいようです。

免疫というのは、身体を病原ウイルスや病原菌から守るシステムです。

免疫が働きすぎてしまうと、アレルギーやリウマチなどが起こります。

詳細は宿便のウソをご覧ください
自分の体を、ウイルスや細菌などの外敵から守る反応が強すぎて、自分を攻撃するはずのない花粉やハウスダストに反応して、花粉症や喘息、アトピーなどになる、これがアレルギーです。

自分自身の細胞に対して攻撃してしまうと、関節リウマチや潰瘍性大腸炎、クローン病などの自己免疫疾患になります。

外敵に対して「ほどほどに」攻撃することが、生きていく上では大切なことがわかりますね。
この「ほどほど感」を学ばせてくれるのが、腸内細菌です。

別なページでお話ししましたが、便秘やダイエット対策に腸内洗浄などをするのは、危険なことなのです。
宿便のウソ

腸内細菌には謎が多い。けど、仲良くしておこう

腸内細菌が具体的に何をしているかには、まだ、たくさんの謎が残されています。

ファブリーズは使わない方がいいかも 子どもは雑菌に囲まれて成長した方が健康になる。除菌された生活で花粉症、アトピー、喘息が起こる 除菌はよくない イラスト何しろ、身体の外に取り出してしまったら、身体の中での作用は調べられませんし、色々な種類の細菌がそれぞれ関係を持ちながら、色々な働きをしているわけですから。

皆さん、生き物ですからね。
生き物は複雑に絡み合って生きているのです。
地球上に、ほかの生物から孤立して生きている生物はおそらく存在しません。

免疫の作用もとても複雑なので、簡単には説明できません。
腸内細菌だって細菌だし、病原菌だって細菌です。
どこまでが敵で、どこまでが味方か、という線引きはできません。

実際に、普段は体の中でおとなしくしているけれど、年を取ったり病気をしたりして体力が落ちると攻撃してくる細菌もたくさんいます。

「ならば、健康なうちにこのような細菌はあらかじめ除菌してしまえばいい」なんて考えると、免疫系が混乱してアレルギー体質になってしまったりするわけです。

大切なのは、長い長いヒトの歴史の中で育まれてきた細菌との持ちつ持たれつの関係は、私たちが想像するよりもずっと意義深いもので、安直に排除してしまうのはナンセンスだと心しておくことでしょう。

生物としては、細菌の方が遥かに先輩なのですから。

「除菌、除菌」と盛んに宣伝していますが、そのうち、菌と一緒に人類も取り除かれてしまうかもしれません・・・

寄生虫なき病
参考図書
モイセズ・ベラスケス=マノフ/著 赤根洋子/訳 福岡伸一/解説『寄生虫なき病』 文芸春秋 2014年3月発行

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