いきいき!エバーグリーンラブ: エネルギー効率
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2018年2月17日土曜日

加工食品の摂り過ぎでがんになる⁈

今の先進諸国と呼ばれる地域の住人、特に働き盛りの年代の人々は、何より忙しすぎることが最大の問題だと思います。

忙しすぎることは、多くの場合、貨幣を得るために時間を割きすぎて、人生の様々なことに充分な時間がとれないということです。
例えば、営業の外回りに忙しいセールスマンや、残業して1日10時間以上PCの前で事務を行うOL、国際的に活躍するジェットセッターと呼ばれるようなビジネスマン、共働きで、職場と保育園を掛け持ちしながらなんとか子育てをこなすママ・パパなどの人々は、健康の基本である食事や運動にどれだけの労力と時間を費やせるというのでしょうか?

忙しいことが常習化され、そのようなライフスタイルが定着すると、心身の健康にかなり影響することが解明されてきています。

今日は、そんな中でもちょっとショッキングな、(超)加工食品の摂り過ぎでがんになるようだとの研究をご紹介して、時間の使い方=ライススタイルについて考えてみたいと思います。


超加工食品の消費とがん発症リスク

Thibault Fiole et.al. Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: resultsfrom NutriNet-Santé prospective cohort.

【研究の参加者と方法】

●参加者:18歳以上の健康なフランス人104,980人(平均年齢42.8歳、女性78.3%)

●参加者は、6か月ごとに、2週間(1週末を挟む)の食事内容を24時間オンライン食事アンケートに応答して、食品3,300種類について普段の摂取量を測定し、最低でも2日間の記録が必須とされ、これを完遂できた人々を解析の対象とした。

●上記の食品はNOVAという食品の加工の程度の分類に従って、
未加工:未加工ないしは最小限の加工の食品

調理食:素材を家庭で使用する調味料で調理した食品(油漬けや酢漬けなどの保存食品なども含む)

加工食品:缶詰、瓶詰、塩や砂糖を加えたナッツ、砂糖漬け食品、燻製肉、チーズ、パン屋で売っているパンなどで、抗酸化剤(ビタミンCやEなど)、防腐剤、食塩など、食品を長持ちさせるための添加物を含む食品。ビールやワインなどの①の未加工食品を発酵させて醸造したアルコール飲料はこのグループに属する

超加工食品
・抗酸化剤(ビタミンCやEなど)、防腐剤、食塩、安定化剤(ジャムのペクチンなど)、砂糖など5種類以上の添加物を加えている食品。
・カゼイン、乳糖、ホエイ(プロテイン)、グルテン、水素添加油脂、エステル交換油脂、 加水分解蛋白質、大豆プロテイン、マルトデキストリン、転化糖、高果糖コーンシロップ、色素、香料、炭酸飲料、砂糖以外の甘味料(人工甘味料も含む)などを含む加工食品。
・これらを代表する食品として、スナック菓子、アイスクリーム、キャンディー、大量生産されたパッケージ入りのパン、マーガリン、(パンなどににつける)スプレッド、ケーキ、ケーキミックス、シリアル(コーンフレークなど)、エナジードリンク、エネルギーバー、砂糖・果糖入り飲料、フルーツ飲料、ココア飲料、乳飲料(カフェオレ・イチゴオレなど)、インスタントソース(カレール・パスタソースなど)、ピザ、フィッシュやチキンナゲット、ハンバーガー、ホットドッグ、ハム・ソーセージ・ウインナーなどの加工肉、カップ麺、インスタント食品、インスタントスープ、インスタントデザートなど
・ウイスキー、ジン、焼酎などの蒸留酒はこのグループに属する

以上の4つのグループに分類し、参加者が食べているものを分析した。







●患者の申告と、それを裏付ける医療記録、国の疾病データベースを利用し、参加者のがん発症を平均5年以上追跡して確認した。
●年齢、性別、教育レベル、がんの家族歴、喫煙の有無、身体活動レベルなどのがんのリスク因子で調整を行った。

【研究の結果】
食事中の超加工食品の割合が10%増加すると、全がんのリスクが12%上昇した (2,228人の解析、ハザード比 1.12、95%信頼区間 1.06~1.18、 P<0.001で統計学的に有意)

食事中の超加工食品の割合が10%増加すると、乳がんのリスクが11%上昇した (739人の解析、ハザード比 1.11、95%信頼区間 1.02~1.22、P<0.02で統計学的に有意)

●前立腺がん、結腸直腸がんに関しては、統計学的に有意な関連はなかった。

●これらの結果は、食品中の栄養の質(脂質、ナトリウム、炭水化物摂取、西欧食)などの調整因子で補正後も統計学的に意味があるものだった。

●②の調理食の多い食事内容だった人のグループは、がんリスクの上昇は認められなかった。

食事中の、①の未加工の割合が10%増加すると、全がんのリスクは58%低下することが認められた。(102,752人の解析、ハザード比 0.42、95%信頼区間 0.19~0.91、 P<0.03で統計学的に有意)

食事中の、①の未加工の割合が10%増加すると、乳がんのリスクが約10%低下することが認められた。(2,228人の解析、ハザード比 0.91、95%信頼区間 0.87~0.95、 P<0.001で統計学的に有意)

●超加工食品の内訳は図の通りだった。




超加工食品はがん発症を招く

いかがですか?

ちょっとライフスタイルを考え直すきっかけのような研究ですね。

超加工食品の摂り過ぎはがんを招き、一方、自分で調理して、素材を生かした食事をすればがんになりにくいということです。

この研究では、仮説として次のことが原因で超加工食品ががんを増やすのではないかと指摘されています。

●超加工食品には、栄養成分以外に合成化合物が含まれ、加熱処理によりメイラード反応が起こりその結果、アクリルアミド、ヘテロサイクリックアミン(HCA)、 多環芳香族炭化水素(PAH)などの発がん性物質が生成される。

●超加工食品には、ビスフェノールAなどの発がん性がありホルモンに類似した内分泌攪乱物質も含まれることがある。

●規制当局に添加物として認可されてはいるものの、摂取した場合に健康上で議論のある、加工肉に含まれる次亜硝酸ナトリウムや、酸化チタン(白色剤)などは動物モデル、細胞モデルで発がん性が示されている。

加工食品があまり体に良くないことは分かっていても、サラリーマンなど勤めがあると、忙しいので、つい加工食品やファストフード、ファミレスなどの外食、コンビニ中食、お弁当などで済ませてしまうことが多いと思います。

産業革命以降の文化的な生活は、ライフラインなどのエネルギーや、衛生などヒトの生存に有利な技術をたくさん生んできました。

しかし一方で、資本主義・貨幣経済に代表される社会システムは、ヒトが貨幣や物品、安心という見えない「価値」に脅迫されるようにして、「人生」という貨幣や保険では代替できない「ヒトに許された時間=寿命」を消費させるようにしています。
そのような「価値」も、人生の時間が短ければ=早死にしてしまえば、意味のないものです。
本当の「価値」とは健やかで楽しい生命力にあふれた時間を多く持つことではないでしょうか?

私も勤め人だった期間が長かったですが、ファストフードやコンビニ食などを美味しいと思って利用したことはありません。
ファストフードやコンビニ食はあくまで時間を節約するために利用していたと思うのです。

現在の社会を生きぬいてゆく上で、健康には良くないと分かっていても、忙しさを理由にそれらのものを利用せざるを得ない状況が多すぎると思います。
⇒米国マクドナルド が抗生物質与えた鶏肉の使用をやめる

せめて、生命の本質の1つである、「食べること」にもっと時間をかけて、丁寧に、美味しくいただこうではありませんか。

忙しく時間を節約するライフスタイルが、かえって寿命を短くする食事内容につながるのはこれではっきりしたようです。

さあ、せめて今晩は、定時に帰って、自分で好きな料理を作って、ゆっくりと美味しく味わいましょう。

エネルギー効率のよすぎる食事は考えもの

最後に、円グラフの超加工食品の内訳をご注目ください。
超加工食品は主に糖質で、飲料などの割合が多いことがわかります。

超加工食品の占める割合が多い食事では、インスリンが多く追加分泌され、血糖値も高止まりしやすいでしょう。
そこに、上記の発がん性物質や内分泌攪乱物質が発がんの引き金になって、がんとなるのでしょう。

言うまでもなく、血糖値の高い糖尿病やその予備軍でのがんの罹患率は高いことが分かっています。
⇒糖尿病予備軍は癌リスクが15%高い

バナナとバナナジュース、どちらがヘルシーだと思いますか?
やはり、超加工食品は食後の血糖値を速やかに上げてしまう、砂糖入り清涼飲料や流動食やルーを使った食事など、のどごしが良く早食いできる「早い栄養素」の割合が多いようです。

「エネルギー効率の良すぎる食事」は控えめにするべきですね。

⇒『主食の重ね食べ』は肥満のもと


2016年4月28日木曜日

空腹感を抑える食べ方

空腹感をコントロール出来れば、食べ過ぎを防げて、ダイエットにつながります。

食事の内容と食べ方次第で、食後の空腹感をコントロールできることがわかっています。

空腹感に影響する要素は複数ありますが、ここでは食事内容と食べ方にスポットを当てています。
食事によって、血糖値の推移とインスリン分泌がどのように変化するかを見てみましょう。


空腹感と血糖値のカーブとインスリンの関係


これを理解していると、空腹感を抑えた食事ができます。

昼食の後、しばらくして眠くなりませんか?
食後しばらくして、眠気に襲われているあなたは、空腹感が湧いてしまう食事をしている可能性があります。
今回も、3分50秒の動画にまとめてみました。





動画の内容の要約は以下の図をご覧ください。


空腹感と血糖曲線

血糖値とインスリン分泌の1日推移パターンと空腹感

血糖値とインスリン分泌の1日の推移パターンと空腹感

1回の適切な食事と血糖値とインスリン分泌の推移パターンと空腹感

1回の不適切な食事と血糖値とインスリン分泌の推移パターンと空腹感

まとめ 食事と血糖値とインスリン分泌の推移パターンと空腹感
今回のコンテンツに特に関連が深いのは
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
インスリンは肥満ホルモン?!
糖質は食べ物でとる必要はない?
脂肪を貯めるしくみ
りんご型肥満でおなかが炎症
脂肪細胞が食欲をコントロールする

の各コンテンツです。

よろしければこちらも読んでください。

糖質
血糖になる栄養素
何を食べると血糖値が上がる?
「糖類オフ」と「糖質オフ」の違い
ブドウ糖と果糖の毒性
果糖はブドウ糖より危険
果糖は別腹
糖類を食べるとおなかがすく?
糖質は食べ物でとる必要はない?
糖質制限で二日酔いから解放?
アルコール飲料 角砂糖いくつ分?
スポーツドリンクで糖尿病に? 
お酒と糖類の依存性
あなたの1日の糖質量
糖質制限 糖質は何gまでOK?
エナジードリンクは飲んでもOK?
加糖飲料の危険性が次々証明
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の恐ろしい結果、終末糖化産物(AGEs)とは?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
空腹感を抑える食べ方

糖尿病
4~5人に1人が糖尿病予備群!
糖毒性で糖尿病予備群に??
グルコーススパイクに注意
インスリンは肥満ホルモン?!
早食いはメタボの元
厚労省お墨付き栄養法で糖尿病?
低GI食品って意味ある?
やっぱりGIはあてにならない
糖尿病予備群は癌リスクが15%高い
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の末路、終末糖化産物(AGEs)とは?
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
空腹感を抑える食べ方

食べ物・栄養
食生活は進化の中で3回変わった
50歳超女性は夕食でタンパク50g
飲酒でボケが早まる!
砂糖入り飲料のリスク
おいしさの罠
米国マクドナルド が抗生物質与えた鶏肉の使用をやめる
食品のコレステロールは気にしなくてOK
エナジードリンクは飲んでもOK?
短い期間でも、健康な食事でがんのリスクが減る
カメはなぜ長生きか?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
空腹感を抑える食べ方

食用油
健康に良い油?悪い油?


2016年3月17日木曜日

早い、うまい、安いが身を滅ぼす

“エネルギー効率”“エネルギー密度”の問題点

エバーグリーン研究室では、現代の食生活の問題点を、エネルギー効率あるいはエネルギー密度にあるとみています。
以前にも、別な表現で「早い栄養素」にご注意というコンテンツも書きました。
⇒吸収が速い栄養素は老化を進める?
⇒速い栄養にご注意

“火”による調理で、よりおいしく、より食べやすくなった

人類の築いた文明・英知は、ヒトの進化に伴って厳しい自然をヒトが生き抜くために発達しました。
その中でも「飢餓」を克服するための発明、特にインパクトが大きかったのが、「火」の使用だといわれています。

今のところ火を自分で熾して利用する生物はヒトだけだとされています。

火の効用には、食事以外にも、暖をとる、照らす、威嚇するなどの効用もありますが、なんといっても、食物を調理することで、硬いものでも食べやすくして、食中毒や寄生虫を避けるといったメリットが最大のものだったでしょう。

穀物などの農作物は植物性食品ですので、果物など以外は、火を使って調理することが必要となります。
植物細胞は細胞壁があるので、十分熱を加えないと柔らかくはなりません。
⇒高温・高圧で柔らかくなる

また、加熱することで、植物中のでんぷんが分解されて、オリゴ糖や二糖類になり、消化・吸収されやすくなると同時に甘くおいしくなります。
⇒炭水化物の消化と吸収

調理することで、同じ穀物でも、生で食べるよりもずっと栄養価が高くなるのです。

粉砕することで、さらにおいしく食べやすく

さらに、火を使用した調理に加えて、穀物を粉砕すること、つまり挽くことも大きな技術進歩でした。
紀元前3,000年頃の古代エジプトでは、碾臼で小麦粉を挽き、パンを焼いていたといわれます。

小麦などの穀物を挽くことで、粒子は細かくなり、それを焼くことでさらにでんぷんが分解されて甘くておいしいパンとなるのです。

このように調理技術の発達は、ヒトに計り知れないメリットをもたらしました。
ヒトの脳は、調理することで、ふんだんな栄養を摂れるようになったことで発達したのかもしれません。

調理技術の発達で、エネルギー効率、エネルギー密度が向上

しかし、一方で、調理することのデメリットも生まれました。

調理することによって、食物のエネルギー効率あるいはエネルギー密度は飛躍的に向上します。

飢餓に見舞われた時代のヒトには、調理技術や、食品開発・保存技術は、ありがたいものだったのです。

しかし、約300年前の産業革命以降、ヒトは常にエネルギー効率のよい食べ物にありつけるようになりました。
特に、砂糖の抽出と食用油を搾る搾油、精製された小麦粉などの製粉が一般的になってからは、先進国では低コストで大量生産可能な、エネルギー密度が高い食事・食品にあふれています。

便利な生活が産んだ運動不足で、より慢性疾患が増加

こんな食環境になったうえ、産業革命以降、農業従事が低下し、デスクワークが増加しました。
鉄道や自動車、エレベーター、エスカレーターの普及による慢性的な運動不足も加わって、エネルギーの収支が大幅に過剰になりました。

そして、肥満をはじめとして、糖尿病、高血圧、脂質異常症、がん、関節疾患、骨粗鬆症などの慢性疾患が爆発的に増加したのです。
日本でも、戦後の自家用車の普及と、糖尿病の有病率は比例しています。
高効率のエネルギー供給と、エネルギー消費のバランスが崩れたライフスタイルが、先進国の生活です。
これでは、そのままの生活で健康を維持するのは、困難でしょう。

エネルギー効率の高い食品は血糖値が上がりやすい

エネルギー効率がよい、あるいはエネルギー密度が高い食事は、農作業などの肉体労働をしている場合は、有利に働くこともあったでしょう。

しかし、現代先進諸国のライフスタイルでは、エネルギー高効率あるいはエネルギー高密度は、諸悪の根源のようです。

同じカロリー(熱量)を摂取しても、エネルギー高効率あるいはエネルギー高密度の食品では、血糖値が上がりやすく、インスリンが出やすくなるため、体に余計に負担がかかるようです。

その証拠となる研究の1つを簡単に紹介します。

カロリーは同じでも性質の違う糖では、血糖値とインスリン値に差

Farnaz Keyhani-Nejad.et al. Effects of Palatinose and Sucrose Intake on Glucose Metabolism and Incretin Secretion in Subjects With Type 2 Diabetes. Diabetes Care 2016;39:e38–e39 | DOI: 10.2337/dc15-1891

【研究目的】
砂糖(ショ糖・スクロース)と同じように、グルコース(ブドウ糖)フルクトース(果糖)で構成される、イソマルツロース(パラチノース)摂取後の血糖値の上昇は、砂糖摂取後よりも低いとされる。

これまで、イソマルツロースの代謝の詳細は不明であったので、ヒトでの代謝を調べる。

【研究方法】
2型糖尿病の成人10人(女性2名、男性 8名、61.6±4.6歳、BMI 32.1±4.06 kg/m2)をランダムに次の2群に分けて、血糖値とインスリン値、インスリンの分泌を促進するホルモン(GLP-1GIPなどを調べた。
  • イソマルツロース(パラチノース)50gが溶けたドリンクを300mLを飲む群
  • 砂糖50gが溶けたドリンクを300mLを飲む群
1週間以上時間をあけて2つのグループのドリンクを入れ替えて、同様に調べた。

【研究結果】
  • イソマルツロース摂取後は砂糖摂取に比べて、血糖値のピーク値の平均が20%低く、インスリン分泌は55%低かった。
  • イソマルツロース摂取後、血液中のGIP濃度が僅かに増加したが、ピーク時にもそれほど上がらなかった。
  • 砂糖摂取後では、GIP濃度は15分後に倍以上と急峻に上昇して、約60分後に急落した。
  • イソマルツロース摂取後では、GLP-1濃度は砂糖摂取後に比べて、素早く上昇し、より長時間持続した。

まとめると、
イソマルツロース摂取は砂糖摂取に比べて、
  • 血糖値が上がりにくい
  • インスリンも極端には上がりにくい
  • GIPは上がりにくい
  • GLP-1は素早く上昇して、長時間持続した

【研究結果から考えられること】
砂糖摂取に比べて、イソマルツロース摂取では、血糖値もインスリンもGIPも上がりにくいことが分かった。

砂糖は消化酵素によって速やかにグルコースとフルクトースに分解されるため、小腸上部に分布するGIP産生K細胞を刺激しGIPを産生する。
一方、イソマルツロースでは分解に時間がかかるため、イソマルツロースのほとんどは分解されないまま、小腸上部を通過してしまうのでGIP分泌が刺激されない。
GLP-1を産生するL細胞は、小腸の下部にあるため、そこに到達するまでにイソマルツロースがグルコースとフルクトースに分解され、GLP-1は分泌される。

これまでの研究から、GIPは肥満や脂肪肝、脂肪組織の炎症を起こす可能性が示されている。

砂糖もイソマルツロースも、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)で構成されるが、化学結合が異なる。
そのため、消化酵素の働き方が異なり、砂糖は早く分解され、イソマルツロースはゆっくりと分解される。

この違いから、このような結果となったと思われる。

イソマルツロースは、糖尿病の代替甘味料として使用されている。
このことについて、研究者たちは、次のように結論している。
  • イソマルツロースは、腸の細胞でGIP分泌を減少させてGLP-1分泌を増加させ、インスリン分泌もある程度維持するので、血糖値の著しい変動を防ぐことができる。
  • イソマルツロースは2型糖尿病患者に有効であろう。

ただし、砂糖もイソマルツロースも、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が1:1で構成されているので、最終的には吸収されてエネルギーになる。
摂りすぎは良くないし、運動も必要だと警告もしている。

砂糖とイソマルツロースの違い

いかがですか。
下の絵は、砂糖とイソマルツロースの化学構造を比較しています。

どちらも、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が1:1で構成されていいますが、化学結合の仕方が異なります。
糖質 何グラム

砂糖(スクロース、ショ糖)とイソマルツロース(パラチノース)は
どちらもグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が化学結合したもの。
化学結合の部位が違うことで分解されやすさが変わる。
イソマルツロースでは砂糖に比べて分解のスピードが遅いことから、吸収に時間がかかり、
血糖値の上がり方やインスリンの出方が緩やかになる。

砂糖の赤い丸の結合は速やかに分解されますが、イソマルツロースの青い丸の結合は、比較的ゆっくり分解されるので、血糖値の上がり方も、インスリンの出方もゆっくりです。
しかも、代謝的に好ましくないGIPの分泌も上がらないというわけです。

でも、研究者達も注意している通り、最終的には砂糖と同じ分のグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が吸収され摂取カロリーは同じです。
また、イソマルツロース甘さが砂糖の約半分なので、砂糖と同じ甘さを求めて使用すると倍量を使うことになってしまい逆効果になることもあります。

GIPGLP-1の違い

GIPGLP-1 どちらもインスリン分泌を促すホルモンですが、図のように小腸で産生する細胞がある場所が違います。

インクレチン、GIP, GLP-1, DPP-4,イソマルツロース, インスリン, エネルギー効率, エネルギー密度, 炎症, 血糖値, 倹約遺伝子, 高血圧, 脂質異常症, 糖尿病, 肥満,
インスリンの分泌を促す小腸の上皮細胞で産生されるホルモンをインクレチンと呼ぶ。
インクレチンにはGIPGLP-1がある。
GIPを産生するK細胞は図中ピンク色の上部小腸の吸収上皮細胞層にある。
GLP-1を産生するL細胞は、図中グリーン色の下部小腸の吸収上皮細胞層に分布する


GIPは、肥満や脂肪肝、脂肪組織の炎症を起こす可能性が示されていて、
GLP-1には、脂質異常や高血圧を防いだり、慢性炎症を治めて動脈硬化が進まないようにする作用があります。
Yutaka Seino and Daisuke Yabe. Glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1: Incretin actions beyond the pancreas.Journal of Diabetes Investigation
Volume 4, Issue 2, pages 108–130, March 2013

どうして、2つのホルモンにこのような違いがあるのかまだ詳しいことは不明ですが、どうもGIPは、飢餓にさらされたときなどに働く「倹約遺伝子」によって現れてくるホルモンのようです。

倹約遺伝子は糖尿病・肥満に弱い

倹約遺伝子は、言葉の通り、エネルギーの使用を倹約して、余ったエネルギーを出来るだけ蓄える作用を持ちます。
最小限のエネルギー源で生きていけるようにしてくれる、本来は生物にとってありがたい遺伝子です。

日本人は倹約遺伝子が働きやすい

我々日本人やアメリカ大陸のピマインデアンは、この倹約遺伝子が働きやすく、糖尿病や肥満に弱いとされます。

実際に、運動量の多い伝統的な生活を続けるメキシコに住むピマインデアンは健康なのに、同じ遺伝子を持つアメリカに住む近代的な生活をするようになったピマインデアンでは、肥満と糖尿病が蔓延したという事実があります。


倹約遺伝子を持っている人種は、おそらく、食料に困りがちで、食料を得るための農作業などの運動量も多く、かつ栄養価が高くてエネルギー効率が良いあるいはエネルギー密度が高い食べ物をあまり多く食べて来なかったと考えられます。

そういえば、昔の日本の食事は食物繊維を多く含む質素なもので、就労者は殆どが仕事でよく体を動かす一次産業でした。


倹約遺伝子に高エネルギー密度の食べ物は想定外

現代の日本のような文明国に住み、倹約遺伝子が働きやすい体質で、忙しく、運動する暇もない我々にとって、エネルギー密度が高い食べ物はとても危険な食料と思われます。

忙しいと言って、ファーストフード、丼もの、カレーなどのルーをかけた白飯、麺類、パンなどの外食や、コンビニ中食、インスタント食品などを利用することを考えさせられる研究です。

早い、うまい、安いで身を滅ぼさないようにしたいものですね。

“血糖値をあげにくいサプリメント”も使い方を間違えれば本末転倒

最後に、「血糖値の上昇を緩やかにする」などと謳った難消化性デキストリンなどのサプリメントについて。

最近、このような商品がたくさん市販されていますね。
上の説明のとおり、このようなサプリメントは血糖値の上昇カーブを緩やかにさせますが、それは糖の吸収スピードが遅くなっただけ。
糖が吸収されないわけではありません。

つまり、最終的に吸収される糖質の量、カロリーは同じです。
気を許してたくさん食べれば、当然、オーバーカロリーに・・・

早い、うまい、安い(高い?)食べ物を存分に食べるためのサプリメント使用は本末転倒でしょう。

よろしければ下記↓も読んでみてください。

糖質
血糖になる栄養素
何を食べると血糖値が上がる?
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糖尿病
4~5人に1人が糖尿病予備群!
糖毒性で糖尿病予備群に??
グルコーススパイクに注意
インスリンは肥満ホルモン?!
早食いはメタボの元
厚労省お墨付き栄養法で糖尿病?
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食べ物・栄養
食生活は進化の中で3回変わった
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飲酒でボケが早まる!
砂糖入り飲料のリスク
おいしさの罠
米国マクドナルド が抗生物質与えた鶏肉の使用をやめる
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食用油
健康に良い油?悪い油?

運動・ミトコンドリア
ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
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1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!