いきいき!エバーグリーンラブ: 2014

2014年12月29日月曜日

インフルエンザ*漢方薬で早めの対策

インフルエンザに効くとされている抗ウイルス薬はあまり効果がないようだし、思っていたより副作用があるかもしれない、というお話をしてきました。

インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?
インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

では、インフルエンザに罹ったら、ひたすら寝て、じっと治るのを待つしかないのか??
さすがに私たちも、そんなに暇ではないし、辛いのは嫌いです。
では、どうするか?

私ならこうして対処する、という方法をご紹介します。
実は、エバーグリーン研究室では、西洋新薬はめったに使いません。
漢方は私の守備範囲なので、今回はちかしがお話しします。

漢方薬@インフルエンザの前に知っておきたいこと

漢方薬はウイルスを排除しようとする身体の力を助ける

はじめに復習しておきたいことがあります。

いわゆる風邪とインフルエンザは、病院へ行って検査をしない限り、正確には区別がつきません。
ですから、ここでは、インフルエンザの流行期に、「のどがおかしい」とか、「関節が痛い」とか、「くしゃみ・鼻水が出てきた」などの症状が現れたときの対処方法をお話しすることになります。

いわゆる風邪を引いたときの対応は、こちらをご覧ください。
風邪のひきはじめに飲む薬

ここでご紹介する薬は、インフルエンザウイルスに直接働いて退治する薬ではありません。
自分自身の身体の力を高めて、入ってきたウイルスを退治する薬です。

ヒトの体は、外敵を体の中に入れないようにする力をもともと持っています。
ただ、インフルエンザウイルスはかなりの強敵で、負けてしまうことが多いのです。
ここを、負けないように漢方薬で加勢してあげようというものです。

ならば、どんなウイルスにも効くのでは?と思われた方、そのとおりです。
ただ、いわゆる風邪のウイルスは、インフルエンザウイルスのように感染力が強くなく、進行が遅いので、処方が違う薬の方がより適切な場合が多いです。
詳しくは、しつこいですが、先ほどの風邪のひきはじめに飲む薬を。

もう一つ、とても大切なことがあります。
普通の風邪と、インフルエンザとどちらにかかったかを見分けることが大切です。
でも、これは難しいことでもあります。

でも、ポイントがありますので、覚えておきましょう。

インフルエンザを疑う症状は?

インフルエンザでは、まず、発熱が特徴で、微熱ではなく38℃以上の発熱をします。

そして、
  • 寒気や震え
  • だるさ(倦怠感)
  • 肩こり、首のはり
  • 関節や場合によっては筋肉の痛み
  • 頭痛
  • 鼻水
  • くしゃみ
  • 喉の痛み
症状が、出る順番は人によって違いますが、いくつもいっぺんに起こるのが特徴です。

普通の風邪はどうかというと

普通の風邪では、これも人によって異なりますが、症状が病気の進行とともに順番に出てきます。
私の典型的な風邪の症状のパターンは、

寒気(ざわざわした感じ)
~肩こり
~のどの痛み(咳が出ないことも多い)
~頭痛
~発熱
~汗をかく
~関節の痛み
~くしゃみと水っぽい鼻水
~熱が下がってくる
~くしゃみは出ないで鼻が詰まり、鼻をかむと緑色のどろっとした鼻水が出る
~1週間ぐらいで治る

です。


このインフルエンザ以外での、自分の風邪の症状パターンを覚えておくとよいです。

インフルエンザは、感染力が強いので、発熱とともに、症状が激しく、症状が複数いっぺんに出るのが特徴なのです。

インフルエンザに罹ったと思った時の漢方薬

インフルエンザに罹ったかなと思ったら、麻黄湯(マオウトウ)

麻黄湯はメディアでも紹介されているけれど、使い方は難しい

近頃、メディアでもインフルエンザに効くとして話題の漢方の処方ですね。
麻黄湯は、漢方の感染症の処方でも、感染して初期に使うべきものです。
漢方では風邪の初期を傷寒中風(しょうかんちゅうふう)の病といいます。
意味は、風に中(あた)って寒さに傷つけられた病ということです。

漢方の概念では、傷寒中風の病には、漢方や中国医学では解表剤(げひょうざい)といって、身体(筋肉や血液循環)を活性化させて汗をかかせ、ウイルスや細菌を物理的に外に出してしまう、そんな作用があります(これらの作用は西洋的医科学では充分には説明できません)。

傷寒中風の病の症状の特徴は寒気や悪寒がすることです。
風邪の病原体は熱に弱く、そのため身体が体温を上げようとして、寒く感じさせて、筋肉を震わせて体温を上げようとします。

寒気を感じ、発熱していて汗をかいていない人に、汗をかかせるのが処方の目標です。
この治療法を中国医学では「汗法」と言います。

体温を上げようとしているので、このような状態で解熱薬を使っては台無しにしてしまいます。
解熱剤はほとんどの風邪では必要ないことも覚えておいてください。
傷寒中風の時期を過ぎて、高い熱が続く場合は、漢方では地竜(ミミズの乾物)を使い、とてもよく熱を下げ副作用もありません。

さて、麻黄湯などの解表剤は、身体(筋肉や血液循環)を活性化させるので、比較的体力のある人にあった処方です。
筋肉がない人、虚弱な人には向いていません。
また、喉が渇いたり、喉に熱感がある場合や、喉に痛みを感じる場合は麻黄湯を使うべき時を過ぎてしまっています。
使わないほうがよいでしょう。

また、これらに当てはまる高齢の人や乳児、就学前の小児などは避けたほうがよいかもしれません。

副作用としては胃の不快感、食欲が落ちる、吐き気、動悸や不眠、発汗過多などが出ることがあります。

麻黄湯の処方

少し処方を詳しく見ましょう。

キョウニン(杏仁) マオウ(麻黄)、  ケイヒ(桂皮)、  カンゾウ(甘草)

で構成される処方です。

生薬の作用を中国医学的に解説しましょう。

杏仁(キョウニン)

杏仁は 「あんにん」とも読み、中華料理でおなじみの杏仁豆腐に使われる、アンズの種です。
主として胸にたまった水分、痰などを出すことで、呼吸困難や嗽に効く。息切れ、みぞおちのあたりがつかえて痛む、胸の痛み、むくみなどにも良い、とされます。
ただし、たくさん食べたりすると毒物である青酸と似た化学構造を持つアミグダリンが含まれているので、危険です。

麻黄(マオウ)

麻黄は、喘息様の呼吸困難、咳、むくみを治します。
寒気、汗が出ない、身体(筋肉)の痛み、関節の痛み、全身がむくんで肌色が黄色っぽい場合も良い、とされます。
成分のエフェドリンは西洋薬として、咳どめや喘息の治療にも使われます。

桂皮(ケイヒ)

桂皮は、シナモンという名前でおなじみです。
のぼせ(体の下から上のほうへつき上げてくるような症状)を治します。
のぼせが激しくなって、心臓がどきどきする、頭痛、発熱、軽い寒気、汗が出て、筋肉や関節が痛む場合に良い、とされます。
私の解釈では、のぼせは血や気が頭に集中してしまう体質を持つ人がなりやすく、桂皮はこれに効くようです。
不思議とのぼせやすい人は、シナモンティーなどの薬味の桂皮が好きなことが多いですね。

甘草(カンゾウ)

甘草は、急迫した症状を治します。
たとえば、腹部のケイレン、差し込み(痛み)などです。
手足の冷え、何か気がかりして悩んで落ちつかないとき、のぼせ(体の下から上のほうにつきあげてくるような症状)などにも良い、とされます。
成分のグリチルリチン(酸)は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍や去痰薬として使われ、またステロイド薬に似た作用があります。

麻黄湯を使うタイミング

麻黄湯は、寒気を感じて悪寒がして、「インフルエンザにかかったかな」と感じ、節々(関節)が痛み、発熱しているけれど汗をかいていない場合にすぐに飲むことがコツです。

先ほどもお話ししたように、特に感染症に用いる漢方薬には使うべき時期があります。
上の状態にあるごく初期につまり傷寒中風(しょうかんちゅうふう)の時期に使えば効果は高いと思います。
そして、一枚多く着るか、布団をかぶって体を温めて軽く汗をかくことで、効果が高まると考えられます。

汗をかいて、高い熱が下がってくればやめ時です。
人によって異なりますが長くて2日ぐらい飲んで効かないようならやめます。
あまり長く飲むと、汗をかきすぎて体力を消耗します。

麻黄湯が効く時期は風邪やインフルエンザのごく初期で、体表で生気が病原体と戦っている時だけです。
麻黄湯で効いてしまえば、ほかの薬が必要ないかもしれません。
この時に麻黄湯などのっ解表剤が効いてしまえば、ごく初期のうちに、病原体を駆逐できたことになるからです。

喉が渇いたり、喉に熱感があったり、痛んだりする場合や、全身のほてりや熱感があったり、鼻水やくしゃみが出ているようなら、もう病原体は体の中に入ってしまっています。

この場合は麻黄湯は無効で、かえって汗をかかせようと体力を消耗しますので飲まないでください。

後にお話しする温病の処方が必要になります。


葛根湯(カッコントウ)は、解表剤の中では麻黄湯より応用範囲が広い

葛根湯は、皆さんよくご存じですね。
葛根湯も、麻黄湯と同じく風邪の初期=傷寒中風に使う処方です。

カッコン(葛根)、マオウ(麻黄)、タイソウ(大棗)、ケイヒ(桂皮)、シャクヤク(芍薬)、カンゾウ(甘草)、ショウキョウ(生姜) 

で構成されます。

葛根湯にも麻黄が入っていて、麻黄湯と同じ解表剤ですが、使う目標が異なります。

葛根湯の目標は、風邪の初期で、汗をかいていなくて、弱い寒気がして、首の裏側や肩(項背部)が凝り、頭痛、咳がでる場合です。

麻黄湯との目標の最大の違いは、寒気がそれ程強くなく、節々の痛みがないことです。

麻黄湯と同じように、喉が渇いたり、喉に熱感があったり、痛んだりする場合や、全身のほてりや熱感があったり、鼻水やくしゃみが出ているようなら飲まないでください。

私の印象では、葛根湯は麻黄湯に比べて応用範囲が広い処方です。

普通の風邪の初期で、上の症状が当てはまる場合は試してみる価値があります。
インフルエンザがはやっている時期だといっても、急激に症状がひどくならなければ、インフルエンザではないことが多いです。
そんな時は、麻黄湯よりも葛根湯を選ぶのが良いかと思います。

葛根湯も長くても2日飲んで効かなければ中止してください。

桂枝湯(ケイシトウ)

普段から風邪をひきやすくのぼせやすい人には、葛根湯は強力すぎる場合があります。
こんな人で、風邪で少しだけ汗をかいた場合の漢方薬として、桂枝湯があります。

風邪を引いたと感じて、少し汗をかいていて、外に出たり、薄着で風にあたると寒気を感じる状態で、のぼせ、発熱、頭痛、関節や場合によっては筋肉の痛み、くしゃみ、鼻水、鼻が詰まる、を目標にするとよいでしょう。

私の経験では、のぼせ易い人で、少しの温度上昇や厚着で汗をかきやすいタイプの人の風邪には桂枝湯が合う場合が多いようです。
比較的活発で、鼻血がよく出るようなのぼせやすいタイプの子供の風邪には、桂枝湯が合っています。

小青竜湯(ショウセイリュウトウ)

足の冷える人で、風邪を引くと水分の多い鼻水が出る人の風邪には小青龍湯がよいでしょう。

麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)

高齢者で、こたつに入ったりカイロを充てるなどいくら温めても、寒気が取れない人は、麻黄附子細辛湯がよいでしょう。

柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)

傷寒中風の時期をすぎて、風邪をこじらせてしまい、食欲がなく、胃がもたれ、胃が痛い、腹痛がある、下痢をするような場合は柴胡桂枝湯があっています。
最初からこれらの胃腸の症状がある風邪には、まず柴胡桂枝湯を試してみてください。
柴胡桂枝湯はちょっと長めに5日間くらいを目安に飲んでみてください。

本格的にのどが痛くなったら、銀翹散(ギンギョウサン)

銀翹散を使うタイミング

皮膚と消化管は一筆書きができるように、連なっている。
漢方の概念では、大まかにオレンジから赤色のところを表と呼ぶ
さて、今までお話してきたように、風邪などの感染症は、漢方的・中国医学的な概念では、病気の時期(病期)がとても大切です。

ウイルスや細菌などの病原体が、身体に入ってくるのに、必ず順番があります。

西洋医学的には気道感染とよばれる、風邪などの一般的な感染症では、病原体は、まず、表皮と鼻の粘膜に入ってきます。

この状態を漢方的・中国医学的な概念では病原体(漢方では風邪[ふうじゃ]とよびます)が表(ひょう)にあるといいます。
身体のおもてなので「表」というわけです。



この状態を漢方では傷寒中風の病(やまい)と呼ぶのです。

麻黄湯も、葛根湯も桂枝湯も風邪が表にある傷寒中風の病のうちに使うべき処方です。
麻黄湯や葛根湯を使うのが難しいのは、この短い時期を逃すと、効かないし、使うべきではないことです。

病原体が表皮と鼻の粘膜に入って1日もすると、もう少し進攻してきて喉が渇いたり痛くなったります。
この時期は体がすでに入ってきてしまった病原体を駆逐しようと免疫が働き始めていると考えられます。

悪寒は無いか、軽い悪寒で高い熱が出る風邪を中国医学では温病(うんびょう)と呼びます。
よくある風邪の経過は、短い傷寒中風の時期からこの温病に移行していくことが多いようです。

しかし、インフルエンザでは、この傷寒中風の時期が自覚できないことも多く、いきなり発熱する温病として現れることが多いようです。

この時に使うと効果的なのが銀翹散です。

銀翹散を使う目安

目標としては、
風邪の初期で、発熱して、頭痛があり、ちょっと風にあたると寒気がして、喉が渇いたり痛む状態です。
汗をかいたり、かかなかったりどちらのケースもありますが、汗をかいても熱が下がらないのが特徴です。

咳が出ることもありますが、咳が出てくるとだいぶ身体の内側に進攻されていて、銀翹散でも力が及ばないこともあります。

銀翹散の処方

処方内容を見ておきましょう。

キンギンカ(金銀花)、連翹、荊芥、香豉、牛蒡子、桔梗、竹葉、甘草、薄荷、芦根

で構成されています。

金銀花(キンギンカ)

金銀花はスイカズラの花蕾です。
味は甘くて、体を冷やす作用(解熱作用)があり、抗菌作用があります。
中国医学的には、体表の熱を発散させて熱を下げ、同時に風邪も発散させてしまう作用(疏散風熱)があるとされます。

連翹(レンギョウ)

連翹は、レンギョウの果実です。
味は苦くて、少し体を冷やす作用があります。
漢方では皮膚の膿があるできものやニキビなどやヒゼンダニによる感染症(疥癬)に効果があるとされ、中国医学的には、金銀花と組み合せて疏散風熱作用を強めるされています。

荊芥(ケイガイ)

荊芥はシソの仲間のケイガイの花穂で、l-ミントンというミントのような香りの成分が入っています。
味は辛くて、体を少し温めます。
発熱、頭痛、鼻づまり、のどの痛み、蕁麻疹、風疹、麻疹、結膜炎や軽い皮膚潰瘍に良いとされます。
また、止血作用もあります。
中国医学的には発汗作用があり、風邪を発散させますが、発汗力は弱めです(祛風解表)。

香豉(コウシ)=淡豆豉(タントウチ)

香豉(こうし)は、大豆を蒸して発酵させた日本の納豆のようなものです。似たものに豆豉(とうち、どうち)とも呼ばれる中華料理に使われる調味料があります。
味は塩味のない味噌のような味で、身体をわずかに冷やします。
中国医学的には発汗させ解熱作用があり、発熱、頭痛に用います。精神的なイライラを解消する作用もあるとされ、不眠などにも用いられます。

牛蒡子(ゴボウシ)

牛蒡子(ごぼうし)は、ゴボウの実です。
味は辛くて苦く、体を冷やす作用があります。
漢方的には、咽の塞がり、喉のはれ、のどの痛みを治すとされ、中国医学的には、発汗させ解熱作用(疏散風熱)があり、発疹すべき箇所に発疹させて解毒をすすめ(透疹)、のどを潤して腫れを治める(利咽散腫)とされ、咳、痰のからみ、発疹に用います。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)や母乳の出が悪い時にも用いられます。

桔梗(キキョウ)

桔梗はキキョウの根です。
味は苦くて辛く、身体を冷やしたり温める作用はありません。
漢方的にも中国医学的にも、膿みを出す作用があるとされ、各種の腫物、膿を伴うできものや中耳炎、痰のからみ、喉の痛み、喉の腫れ、声が出にくい、しわがれ声に用います。
肺の気を発散させて、肺の機能を高める作用(開宣肺気)もあり、肺炎や気管支炎にも用います。

竹葉(チクヨウ)

竹葉(ちくよう)は、ハチクの葉です。
かすかに甘く、体を冷やす作用があります。
中国医学的には、身体に滞った熱を逃がして、精神的なイライラを解消する作用(清熱除煩)があり、体液(津液)を生み出させて体を潤す作用(生津)、利尿作用があり、これらから解熱、喉の渇き、口内炎、口角炎、小児の発熱性のひきつけ(熱性痙攣)に用います。

薄荷(ハッカ)

薄荷はハッカの葉と茎です。
味は辛くて、体を少し冷やします。
中国医学的には、体表の熱を発散させて熱を下げ、同時に風邪も発散させてしまう作用(疏散風熱)があり、頭や目を冷やしすっきりとさせる(清利頭目)作用があり、発疹すべき箇所に発疹させて解毒をすすめ(透疹)、のどを潤して腫れを治める(利咽散腫)とされます。
発熱、軽い悪寒、頭痛、目の赤み、喉の腫れ・痛み、初期の麻疹、胸のつかえなどに用います。

芦根(ロコン)

芦根はアシの根です。
味は甘くて、体を冷やします。
中国医学的には、身体に滞った熱を逃がして、体液(津液)を生み出させて体を潤す作用(生津)があり、吐き気を止め、精神的なイライラを解消する作用(除煩)もあるとされます。
口が渇いて熱っぽいとき、舌の乾燥、水分を多く飲む、吐き気、肺の膿(肺膿瘍)に用います。

このように銀翹散は全般的に体の発汗させたり、解熱させたり、膿を出したり、炎症を鎮める作用を持つ生薬を上手に組み合させた温病の標準的な処方といえるでしょう。

漢方薬でない解熱鎮痛剤は使っていいの?

私たちエバーグリーン研究室では風邪の発熱に薬局などで手に入る解熱鎮痛剤の安易な使用はおすすめしませんが、温病の漢方薬が手に入らない時には、風邪のこの時期(温病)にこそ、アスピリンなどの解熱鎮痛剤を使ってもいいと思います。
それ以外の時期の風邪に、解熱鎮痛剤は必要がありませんし、余計な副作用が出ることもあります。

風邪を引いたと思って、頭痛、発熱、くしゃみ、鼻水、咳、痰、のどの痛みなど、いろいろな症状にきくとうたっている総合感冒薬をのんでも、風邪の病期に合うはずがないので、メリットはないでしょう。
参考:総合感冒薬って、何に効くの?
   風邪薬の選び方【解熱薬】

温病に香蘇散(コウソサン)も

ほかに温病の代表的な処方として、香蘇散があります。

香附子、紫蘇葉、陳皮、甘草、乾生姜 

で構成されます。

中国医学的には、自律神経系(交感神経と副交感神経)の緊張(バランスの崩れ)のため、胃や腸、血管などの平滑筋が緊張して、けいれん・ひきつれ・胃腸の運動障害などが起こる気滞を治め、体表の血管を拡張させて軽く発汗させます。
これを理気解表(りきげひょう)と呼びます。

悪寒がするけれどひどくはなく、発熱も軽めで、汗はかかず、頭痛、胸苦しさ、おなかが張る、食欲不振を目標に使うとよいと思います。

銀翹散との目標の違いは、発熱が軽いことと、のどの痛みがないこと、胃腸の症状があることです。

香蘇散は比較的穏やかな処方なので、妊婦や高齢者の風邪にも良いと思います。
特に、マタニティブルーのように気分がすぐれない妊婦に良く効いた例があります。


ちょっとへんかな?と思ったら、板藍根(バンランコン)も

板藍根(ばんらんこん)という生薬があります。
抗ウイルス作用を持つ生薬として、注目されています。
板藍根は現在日本では、医薬品ではなく食品としての扱いです。

インフルエンザをはじめ、帯状疱疹、ウイルス性の難聴、肝炎などのウイルス性感染症に効果があるとされます。

板藍根は、アブラナ科のタイセイの根です。
味は苦く、よく体を冷やす作用があります。
中国医学的には、その冷やす作用で、熱を冷まして、腫れを抑え、病原体を駆逐する作用(清熱解毒)があり、血の熱を冷まし(涼血)、のどを潤す作用(利咽)もあります。

中国では、インフルエンザがはやる時期に、板藍根の煎じたお茶でうがいをしたり、お茶代わりに飲んだりするそうです。
予防的に使っているようです。

日本でも板藍根の予防使用を勧めている方もおられます。
しかし、板藍根をインフルエンザがはやる時期にずっと使用するのはちょっと考えたほうがいいと思います。
板藍根は体を冷やす作用が強いので、あまり長く飲むべきではありません。
体力のない高齢者や乳幼児も、控えたほうがよいでしょう。

ご参考まで、板藍根には粉薬(顆粒)、飴、お茶などがありますが、店頭では探せませんでした。
私は、インターネットで顆粒を購入しました。

板藍根の使い方

私のおすすめの利用の仕方は、うがいと頓服(必要なときだけに服用)です。

インフルエンザがはやる時期に外で、いかにもそれっぽい咳をしている人と会ったときとか、病院に行かなければならない用がある場合などです。
板藍根はとても苦いので、甘い味で味付けした顆粒のタイプが市販されています。
それを、お湯に溶かして、水に薄めて、帰宅時にうがいをしてそのまま飲んでしまいます。

また、ちょっと喉がいがらっぽく、のどが渇くかなと異常を感じた時に、1包頓服します。

これで、大抵ののどの違和感は消えます。

インフルエンザの予防にどれだけ効果を発揮しているかは証明できませんが、少なくとも板藍根の頓服をした後、風邪を引いたことはありません。

板藍根+銀翹散という使い方

もう一つ、もし、インフルエンザや温病を自覚して、銀翹散を飲む場合で、喉の痛みが強く、熱が高い(38℃以上)場合は、板藍根と一緒に飲むことをお勧めします。

銀翹散と、板藍根が相乗してよく効くようです。


最後にひとこと

インフルエンザに罹ったら何を飲めばいいの?という、皆さんの疑問にお答えしようと調べるうちに、抗インフルエンザウイルス薬は思ったより効果がなく、副作用を考えると使わない方がいいということがわかってきました。
やはり、夢の新薬など、そうそうできる訳はないのですね。
そこで、私たちが慣れ親しんだ、漢方薬をご紹介しようとしたのですが、ずいぶん長くなってしまいました。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。

時間をかけて読んでくださった皆さんは、理解されたと思いますが、漢方薬は、その人が持っている体の個性に合わせて、その人がウイルスや細菌などの外敵と闘う力を助けるものです。
インフルエンザウイルスを特に敵として定めているわけではありません。

ですので、インフルエンザの特効薬になる漢方薬は、人によって違います。

自分の年齢や体質、風邪の症状や、風邪の進行状況によって、何を使うか変わってきます。
ここで説明したことはごくごく大まかなことですので、皆さんの「今、必要な処方」にまで、責任を持てるものではないことは、ご理解ください。

もし、普段から備えるために、もう少し個人的に知っておきたいと思われる方がいらっしゃいましたら、右のメールの枠からご相談ください。
ただし、症状が出ていて、どう対応すれなよいかというような診断や治療に関わるご相談には応じかねます。
また、商用目的でのご相談は、ご遠慮ください。


2014年12月28日日曜日

レシピ*低糖質チーズ蒸しパン


これまで、ホームベーカリーを使ったパンを紹介してきましたが、ホームベーカリーなしでもお食事パンができないかと思い、蒸しパンに挑戦しました。

小麦粉を使わないと水加減が難しくて、なかなかうまく火が通らず、びしゃびしゃでふくらんでもつぶれてしまって・・・と苦労したのですが、やっと上手にふくらんで美味しく仕上がりました。

材料はどれも20g。
枸杞(クコ)の実をのせて
混ぜるだけで簡単にできます。

【材料】小さめの型3つ分
  • 水煮大豆          50g (大豆20g 水30g)
  • 小麦ふすま(ブラン)   20g
  • 小麦グルテン       20g
  • ラカンカット         20g
  • 卵               2コ
  • ベーキングパウダー   小さじ1
  • 粉チーズ          20g
  • バター            20g


【作り方】
  1. 水煮大豆と卵、バターをミキサーでトロトロになるまで混ぜる
  2. ボールに1と材料を全部入れて、泡だて器で混ぜる
  3. 2を型に入れる
  4. 蒸し器で12分蒸す

水煮大豆

水煮大豆は大豆パウダーやおからパウダー20gと水30gで代用できると思います。
試していないので保証はできませんが。

甘味やチーズを増やしておやつに

食パンの代わりにすることを目的に作っているので、味は控えめです。
おやつようならば、ラカンカットや粉チーズを増やしてみてください。

血糖値をあげない甘味料

ラカンカットは糖質に分類されますが、ブドウ糖(グルコース)や砂糖のように血糖値をあげません。
パルスイートカロリー0や、ラカントでも同じです。
「糖類オフ」と「糖質オフ」の違いはこちらをご覧ください。

糖質制限を考えるなら・・・

糖質は合計5.7g。
完成品が約220gですから、約3%に相当します。

砂糖を使わなければ糖質制限できると思われている方も多いかと思いますが、食生活の中で見てみると、糖質は砂糖よりも小麦粉で多く摂っている場合が多いようです。

せっかく、甘いものを控えているのに、気づかずに糖質をたくさん摂ってしまうのはもったいない!

とはいえ、砂糖は、ラカントなどで代用しやすいですが、パンやお米、麺類の代用品を考えるのは大変ですね。
特に、お米の代わりを見つけるのは至難の業。
まず、パンを小麦粉なしのもので代用するところから始めてみてはいかがですか?


他のレシピも見てください(*^^)v
レシピ*うがい薬
レシピ*豆乳ヨーグルト
レシピ*シナモン&豆乳ラテ
レシピ*低糖質ゴマクッキー
レシピ*低糖質チョコレートブラウニー
レシピ*低糖質大豆パン 
レシピ*低糖質ごま大豆パン
レシピ*低糖質チーズ大豆パン
レシピ*低糖質ガーリック大豆パン
レシピ*大豆&にんじんパン
レシピ*低糖質チーズ蒸しパン

2014年12月26日金曜日

健康に良い油?悪い油?

前回は、脂肪(脂質)やコレステロールは、細胞膜を構成する体にとってとても大切なものであることをお話ししました。
脂肪は悪者?

しなやかなでしかも丈夫な細胞膜を保つことは、われわれの体のすべての細胞の健康の基本といえるでしょう。


今日はそのしなやかさを保つための、体に良い脂肪(脂質)と、間違った脂肪と、安全な脂肪の摂り方をお話しますね。

DHA、EPA、アラキドン酸

みなさん、魚の油、魚油が体に良いとお聞きになったことがあるかと思います。
イワシやマグロなどの魚油にはDHAとかEPAなどの多価不飽和脂肪酸とよばれる脂肪の成分を含んでいます。
DHAやEPAはサプリメントなどでも販売されていますね。
薬にもなっています。

なぜ、DHAやEPAは体に良いとされるのでしょう。

下の絵を見てください。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,
細胞膜と脂質二重層 
脂質二重層を構成するグリセロリン脂質の脂肪酸の7割は多価不飽和脂肪酸といわれる。

この前もお話ししたように、私たちの細胞の細胞膜は脂質二重層でできていて、これを構成するのが脂肪酸です。
脂質二重層の構造について詳しくは下のリンクをお読みください。
⇒脂肪は悪者?

水色の頭に2本の脚のようなものが生えていますね。
これが脂質二重層を作っているグリセロリン脂質とよばれるものです。
グリセロリン脂質の脂肪酸の部分は、水色の玉の下に生えている脚のようなところです。
黄色、ピンク、紫、薄いグリーン、濃いグリーンなどの脚が見えますね。
これはみんな脂肪酸でできています。
EPAとかDHAもこの脂肪酸の仲間です。

ちょっと拡大して見てみましょう。

EPAはこんな感じで細胞膜を構成している

まずは、EPAを含むグリセロリン脂質です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,





グリーン色の脚のところがEPAの部分です。
EPAには、化学構造式でC=Cで表される二重結合が5つ含まれ、二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。
ですのでEPAでできているグリセロリン脂質の脚が曲がっているようになっているのです。

この二重結合を2つ以上持っている脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と呼びます。

DHAはこんな感じで細胞膜を構成している

次にDHAです。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,


明るいグリーン色の脚がDHAの部分です。
DHAはEPAと同じように、化学構造式でC=Cで表される、二重結合が6つ含まれ、EPAよりさらに二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。

EPAやDHAでできているグリセロリン脂質は、このように脚の部分がまっすぐでなく、曲がる(ねじれる)ことでスプリングのような柔軟性をもっているとされます。

細胞膜の構成成分である、これらの脂肪酸成分が柔軟性を持つことは、細胞がしなやかであるためにとても大切なことです。

EPAやDHAが体に良い脂肪酸(あぶら)であるとされる1つの理由です。

アラキドン酸はEPA、DHAと似ているけれど・・・

さて、次に、あまり多いと困ってしまう脂肪酸を見ましょう。

アラキドン酸という脂肪酸成分です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,


ピンク色の脚がアラキドン酸の部分です。

アラキドン酸も化学構造式でC=Cで表される、二重結合が4つ含まれ、二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。

アラキドン酸でできているグリセロリン脂質も、EPAやDHAでできているグリセロリン脂質と同じように、柔軟性をもち、細胞のしなやかさに役立っていると考えられます。

でも、ちょっとだけ困った性質を持っています。

じつは、アラキドン酸は一部がグリセロリン脂質から離れて、細胞の中で化学的に構造が変化して、炎症などを起こす物質に変わってしまうのです。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,
図上側が、細胞膜の脂質二重層。
中央左側に点線の丸で囲むピンク色の脚がアラキドン酸。
アラキドン酸は、酵素ホスホリパーゼA2により、細胞膜の脂質二重層から切り出される。
すると、シクロオキシゲナーゼや5-リポキシゲナーゼなどの酵素の働きで、
プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンといった炎症、アレルギー、血栓、喘息など、
多すぎると病気の引き金となる物質に変わる。
図中では、赤い四角で囲ってある物質が、問題の作用を持つもの。
(ブルーの四角は、これらの病気の症状を抑えるために使われている薬)
最近では、アラキドン酸などのω6系の脂肪酸の摂取過多と、うつ病などの精神神経疾患とのかかわりも指摘されている。

中央左側に点線の丸で囲むグリーン色の脚がEPA。
EPAも、アラキドン酸と同じようにプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンになるが、
EPAから作られるこれらの物質は、病気の引き金なるような作用を持たない。
(緑色の四角は、問題となる作用を持たないもの)

アラキドン酸から生まれる問題児

ちょっと複雑な絵ですみません。
図の上側にあるのが、細胞膜の脂質二重層です。
その真ん中よりちょっと左側にピンク色の脚を点線の丸で囲みました。
アラキドン酸です。

アラキドン酸は、ホスホリパーゼA2という酵素が働くと、細胞膜の脂質二重層から切り出されて、細胞の中に浮かびます。

すると、シクロオキシゲナーゼや5-リポキシゲナーゼなどの酵素の働きで、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンといった炎症、アレルギー、血栓、気管支を縮める作用(喘息)など、多すぎると病気の引き金となる物質に変わってゆきます。
図の中では、赤い四角で囲ってある物質が、問題の作用を持つものです。

これが問題なのです。

もちろん、アラキドン酸から作られる物質がすべて悪いわけではありません。
緑色の四角で囲った、プロスタグランジンE2やI2などは血液の流れを保つためにとても大切な物質ですし、ほかの物質も、身体の機能を保つためには必要な物質です。
ただ、多すぎると、病気の引き金になってしまうのです。

同じプロスタグタンジンでよく似た形をしていても、先ほどのD2やF2αのように問題になるものと、E2やI2のように有用なものがあるのですから、不思議ですね。

EPAからできる物質はみんなよい子

もう一度、上の図を見てください。
今度はEPAです。
真ん中よりちょっと右側にグリーン色の脚を点線の丸で囲んであります。

EPAも、アラキドン酸と同じように酵素によって切り出され、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンになりますが、EPAから作られるこれらの物質は、病気の引き金なるような作用を持っていません。
図の中で、問題となる作用を持たないものを緑色の四角で囲ってあります。

EPAから出てくる物質は、みな緑色の四角で囲われ、問題となる作用を持っていないことがわかります。

ちなみに、先ほど、アラキドン酸から作られたプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンの数種が、黒い四角で囲んだ炎症、アレルギー、血栓、喘息などの引き金となるとお話ししましたね。
ブルーの四角で囲んだところは、これらの病気の症状を抑えるために使われている薬です。

身体によい油?、悪い油!?

ちょっと複雑で説明が長くなってしまいました。
でもここからが今回の本番、身体に良い油の話です。
もうちょっとお付き合いください。

最後の絵です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,

ω3系のαリノレン酸はEPAの原料になり、EPAからはDHAが作られる(グリーン色系の四角で示した)。
ω6系のリノール酸は、アラキドン酸になる(赤系の四角で示した)。
アラキドン酸は細胞内で炎症、アレルギー、血栓、喘息などを引き起こす物質に変わる。
細胞膜の脂質二重層の中のグリセロリン脂質の脂肪酸成分(脚の部分は)、アシル基転移酵素の働きで、必要に応じて入れ替わる。

ω3系とω6系は拮抗しているので、どちらかの摂取が多いと、グリセロリン脂質の脂肪酸成分のω3系とω6系のバランスが崩れてしまう。ω6系が多くなると炎症性疾患、アレルギー性疾患、血栓性疾患などを引き起こす可能性があるとされる。最近では、アラキドン酸などのω6系の脂肪酸の摂取過多と、うつ病などの精神神経疾患とのかかわりも指摘されている。


細胞膜の成分は入れ替わっていく

細胞膜の脂質二重層の中の脂肪酸成分(脚の部分は)、必要に応じて入れ替わります。

先ほど見たように、細胞の中で、EPAやアラキドン酸を出発点に生理的に必要な物質を作り出したりして、脂質二重層の中の脚の部分が取れてしまうと、それを補うように、新たな脂肪酸成分が、取り込まれるのです。

これが、まるで、椅子取りゲームのようで、こぞって、各種の脂肪酸が入り込もうとします。

柔軟な細胞膜には多価不飽和脂肪酸が必要

細胞膜の柔軟性のためには、EPAやアラキドン酸のように、二重結合(C=C)が多く含まれる多価不飽和脂肪酸が適しています。
ですから、細胞膜を構成する脂肪酸の7割ぐらいが、多価不飽和脂肪酸といわれています。

加えて、EPAとアラキドン酸が良い割合で取り込まれることが大事なのです。

アラキドン酸・EPAをバランスよく摂るには

アラキドン酸は、主に肉、卵、魚、に含まれ、EPAは、魚に多く含まれています。

図のように、キャノーラ油(菜種油)、コーン油、大豆油、ひまわり油などの植物オイルに多い、リノール酸は身体に入るとアラキドン酸の原料にもなります。

また、シソ油=エゴマ油、亜麻仁(アマニ)油=フラックスシードオイルなどに多く含まれるαリノレン酸は、身体に入るとEPAの原料にもなります。

近頃、健康に良いとして、シソ油=エゴマ油、亜麻仁(アマニ)油=フラックスシードオイルが注目されていますね。
これは、αリノレン酸がEPAやDHAに変わることが注目されているためです。

普通の食生活では、リノール酸に偏りがち

揚げ物料理や炒め物、サラダドレッシング、マヨネーズ、マーガリン、カレールーやシチューのルー、トマトソースやホワイトソースなどの各種の料理ソース、クリーム、ポテトチップやスナック菓子、揚げおかき、パン、お菓子、ケーキなどのスイーツなど、お手軽でおいしいものは、みなリノール酸を多く含む植物油がふんだんに使われています。

キャノーラ油(菜種油)、コーン油、大豆油、ひまわり油などは家畜の飼料の残りから絞られるので安価なのです。

油脂会社や食品会社はこれらを、食用油やマヨネーズなどをふんだんに使ったおいしい料理のレシピや、加工食品として積極的にマーケティングしています。

テレビのグルメ番組や料理番組、コマーシャルを見れば一目瞭然ですね。

現代の文明社会で、お手軽な一般的な食生活を送ると、リノール酸を多く含む油ばかりを食べることになってしまうのです。
これでは、EPAとアラキドン酸の良いバランスを保てません。

食用の植物油や動物性の油脂がこれほどふんだんにわれわれの食生活に浸透したのも、油脂の搾油技術の進歩に伴う、ほんの最近のことです。

それにつれて、調理法やレシピが変化し、ファストフードなどの外食も増え、加工食品が増加してきたのです。

それまでは、食用の油脂は高価で、油で揚げる、炒めるなどの調理法は、ごちそうのときだけだったはずです。

外食や加工食品をなるべく避けて、魚、肉、卵、野菜などの沢山の種類の食材を、なるべく油を使わずに、煮る、蒸す、焼くなどの昔ながらの方法で調理すれば、EPAとアラキドン酸のバランスを崩さずに済むと思います。

別なページで、脂肪の消化吸収、脂肪細胞への取り込みについてはお話ししました。
リンクをご覧ください。
⇒脂肪の消化吸収はこちらを
⇒脂肪を貯めるしくみ

2014年12月20日土曜日

砂糖入り飲料のリスク~テロメアが短縮?



エバーグリーン研究室でも、適度な糖質制限をおすすめしていますが、今日は、特に砂糖入りの飲料が身体に悪い決定的な研究報告がありましたので、紹介します。
この研究を理解するためにちょっと基礎知識を勉強しましょう。

テロメアの短縮で老化する

身体が成熟した後(つまり大人になった後)も、私たちの体は、必要に応じて細胞分裂して体を修復しています。
組織を構成する細胞が傷ついたり、寿命を迎えたりして、組織の細胞が欠落するとそれを補うわけですね。

この時に働くのがご存知の遺伝子DNAです。

遺伝子DNAは細胞の細胞核の中で普段は、立体的によじれるよううにして染色体の形をとっています。

テロメア、老化、アンチエイジング、細胞核、糖質制限、テロメラーゼ、砂糖、リスク、細胞分裂、細胞老化
コイルのようなDNA二重らせんの先っぽに濃いブルーと水色で書かれているのがテロメア。
細胞分裂が起こると二重らせんが紐解かれて、DNAのコピーを作るが、その際テロメアが短くなる。
短くなったテロメアを伸長させる酵素、テロメラーゼの働きが悪くなることが、老化の一因と考えられている。


ヒトでは46本ある染色体は、細胞分裂のときにほどかれて、コピーされます。

この染色体の4つの端っこにテロメアがついています。

コピーして複製されたDNAは端っこのテロメアがちょっとだけ短くなりますが、これを修復する酵素があって、のばされて元と同じ長さになります。

細胞分裂を繰り返すたびに、端っこのテロメアが短くなり、これを修復するわけですが、この修復が働きにくくなることが老化の1つの原因と考えられています。

砂糖入り炭酸飲料で、テロメアが短縮

今回の研究は、このテロメアの長さを、アメリカの20歳から65歳の成人5309人について調べました。
その結果、

  • 砂糖入りの炭酸飲料をよく飲む人は、白血球のテロメアがより短い


ことがわかりました。

100%のフルーツジュース、ダイエットソーダ、非炭酸の砂糖入り飲料(コーヒーや紅茶に砂糖を入れて飲むなど)を飲むことは、テロメアの長さと統計学的にあきらかな関連はありませんでした。

研究者は、砂糖入りの炭酸飲料を常飲することは、細胞を老化させてメタボリックシンドロームになりやすくすると結論しています。


砂糖入りの飲料のリスクを明らかにした研究はこのほかにもたくさんあります。

リスクとなる疾患も、2型糖尿病、高血圧、肥満、脳卒中、心疾患、癌などたくさんあります。

砂糖など糖類のリスクについては、下のページもご覧ください。
⇒ブドウ糖と果糖の毒性
⇒糖類の依存性
⇒糖類を食べるとおなかがすく?
⇒グルコーススパイクに注意
⇒糖毒性で糖尿病予備軍に??
⇒果糖はブドウ糖より危険
⇒インスリンは肥満ホルモン?!
⇒「糖類オフ」と「糖質オフ」の違い

砂糖は味覚を変えてしまう

砂糖は味覚も変えてしまうようです。
こんな研究もあります。
Taste perception and implicit attitude toward sweet related to body mass index and soft drink supplementation

  • 肥満ないし太り過ぎの人は、正常体重の人に比べて、塩味や甘味の感受性が鈍く、より強い甘味を好むようになる

という研究です。

もともとは、砂糖の味を特に好きではなかった人が、1か月間、砂糖入りソフトドリンクを飲み続けた結果、砂糖への嗜好度合い(好んで摂取する)が2.3倍になりました。

このように、砂糖入りソフトドリンクを飲み続けると正常体重の人も味覚が鈍って甘味を好むように変化することが研究で示されました。

砂糖を規制しないのはなぜ?

では、このような砂糖の有害性を政府は規制していないのでしょうか?

アメリカではニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ前市長が中心となり、大きなサイズ(473ミリリットル以上)の砂糖入り炭酸飲料と砂糖入りコーヒーや紅茶などを映画館やファーストフード店、飲食店で販売することを禁止する条例をニューヨーク市が施行しようとしました。

しかし、米国飲料協会がこの条例は違法だとして提訴して、ニューヨーク市が敗れました。
ニューヨーク市は控訴し、再び敗れ、上告していて、いまだに決着がついていません。

また、カリフォルニア州では、砂糖入りの清涼飲料に、肥満、糖尿病、虫歯の警告表示を義務付ける法案が州議会に提出されましたが、2014年7月に僅差で廃案になりました。

食品・飲料・外食産業による圧力と、規制当局とのいたちごっこのようです。

一方で、カリフォルニア州では2005年に砂糖入り炭酸飲料やファーストフードを公立学校で販売することを規制しています。

また、イギリスの新しい学校での食事基準では、
  • 甘いものや揚げ物など脂肪分に富む食品は抑制
  • お菓子は禁止
  • 飲み物は水が基本
  • 飲料への砂糖や蜂蜜などを添加は全量の5%まで
  • フルーツジュースは150mLまでに制限
など、かなり厳しく糖質を制限しています。
Education Secretary Michael Gove announces a new set of standards for food served in schools.

自己責任で砂糖の誘惑と戦う


大人は、自己責任で健康管理をするしかなさそうです。
私たちに備わっている報酬系に自分で打ち勝たないと、われわれの欲望を、様々な方法で刺激し続ける、産業界の餌食になってしまいますよ。

日本人は欧米の人に比べれば、野菜をたくさん食べるし、甘すぎるお菓子は食べていないと感じられるかもしれませんね。
でも、私たちが子供のころお店で売っていたお菓子を思い出してください。
今、スーパーに並ぶラインナップがとがどれほど充実して、おいしく、魅力的になったことか。

行政が私たちの健康を考えて規制してくれていると思うのは大きな間違いです。
自己責任という言葉で行政はそれとなく言い訳しているのです。
産業界が稼いで税金を納めてくれなければ、行政は成り立ちませんからね。
私たちは、お金を払っておいしい思いをしたお釣りに、不健康をもらっているわけです。

とはいえ、やっぱりスイーツは食べたい!

産業界や行政に惑わされず、正しい知識を読み解く力を持って、健康で美味しい人生を送りましょう。

糖質を制限したレシピ、エバーグリーン研究室では れい 研究員がいろいろトライしています。
ご覧ください。

クッキー
低糖質チョコレートクッキー
低糖質アーモンドクッキー
低糖質ゴマクッキー
低糖質ジンジャークッキー
低糖質カシューナッツ アイスボックスクッキー
低糖質 ごまのビスコッティ
ケーキ
低糖質チョコレートブラウニー
低糖質クルミケーキ
低糖質バナナケーキ
低糖質リンゴ&ヨーグルトケーキ
低糖質小麦粉なし!リンゴケーキ
低糖質みかんケーキ
低糖質かぼちゃケーキ
サイリウムのお菓子
低糖質サイリウム黒豆大福
低糖質マンゴーババロア
豆乳ブラマンジェ
和菓子
低糖質サイリウム黒豆大福
低糖質黒豆羊羹
パン
低糖質大豆パン 
低糖質ごま大豆パン
低糖質チーズ大豆パン
低糖質ガーリック大豆パン
低糖質大豆&にんじんパン
低糖質ごぼう大豆パン
低糖質シナモンパン
低糖質シナモンロール
低糖質紅茶パン
低糖質ラズベリー&クリームチーズパン
低糖質 小麦粉なし!チョコパン
蒸しパン
低糖質チーズ蒸しパン
低糖質きなこ蒸しパン

よろしければ下記もご覧ください。

糖質
血糖になる栄養素
何を食べると血糖値が上がる?
「糖類オフ」と「糖質オフ」の違い
ブドウ糖と果糖の毒性
果糖はブドウ糖より危険
果糖は別腹
糖類を食べるとおなかがすく?
糖質は食べ物でとる必要はない?
糖質制限で二日酔いから解放?
アルコール飲料 角砂糖いくつ分?
スポーツドリンクで糖尿病に? 
お酒と糖類の依存性
あなたの1日の糖質量
糖質制限 糖質は何gまでOK?
エナジードリンクは飲んでもOK?
加糖飲料の危険性が次々証明
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の恐ろしい結果、終末糖化産物(AGEs)とは?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム

糖尿病
4~5人に1人が糖尿病予備群!
糖毒性で糖尿病予備群に??
グルコーススパイクに注意
インスリンは肥満ホルモン?!
早食いはメタボの元
厚労省お墨付き栄養法で糖尿病?
低GI食品って意味ある?
やっぱりGIはあてにならない
糖尿病予備群は癌リスクが15%高い
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の末路、終末糖化産物(AGEs)とは?
血糖値だけでない空腹感のメカニズム

食べ物・栄養
食生活は進化の中で3回変わった
50歳超女性は夕食でタンパク50g
飲酒でボケが早まる!
砂糖入り飲料のリスク
おいしさの罠
米国マクドナルド が抗生物質与えた鶏肉の使用をやめる
食品のコレステロールは気にしなくてOK
エナジードリンクは飲んでもOK?
短い期間でも、健康な食事でがんのリスクが減る
カメはなぜ長生きか?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム

2014年12月17日水曜日

やっぱりGIはあてにならない

ダイエット法はまず疑ってかかる

ダイエット法や健康法については、メディアに流れるいかにも怪しげなものや、医師などの医療資格を持つ専門家が本を出したりして解説したりしていますが、鵜呑みにすると損をすることになりそうです。
センセーショナルに脚色・誇張されて、メディアから流れてくる情報や、仮に専門家といわれる人のお墨付きでも、一歩引いて客観的に判断するほうが賢いと思います。

エバーグリーン研究室では、いろいろな健康情報を、客観的によく調べて、読者の研究員にお届けするよう心掛けています。
以前にエバーグリーン研究室でも、問題のあるダイエット・糖質管理法としてグリセミック指数(グリセミックインデックス:GI)を取り上げました。

⇒低GI食品って意味ある?

今回は、グリセミック指数(GI)をダイエットに取り入れて管理しても、病気は防げないことを明らかにした研究が最近発表されたのでお伝えします。

低GI食を食べてもインスリン値、コレステロール値、収縮期血圧は良くならなかった

アメリカで163人の過体重の人を対象に、ランダム化クロスオーバー比較試験という厳密な方法で試験を行いました。

【方法】
高いGIで構成される食事と低いGI値で構成される食事など4つのパターンの食事を5週間にわたって食べてもらい、それぞれのパターンでの、

  • インスリン感受性
  • 糖負荷試験でのインスリン値
  • LDLコレステロール値
  • HDLコレステロール値
  • 中性脂肪値
  • 収縮期血圧(高いほうの血圧値)

を比較しました。
Frank M. Sacks et.al. Effects of High vs Low Glycemic Index of Dietary Carbohydrate on Cardiovascular Disease Risk Factors and Insulin SensitivityThe OmniCarb Randomized Clinical Trial

【結果】
低いGI値で構成される食事は、高いGIで構成される食事に比べて、
インスリン感受性、収縮期血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール
のそれぞれの値を改善させませんでした。

それどころか、低GIは、
インスリン感受性を低下させ、LDLコレステロールを増加させました。
これらは統計学的に明らかでした。

低インスリン感受性、糖負荷試験での高インスリン値、高LDLコレステロール値、低HDLコレステロール値と高中性脂肪値、高い収縮期血圧は、これらは何れも心血管病のリスク因子とされます。

(高LDLコレステロール値、低HDLコレステロール値が心血管病のリスク因子であるかどうかは議論もあります。)

また、低インスリン感受性、高いインスリン値は糖尿病のリスク因子です。

医師の中には、糖尿病予備軍をGIで管理すればよいとする方もおられますが、この研究結果についてはどう思われるのでしょうか?

健康情報はできるだけ自分で吟味しよう

低GI食品って意味ある?でもお話しした通り、GIの方法論には無理があります。
これはGIのことをちょっと勉強すれば誰でも感じることでしょう。

科学的なことは専門家任せという態度では、結局自分が損をします。
理科や数字が苦手という方も多いと思いますが、自分の健康法や病気については、できる限り自分で吟味して判断することが大事だと思います。

低GI食品との触れ込みでマーケティングをかけている商品もたくさんあります。
ゆめゆめご注意あれ…。


糖質や糖尿病については下記もご覧ください。

糖質
血糖になる栄養素
何を食べると血糖値が上がる?
「糖類オフ」と「糖質オフ」の違い
ブドウ糖と果糖の毒性
果糖はブドウ糖より危険
果糖は別腹
糖類を食べるとおなかがすく?
糖質は食べ物でとる必要はない?
糖質制限で二日酔いから解放?
アルコール飲料 角砂糖いくつ分?
スポーツドリンクで糖尿病に? 
お酒と糖類の依存性
あなたの1日の糖質量
糖質制限 糖質は何gまでOK?


糖尿病
4~5人に1人が糖尿病予備軍!
糖毒性で糖尿病予備軍に??
グルコーススパイクに注意
インスリンは肥満ホルモン?!
早食いはメタボの元
厚労省お墨付き栄養法で糖尿病?
低GI食品って意味ある?
やっぱりGIはあてにならない
糖尿病予備群は癌リスクが15%高い

2014年12月12日金曜日

インフルエンザ*タミフルで予防できる?

タミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬には、インフルエンザへの感染を防ぐ効果があるといわれていますね。
受験生を抱える家庭など、家族が感染した時にはタミフルを使えばいい、と考えている方も多いかと思います。
とはいえ、副作用が出ることもありますし、悩みどころ。
今回は、抗インフルエンザウイルス薬で、感染を防ぐべきかどうかを考えてみます。

抗インフルエンザウイルス薬の予防投与の対象

インフルエンザに効くとされる抗インフルエンザウイルス薬には、どれも予防使用が認められています。
薬の費用は患者の3割負担(保険者が7割払ってくれる)にはならず、自費となりますが、次のような人を対象に厚生労働省の承認が下りています。

インフルエンザ感染症を発症している患者の同居家族や共同生活者で

  • 高齢者(65歳以上)
  • 慢性呼吸器疾患患者
  • 慢性心疾患患者
  • 代謝性疾患患者(糖尿病など)
  • 腎機能障害患者

ただし、健康成人と13歳未満の小児は予防使用の対象にならない。

実際には、お医者さんに行って「子供が受験だから…」など、事情を説明すると、インフルエンザに罹っていることにして処方してくれることも多いようです。

抗ウイルス薬の予防投与の効果

日本で発売前に行われた臨床試験の成績

日本で予防に使われた際の効果をみた試験をご紹介しましょう。
タミフルの予防使用が、統計学的に有意にインフルエンザの発症を予防したというデータです。

試験: プラセボ(偽薬)を対照とした第Ⅲ相臨床試験(JV15824)
投与期間: 42日間投与
対象: 高齢者を含む健康成人308例(プラセボ;153例、タミフル;155例)
インフルエンザが発症した割合: プラセボ群13例 8.5%、タミフル群2例1.3%

リン酸オセルタミビルのインフルエンザ発症抑制効果に関する検討

これだけみると、予防接種よりは効くかな?という感じはします。
が、この試験結果には続きがあります。

インフルエンザが発症したのがプラセボ群13例 8.5%、タミフル群2例1.3%というのは、「37.5℃以上の発熱があり、インフルエンザの症状が2つ以上みられ、鼻の検査でインフルエンザウイルスが認められたか血液検査で抗体価が上が
タミフル(オセルタミビル)のインフルエンザ予防効果 柏木征三郎ほか リン酸オセルタミビルのインフルエンザ発症抑制効果に関する検討―プラセボを対照とした第III相二重盲検並行群間比較試験成績― 感染症誌2000; 74: 1062-1076.よりEvergreenLov作成
高齢者を含む健康な人を対象に行った試験。
155人にタミフルを、153人にプラセボ(タミフルとよく似た偽薬)を投与して、
インフルエンザに感染するかどうかを、42日間調査した。
155人にタミフルを、153人にプラセボ(タミフルとよく似た偽薬)を投与して、
インフルエンザに感染するかどうかを、42日間調査した。
観察期間中に症状が見られた人を、次の3つの症状に応じて
4つのパターンに分類し、タミフル群とプラセボ群の人数を比較した。
1. 37.5℃以上の熱が出たか
2. インフルエンザの症状が2つ以上現れたか
3. 鼻の検査でインフルエンザウイルスが認められたか、または、血液検査で
   抗体価が上がったことが確認された
ったことが確認された人」の結果を示しています。

抗体価というのは、インフルエンザウイルスが感染した時に、これをやっつけようとしてリンパ球が作るイムノグロブリンG(IgG)の量のこと。

抗体の量が多くなることを「抗体価が上がる」といいます。
感染してからIgGが増えるまでには、1週間から10日かかるとされています。
免疫系が弱っている人では、抗体価が上がるのに時間がかかる可能性があります。

つまり、インフルエンザに罹っていても、血液検査で抗体価が上がっていないために「インフルエンザウイルスが感染していない」と診断されてしまうことがあり得ます。

ここで、右の表の一番下の列を見てください。
これは「検査ではインフルエンザウイルスが感染したと認められなかったけれどもインフルエンザと同じ症状の風邪をひいた人」の結果です。

この中には、実はインフルエンザに感染していたけれど、抗体価が上がるのが遅かったために「インフルエンザ感染なし」とされた人が含まれる可能性があります。
タミフルで予防した人40人、予防しなかった人44人が該当します。
他のパターンに比べて人数が圧倒的に多いですね。

この試験の結果をまとめると、

タミフルで予防すると、インフルエンザ感染が確認できる風邪にはかかりにくくなるけれど、インフルエンザ感染が確認できない風邪のかかりやすさは変わらない

ということになります。

発売後の世界のデータをまとめた報告

前回ご紹介したコクラン共同計画の結果に、予防使用に関するコメントがあるので紹介しましょう。
コクラン共同計画とは世界的に様々なデータを集めて解析して有効性を検討する計画で、タミフル・リレンザを使った14,628人の患者さんについて調べています。

タミフルをインフルエンザの予防に使用した場合、精神科関連の副作用リスクが約1%増加した

Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI: 10.1002/14651858.CD008965.pub4

タミフルは予防に使っても副作用がみられる場合があるということです。

予防使用は飲み続けなければNG

予防に関して、大切な注意事項があります。
それは、抗インフルエンザウイルス薬を予防に使うときには、予防したい期間中、ずっと飲み続ける必要があるということ。
予防接種のように、1回飲めば1シーズン効く、というものではありません。

厚生労働省も、「予防の基本は予防接種」としていて、お医者さんが1回に処方できるのは10日間分までです。

抗ウイルス薬の作用機序から考えられること

では、なぜ、インフルエンザの予防は、抗インフルエンザウイルス薬よりも予防接種で行った方が良いといわれるのでしょうか?
それは、予防接種が自分自身の免疫の力を高めるのに対して、抗インフルエンザウイルス薬はウイルスのタンパク質に直接作用するためです。

今、インフルエンザに使われている薬はどれも、ノイラミニダーゼ阻害薬といって、ノイラミニダーゼというインフルエンザウイルスのもつタンパク質を阻害する薬です。

といっても、よくわからないですよね。
もう少し詳しく説明しましょう。

インフルエンザウイルスの増え方

ちょっと話がそれますが、インフルエンザウイルスがどのようにして増えるかをみてみましょう。
薬の作用を理解するのに知っておいた方がいいと思います。

下の図は、のどの奥の細胞にインフルエンザウイルスが入っていって、分裂して、細胞から出ていく過程を示しています。
インフルエンザウイルスは、エンベロープと呼ばれる殻の周りに、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼという棘をつけています。
インフルエンザウイルスは、そのままでは感染力がありません。
呼吸器と腸管にあるプロテアーゼという酵素でヘマグルチニンの形が変わることで、感染力を持ちます。
ですので、普通のインフルエンザウイルスは呼吸器と腸管以外の細胞には感染できません。
この棘を利用して人の細胞の中に入ったり細胞から外へ出たりします。

順を追って説明しますね。

A: インフルエンザウイルスがのどの奥に入ると、ヘマグルチニンが、ヒトの細胞膜にある糖鎖の先端のシアル酸にくっつきます。 B、C: 細胞膜にくっついたウイルスは、ひとの細胞膜に包まれた状態で中に入り込んでいきます。 D: 細胞の中に入ると、RNAと包まれていた膜から出て、ヒトの細胞が持っている酵素を利用して、RNAやタンパク質(ノイラミニダーゼ、ヘマグルチニンなど)を増やします。 E: 増えたタンパク質は、ヒトの細胞膜の表面に並び、その細胞膜をエンベロープにしてRNAを中に入れた状態・・・つまり、インフルエンザウイルスの形を完成させて、細胞から外に出ていきます。 外に出たときにも、ヘマグルチニンは糖鎖のシアル酸にくっつきます イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA オセルタミビル ザナビミル ラピアクタ ペラミビル ラニナミビル イナビル コクランレビュー タミフル 副作用 遺伝子 エンベロープ 

A: インフルエンザウイルスがのどの奥に入ると、のどの粘膜にあるプロテアーゼで形が変わったヘマグルチニンが、ヒトの細胞膜にある糖鎖の先端のシアル酸にくっつきます。
B、C: 細胞膜にくっついたウイルスは、ヒトの細胞膜に包まれた状態で中に入り込んでいきます。
D: 細胞の中に入ると、RNAと包まれていた膜から出て、ヒトの細胞が持っている酵素を利用して、RNAやタンパク質(ノイラミニダーゼ、ヘマグルチニンなど)を増やします。
E: 増えたタンパク質は、ヒトの細胞膜の表面に並び、その細胞膜をエンベロープにしてRNAを中に入れた状態・・・つまり、インフルエンザウイルスの形を完成させて、細胞から外に出ていきます。
G: 外に出たときにも、粘膜にプロテアーゼがある気道(のど~気管~肺)や消化器の細胞では、ヘマグルチニンは糖鎖のシアル酸にくっつきます
こうして、インフルエンザウイルスはのどを振りだしにして、主に上気道(のど)で増え、一部は消化器でも増えます。通常のインフルエンザウイルスは気道や消化器に感染して発病しますが、高病原性のインフルエンザウイルスは気道や消化器以外の全身の細胞の内側のプロテアーゼでもヘマグルチニンの形が変わるので、外に出たときには既にヘマグルチニンの形が変わっていて、全身の細胞に感染できます。ですので重症となるのですね。


イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA

くっついたまま離れなければ、インフルエンザウイルスは細胞つなぎとめられたままで体に広がっていけません。

この、最後のGのところを拡大したのが右のイラストです。

ここで働くのがノイラミニダーゼ。
ヘマグルチニンにくっついたシアル酸を、ノイラミニダーゼの先端が取り込んで壊すことで、切り離すのです。
ノイラミニダーゼの先端にはシアル酸がピッタリはまる形をしたポケットがあって、ここにシアル酸を取り込んで分解します。

このノイラミニダーゼを阻害するのが抗インフルエンザウイルス薬です。

抗インフルエンザウイルス薬の作用

下の図の緑の▲はタミフルです。

イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA オセルタミビル ザナビミル ラピアクタ ペラミビル ラニナミビル イナビル 医者でもらう薬 阻害薬 ウイルス感染は防げない
タミフルはシアル酸に似た形(化学構造)をしています。
そのために、シアル酸の代わりにノイラミニダーゼの先端のポケットに入り込み、ノイラミニダーゼがシアル酸を切り離すことができなくなります。

現在使われているタミフル以外の抗インフルエンザウイルス薬も、似たような形をしていて、同じように作用します。

さて、このノイラミニダーゼ、インフルエンザウイルスだけが持つものではありません。
全く同じではありませんが、ノイラミニダーゼの兄弟のような酵素を、ヒトも持っています。

今のところ、抗インフルエンザウイルス薬はインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼだけに作用すると、製薬メーカーは言っていますが、ヒトのノイラミニダーゼに絶対に作用しないという保証はありません。

もうひとつ、この作用の仕組みから言える大事なことがあります。
ここまでのお話でお気づきかと思いますが、抗インフルエンザウイルス薬は、インフルエンザウイルスがのどの細胞に感染する(細胞の中に入っていく)ところは防ぐことができません。

タミフルの中枢神経への作用の可能性

抗インフルエンザウイルス薬は、中枢神経を抑えて症状が治ったように見せているだけかも?

先ほどお示ししたコクラン共同研究の報告に気になる考察があるので、ご紹介します。
前回のインフルエンザ*タミフルはどのくらい効く?でも、お話ししました。
それは・・・
  • タミフルが炎症促進性サイトカインの濃度を低下させることで、免疫反応が治まり、インフルエンザの症状が改善していることが考えられる。
  • とすると、タミフルには中枢神経(脳の神経)抑制作用があり、その結果、熱が下がり、見かけ上、症状が改善したようになっているという可能性がある。
この作用については、研究されているわけではないので、本当かどうかはわかりません。
ただ、脳の細胞の膜の表面にもシアル酸はたくさんあるし、ノイラミニダーゼもたくさんあることが考えられるので、その部分に薬が効いていないとは言い切れません。

タミフルは脳の中に入れるの?

では、口から飲んだタミフルのうち、どのくらいの量が血液を通して脳の中に入るのでしょうか?
気になったので、調べてみました。

というのは、体の中で脳というのは特別に守られていて、簡単には薬が入っていけないようになっているのです。
もう少し、詳しくお話ししましょう。
脳に栄養を送っている毛細血管には血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)というバリアがあります。
ここを通過できる物質は、ごく限られています。
グルコース(ブドウ糖)はこのBBBを通過できるから、脳の栄養になれるのです。

さて、タミフルについて製薬メーカーの資料を調べてみると・・・
タミフルインタビューフォームP53

経口投与したタミフルがどのくらい脳に移行するかは、ラットの実験結果しかありません。
ヒトで調べるわけにはいきませんからね。
それによると、
  • 脳内に入る薬の量(AUC)は血液中の薬の量の22~34%程度(ラット)
のようです。

人では脳脊髄液中の薬の濃度を測定したデータがあります。
  • 血液中を100としたとき、2~3が脳脊髄液中に入る
という結果が示されています。

と、ここまでは2015年の「インタビューフォーム」という資料に書かれていたデータです。
実は、2008年に作られたインタビューフォームには、違うデータが取り上げられています。
  • 生後7日のラットでは、脳中のタミフルの量は血漿中の240倍だったが、生後42日のラットでは1.4 倍で、ラットの成長と共に低下していた
血液中の240倍の濃度のタミフルが脳の中に確認されたということは、口から飲んで消化管、肝臓を経由して血液中に入ったタミフルが、脳の中に集中的に集まって行ったということです。

これはラットの実験ですから、ヒトに置き換えられるかどうかはわかりません。
置き換えられない場合の方が多いかとは思います。
でも、可能性として、小さいお子さんでは脳に移行しやすい危険があるので注意しましょう、とはいえるのでは?

いずれにしても、13歳未満のお子さんはタミフルの予防投与の対象からは外れています。
が、インフルエンザに罹ったときの治療薬としては、適応が認められています。

では、予防したかったらどうすればいい?

先ほどもお話ししたように、感染予防に抗インフルエンザウイルス薬を使うときは、予防したい期間、ずっと飲み続ける必要があります。

受験の直前に兄弟が感染したからどうしても、というのであれば、短期間だけ使う程度にするのがよいでしょう。
それも、タミフルよりはイナビルかリレンザの方が、まだ副作用は少ないかもしれません。
理由はこちらをご覧ください。
インフルエンザ*タミフルよりはリレンザ・イナビルが安心

ただし、副作用で受験の時に気分が悪くなる可能性もあります。
それに、もし、中枢神経抑制作用が現れたとしたら、頭が働かなくなってしまいます!

予防だけでなく、インフルエンザに罹ったとしても、タミフルに限らず、リレンザやイナビルなどの抗インフルエンザ薬は使わないほうが良いように思います。
使っても、副作用の心配があるだけで、たいして効果は期待できません。
インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

では、どうするか?
こちらをご覧ください。
インフルエンザ*漢方薬で早めの対策



2014年12月7日日曜日

インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?

インフルエンザに罹ったら48時間以内に抗インフルエンザウイルス薬を飲む!
決まりごとのように思っている方がずいぶん増えたように思います。

とはいえ、それはなかなか厳しいです。
熱が高くて、だるくて、のどは痛いし、鼻水は出るし・・・・そんな時に、医者に行って検査して、それから薬局に行って薬をもらう。
その間、あっちでもこっちでもウイルスをまき散らす。
このような努力の結果、得られる効果はどのくらいなのでしょうか?

一方で、子どもが抗インフルエンザウイルス薬を飲むと異常行動を起こすことがあるとも言われています。
これは本当のことなのでしょうか?

今回は、こういった疑問について検証してみます。


抗インフルエンザウイルス薬の効果のほどは?

インフルエンザに対してお医者さんが使っている抗ウイルス薬も、最近では種類が増えてきました。
おなじみのタミフル(カプセル)やリレンザ(吸入)のほかにも、注射剤や、1回だけ吸入すればいいイナビルも発売されています。

「インフルエンザになったら48時間以内にタミフルを飲めば早く治る!」というのが常識のように話されていますが、これは本当でしょうか?






タミフル・リレンザはインフルエンザの症状を約半日短縮

2014年4月10日に、オセルタミビル(商品名:タミフル)の試験20件(対象患者 9,623人)、ザナミビル商品名:リレンザ)の試験26件(対象患者 14,628人)の有効性・安全性を検討した結果が発表されました。
これは、 コクラン共同計画という、世界的に様々なデータを集めて解析し、薬剤などの有効性を検討する計画の一つとして行われたものです。

【結果】
  • 成人でインフルエンザ様症状が現れている期間を、タミフルは7日間から6.3日間に、リレンザは6.6日間から6日間に短縮した
  • 小児での効果は成人よりも不確かだった
  • リレンザは成人で気管支炎の発症を約1.8%減らした
  • タミフルもリレンザも、成人および小児で、肺炎、副鼻腔炎、中耳炎の発症を減らさなかった
  • タミフルでは、成人で約4%、小児で約5%、吐き気と嘔吐の副作用リスクが増加した
  • タミフルを使った成人・小児には、感染と戦うための抗体を作る力が低下した人が、使わなかった人に比べて多く見られた

つまり、タミフルもリレンザも、大人では効いてはいるものの、半日程度早く治るくらいの効き方で、20人に1人くらいの割合で、副作用として吐き気が見られることがある、ということです。

なんだ、たいしたことないんだ・・・と、評判とのあまりの違いに私も驚きました。

日本の開発時のデータを見ると

では、日本で発売する前に製薬メーカーが厚生労働省の審査を受けるために行った患者さんでの試験の成績はどうだったのでしょう?

タミフルとプラセボ(タミフルと似せて作られた薬効成分のないカプセル)を比較した試験の結果は次の通りです。

平熱(36.9℃)に回復するまでの時間は,タミフル投与群では 33.1 時間(約1.4 日)、プラセボ投与群で 60.5 時間(約 2.5 日)と約 1 日短縮しした

タミフルを飲んだことで短縮された、症状が治るまでの時間は次の通り

  • 鼻症状 15.3時間
  • のどの痛み 9.1時間
  • 咳 13.5時間
  • 筋肉痛 10.8時間
  • 倦怠感 7時間
  • 頭痛 5.2時間
第Ⅲ相臨床試験成績

う~ん。微妙。

皆、タミフルに効いてほしいと願っている?

この程度の効果なのに、なぜ、「インフルエンザに罹ったらタミフル!」と言われるようになってしまったのでしょう?

ここからは、私の推測ですが・・・
高い化粧品を買ったとき、すごくきれいになったように感じますよね?
タミフルも同じ。
辛い中、病院に行って検査をして待たされてやっともらった薬ですから、「効いてほしい」と願って使うわけです。
それで、なんだかすごくよく効いたような気がしてしまうのかもしれません。
タミフルを飲んだ時と飲まなかったときとを、自分自身で比較することはできませんからね。

異常行動はタミフルの副作用??

異常行動とは

では、タミフルで異常行動の副作用が出ることがある、というのは本当でしょうか?
異常行動とはどういうことかというと・・・

  • 突然立ち上がって部屋から出ようとする
  • 興奮状態となり、手を広げて部屋を駆け回り、意味のわからないことを言う
  • 興奮して窓を開けてベランダに出ようとする
  • 自宅から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない
  • 人に襲われる感覚を覚え、外に飛び出す
  • 変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回る
  • 突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする

詳細は岡部信彦 平成25年度厚生労働科学研究費補助金 インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動の情報収集に関する研究

異常行動は抗インフルエンザウイルス薬を使わなくても起こる

異常行動の件については、毎年、厚生労働省の調査が行われています。
厚生労働省科学研究
その結果、これまでに分かったことは・・・

  • 抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、インフルエンザに罹ると異常行動がみられることがある
  • 抗インフルエンザウイルス薬としては、タミフルだけでなく、リレンザやイナビルでも同程度に異常行動がみられる

アメリカの厚生労働省に当たる機関であるFDAは、「タミフルと報告された小児死亡との間に因果関係があるとは結論づけられない」との見解です。
FDA Pediatric Advisory Committee November 18, 2005 Questions and Tamiflu Q&A

つまり、抗インフルエンザウイルス薬を飲んでも飲まなくても、インフルエンザに罹ったら異常行動がみられることがあるということです。
家族がインフルエンザで熱を出しているときには、危ない行動をとることがないように気をつけましょう。

タミフルの気になる作用

ここまでのお話は、「たいして効かないけれど、少しでも早く熱を下げたければタミフルを使えばOK」とまとめられそうです。
が、それだけのことのために安易にタミフルを使わないほうがいいかも?という報告があります。

タミフルを使うと、抗体が作られにくくなる?

まずは、先ほどご紹介したコクラン共同計画の報告の一番最後の項目です。
  • タミフルを使った成人・小児には、感染と戦うための抗体を作る力が低下した人が、使わなかった人に比べて多く見られた
どういうことかというと、病原微生物が感染すると、ヒトはその病原菌と闘う戦闘員である抗体を作ります。
抗体ができるのには1週間から10日と時間がかかるので、インフルエンザだと、多くの人は治りかけた頃に戦闘員が充実してくることになり・・・ちょっと遅い感じですね。
でも、一度抗体を作ると、2度目に同じ病原微生物が感染した時には、すぐに出動して、感染を防いでくれます。

この抗体は血液中に流れているので、どのくらいあるか、採血して調べることができます。
インフルエンザに罹った後に血液検査をしたところ、タミフルを使った人は使わなかった人に比べて少ない場合が多かったのです。

同じシーズンに2回もインフルエンザに罹ったという話を聞くことがありますが、そういう人は、ひょっとしたら、タミフルを使ったために抗体があまり作られなかったのかもしれません。

タミフルは、中枢神経抑制作用で症状が治ったように見せている?

もうひとつ、このコクラン共同計画の報告で述べられている、気になる考察があります。

  • タミフルが炎症促進性サイトカインの濃度を低下させることで、免疫反応が治まり、インフルエンザの症状が改善していることが考えられる。
  • とすると、タミフルには中枢神経(脳の神経)抑制作用があり、その結果、熱が下がり、見かけ上、症状が改善したようになるという可能性がある。

ということです。
参考:川島紘一郎著「その薬、必要ですか?」ポプラ社.2014年8月

この話を読み解くには、まず、製薬メーカーの言っている抗インフルエンザウイルス薬の作用を理解する必要がありますね。
その辺は、こちらをご覧ください。
インフルエンザ*タミフルで予防できる?

タミフル、リレンザがきかないのならばイナビルが良いのかというと、そうとも言えません。
詳しくはこちらで。
インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?



2014年12月5日金曜日

シャンプーをやめれば髪が生える!

シャンプー、抜け毛、はげる、薄毛、脱毛、頭皮、角層、顆粒層、有棘層、基底層、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム、アミノ酸系界面活性剤、アミノ酸系洗浄剤、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、皮脂、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロール
シャンプーをやめれば髪が生える!……。
ちょっとキャッチ―なタイトルでしょう?
でも、本当なんです。
実は、私は、これを書いている時点で、2年以上シャンプーしていません。

ご多分にもれず、遺伝的な要素もあって、脱毛、薄毛は若い時から気にしていました。
医療・医学・薬学関連の情報を扱う仕事をしてきたので、いろいろ自分で調べては、効果のありそうなことは一通りやりましたが、やはりばっちり効果の実感できた予防法はありませんでした。

現在、「禿頭症」いわゆるハゲ(男性も女性も)に現代西洋医学的な証拠がある治療・予防法は、みなさんもご存じのとおり、リアップという製品の有効成分ミノキシジルの頭髪用トニックと、AGA(エージーエー)とよばれる男性型脱毛症での飲み薬フィナステリド錠(プロペシア)ぐらいです。

飲み薬は副作用が怖いので、飲んだことがありませんが、リアップは使っていました。
ある程度は効いていましたが、それでも、ストレスや仕事での不規則な生活に、効果が打ち消されている感じでした。

皮膚科学的に考えると、シャンプーなどで頭を洗うことは、頭皮に悪いことはわかっていました。
また、五木寛之さんなど有名人の一部で、シャンプーをせず、調子が良いという話も知っていました。

そこで、2年後に50歳の声をそろそろ聴くころ、シャンプーをやめる決意をしました。
自分の髪がスポーツ刈りに近いソフトモヒカン刈りなので、決心しやすかったということもありますね。

2年間経ちますが、効果はばっちりで、リアップもやめました。
行きつけていた床屋さんからも、みるみる髪が生えてきた、とお墨付きをもらいました。

今日は、頭皮や皮膚にとって、シャンプーや石鹸などの「界面活性剤」がダメージを与えることをお話しします。

皮脂の役割

皮膚には、
①外部からの、ほこりやウイルス、細菌、アレルゲンなどが体内に入るのを防ぐ
②体内の水分が、体外に蒸散(蒸発)しすぎないように守り、体内の水分を保って乾燥を防ぐ、
「バリアー機能」があります。
⇒肌の保護機能と新陳代謝

シャンプー、抜け毛、はげる、薄毛、脱毛、頭皮、角層、顆粒層、有棘層、基底層、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム、アミノ酸系界面活性剤、アミノ酸系洗浄剤、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、皮脂、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロール
表皮の構造
このバリアー機能を担う大切なものが、角(質)層にある皮脂です。

まず、皮膚の構造を見ましょう。
これは頭皮も、ほかの皮膚も構造はほぼ同じです。

右の絵の一番上の層が角(質)層です。
角層は下の図のように、皮脂(脂質)と角質で構成されています。

角層の下には顆粒層、有棘層、基底層などがあり、これらの層は主に角化細胞(ケラチノサイト)でできています。これが死ぬ(角質化する)と皮脂を出します。

シャンプー、抜け毛、はげる、薄毛、脱毛、頭皮、角層、顆粒層、有棘層、基底層、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム、アミノ酸系界面活性剤、アミノ酸系洗浄剤、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、皮脂、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロール
オレンジの部分は、表皮の細胞=ケラチノサイトが寿命を迎えて角質化したもの。
黄色の部分は、皮脂腺から分泌される脂質と、ケラチノサイトが遺伝子のプログラムに従って自動的に死ぬ(アポトーシス)ときに流出する脂質。脂質は、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロールで構成されています。
皮脂は脂質で、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロールで構成されています。
皮脂と角質は角層で、バリアー機能を発揮して健やかな肌を保っているのです。

実は、シャンプーや石鹸、クリームなどの界面活性作用をもつものは、この大切な皮脂を洗い流してしまうのです。
では、いったい界面活性剤ってなんでしょうか?

界面活性剤って?

下の絵が代表的な界面活性剤(アミノ酸系洗浄剤)の分子構造の一つの例です。

シャンプー、抜け毛、はげる、薄毛 予防、育毛剤 ヘアケア 頭皮に優しい 女性 毛が抜けない 整髪料 洗髪 脱毛防止、頭皮、角層、顆粒層、有棘層、基底層、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニンナトリウム、アミノ酸系界面活性剤、アミノ酸系洗浄剤、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、皮脂、中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロール
界面活性剤は分子内に水になじみやすい部分(親水基、水色の部分)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基、黄色の部分)がある物質の総称で、両親媒性分子とも呼ばれます。


黄色い部分が油になじみやすい部分で、水色が水になじみやすい部分です。
黄色い部分が、皮膚表面の油っぽい汚れとなじんで、汚れに取り囲むようにいくつもくっついて、水色の部分が水となじむので汚れを浮き上がらせて、洗浄するのです。
この図の界面活性剤は、水色の部分がアミノ酸でできているので、「アミノ酸系洗浄剤」に分類されます。

「アミノ酸系」は肌に優しいような宣伝をする洗浄剤のコマーシャルを見ますが、何でできていようが界面活性剤である限り、界面活性作用を持つことには変わりはありません。

アミノ酸系界面活性剤(洗浄剤)はほかの化学構造のものに比べて、皮膚への刺激は少ない傾向もあるでしょうが、頻繁に洗浄すれば同じ事です。

アミノ酸系の界面活性剤は皮脂を洗い流す作用(洗浄)作用が弱いので、かえって沢山使って、頻繁に一生懸命洗う必要が出てくる可能性もあるので、これらが特別肌にやさしいとは言えないでしょう。

他にも「弱酸性」は肌に優しい、というのもよく聞きますが、弱酸性の界面活性剤が残留したとして、弱酸性を好む皮膚の常在菌によって分解されやすい化学構造というだけで、洗浄して、皮脂を流すことに変わりはなく、科学的にみれば、根拠が乏しいといえます。
それに、弱酸性だからといって界面活性剤をよくすすがず、残留することのほうがもっと問題です。
弱酸性の界面活性剤を使用した製品は、残留しても大丈夫というのは、とても論点がずれていると思います。
また、シャンプーや洗顔料などはすすいでも必ず少量の界面活性剤が残ってしまうので、使うこと自体が危険と思ったほうがよいです。

「アミノ酸系」であれ「弱酸性」であれ、頻繁にシャンプーや洗浄をすれば、肌へのダメージは同じです。
また、天然素材を良しとするオーガニックではやりの手作り石鹸も頻繁に使えば同様に害があります。
石鹸が例外というのも嘘です。

洗浄剤や化粧品などのこれらのウソはまた機会を変えてお話しします。

シャンプーは頭皮の皮脂を流す?

話がそれました。
界面活性剤は、水と油のように混ざらないものの境界(界面)に作用して、混ぜ合わせることができるように働きます。

皮膚に、水がついても、それだけでは皮脂(油)は落ちません。
なぜなら、水と油ははじきあうので、水の中に皮脂が溶け出すことはないからです。
でも、界面活性剤を使うと、水と油が反発しあう性質を打ち消されるので、皮脂(油)が水に溶けやすくなり、洗い流されます。

つまり、界面活性剤は皮膚の角層の脂質(皮脂:中性脂肪、脂肪酸、セラミド、コレステロールなど)も溶かして流して、角質とともに失わせてしまうのです。

皮脂を流されてしまった頭皮の細胞は、がんばって、これを補おうとします。
ところが、ここで、「また、頭皮が油っぽくなってきた」と感じた私たちは、一生懸命洗髪してしまいます。

皮膚は皮脂を補い、それを界面活性剤でまた洗い落とす、いたちごっこです。
このようにして、角層の大切なバリアー機能は失われていきます。

シャンプー、石鹸、洗剤の主成分はほぼ例外なくこの界面活性剤です。
これを毎日使うことは、皮膚のバリアー機能をどんどん削いでいることになります。
これでは、頭皮(皮膚)の細胞はバリアー機能の修復に忙しくて、髪をはやすことにエネルギーを割けません。
だから、頻繁に髪を界面活性剤で洗うと育毛を阻んでしまうのでしょう。

シャンプーをよくすすがないと頭皮に悪いと聞いたことがあるかと思います。
これは、界面活性剤が残留して、角質の脂質に作用し続けるからなのです。
じつは、化粧品のクリームやファンデーションなどや、医薬品のクリームも界面活性作用があり、これと同じことをしているのです。
想像してみてください、洗顔料で顔を洗ってすすがなければどうなるか。

界面活性剤は本当に必要?

界面活性剤の毒性を私たちは生理的に拒否しているのに、清潔志向と習慣で、無理に使ってしまっているのではないでしょうか?

よく考えてみると、そもそも洗っただけで角質を溶かすのですから、使わなければ何の問題もないわけです。
私がシャンプーをやめた理由はここにあります。

そのおかげで、もう薄毛頭に悩むことはなくなりました。
馬鹿にならないシャンプー代も節約できました。

実は、同じ理由で、石鹸や、ボディーソープも使っていません。
身体のよごれは、体表温(34℃くらい)以上のぬるま湯で殆どが落ちます。
おかげで、頭はふさふさ、全身はさらさら、すべすべです。
めでたし、めでたし。


遡って考えると、人類が石鹸などの界面活剤を日常的にを使うようになったのは、ごくごく最近のこと。
それまでは、界面活性剤なしで生活ができていたわけです。

髪や体を洗わないで汚いって?

文明は別なものを与えてくれています。

お湯が手軽に使えることです。
ぬるめのお風呂に浸かって5分もすれば、普通の汚れは殆ど取れてしまいます。

現代の文明社会は、清潔志向が強迫的になったようです。
過剰な清潔は必ずしも身体い良いとは言えないと思います。
⇒「除菌」は人類を滅ぼす?

ドラッグストアの商品やテレビのコマーシャルを見ると、界面活性剤入っていないコスメティック・サニタリー商品を探すのが難しいくらいだ、と思います。

無理に「洗浄」することは、不自然で、場合によっては害となることを覚えておいて下さい。

フサフサな髪、美しく若々しい肌は、余計なことは何もしなければ、私たちの体が自然にそうなってくれるのです。

⇒肌の保護機能と新陳代謝
⇒みずみずしい肌の新陳代謝