現代文明社会の食べ物事情は、予想よりはるかに厳しいと思ったほうがよさそうです。
飽食の日本では実感しにくいかもしれませんが、世界的には、確実に食料不足の時代に入っていますし、スピードと収益性を重視する現代社会では、「早い」「安い」「うまい」が尊ばれ、ファーストフード、コンビニ、インスタント食品、ジャンクフード全盛の感じがします。
2015年3月5日 10時41分に掲載のNHK News Webで
「米マクドナルド 抗生物質与えた鶏肉の使用中止」との報道がなされました(現在NHK元記事のリンクが切れていますのでマクドナルドのプレスリリースをリンクします)。
McDonald's USA Announces New Antibiotics Policy and Menu Sourcing Initiatives
概要は、
- 世界的に販売不振のマクドナルドは、食の安全に対する消費者の関心にこたえるため、アメリカの店舗で、今後2年を目途に抗生物質(抗菌薬)を用いて飼育した鶏肉を扱わない方針を発表。
- アメリカでは、家畜の病気予防と生産性向上のため家畜に抗生物質使用することは一般的で、その結果、抗生物質が効かない耐性菌が出現し、人間の健康にも影響を及ぼす危険性があると専門家が指摘している。
- マクドナルドは、人工の成長ホルモンが与えられた牛から摂った牛乳についても扱わないことを明らかした。
- これらの取り組みで、消費者に安全性をアピールし客離れの食い止めを図りたい。
さらに、ロイターReutersによると、このマクドナルドの方針は養鶏業者に経済負担を増加させるといいます。
INSIGHT-Chicken growers set to pay price for no-antibiotic McNugget
概要は、
- 抗菌薬を使用しないと飼育コストは3%ほど上昇する試算で、マクドナルドは世界最大の外食チェーンとしての購買力を盾に、コスト増加の負担を鶏肉供給会社に強いる、と多くアナリストが予測。
- アメリカで4位の鶏肉会社Perdue Farmsはすでに2002年から抗菌薬の使用を控える取り組みを始め、同社の鶏の95%超はヒトに使用する抗菌薬なしで飼育されている。さらに、半数以上は抗菌薬が一切使われていない。
- 抗菌薬を控える飼育によって、飼育場の増設、鶏の死亡率の上昇、ワクチン費の増大、飼育期間の延長などの負担が発生した。
今回は、あえて抗菌薬やホルモン剤入りの肉の健康被害については詳しく取り上げません。
こうしてみると、現代社会と食にまつわる問題の根深さが見えてくるように思います。
食品産業が「早い」「安い」「うまい」消費者ニーズを作った
消費者が仕事に追われ、時間に追われ、「早い」「安い」「うまい」を求めた結果、マクドナルドのようなファーストフードの売れ行きが上がったと思われがちですが、実は成り行きは反対です。
食品を作る企業が「早く」「安く」「うまい」製品を売り込み、消費者が宣伝に乗せられて、効率の良さをよしとする価値観が一般化していったのです。
食品産業が行ったのは、効率の良さの普及だけではありません。
より甘い食品、より脂分の多い食品、より塩分の多い食品を好むような嗜好も、食品業界によって研究され、普及しました。
⇒おいしさの罠
抗菌薬、ホルモン剤はなぜよくない?
安さを追求する陰には、抗菌剤やホルモン剤を与えて家畜を育てる畜産業があります。
家畜の最大の敵は病気ですから、感染症にかからないように抗菌剤を与えます。
少しでも早く成長させ、肉の量を増やして食肉にしたり、たっぷりと搾乳するためにホルモン剤も与えます。
大量の抗菌剤を使った結果、家畜の中にその抗菌剤が効かなくなる耐性菌ができます。
また、これらの薬剤は家畜の中に蓄積して、その家畜を食べたヒトに取り込まれます。
知らず知らずのうちに、抗菌薬を取り込み、体内に耐性菌を作っている可能性もあります。
ホルモン剤は、EUを除いて、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで使用が認められていて、日本では国内での使用は禁止されていても、輸入肉のホルモン剤使用にはおとがめなし、という非常に矛盾した立場をとっています。
EUでは、1988年に成長促進を目的としてホルモン剤を牛に使用することを禁止し、1989年以来ホルモン剤を使用して飼育された食肉や乳製品の輸入を認めていません。
ホルモン剤は乳癌などのホルモン依存性の癌の原因となっている懸念もあります。
日本での牛肉消費量の増加に伴って、ホルモン依存性癌の患者数が約5倍になったとする報告もあります。
半田 康ら. K3-4 牛肉および癌組織のエストロゲン濃度 : ホルモン剤使用牛肉の摂取とホルモン依存性癌発生増加との関連(高得点演題6 腫瘍,高得点演題プログラム,第62回日本産科婦人科学会学術講演会).日本産科婦人科學會雜誌 62(2), 614, 2010-02-01
ホルモン剤の使用の是非については、アメリカ+オーストラリア+カナダ+ニュージーランドなどのホルモン承認諸国対EUで、激しい論戦を展開しています。
互いに、畜産、酪農は重要な輸出産業なので、市場の取り合いをしているわけです。
でも、この論戦はEUの言うことに理があるような気がします。
できれば生理的でないホルモン剤を含まないほうが安全でしょう。
冒頭のNHKの記事のリンク切れも、先日発効した日豪EPAと、交渉にもめているTPPとの兼ね合いの報道管制では?と疑いたくなりますね。
健康志向も食品産業の戦略に利用?
マクドナルドに追随して、早くて安くて旨い食べ物を売る企業が、どんどん出てきました。
市場を独占できなくなって、経営が苦しくなったマクドナルドは、今度は消費者の健康意識を利用し、抗菌薬やホルモン剤の使用をやめたと宣伝して、健康志向のイメージをつけようと考えたのではないかと想像できます。
なぜなら、中止すると発表されたのは鶏肉と牛の乳製品だけ。
本命のハンバーガーの牛肉には、相変わらず抗菌薬やホルモン剤が使われるようです。
我々の立場で考えれば、多少なりとも怪しい薬が使われなくなることはありがたいことですが。
ただ、理解しておかなければいけないのは、私たちの味覚は、食品・外食産業の戦略によって変えられているということです。
確かに、簡単に食べられる便利な食品ができたことで、女性が社会に出ていくゆとりが生まれた、というように、我々は多くの恩恵を受けています。
忙しいときに、マクドナルドで済ませられるのは実にありがたく、うまく利用すればよいと思います。
ですが、これからは、お手軽な食べ物を目にしたら、そこには危険が潜んでいるということを思い出してください。
リスクを知りつつ「便利さ」「おいしさ」をうまく利用したいものです。
作られたおいしさに左右されない味覚を持とう
本来、食は生き物の生活の基本です。
大事な食事は、自ら食材を仕入れ、場合によっては飼育・栽培して、作って、おいしくいただくものでした。
忙しく、過剰な味のとりこになって、外食や加工食品をこんなに頻繁に利用しているライフスタイルが、消費者の健康を顧みずに利益を追求するこれらの産業・企業・規制当局の暴走を許したのではないのでしょうか?
多くの人が、本来、嗜好品やごちそうとしてたまに食べるものだった、甘味、高カロリー食(揚げ物、炒め物など)、加工食品などに慣れてしまいました。
それでなければ物足りなくなり、味覚もより味の濃いもの(塩、砂糖、油脂)に依存的になってしまっていると思います。
⇒おいしさの罠
人間の味覚は、想像以上に簡単に変わります。
アメリカで食べられている、ショッキングピンクや紫や緑のケーキに違和感を持てるうちに、食品産業の企てに流されない確かな「味覚」を取り戻さないといけませんね。
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