いきいき!エバーグリーンラブ: 脂質二重層
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2014年12月26日金曜日

健康に良い油?悪い油?

前回は、脂肪(脂質)やコレステロールは、細胞膜を構成する体にとってとても大切なものであることをお話ししました。
脂肪は悪者?

しなやかなでしかも丈夫な細胞膜を保つことは、われわれの体のすべての細胞の健康の基本といえるでしょう。


今日はそのしなやかさを保つための、体に良い脂肪(脂質)と、間違った脂肪と、安全な脂肪の摂り方をお話しますね。

DHA、EPA、アラキドン酸

みなさん、魚の油、魚油が体に良いとお聞きになったことがあるかと思います。
イワシやマグロなどの魚油にはDHAとかEPAなどの多価不飽和脂肪酸とよばれる脂肪の成分を含んでいます。
DHAやEPAはサプリメントなどでも販売されていますね。
薬にもなっています。

なぜ、DHAやEPAは体に良いとされるのでしょう。

下の絵を見てください。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,
細胞膜と脂質二重層 
脂質二重層を構成するグリセロリン脂質の脂肪酸の7割は多価不飽和脂肪酸といわれる。

この前もお話ししたように、私たちの細胞の細胞膜は脂質二重層でできていて、これを構成するのが脂肪酸です。
脂質二重層の構造について詳しくは下のリンクをお読みください。
⇒脂肪は悪者?

水色の頭に2本の脚のようなものが生えていますね。
これが脂質二重層を作っているグリセロリン脂質とよばれるものです。
グリセロリン脂質の脂肪酸の部分は、水色の玉の下に生えている脚のようなところです。
黄色、ピンク、紫、薄いグリーン、濃いグリーンなどの脚が見えますね。
これはみんな脂肪酸でできています。
EPAとかDHAもこの脂肪酸の仲間です。

ちょっと拡大して見てみましょう。

EPAはこんな感じで細胞膜を構成している

まずは、EPAを含むグリセロリン脂質です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,





グリーン色の脚のところがEPAの部分です。
EPAには、化学構造式でC=Cで表される二重結合が5つ含まれ、二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。
ですのでEPAでできているグリセロリン脂質の脚が曲がっているようになっているのです。

この二重結合を2つ以上持っている脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と呼びます。

DHAはこんな感じで細胞膜を構成している

次にDHAです。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,


明るいグリーン色の脚がDHAの部分です。
DHAはEPAと同じように、化学構造式でC=Cで表される、二重結合が6つ含まれ、EPAよりさらに二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。

EPAやDHAでできているグリセロリン脂質は、このように脚の部分がまっすぐでなく、曲がる(ねじれる)ことでスプリングのような柔軟性をもっているとされます。

細胞膜の構成成分である、これらの脂肪酸成分が柔軟性を持つことは、細胞がしなやかであるためにとても大切なことです。

EPAやDHAが体に良い脂肪酸(あぶら)であるとされる1つの理由です。

アラキドン酸はEPA、DHAと似ているけれど・・・

さて、次に、あまり多いと困ってしまう脂肪酸を見ましょう。

アラキドン酸という脂肪酸成分です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,


ピンク色の脚がアラキドン酸の部分です。

アラキドン酸も化学構造式でC=Cで表される、二重結合が4つ含まれ、二重結合の部分で曲がって(ねじれて)います。

アラキドン酸でできているグリセロリン脂質も、EPAやDHAでできているグリセロリン脂質と同じように、柔軟性をもち、細胞のしなやかさに役立っていると考えられます。

でも、ちょっとだけ困った性質を持っています。

じつは、アラキドン酸は一部がグリセロリン脂質から離れて、細胞の中で化学的に構造が変化して、炎症などを起こす物質に変わってしまうのです。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,
図上側が、細胞膜の脂質二重層。
中央左側に点線の丸で囲むピンク色の脚がアラキドン酸。
アラキドン酸は、酵素ホスホリパーゼA2により、細胞膜の脂質二重層から切り出される。
すると、シクロオキシゲナーゼや5-リポキシゲナーゼなどの酵素の働きで、
プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンといった炎症、アレルギー、血栓、喘息など、
多すぎると病気の引き金となる物質に変わる。
図中では、赤い四角で囲ってある物質が、問題の作用を持つもの。
(ブルーの四角は、これらの病気の症状を抑えるために使われている薬)
最近では、アラキドン酸などのω6系の脂肪酸の摂取過多と、うつ病などの精神神経疾患とのかかわりも指摘されている。

中央左側に点線の丸で囲むグリーン色の脚がEPA。
EPAも、アラキドン酸と同じようにプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンになるが、
EPAから作られるこれらの物質は、病気の引き金なるような作用を持たない。
(緑色の四角は、問題となる作用を持たないもの)

アラキドン酸から生まれる問題児

ちょっと複雑な絵ですみません。
図の上側にあるのが、細胞膜の脂質二重層です。
その真ん中よりちょっと左側にピンク色の脚を点線の丸で囲みました。
アラキドン酸です。

アラキドン酸は、ホスホリパーゼA2という酵素が働くと、細胞膜の脂質二重層から切り出されて、細胞の中に浮かびます。

すると、シクロオキシゲナーゼや5-リポキシゲナーゼなどの酵素の働きで、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンといった炎症、アレルギー、血栓、気管支を縮める作用(喘息)など、多すぎると病気の引き金となる物質に変わってゆきます。
図の中では、赤い四角で囲ってある物質が、問題の作用を持つものです。

これが問題なのです。

もちろん、アラキドン酸から作られる物質がすべて悪いわけではありません。
緑色の四角で囲った、プロスタグランジンE2やI2などは血液の流れを保つためにとても大切な物質ですし、ほかの物質も、身体の機能を保つためには必要な物質です。
ただ、多すぎると、病気の引き金になってしまうのです。

同じプロスタグタンジンでよく似た形をしていても、先ほどのD2やF2αのように問題になるものと、E2やI2のように有用なものがあるのですから、不思議ですね。

EPAからできる物質はみんなよい子

もう一度、上の図を見てください。
今度はEPAです。
真ん中よりちょっと右側にグリーン色の脚を点線の丸で囲んであります。

EPAも、アラキドン酸と同じように酵素によって切り出され、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンになりますが、EPAから作られるこれらの物質は、病気の引き金なるような作用を持っていません。
図の中で、問題となる作用を持たないものを緑色の四角で囲ってあります。

EPAから出てくる物質は、みな緑色の四角で囲われ、問題となる作用を持っていないことがわかります。

ちなみに、先ほど、アラキドン酸から作られたプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンの数種が、黒い四角で囲んだ炎症、アレルギー、血栓、喘息などの引き金となるとお話ししましたね。
ブルーの四角で囲んだところは、これらの病気の症状を抑えるために使われている薬です。

身体によい油?、悪い油!?

ちょっと複雑で説明が長くなってしまいました。
でもここからが今回の本番、身体に良い油の話です。
もうちょっとお付き合いください。

最後の絵です。

DHA, EPA, アラキドン酸, オメガ(ω)3, オメガ(ω)6, グリセロリン脂質, 動脈硬化, 脂肪, 脂質二重層,

ω3系のαリノレン酸はEPAの原料になり、EPAからはDHAが作られる(グリーン色系の四角で示した)。
ω6系のリノール酸は、アラキドン酸になる(赤系の四角で示した)。
アラキドン酸は細胞内で炎症、アレルギー、血栓、喘息などを引き起こす物質に変わる。
細胞膜の脂質二重層の中のグリセロリン脂質の脂肪酸成分(脚の部分は)、アシル基転移酵素の働きで、必要に応じて入れ替わる。

ω3系とω6系は拮抗しているので、どちらかの摂取が多いと、グリセロリン脂質の脂肪酸成分のω3系とω6系のバランスが崩れてしまう。ω6系が多くなると炎症性疾患、アレルギー性疾患、血栓性疾患などを引き起こす可能性があるとされる。最近では、アラキドン酸などのω6系の脂肪酸の摂取過多と、うつ病などの精神神経疾患とのかかわりも指摘されている。


細胞膜の成分は入れ替わっていく

細胞膜の脂質二重層の中の脂肪酸成分(脚の部分は)、必要に応じて入れ替わります。

先ほど見たように、細胞の中で、EPAやアラキドン酸を出発点に生理的に必要な物質を作り出したりして、脂質二重層の中の脚の部分が取れてしまうと、それを補うように、新たな脂肪酸成分が、取り込まれるのです。

これが、まるで、椅子取りゲームのようで、こぞって、各種の脂肪酸が入り込もうとします。

柔軟な細胞膜には多価不飽和脂肪酸が必要

細胞膜の柔軟性のためには、EPAやアラキドン酸のように、二重結合(C=C)が多く含まれる多価不飽和脂肪酸が適しています。
ですから、細胞膜を構成する脂肪酸の7割ぐらいが、多価不飽和脂肪酸といわれています。

加えて、EPAとアラキドン酸が良い割合で取り込まれることが大事なのです。

アラキドン酸・EPAをバランスよく摂るには

アラキドン酸は、主に肉、卵、魚、に含まれ、EPAは、魚に多く含まれています。

図のように、キャノーラ油(菜種油)、コーン油、大豆油、ひまわり油などの植物オイルに多い、リノール酸は身体に入るとアラキドン酸の原料にもなります。

また、シソ油=エゴマ油、亜麻仁(アマニ)油=フラックスシードオイルなどに多く含まれるαリノレン酸は、身体に入るとEPAの原料にもなります。

近頃、健康に良いとして、シソ油=エゴマ油、亜麻仁(アマニ)油=フラックスシードオイルが注目されていますね。
これは、αリノレン酸がEPAやDHAに変わることが注目されているためです。

普通の食生活では、リノール酸に偏りがち

揚げ物料理や炒め物、サラダドレッシング、マヨネーズ、マーガリン、カレールーやシチューのルー、トマトソースやホワイトソースなどの各種の料理ソース、クリーム、ポテトチップやスナック菓子、揚げおかき、パン、お菓子、ケーキなどのスイーツなど、お手軽でおいしいものは、みなリノール酸を多く含む植物油がふんだんに使われています。

キャノーラ油(菜種油)、コーン油、大豆油、ひまわり油などは家畜の飼料の残りから絞られるので安価なのです。

油脂会社や食品会社はこれらを、食用油やマヨネーズなどをふんだんに使ったおいしい料理のレシピや、加工食品として積極的にマーケティングしています。

テレビのグルメ番組や料理番組、コマーシャルを見れば一目瞭然ですね。

現代の文明社会で、お手軽な一般的な食生活を送ると、リノール酸を多く含む油ばかりを食べることになってしまうのです。
これでは、EPAとアラキドン酸の良いバランスを保てません。

食用の植物油や動物性の油脂がこれほどふんだんにわれわれの食生活に浸透したのも、油脂の搾油技術の進歩に伴う、ほんの最近のことです。

それにつれて、調理法やレシピが変化し、ファストフードなどの外食も増え、加工食品が増加してきたのです。

それまでは、食用の油脂は高価で、油で揚げる、炒めるなどの調理法は、ごちそうのときだけだったはずです。

外食や加工食品をなるべく避けて、魚、肉、卵、野菜などの沢山の種類の食材を、なるべく油を使わずに、煮る、蒸す、焼くなどの昔ながらの方法で調理すれば、EPAとアラキドン酸のバランスを崩さずに済むと思います。

別なページで、脂肪の消化吸収、脂肪細胞への取り込みについてはお話ししました。
リンクをご覧ください。
⇒脂肪の消化吸収はこちらを
⇒脂肪を貯めるしくみ

2014年11月6日木曜日

脂肪は悪者?

みなさん脂肪(脂質)にどのようなイメージをお持ちですか?
脂肪をとると太る、とか、酸化した脂肪が体に悪いとか、悪いイメージが定着しているのではないでしょうか?

でも、栄養素の中で、脂肪はとても大切です。
脂肪の構成成分の脂肪酸には、体内で作れないために食べ物でとるのが必須なものもあります。

人間の細胞の成分の割合(重さの%)は、おおよそ、水分66%、 タンパク質16%、脂肪13%、無機物4.4%、炭水化物0.4%、核酸(微量、遺伝子の成分)と言われています。
水分を除くと、脂肪はタンパク質とともに体の成分として大きな割合を占めていることがわかります。

別なページで、脂肪の消化吸収、脂肪細胞への取り込みについてはお話ししました。
⇒脂肪の消化吸収はこちらを
⇒脂肪を貯めるしくみ

今日は、脂肪が私たちの体でどのように利用されているかを順に見ていきましょう。

脂肪は細胞膜の材料

下の絵を見てください。
私たちの細胞です。
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細胞と細胞膜(脂質二重層)

上の絵のように、細胞膜は脂質二重層という脂肪の成分からできていて、脂肪は細胞膜の材料として使われています。
脂肪細胞に脂肪滴となってエネルギー源として蓄えられるだけではないのです。
むしろ、こちらの働きのほうがずっと大切。
約40兆個といわれる、私たちのすべての生きた細胞の細胞膜はこの脂質二重層でできています。
そう、脂肪は不可欠なものなのです。

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細胞膜はシャボン玉に似ている?


私たちの体はカチカチではなく、しなやかで、やわらかで、しかも丈夫です。
特に動き回る生物(動物)である私たちにはこのしなやかさはとても大切です。
細胞もしなやかに動いていて(流動的で)、自由に形や大きさを変えることができなければ機能しません。
その細胞の膜も同じ性質が必要です。

じゃあ、細胞膜をどのようにイメージすればよいでしょう。

ちょっと想像しにくいかもしれませんが、丈夫なシャボン玉のようなものと考えてみてください。
シャボン玉も膜でできていますし、シャボン玉になる石鹸水の成分は脂肪酸塩です。
シャボン玉は状況に合うように自由に形や大きさが変わりますよね。
それによく見ると表面に虹色の渦が見えて、常に動いているのがわかるはずです。
シャボン玉はずぐに割れてしましますが、これをとても丈夫にして、簡単には割れないようになったものが細胞膜といっていいでしょう。

実はシャボン玉と細胞膜の化学構造は似ているのです!!
シャボン玉と細胞膜の構造の最大の違いは、膜を構成する分子の向きが逆なことで、二重層であることもよく似ています。
ここら辺は機会があればまたお話しします。

細胞膜で脂肪が果たす役割

さて、細胞膜の脂質二重層はとても大切な役割があることがわかっています。
脂肪についてもっと理解するために、ちょと詳しく見てみましょう。

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細胞膜(脂質二重層)

上の絵のように細胞膜はおもに脂質で構成された二重の膜です。
上と下に水色の丸が並んでいて、それにオレンジ色、黄色とか緑、ピンクの足が生えていますね。
この凧のようなものが細胞膜のおもな基本単位で、グリセロリン脂質といいます。

左の絵はグリセロリン脂質の一種を拡大したものです。


青い部分は、頭のようなので頭部とよばれています。


頭部は水になじみ、油(脂質)をはじく性質をもっています。

黄色の部分は、しっぽのようなので尾部とよばれます。

尾部は油(脂質)になじみ、水をはじく性質をもっています。

つまり頭部と尾部では、性質が反対なんです。

この性質によって私たちの体は自然に細胞の中と外を隔てているのです。


上の絵のように頭部と頭部、尾部と尾部、はお互いにくっついて、頭部は膜の外方向、尾部は膜の内方向に集まって、並んでいます。

物理化学的に、同じ性質を持つ分子や形が似た分子どうしは引き付け合う法則があります。
こうして二重の膜が出来上がっているわけです。


細胞の外は、体液(リンパ液)や血液などがあり、これらは水分を多く含みます。
また、細胞の内側は、細胞液(細胞質)に満たされていて、これも水分が多いので、細胞の外側と内側には、水になじむ頭部(青い丸)が自然と並んでいきます。

一方、黄色い尻尾のような尾部は細胞膜の内側に集まっていますね。
ここでは、油(脂質)になじむ性質の尾部が、お互いに引き合っています。

このように頭部と尾部の物理化学的な性質によって、大事な細胞の中に外から勝手に余計なものが入ってこないようになると同時に、大切な細胞の中のものが出ていかないようにバリアーとなることができます。

脂質を作る脂肪酸には、いくつかの種類と役割がある


さて、この大切な細胞膜を作るグリセロリン脂質は、実は脂肪(中性脂肪)を構成している脂肪酸が部品になってできています。

下の絵を見てください。

グリセロリン脂質(ホスファチジルコリン)と中性脂肪



赤い点線で囲んだように、グリセロリン脂質は脂肪の脂肪酸の1つが、別な成分に入れ替わった形になっています。

40兆個ある細胞の膜にたくさんのグリセロリン脂質があるのですから、その原料の脂肪がとても大切なことがわかりますね。

この細胞の脂質二重層はとても高性能です。

穴が開いているわけではないのに、細胞外から必要なものを取り込み、細胞内の不必要なものは出してしまう機能をもっています。
さらに、ほかの細胞との信号をやりとりして、チームプレイもできます。
細胞の形を変えるのも上手で、自分を複製(細胞分裂)するときだって、柔軟に対応します。

つまり、細胞膜はこのような高機能を発揮せるために、しなやかで、しかも、丈夫で強いといった性質をもっているのです。
もしも細胞膜がしなやかさを持っていなかったら、あなたの皮膚や内臓はごわごわのカチカチでしょう。

さて、この、しなやかで丈夫な細胞膜で大切な役割をしているのが、今回の主役、脂質二重層の脂肪酸成分です。

下の3枚の絵を見てください。


左の絵では、尾部(オレンジ)の4つの脂肪酸部分はまっすぐです。

頭部(青)は隙間なく並んでいいて、2つのグリセロリン脂質はピッチリと隣り合っています。

左の絵では尾部のオレンジの脂肪酸部分はまっすぐですが、黄色とピンクの脂肪酸部分は足を跳ね上げたように曲がっています。

それに合わせて、2つのグリセロリン脂質の頭部(青)にちょっと隙間ができて並んでいます。













右の絵ではオレンジ色の尾部の2つの脂肪酸部分はまっすぐですが、緑色とピンクの脂肪酸部分は足を跳ね上げたように曲がっています。
特に緑色の方は大きく曲がっています。

そして、それに合わせて、2つのグリセロリン脂質の頭部にさらに隙間ができて並んでいます。






実はこの隙間が「しなやかさ」を保つために大切だと考えられています。

もう一度、脂質二重層の絵を見てみましょう。
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脂質二重層と脂質ラフト
中央の上の部分(頭部が青色)は脂質ラフトとよばれる多機能を持つ領域で比較的強固な構造。
脂質ラフトをおもに構成するのは、グリセロリン脂質ではなく、スフィンゴ脂質とスフィンゴ糖脂質


絵の中央下部には、オレンジ色で描かれた足のまっすぐな脂肪酸部分を持つグリセロリン脂質が多く、左側と右側には、今見たような、黄色ピンクの脂肪酸部分を持ったグリセロリン脂質が多くなっています。

まず中央下部です。
中央下部のグリセロリン脂質はピッチリと詰まって並んでいます。
そのためグリセロリン脂質どうしの結びつきが強くて丈夫です。

この構造の上には、脂質ラフトとよばれる強固な筏(いかだ)のような構造があります。
ラフトとは英語でまさに筏の意味です。
絵では中央の上の部分(頭部が青色)で尾部が肌色で描かれています。

この脂質ラフトは細胞への信号を受け取ったりするところなのですが、細胞膜の外側に大きな緑色のタンパク質があり、また、細胞膜を貫通しているスプリングのような形のタンパク質があったりするので、これらを支えるために強度が必要なのです。
そこでその下の中央下部には足がまっすぐなグリセロリン脂質が集まっていて、土台のように支えています。
脂質ラフトは必要に応じてしなやかなグリセロリン脂質の海を筏のように浮かんで移動できるようです。


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コレステロールの構造

コレステロールで細胞膜を強くする

中央部にグレーのタツノオトシゴみたいな形の楔(くさび)のようなものがところどころありますね。
これがコレステロールです。

コレステロールは、柱のように重いものを支えるように入っています。

コレステロールは細胞の強度が必要な個所にこのように配置されます。
コレステロールにはこれ以外にもホルモンの原料にもなります。
実は、コレステロールは体になくてはならないものなのです。

コレステロールが多いと動脈が硬くなる動脈硬化になって心筋梗塞や脳卒中の危険が高まるという話を聞いたことがあるかと思います。

一方で、コレステロールが低すぎると死亡率が上がるという研究もあります。

程度にもよりますがコレステロール値が少々高くても、遺伝的に血中の脂質が高くなる資質がある人や、糖尿病など動脈硬化のリスクが高い人を除いて、ほとんどの場合、薬は必要ないと考えます。

不必要な薬はなるべく使用しないほうが安全です。
もしも、あなたやあなたの家族がコレステロールを低下させる薬を医師から処方されているのなら、本当に必要なのかどうかもう一度、医師に相談してみてください。

話がそれました。

細胞膜の固いところ、柔らかいところ

さて、ちょっと上の細胞膜の絵の左側と右側の部分を見てください。
ここには、黄色ピンクの脂肪酸部分を持ったグリセロリン脂質が多く配置しています。

この部分には、脂質ラフトのような支えるべき重いものがありません。
なので、細胞膜をしなやかに保つため、足の曲がった黄色やピンクや緑の脂肪酸部分を持つグリセロリン脂質が集まっています。
こうして、グリセロリン脂質の隙間が比較的緩やかになり(分子同士の相互作用が弱くなり)、グリセロリン脂質が細胞膜の上を自由に動けるためしなやかになっていると考えられます。

どうですか?

脂肪やコレステロールの物理化学的な性質を自然に利用して、私たちの細胞は体の機能を発揮させていることが、細胞膜1つをとっても鮮やかにわかりますね。

私たちの体は、とても、とーっても理にかなっています。

最初のほうで、細胞膜は丈夫なシャボン玉のようなものとお話ししました。
空気中でできたシャボン玉はすぐに水分が蒸発するので割れてしまいますが、私たちの細胞膜は割れませんね。
それは、細胞の内にも外にもふんだんに水があるためです。
水が豊富な環境ではグリセロリン脂質の物理化学的な性質はかわりません(だから、簡単には割れません!)。
生命に水が必須な一面です。
丈夫なシャボン玉って、ちょっとありえないようなイメージですが、私たちの体はこれを自然の法則に従って実現しているのです。

脂肪やコレステロールが体によくないといった、一面的な迷信を安直に信じてしまっては損をします。

最新の科学の情報をきちんと理解して、自分の健康は自分で守る努力をしましょう。

われわれエバーグリーン研究室は読者=研究員の皆さんと、研究を続けていきます。

さて、今日は脂肪とコレステロールの機能がわかりました。

下の記事では、体に良い脂肪(油脂)と悪い脂肪についてお話しています。
健康に良い油?悪い油?


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