今年も、インフルエンザが流行っています。
新しい抗インフルエンザウイルス薬、ゾフルーザの人気が高く、医薬品卸や病院などが買い占めてしまって、品薄になっているとか。
副作用がまだよくわからないような使用経験の少ない薬が好まれるというのは、日本独特の現象のようですが、健康に直接関わることだけに見過ごせないように思います。
今日は、ゾフルーザの長所、短所を説明して、タミフルやイナビルを含む抗インフルエンザウイルス薬を本当に使う必要があるかどうかについて考えてみます。
ゾフルーザの長所とされている事柄を鵜呑みにしてよいか?
ゾフルーザの長所とされている点を挙げて、1つ1つ検証してみましょう。
長所1
1回錠剤を服用するだけで治療が終わる。
長所1の問題点
1回飲んだ薬が長時間作用するため、副作用が出たときに、なかなか治まらなくなります。
新薬では、どのような副作用が現れるかの検証は十分にできていません。
ゾフルーザは吸入薬ではなく、内服薬なので、血流を介して全身に薬が届きます。
エイズウイルスの治療薬や、肝炎ウイルスの治療薬など、ウイルスに作用する薬は、副作用が多い傾向があります。
⇒インフルエンザ*タミフルよりはリレンザ・イナビルが安心
確かに1回錠剤を飲むだけの治療には魅力がありますが、未知の内服薬を使うリスクについて、まず、考える必要があるように思います。
長所2
インフルエンザの症状を約1日早く治す。
長所2の問題点
開発時の臨床試験での解析結果であって、平均値です。
何週間も咳や鼻水が続く方もいます。
1日早く症状を回復させるために、副作用の危険を冒してまで抗インフルエンザウイルス薬を使う必要があるか、考える必要があります。
因みに、タミフルでも同じ結果でした。
タミフルについても、有効性には疑問がありますが。
⇒インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?
長所3
体内からウイルスが検出されなくなるまでの期間を、タミフルや薬を使わなかった場合と比べて2~3日短縮する。
長所3の問題点
ゾフルーザには、耐性化を生じやすいという大きな欠点があります。
どういうことかと言うと、ゾフルーザを飲んだ人では、感染しているインフルエンザウイルスの遺伝子が変異して、ゾフルーザが効きにくくなる場合があるということです。
ゾフルーザ開発時の臨床試験では、成人で約10人に1人、小児では約4.3人に1人に耐性化が認められ、これらの人では、ゾフルーザを使わなかった場合よりウイルスが体内からなくなるまでの時間が長くかかっています
1,2)。
あなたの体内でインフルエンザウイルス薬がゾフルーザに耐性となり、それがお子さんに感染したら、お子さんはゾフルーザが効きにくくなります。
現在のようにゾフルーザを頻繁に使用し続けたら、あっという間にゾフルーザが効かないウイルスだらけになってしまうでしょう。
実際に、小学生を対象とした検査で、ゾフルーザ耐性ウイルスが見つかっています。
⇒2019/1/24 IASR
以上、もっと詳しく知りたい方は。下記の『日本感染症学会』のページをご参照ください。
日本感染症学会でも、ゾフルーザは勧められていません。
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ)について
抗インフルエンザウイルス薬を使わないでもインフルエンザは治る
私は薬局で薬剤師をしていますが、「タミフルやイナビルを使わなくても、インフルエンザは治ります」というと、驚かれる若いお母さんがたくさんいらっしゃいます。
お子さんがタミフルのドライシロップはまずくて飲めず、イナビルの吸入もうまくできないでいると、薬なしでは脳炎にでもなってしまうと思っているような慌てぶりです。
でも、ちょっと前までは、インフルエンザの薬なんてありませんでした。
自分の免疫の力で治すので、免疫がしっかり鍛えられて、同じ型のインフルエンザにはかかりにくくなったものです。
2009年にA(H1N1)pdm09と呼ばれる新しいタイプのインフルエンザが流行したときに、通常では罹患率が高くなる高齢者の罹患が少なかったことは有名です。
A(H1N1)pdm09は、実は昔、流行していた時期があり、高齢者では、同じ型のインフルエンザウイルスに子供のころ罹った際の免疫が残っていたのですね。
検査キットを使った診断の問題点
熱が高くて異常にだるいので受診したところ、検査キットでインフルエンザウイルスが陰性だったから、「明日も熱があればもう一度受診してください」と医師に言われ、翌日、熱は下がり始めているのに改めて受診して検査したら陽性になったからといって、抗インフルエンザウイルス薬が処方された、とうい患者さんも多くいらっしゃいます。
検査キットで陰性でも、症状からインフルエンザと診断できれば、抗インフルエンザウイルス薬を処方することは、保健適応上、可能です。
抗インフルエンザウイルス薬は感染初期に投与したほうが効果が高いのに、翌日まで待たせるというのはおかしな話です。
そもそも、自分の力で熱が下がり快復してきているのであれば、もう、抗インフルエンザウイルス薬は必要ないでしょう。
先ほども言いましたが、あえて副作用の危険を冒すことのリスクに、もっと意識を向けるべきです。
辛くて苦しいときには薬を出してもらえず、治り始めてから薬を出す・・・何のための医師だかわかりませんね。
あなたの主治医が、検査などせずに、ご自身の診療の経験からインフルエンザの診断を迅速に行い、合併症がなく、高齢でもない患者に対しては抗インフルエンザウイルス薬は処方しない方針であれば、その医師はとても信用できると思ってよいでしょう。
なぜ、皆、抗インフルエンザウイルス薬を使いたがるのか
こんなに抗インフルエンザウイルス薬を使いたがるのは、日本人だけです。
なぜ、このような状況になったのでしょう。
国民皆保険制度で国民の医療費の負担が少なくて済むのも一因でしょう。
抗インフルエンザウイルス薬は高額です。
特に、新しい薬ほど高い薬価が付いています。
タミフルはジェネリック医薬品も発売されて安価になりましたが、今の主流はイナビルとゾフルーザ。
両剤とも1回の治療で済みますが、タミフルやリレンザを決められた日数使うより、高額です。
医療費を抑制しようとしている国の政策に逆行していますね。
いくら保険で自己負担額が少なくて済むとはいえ、国民一同、検査にお金をかけたうえ、わざわざ高い薬を使いたがる・・・そのように仕向けている仕掛けがありそうです。
ゾフルーザは塩野義製薬、イナビルは第一三共の製品で、両剤とも日本のメーカーが開発して販売しています。
製薬メーカーが宣伝しているのに加え、マスメディアでも、新薬を大げさなまでにセンセーショナルに取り上げています。
とても不自然な印象を受けます。
もしかしたら、厚生労働省や政府が、画期的な新薬を出せないでいる日本国内の製薬メーカーを守るために、陰ながら応援しているのでは?と考えてしまいます。
因みに、イナビルは、十分な有効性が証明できなかったことから、海外では発売されていません。
日本でこの薬の承認をおろしたのは、当然ながら厚生労働省です。
詳しくは下記をご参照ください。
⇒インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?
「でも、やっぱり少しでも早く楽になりたい」という方に
そうはいっても、いつも忙しい日本の皆さん、辛い症状を我慢するのは嫌だし、やはり1日でも早く良くなりたいと思われても当然です。
そこでお勧めなのが漢方薬の麻黄湯です。
タミフル以上の効果も検証されています。
⇒Nabeshima S, J Infect Chemother 2012; 18: 534-43
費用も圧倒的に安く、タミフルのジェネリック医薬品を使った場合の1/10程度です。
医師の処方箋なしに、薬局で買うこともできます。
抗インフルエンザウイルス薬はインフルエンザ以外のウイルスや細菌による風邪には効きませんが、麻黄湯ならば、風邪の引き初めに正しく使用すれば、風邪の病原体が何であっても有効です。
麻黄湯が有効な症状や使い方については、下記をご参照ください。
麻黄湯が合わないと思われる方と、体質に合わせた別の漢方薬の選択についても解説しています。
⇒インフルエンザ*漢方薬で早めの対策
麻黄湯に関しては、最近、作用メカニズムも、研究されています。
麻黄湯に含まれる4種類の生薬が、それぞれの作用機序で炎症を抑えることがわかってきました。
⇒Nishi A et al. NPJ Syst Biol Appl. 2017; 3 32.
とはいえ、抗インフルエンザウイルス薬を使うことが勧められる場合もあります。
詳細は下記をご参照ください。
⇒インフルエンザにタミフルやイナビルは本当に必要?
- Omoto S, et al. Sci Rep 8: 9633, 2018
- Hayden FG, et al. N Engl J Med 379: 913-923, 2018