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2019年11月17日日曜日

女性ホルモンの分泌期間が短いと認知症になりやすい

女性のほうがアルツハイマー型認知症になりやすい?

 下のグラフは、アルツハイマー型認知症で受診している人の割合を人口動態統計の男女の人数で、それぞれ割った値です。
男性に比べて女性に明らかに多いことがわかります。
この原因は、更年期を過ぎた女性では、女性ホルモンの血中濃度が男性に比べて低いことにあると考えられます。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
アルツハイマー型認知症の受療率(受診者割合 男女別)

初潮から閉経までの期間が長いと認知機能障害のリスクが低い

今回は、初潮から閉経までの期間が長い女性は認知機能障害のリスクが低いという、国内の調査結果をご紹介します。
国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの報告です。
Shimizu Y, et al. Maturitas. 2019 Jul 2. [Epub ahead of print]

【研究期間】
1990年の「健康関連調査」と2014~2015年に行った「こころの検診」

【対象】
長野県南佐久郡の一般住民
40~59歳の「健康関連調査」の回答者約1万2,000人のうち、「こころの検診」にも参加した女性から、うつと診断された人を除外した670人。
【方法】
670人中227人が認知機能障害(軽度認知障害が196人と認知症が31人)と診断された。
この227人について、アンケート調査から得た月経に関連する情報(初潮年齢、月経規則性、月経周期、出産回数、初産年齢、授乳経験、女性ホルモン剤服用経験、閉経年齢、初潮から閉経までの期間など)と、認知機能障害の発症リスクとの関連を検討した。
認知機能に影響があるとわかっている因子(年齢、BMI、教育歴、喫煙習慣、余暇・運動活動状況、高血圧や糖尿病・うつの既往)の影響は調整した。

【結果】
初潮から閉経までの期間が長いほど、認知機能障害のリスクが有意に低下することが認められた(傾向性P=0.032)。
具体的には、初潮から閉経までの期間が33年以下の人の認知機能障害発症リスクを1とした場合、38年以上の人のリスクは0.62となり、38%の有意なリスク低下が認められた(P<0.05)。
なお、初潮から閉経までの期間が34~37年の人のリスクは0.89だが、この低下率は有意でなかった。
以上の結果から、生理のある期間、つまり女性ホルモンが分泌している期間が長いほど認知機能障害を防ぐように働く可能性が示唆されました。
閉経後もホルモン補充療法を継続すれば、より、認知機能障害の予防効果が上がることが予想されます。

認知機能に対するエストロゲンの効果

認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対するエストロゲンの効果については、動物を使った試験で有効性が確認されています。

脳の神経細胞には、たくさんのエストロゲン受容体があります。
中でも海馬という記憶にかかわる部位からの情報を伝えるGABA(γアミノ酪酸:ギャバと読みます)を分泌する神経細胞に多く存在していることがわかっています。

GABAというのは、神経の信号の伝達を弱める神経伝達物質です。
GABA神経にエストロゲンが作用すると、神経の末端からGABAが出るのを抑え、その先の神経の働きが弱められなくなります。
つまり、海馬から発信される記憶に関する信号は、エストロゲンによって強さを保たれるのです。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
認知機能に対するエストロゲンの効果
GABAがたくさん働くと、その先の神経細胞からの信号が弱くなる(上)
エストロゲンの作用でGABAが抑えられると、その先の神経細胞からの信号が強くなる(下)

現在日本では、まだ、ホルモン補充療法(HRT)を行っている女性が非常に少ないため、HRTの認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対する人での臨床試験はまだ行われていませんが、いずれ、「いつまでも認知機能が衰えず、ボケない女性はHRTを続けている」と言われるようになる日が来ることが期待できそうです。

2018年4月4日水曜日

運動すればHRTの乳がんリスクが減少

運動を習慣にしている女性では、乳がんのリスクが低いことは多くの研究で証明されています。
今日は、女性ホルモン(エストロゲン)と運動の関係についての研究を紹介します。

エストロゲンは、体の中で酵素の働きによって少しずつ形を変え、最終的に尿中あるいは糞便中に排泄されます。
このように、化学物質が体の中で形(構造)を変えることを「代謝」、形が変わった物質を「代謝物」といいます。

形が変わると、作用も変わります。
エストロゲンの代謝物の中には、作用の強いものもあれば弱いものもあり、また、発がん性と関係のあるものもあります。

エストロゲンがどのようなタイプの代謝物に変化するかに、運動が関係しているというデータが、アメリカで報告されています。

運動で乳がんリスクが低下する

以前、HRT を行うことで乳がんのリスクが高まると、多くの方に誤解されているというお話をしました。
HRTは乳がんの原因になる??   

最近のデータでは、HRTにより乳がんによる死亡はむしろ減少することが確認されています。
18年のフォローでHRTの安全性を検証

とはいっても、HRTを行うか否かにかかわらず、乳がんにはなりたくないですね。

運動を習慣にしている女性では、乳がんのリスクが低いことは多くの研究で証明されています。

今回紹介する研究は、運動が乳がんのリスクを減らす理由を検討したものです。
若い女性を対象に、運動することでエストロゲンの代謝が乳がんになりにくい方向に進むようになることが報告されました。
 Smith AJ et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2013 May;22(5):756-64.

【臨床試験報告】
対象:運動習慣のない18-30歳の391人の女性を、運動を行う群212人と行わなわない群179人に分けた。
方法:運動を行う群では1回30分間の有酸素運動を週に5回のペースで16週間行った。
16週間後に、運動を行った群と行わなかった群とで、血液中のエストロゲンの代謝物の濃度を測定した。
結果:運動を行った群では行わなかった群に比べて、エストロゲンの代謝物のうち2-OHE1(2-ヒドロキシエストロン)に対する16α-OHE1(16アルファ-ヒドロキシエストロン)の割合が統計学的に有意に少なかった(p=0.045)。

まとめると 
  • 血液中のエストロゲンが代謝された結果できる物質の中で、16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が高いと乳がんになりにくい。 
  • 運動すると16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が増える。 
  • このような仕組みで運動すると乳がんになりにくくなることがわかった。 

つまり、運動すると、エストロゲンの代謝物のうち、16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が高くなることで乳がんになりにくくなると考えられます。

HRTでエストロゲンを補う場合も、同様に運動することで乳がんのリスクを減らすことができるといえるでしょう。

HRTで補うエストロゲンは、若いときの分泌量に比べればほんの少量ですから、過度な運動は必要ありません。
とはいえ、「HRTをしていれば安心」と思わずに、「HRTで身体を若く保っているのだから、それなりの運動をしよう」と意識することは必要です。

エストロゲンの代謝とリスクの関係

下の図は、エストロゲンの代謝経路を示しています。 

エストロゲンの代謝経路 ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ CYP COMT エストロン 
エストラジオールは、HRTに用いられるエストラーナテープやジュリナなどの主成分。
エストリオールは、HRTに用いられるホーリンなどの主成分。
ピンクは活性が高い代謝物、緑は活性が弱い物質を示す。

赤枠16α-OHE14-OHE1は、活性が高く悪玉と考えられます。

反対に、2-メトキシエストロンや2-メトキシエストラジオールなどは、ほとんど活性を示しません。
「メトキシ〇〇」というのは「CH3-O:メトキシ基」が付いた形です。
このようにメトキシ化された化学構造になると、体外に排泄されます。

したがって、エストラジオールからエストロンに代謝されたあと、16α-OHE14-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)ではなく、2-OHE1の方向に代謝が進めば、リスクを減らすことができるといえます。
ここで働いているのはシトクロムP450 1A1(CYP1A1:シップワンエーワンと読みます)という酵素です。

また、4-OHE1から4-メトキシエストロンへの代謝が進めば、悪玉が早く身体からなくなります。
この反応は、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT:コムトと読みます)という酵素が働くことで進みます。
運動することでCOMTの活性が高まり、16-OHE14-OHE1が作られにくくなると考えられます。

細胞分裂が異常に速まって歯止めが効かなくなっているのががん細胞です。
エストラジオール16α-OHE1は細胞が分裂するのを速め、2-メトキシエストラジオールはその作用を抑えるという報告もあります。
Lewis JS et al. J Mol Endocrinol. 2005; 34(1): 91-105.

また、エストリオールは60歳代以降の方のHRTに勧められるエストロゲン製剤ホーリンの主成分ですが、エストリオールからは他の物質に代謝される矢印は出ていません。
エストリオールも体外に排泄されやすい物質です。
したがって、エストリオールが乳がんを増やすことはありません

経口のエストラジオールは 16α‐OHエストロンに代謝されやすい

エストラジオールの経口薬は、飲むと腸管から吸収されて、肝臓で90%が代謝を受けます。
実はこのとき、ちょっと困ったことがあります。

肝臓には図の17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(17β-HSD)の6型CYP3A4が豊富にあるので、
エストラジオール → エストロン → 16α-OHE1
の反応が進みやすいと考えられます。

エストラジオールの経口薬にはジュリナがあります。
ジュリナの臨床試験の結果を見たところでは、代謝が原因となるような副作用は認められていませんが、経口薬では理論的には16α-OHE1が多く産生される可能性があります。

経口薬を使用する場合は、運動をしたほうがより安心と言えるでしょう。
エストラジオール製剤の種類についてはこちらをご覧ください。

経口のエストラジオールでは薬の常用、飲酒の習慣もリスクに

薬によってはCYP3A4を増やしてしまうものがあります。
飲酒の習慣のある人もCYP3A4がたくさん出ています。

他の薬を常用する必要のある人や飲酒の習慣のある人では、経口薬でのHRTは避けたほうがよいかもしれません。

禁煙はHRTでは必須

喫煙の習慣はCYP1B1を増やします。
その結果悪玉の4-OHE1が増えてしまうと考えられます。

喫煙は静脈血栓塞栓症のリスクでもありますから、HRTそのものもお勧めできません。
そもそも、喫煙の習慣があるということは、“若さも健康も諦め、老後は呼吸困難と寝たきりに甘んじる”ということと同義だと思います。

喫煙者は、HRTを行う前に禁煙することが必須でしょう。

喫煙は「ニコチン依存症」という立派な病気です。
禁煙治療は新薬が開発され、とても進歩しています。
諦めずに是非禁煙しましょう。


HRTに関するこれまでの記事は、こちらをご覧ください。

女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤
HRTで使われる薬剤~プロゲスチン製剤
18年のフォローでHRTの安全性を検証 
運動すればHRTの乳がんリスクが減少

2017年3月24日金曜日

老化を遅らせる運動法は?

例えば、傷の治りが遅くなるとか、打ち身の痛みや、寝違え、捻挫、筋肉痛など、年とともに、治りが遅くなることを感じたことはありませんか?

モチロン若い方は想像もできないでしょうが、アラフォーを過ぎたあたりからこのことを感じている方は多いはずです。

ヒトだけでなくすべての生物(真核生物)は老化と死はプログラムされていて避けられないのですが、それを遅らせることはできます。

ヒトの場合の唯一の方法は、
本来の体の機能を十分に引き出すこと
つまり、運動することです。


では、どうして運動が老化を遅らせることができるのでしょうか。
そして、老化を遅らせるための運動はどうやって行えばよいのでしょうか?
このブログをお読みの方はお察しがつくでしょう。
キーワードはミトちゃんです。
ミトコンドリアの数で若さが決まる

今日はそのヒントになる研究を紹介して、老化に対抗する運動法と、老化にブレーキを掛ける仕組みについてみてみましょう。

運動によるタンパク質生合成の向上で、加齢に伴う身体・代謝の変化へ対応できる

Matthew M. Robinson et.al. Enhanced Protein Translation Underlies Improved Metabolic and Physical Adaptations to Different Exercise Training Modes in Young and Old Humans.Cell Metab. 2017 Mar 7;25(3):581-592. 

How exercise -- interval training in particular -- helps your mitochondria stave off old age

【研究の参加者】
18~30歳の若年者群と、65~80歳の高齢者群それぞれ36名(男女)

【研究の方法】
上記の若年者群と高齢者群に
  1. 高強度インターバルトレーニング(自転車マシーン)
  2. 筋力トレーニング
  3. 高強度インターバルトレーニング+筋力トレーニング
をそれぞれ行ってもらい、参加者の大腿筋群から細胞のサンプルを取って、
  • 細胞内での小器官の働き
  • 筋肉量
  • インスリン感受性(低下により糖尿病リスクとなる)
について測定し、それぞれの運動との関連を調べた。

【研究の結果】
  • 筋力トレーニングはどちらの群でも筋肉量を増加させた
  • 高強度インターバルトレーニングは、若年者群ではミトコンドリアの能力を49%増加させ、高齢者群では69%も増加した
  • 高強度インターバルトレーニングではこれらの効果に加えて、インスリン感受性を改善した
  • 高強度インターバルトレーニングは加齢に伴う筋肉量低下はあまり改善させなかった

【研究から考えられること】
  • 老化を遅らせるためには、週当たり3~4回の高強度インターバルトレーニングと、筋力トレーニングを組み合わせることがよいと考えられた。
  • 仮に、忙しいので1つの運動パターンを選択しなくてはならないとすれば、高強度インターバルトレーニングはお勧めだが、それだけでは、筋肉量低下は防げそうもない。
  • しかし、全く運動しないよりははるかにましであろう、と研究者らはコメントしている。

いかがでしょうか。
研究者らはこの論文で、
老化に対抗していくには、どのような運動が良いか
だけでなく、
この研究によって、運動が細胞内の器官の機能を向上させる仕組みがいくつか明らかになった 
ことを強調しています。

具体的には、
自転車マシーンによる高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)では、ミトコンドリアが独自に持つミトコンドリア遺伝子からのRNAの複製が増加し、ミトコンドリアタンパク質*ができて、老化に伴うミトコンドリア機能低下が抑えられ、さらには改善さえして、筋力増強に有用なタンパク質の生合成も増加していた
ことが示されました。

老化防止の鍵はミトコンドリア にある

この研究では、高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)で、ミトコンドリアの機能と質が改善し、タンパク質生合成の能力が向上したということは、細胞の小器官としてタンパク質の製造工場を務めるリボソームの若返りを促したものと考えられる、としています。

*ミトコンドリアタンパク質とは
ミトコンドリアタンパク質のうち約21%は、ミトコンドリアが総ての細胞や細胞内小器官のエネルギーであるATPを作るために必要な、ミトコンドリア内膜にある電子伝達系(図)と呼ばれるところにあるタンパク質(酵素)のセットに使われています。
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ミトコンドリアは外膜と内膜で囲まれ、内膜には電子伝達系という5つの酵素のセットがある。ミトコンドリア内では、食物から得られた化合物から水素イオンと電子を取り出す。水素イオンは内膜を通じて大半が汲み出され、電子は電子伝達系で受け渡されて、最終的に、これも取り込まれた酸素と、汲み出されなかった分の水素イオンとが反応して水ができる。その時にできる外膜-内膜のすき間と内膜内の水素イオンの数の差(電位差)が電気エネルギー(電荷の流れ=稲妻に相当)を生み出して、電子伝達系のタービン(電子伝達系のATP合成酵素)を回して、ATPを効率よく作る。同時に、TCA(クエン酸)回路も回して、ATPを作り、食物からの化合物の反応で二酸化炭素もできる。この一連の反応が呼吸(細胞呼吸)である。このように、ミトコンドリアの活動には酸素が不可欠である。有酸素運動がミトコンドリアを活性化させることが解る。

この酵素セットによって、ミトコンドリア内で呼吸が行われて、エネルギーであるATPができるのです。
このATPを受け取ったリボソームは、エネルギーとしてATPを使って、細胞に必要なタンパク質を作ることができます。
ミトコンドリアは、体(細胞)が要求するエネルギーに見合った数の酵素セットを作って、要求に応えていると考えられます。
その要求とはつまり運動することですね。
運動をしない人のミトコンドリアは、わざわざ酵素セットを新たに作らないと思われます。
ミトコンドリアの数で若さが決まる
   ミトコンドリアが酵素セットである電子伝達系を新たに作る能力が若さの秘訣
   と言えるでしょう。

さらに、この研究者らは、
参加者から細胞のサンプルを取った大腿筋は筋肉細胞である。
筋肉細胞は、脳などの神経細胞や心筋細胞などと同様に、細胞分裂しにくい細胞の一種であり、再生しにくい。
高齢者群でも運動によって、ミトコンドリアの機能が改善し、筋肉量が増えるということは、運動による筋肉の再生が観察されたということである。
筋肉細胞と同じく、再生しにくい脳の細胞や心筋細胞の再生にも運動の効果が期待できる
としています。

アンチエイジングとして、食べ物や、健康食品・サプリメント、各種ダイエット法などがいろいろ宣伝されていますが、やはり運動に勝るものはありませんね。
外からあれこれ栄養素や成分を摂ったところで、ミトコンドリアに代表される細胞の中の器官を運動で刺激して、自ら大切な体の部品(タンパク質)を作らせて補修させることに上回る効果はないということです。

例えば、骨の構成成分のコラーゲンは筋肉と似た性質のタンパク質で出来ています。
コラーゲンはサプリメントなどでそのままの形では外からは取りこめませんから、骨が脆くなりつつある人は、運動してその人の骨にぴったり合ったコラーゲンを、ミトコンドリアとリボソームに作ってもらうことが骨粗鬆症防止に有効ということですね。その原料となるアミノ酸で構成されるコラーゲン(ペプチド)をゼラチンなどで摂ることには、原料を補給するという意味があると考えられます。

まとめると、健康に役立って老化を防ぐベストな運動法は、基本的には、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)+筋力トレーニング
ですが、忙しければ、最低でも
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)
を行えば効果ありということでしょう。

中高年や高齢者では、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)だけでは筋肉の低下を防げないので、筋力トレーニングをプラスする
のがお勧めということですね。

また、老化にブレーキをかけるのは、
有酸素運動によりミトコンドリアとリボソームを活性化して、細胞の中で修復のためのタンパク質を生合成させること
にあるようです。

このことから、運動と合わせて、普段の食生活でも修復するタンパク質の原料となる食事由来のタンパク質(アミノ酸)の摂取も大切であることがわかります。

サプリメントも健康食品も薬も、運動してこそ役に立つ

逆に言えば、どんなに食事やサプリメントや健康食品で、良い栄養成分を摂っても、運動しなければ、せっかくの原料を体の修復用のタンパク質や化合物に作り変えてもらえないということになります。
昔からよく言われる、「良好な新陳代謝」とは、運動と適正な食事の2本立てで初めて成り立つものなのですね。

恐らく、運動せずにこれらの栄養成分をせっせと食べたり飲んだりしても、体が過剰なカロリーと判断して、脂肪としてため込むか、吸収されずに消化器に負担をかけるだけの素通りになる可能性が高いと思います。

 サプリメント健康食品が効果を発揮するには、上でお話ししたミトコンドリア電子伝達系が働く必要があります。
「これを飲んでいればOK!」と宣伝するサプリメント健康食品???ですね。

このことは多くの生活習慣病の薬にも当てはまると思います。
糖尿病の薬も、高血圧治療薬も、高脂血症治療薬も、骨粗鬆症治療薬も、 運動と併用して初めて効果が出る 
と思ったほうが良いと思います。

運動とミトコンドリアについてはこちらの記事も読んでください。
運動・ミトコンドリア
ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!
運動不足のリスクは喫煙なみ
たくさん動いていれば何を食べてもOK

2017年3月3日金曜日

女性ホルモンはこうして作られる

女性ホルモンが女性の健康にいかに大切かについてお話してきました。

女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム 

ホルモンと言われてもなじみのない方が多いと思いますので、ここではホルモンとはどういうものかについて、女性ホルモンを中心にお話しします。

基礎的な話なので、理科は苦手・・・という方は読まなくても大丈夫です。
ホルモン補充療法(HRT)の原理を理解したい!という方は、じっくりご覧ください。

ホルモンの構造には3種類ある

前回、ホルモンとは、特定の器官から必要に応じて分泌されて、血流に乗って目的の器官に届けられて作用する物質だとお話ししました。
(最近では、ホルモンが作られた細胞やそのすぐ近くで作用する場合もあることが確認されました。
脂肪細胞、骨、脳、冠動脈などに見られるエストロゲンは、1つの例です。)

ホルモンにはたくさんの種類がありますが、構造から大きく3つに分けられます。
  • ペプチドホルモン:タンパク質でできている(副甲状腺ホルモン、インスリン、インクレチン、成長ホルモンなど)
  • ステロイドホルモン:ステロイドから作られる(男性ホルモン、女性ホルモンなど)
  • アミン・アミノ酸誘導体ホルモン:甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモン(アドレナリンなど)
女性ホルモンはこのうちのステロイドホルモンです。

女性ホルモンの種類

女性ホルモンは、エストロゲンプロゲステロンに大きく分けられます。

エストロゲンには20種類以上の物質が確認されていますが、主なものはエストロン、エストラジオール、エストリオールの3種類です。

コレステロールから作られるので、コレステロールと似た形をしていますね。

プロゲステロンでは酸素(O)だった左下の部分が、エストロゲンでは水酸基(OH-)になっています。
水酸基の数の違いから、エストロンはE1(イーワン)、エストラジオールはE2(イーツー)、エストリオールはE3(イースリー)と呼ばれます。

どれも、エストロゲン受容体に作用しますが、作用の強さが違います。
エストラジオールが最も活性が高く、エストラジオールを100とすると、エストロンは10、エストリオールは1くらいとされています。
百枝幹雄 偏『基礎からわかる女性内分泌』診断と治療社 2016; pp98.より。ただし、「エストラジオール:エストロン:エストリオール=10:5:1とする教科書もある」としています。根拠となるデータの記載はありません。『ディビゲル®インタビューフォーム』では、ラットの最小発情量よりエストラジオール:エストロン:エストリオール=20:10:1とされています。 中山徹也ほか:産科と婦人科 1965; 32(5): 635

エストロゲンが作られる流れ

 

ステロイドホルモンはコレステロールから作られる


エストロゲンは、コレステロールから作られるとお話ししました。
でも、コレステロールが簡単にエストロゲンになるわけではなく、いろいろな酵素が順番に働くことで、いろいろな物質を経由してエストラジオールエストロンになり、最終的には一番活性の低いエストリオールになります。

コレステロールを出発点にして、どのように3種類のエストロゲンができるかの流れを見てみましょう。

エストラジオール エストリオール エストロゲン プロゲステロン コレステロール エストロン 糖質コルチコイド 鉱質コルチコイド

矢印は、生合成される流れを示し、そのときに必要な酵素ごとに色分けしています。

酵素は、それぞれ決まった器官にしか存在しませんから、必要な酵素の存在する器官で、それぞれのホルモンは作られることになります。

原料となるコレステロールは、もともと細胞にあったものに加えて、血液中をLDLコレステロールとして運ばれてきたものを取り込んで使います。
LDLコレステロールというと、「悪玉コレステロール」と呼ばれて目の敵にされていますが、 実は、身体にとって大切なものなのですね。


女性ホルモンは主に卵巣で作られる

エストロゲンは、主に卵巣で作られます。

卵巣には エストロゲンプロゲステロンを作るための酵素を活性化する作用を持つ、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン、黄体形成ホルモン)の受容体があるためです。

閉経前は卵巣が元気なので、脳から分泌されるFSHとLHが卵巣に作用することで、特に卵巣で大量にエストロゲンプロゲステロンが作られます。

閉経後に卵巣が働かなくなると、 脂肪細胞が主な エストロゲンの供給部位になります。
脂肪細胞にも、少しだけエストロゲンを作る酵素(アロマターゼ)があります。
とはいっても、作られるのは非常に少量ですし、分泌のシステムも異なります。



プロゲステロンがエストロゲン合成の上流にある



上の図を一部抜き出して大きくしてみましょう。

プロゲステロンは、上の段のコレステロールから2番目にあります。
エストロゲンは右下の、生合成の下流です。

したがって、プロゲステロンエストロゲンの原料になることがわかります。

だからといって、プロゲステロンを薬などで外から投与すればエストロゲンが生合成されるようになるというわけではありません。
プロゲステロンからエストロゲンを作るためには、図の流れの中にある様々な酵素を持つ細胞の中にプロゲステロンが存在する必要があるのです。

ホルモン補充療法(HRT)の方法として、「プロゲステロンだけを投与すれば、エストロゲンプロゲステロンから作られる量で十分」としている専門家もいらっしゃいますが、生体内の仕組みを考えると間違っているのではないかと思われます。


エストロゲンはプロゲステロンより活性が高い

 
ここで、月経周期のなかでのプロゲステロンとエストラジオールの分泌の様子を見てみましょう。

いつ分泌されるかの詳細なメカニズムは、
 精巧!女性ホルモン調節システム 
をご覧ください。

ここでは、分泌される量に注目してください。
一見、同じくらい分泌されているように見えますね。
でも、プロゲステロンは単位がng/mL、エストラジオールはpg/mLです。
1ng(ナノグラム)=1,000pg(ピコグラム) 
ですから、プロゲステロンはエストラジオールの100倍分泌されているわけです。

ここから、エストラジオールはプロゲステロンに比べて、ほんの少量で作用を発揮する、つまり、活性が高いことが予想されます。


このことは、ホルモン補充療法(HRT)で使う薬剤の量を考える際にも、思い出すと役に立ちます。


プロゲステロンから男性ホルモンを経てエストロゲンができる


プロゲステロンからエストロゲンへの流れをたどっていくと、途中に水色で囲まれた男性ホルモンを経由していることがわかります。

卵巣では、男性ホルモンをエストロゲンに変換するアロマターゼ(水色の矢印)という酵素の働きが活発なので、 男性ホルモンはエストロゲンに変換されて分泌されることになるのです。

例:アロマターゼによるエストロゲンの生合成

上の図のアロマターゼが働く箇所を拡大してみましょう。

エストロン(E1)はアンドロステンジオン、エストラジオール(E2)はテストステロンという男性ホルモンから、アロマターゼによって作られます。

アロマターゼは、骨や脳、血管、脂肪組織、皮膚、肝臓、胎盤、性腺などの器官でもつくられるので、卵巣以外でもエストロゲンは合成されますが、卵巣に比べるとずっと少量です。


【参考】アロマターゼを阻害する抗がん薬


アロマターゼを阻害する薬(アロマターゼ阻害薬)は、閉経後の乳がんの治療薬として使われています。

乳がん細胞はエストロゲンの働きで増殖します。
アロマターゼ阻害薬はアロマターゼの働きを抑えてエストロゲンをなくし、乳がんの増殖を抑えます。

アロマターゼ阻害薬が保険適応となるのは閉経後で、閉経前の女性は適応ではありません。
閉経後にも、エストロゲンは皮下脂肪で 少量作られるので、これを抑えてエストロゲンを枯渇させるのが作用機序とされています。

アロマターゼ阻害薬の作用に関するいろいろな資料に、「エストロゲンは閉経前は(アロマターゼの関与なしに)卵巣で作られるが、閉経後にはアロマターゼによって脂肪細胞で作られるようになるので、保険適応は閉経後」と説明されていますが、これは誤りではないかと思われます。 

エストロゲンは、閉経前も閉経後もアロマターゼの働きで作られることに違いはありません。
ということは、理論上は、閉経前でも卵巣のアロマターゼの働きを阻害すればエストロゲンは作られなくなるので、効果があるように思えます。
しかし、閉経前は卵巣でのアロマターゼの分泌が非常に多いので、閉経前の卵巣でのエストロゲンの生合成を抑えようとするならば、非常に大量のアロマターゼ阻害薬を投与する必要があります。
それだけの量の薬を投与すれば、当然、副作用も多くなりますから、閉経前の乳がんを保険適応に薬を開発することはできなかったのでしょう。

ところで、アロマターゼ阻害薬には、更年期症状が重症化するという副作用が見られます。
エストロゲンが全くなくなってしまうためですね。
閉経後のほんの少量のエストロゲンであっても、重要な役割を果たしていることがよくわかります。


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