いきいき!エバーグリーンラブ: 9月 2018

2018年9月26日水曜日

女性ホルモンが認知症を予防する

もし、認知症を予防する方法があるとしたら、あなたは試してみますか?

女性ホルモンが、認知症に予防的に働く可能性があることが、アメリカとイギリスから報告されました。

簡単にまとめると・・・
  • 出産回数が多い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 初経から閉経までの期間が長い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長い女性ほど、認知症、アルツハイマー病のリスクが低い。 
  • 閉経の時期が遅い方が、認知能力が高い。
初経から閉経までの期間が長いということは、エストロゲンが分泌されていた期間が長いということです。
また、妊娠中はエストラジオールの分泌量が通常の50倍~100倍に増えます。

生涯を通じてのエストロゲンの分泌量が多いことが、認知症の発症を予防するのではないか、と考察されています。
※女性ホルモンにはプロゲステロンとエストロゲンがあり、エストロゲンにはエストラジオールエストロンエストリオールなどがあります。
⇒参考:精巧!女性ホルモン調節システム  ホルモンの非常事態が更年期症状に!

アルツハイマー病協会国際会議(AAIC、2018年7月、シカゴ)で報告

 FROM THE ALZHEIMER’S ASSOCIATION INTERNATIONAL CONFERENCE 2018 PREGNANCY AND REPRODUCTIVE HISTORY MAY IMPACT DEMENTIA RISK PLUS, THE MOVE TO RE-THINK THE IMPACT OF HORMONE THERAPY ON COGNITION: Plus, Sex-Based Approaches May Improve Diagnostic Accuracy in Alzheimer’s

①Paola Gilsanzらの報告

【方法】
  • 1964~1973年に40~55歳であった女性1万4,595人の医療記録を用いて、出産歴と認知症の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 子どもが3人以上いる女性は、子どもが1人の女性に比べて認知症リスクが12%低かった。
  • 妊娠可能な期間が38~44年だった女性に比べて、21~30年だった女性では、認知症リスクが33%高かった。
  • 初潮を13歳で迎えた女性に比べて、16歳以上で迎えた女性では、認知症リスクが31%高く、45歳以降も月経があった女性に比べて、45歳以下で自然閉経した女性では28%高かった。
 【考察】
  • エストロゲンが認知症に対して予防的に働く可能性がある。 

②Molly Foxらの報告

【方法】
  • 英国の高齢女性133人を対象に、妊娠歴とアルツハイマー病の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長いほどアルツハイマー病リスクは低かった。
  • 妊娠していた期間が1カ月延びるごとに、アルツハイマー病リスクは5.5%低下していた。

【考察】
  • 妊娠が女性の免疫系に有益な作用をもたらし、その後の脳の健康にも何らかのよい影響をもたらした可能性が考えられる。

アメリカ神経学会雑誌Neurologyに掲載

③Diana Kuhらの報告

Kuh D et al. Neurology. 2018 May 8;90(19):e1673-e1681. doi: 10.1212/WNL.0000000000005486. Epub 2018 Apr 11.

【方法】
  • 出生コホート研究に登録された1,315例の英国の女性を対象に、閉経の時期が認知能力と関連するかどうかを検討した。
  • 認知能力の評価は、言語記憶および処理速度について、43歳から69歳までのあいだに4回行い、加齢による変化の度合いを比較した。
  • 結果の解析に当たっては、小児期の認知能力(8歳時に標準的指標で評価)やHRTの使用、体格指数、職業、教育で補正した。

【結果】
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は早期に自然閉経した女性と比べて、1歳あたり0.17語良好だった。
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は、外科的に卵巣を切除することで閉経した女性に比べて0.16語良好だった。
  • 処理速度は、自然閉経時または外科的閉経時の年齢とは関連しなかった。 

【考察】
  • 妊娠可能な期間が晩年まで続くことが、特に言語記憶に関する認知機能に良い影響を及ぼすと考えられる。

以上の報告から言えること

以上の報告から、
  • 妊娠期間が長い方が、認知機能に良い。
  • 妊娠可能な期間が長い方が、 認知機能に良い。
と言えそうです。
③の報告では、69歳までの比較的若い時点での認知機能を調べています。
また、③の報告では、約6割の人がホルモン補充療法(HRT)を行っていましたが、HRTの有無にかかわらず、妊娠可能な期間が長いことが認知機能に良いという結果が得られました。
妊娠中は、通常の月経と比べてエストロゲンが大量に分泌されます。
妊娠期間の長さが後々の認知機能を左右するという結果から、生涯に分泌されたエストロゲンの量が多いことが、認知機能に良い影響を与えると考えられます。

妊娠時には、エストラジオールの分泌が劇的に増加

妊娠に際してエストラジオールの血中濃度がどのように変化するかを見てみましょう。

ホルモン補充療法 hrt HRT エストロゲン 女性ホルモンと妊娠出産

右上のグラフは妊娠時エストラジオールの血中濃度の基準値の上限(ピンク)と下限(黄色)を示しています。
多くの人は、妊娠中のエストラジオール濃度が、この上限と下限の間のピンク黄色のグラデーションの範囲の値を取ります(基準値=95%の人々が当てはまる値の範囲)。

エストラジオールは、妊娠していないときには卵胞から分泌されますが、妊娠すると胎盤から大量に分泌されるようになり、しかも、胎児の成長とともにその量が増えていきます。
そして出産と同時に胎盤がなくなることで、分泌は一気に下がります。

出産直後は排卵が起こらないためにエストラジオールはほとんど分泌されません。
その後も、授乳によって分泌されるプロラクチンが排卵を抑制することから、授乳を続けている間は、排卵は起こらず、エストラジオールの分泌が低い状態が続きます。

妊娠時に分泌が増えても、産後に分泌が減るのであれば、 妊娠してもしなくてもトータルのエストラジオールの分泌量は差し引き変わらないのではないかと思われるかもしれませんね。
ここで、妊娠時と、妊娠していないときとのエストラジオールの血中濃度を比較してみましょう。

左下のグラフは、通常の月経周期のエストラジオールの血中濃度を示しています。
上のグラフと、単位を比べてください。
妊娠時とそうない場合とでは、2桁も違います。
月経周期の増減など、誤差のようなものですね。

これらのグラフから、妊娠時のエストラジオールの分泌の増加分は、産後の分泌の低下分に比べて圧倒的に多いことがわかります。

ホルモン補充療法(HRT)でエストロゲンを補うという人生設計

若い女性の中には、「いずれは結婚したいし、子供も欲しい」と考える方もいれば、「結婚するより、社会の中で活躍したい」、「子供に束縛されない人生を送りたい」と考える方もいるでしょう。
でも、「認知症にならないために、とにかく子供はたくさん作ろう」という理由で結婚を急ぐ方は、まずいませんね。 

更年期にさしかかっても、自分の両親が認知症にならないようにするにはどうすればよいかは考えても、自分自身の認知症対策は”まだまだ先のこと”と思いがちです。

しかし、ここで紹介した研究を見ると、認知症対策はもっとずっと若い頃から必要だと考えられます。

とはいえ、更年期になって「もっと子供を産んでおけば認知症になりにくかったのに」と言われても今さらどうにもなりません。
唯一、”今さら”でも可能な対策が、ホルモン補充療法(HRT)です。
ご紹介した研究からも、閉経後にHRTを行い、エストロゲンが枯渇するのを防ぐことで、多少なりとも、認知症を遠ざけることができるのではないかと考えられます。

「結婚する・しない」、「子供を作る・作らない」などの人生設計の一環として、「若いときに十分に分泌する機会を得られない分のエストロゲンを、更年期からHRTで補う」という選択肢も検討すると良いのではないでしょうか。

今から始める認知症対策

認知症の危険因子には、エストロゲンの他にも、高血圧や2型糖尿病など、若い頃からの生活習慣病が影響する可能性が指摘されています。

認知症は、ある日突然、発症するわけではなく、何十年という年月をかけて、徐々に進んでいく疾患です。
脳の神経や血管などの衰えに、閉経によるエストロゲンの欠乏が拍車をかけ、さらにそこから10数年の年月をかけて、いよいよ本格的な症状が現れてくるのです。

若い頃から運動や正しい食事を心がけ、子供もたくさん産んだうえで、更年期以降はHRTにも助けてもらう、というのが理想なのでしょうが、現代社会に生きる女性では、理想通りはいかないのが現実でしょう。

でも、今からでも遅くありません。
日々の運動年齢に見合った食事HRTという女性ホルモンメンテナンスで、認知症を遠ざける生活をはじめませんか?

女性ホルモンメンテナンスのメリットは他にもたくさんあります。
このことについてはまたお話ししますね。

【関連ぺーじ】
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
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ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤
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18年のフォローでHRTの安全性を検証 
運動すればHRTの乳がんリスクが減少
HRTはいつまで続ける? 

2018年9月6日木曜日

HRTはいつまで続ける?

ホルモン補充療法(HRT)は、いつまで続ければよいの?
HRTをお勧めすると、よく尋ねられます。

答えは、「ずっと続けることをお勧めします」です。
ただし、年齢に応じて使う薬を変更します。

では、どのように続ければよいかと、その理由についてお話しましょう。

HRTの継続方法

HRTを更年期からスタートする場合、エストラジオール製剤とプロゲスチン製剤を使います。

エストラジオール女性ホルモンそのものですので、強い薬のように感じるかもしれませんが、避妊や月経困難症に使われる低用量ピル(OC)や、低用量ピルよりさらにエストロゲンの量を減らした超低用量ピルに比べても、ずっと活性の低い薬です。
HRT ホルモン補充療法 エストラジオール プロゲスチン製剤 
更年期から60歳くらいまではエストラジオール製剤+プロゲスチン製剤、
それ以降はエストリオール製剤を使用




低用量ピルや超低用量ピルは、生理のある人がエストラジオールの分泌をコントロールするための薬ですから、 エストラジオールより強い作用が必要です。
そのため、エストラジオールの活性を高めたエチニルエストラジオールという成分が使われています。

一方、HRTでは、分泌されなくなったエストラジオールを少しだけ補えばよいので、エストラジオールそのものを、必要最低量使うだけで済みます。
これは、もともと分泌されていた量に比べてもずっと少なめですし、周期的に濃度が非常に高くなることもありません。

ですから、低用量ピルや超低用量ピルで見られる、吐き気や頭痛などの副作用は、エストラジオールでは見られません。

更年期からHRTを始めた方も、年齢を重ねて活動性が落ちてきたなと思ったら、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤から、さらに活性の低いエストリオール製剤に変更します。
そうすれば、生涯、副作用を生じることなくエストロゲンが枯渇するのを防げます。

60歳を過ぎてからHRTを始めるときには、エストリオール製剤を用います。
使い方の詳細はこちらをご覧ください。  
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤

更年期が終わってHRTを止めたらどうなるの?


一般的に、更年期障害で婦人科を受診してHRTを始めた場合、5年程度で「もう更年期は過ぎたから、HRTは終了します」と言われます。
これは、アメリカの臨床試験の見誤った報告などから、いまだに間違った認識が広まっているためと思われます。
問題となった臨床試験についてはこちらをご覧ください。
 ⇒HRTは乳がんの原因になる??
更年期が終わったときに、急にHRTをやめても問題はないのでしょうか?

HRTを5年で中止したとき、更年期症状が再発する場合があります。
ホットフラッシュや動悸など、HRTを始める前と同じ症状が現れれば、自分自身で気づきますから、医師に相談してもう一度HRTを始めれば解決します。

問題なのは、HRTのおかげで発症しないですんでいた”更年期症状とは気づきにくい病気”が発症する場合です。
例としては、うつ、めまい、関節痛などが挙げられます。

HRTを中止したために関節痛が現れたとしても、婦人科の医師はそれがHRTを中止したためだとは気づかずに、整形外科の受診を勧めるでしょう。
整形外科の医師が更年期障害と関節痛の関係を知っているケースはほとんどありませんから、痛み止めが処方されたり、重症な場合には副作用の多い関節リウマチの治療をされてしまうことになりかねません。

そのようなことにならないためにも、HRTは継続することをお勧めします。
”月ごとの出血がどうしても嫌”というような場合には、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤の代わりにエストリオール製剤を使えばよいでしょう。

どうしてもHRTを中止したいという方も、突然やめるのではなく、しばらくエストリオール製剤に切り替えてから終了することで、副作用が起こりにくくなると考えられます。

HRTを継続する期間について、 日本産婦人科学会の「HRTガイドライン2017年度版」では、”HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない”としています。
HRTは、”何年か続けたら、あるいは何歳以上になったら、止めた方が良い”という制限は設けなくてよいということです。

なのに、一般の婦人科では5年程度HRTを続けると、ぷっつり中止されてしまいます。
何故なのか、疑問ですね。

おさらい!

更年期症状の治療より重要なHRTの目的

HRTを続けることの大切さを、もう一度確認しましょう。

ここでは、HRTの目的を「閉経に伴う身体の衰えを予防すること」と考えてお話します。

閉経してエストロゲンが分泌されなくなると、どのような疾患に罹る可能性があるかを図にしました。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 
更年期以降エストロゲンの分泌が低下すると、
はじめは症状としては現れない身体の異常(黄色)が起こり、
年を取るに従い重篤な疾患(ピンク)となって現れる。
ここにかかれている疾患は、どれもエストロゲン不足が原因の1つとなっている可能性が、医学的に確認されているものです。

黄色エストロゲン不足で起こる目に見えない身体の異常、ピンクはその状態が進行して発症する疾患を表します。

例えば、骨粗鬆症エストロゲン不足で起こる病気の代表ですが、骨粗鬆症になっても特に症状はなく、体調は変わりません。
ところが、脆くなった骨が折れると、一日中痛みが続き、折れた場所によっては寝たきりになってしまいます。

”骨粗鬆症と診断されてから骨粗鬆症のくすりを飲み始めればいい”と思っている方もいるかもしれませんね。
骨粗鬆症というのは、骨がスカスカになってしまった状態です。
骨粗鬆症の薬は、スカスカになった骨を、これ以上スカスカにしないようにはできても、元に戻す力には限界があります。
はじめから、スカスカにならないようにすること、50歳の時点での骨の状態を維持することが重要なのです。

図に示した骨粗鬆症以外の病気についても、同じことが言えます。
これらの病気を予防するためにHRTを行うのであれば、生涯継続することをお勧めします。

”本来の女性ホルモンがある状態を維持する”のがHRT

高血圧や糖尿病などの生活習慣病の薬を飲むのと、HRTを同じように考えている方が多いので、追加の説明をさせてください。

運動や食事療法をしても血圧が下がらない方は、「血圧の薬はずっと飲み続けなければいけない」ことは、皆さん、よく理解されていると思います。
 正常な血圧を保つ機能がうまく働かなくなってしまったとき、そのままにしておくと血管に負荷がかかって動脈硬化や、脳卒中、心筋梗塞などになってしまいます。
これを防ぐために、薬で血管を緩めるのが、「血圧の薬」の目的です。
血圧の薬」を飲んでも、血圧が正常だったころの元の身体に戻るわけではありません

HRTは、血圧の薬とは使う意義が少し違います。

HRTは、もともと身体を正常に保つために出ていた女性ホルモンが閉経して出なくなってしまったので、身体の機能が損なわれないように、薬として女性ホルモンを補いましょう、というものです。
つまり、HRT「本来の状態を保つ」ためのメンテナンス作業といえます。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 HRT ホルモン補充療法 
女性ホルモンメンテナンスで、健康に年を取る!


ただし、女性ホルモン(エストロゲンプロゲスチンを補充しただけでは片手落ちです。
補った女性ホルモンが正しく働くように、それに見合った運動や食事を心がける必要があります。
⇒運動すればHRTの乳がんリスクが減少

HRTは、前向きに生きる女性を補佐するもの。
故障を防ぎながら 楽しく年を取りましょう、というのが「女性ホルモンメンテナンス」の目的です。

ヒトが生物である限り、身体の老化は、どうしたって止めることはできません。
でも、その老化のカーブを緩やかにして、幸せな高齢期を過ごすことは可能です。
そのために、更年期や閉経周辺期を迎えたら、自分の身体を過信せず、HRT+正しい食事や運動、そして禁煙=女性ホルモンメンテナンスが必須となるのです。


女性ホルモンについての詳細は、こちらをご覧ください。
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
⇒精巧!女性ホルモン調節システム
⇒女性ホルモンはこうして作られる
⇒ホルモンの非常事態が更年期症状に!