いきいき!エバーグリーンラブ: 筋肉
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2018年1月24日水曜日

持久力(心肺フィットネス)が高ければ太っていてもOK!!

エバーグリーン研究室では、以前から健康の維持には運動習慣が不可欠であることをお示ししてきました。
りんご型肥満でおなかが炎症
ミトコンドリアの数で若さが決まる
また、内臓脂肪や異所性脂肪による過体重や肥満が万病の元であることもお伝えしています。


さらに、体重やBMIよりも、体重に占める筋肉の割合が大切であると考えています。
体重・BMIより筋肉量が大事
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
今日はこれらの考えを証明してくれる新研究が報告されましたので紹介します。

低い運動能力(低心肺フィットネス)はBMIとは独立して、腹部肥満と慢性炎症に関連する

Anne-Sophie Wedell-Neergaard et.al, Low fitness is associated with abdominaladiposity and low-grade inflammation independent of BMI

【研究の目的】
肥満者の集団のうち30%程度までは、糖や脂質などの代謝に異常は認められない。
これらの太っているが代謝的に健康な人は、腹部(内臓)肥満がなく、炎症が少なく、メタボリックシンドロームが発症するような代謝異常が認められない。
そこでこの研究では、太っているが代謝的に健康な人は、持久力(心肺フィットネス)が高く、このことによって、腹部(内臓)肥満がなく、炎症が少なくなっていいるとの仮説を立て、それが正しいかどうかを検討した。

【研究方法】
デンマークで行なわれた調査である、The Danish Health Examination Survey 2007-2008のデータから10,976人について、
●腹囲(ウエスト周囲径)
●高感度CRP(高感度C反応性蛋白):炎症の指標
●持久力(自転車エルゴメーターによる心肺フィットネス能力測定:VO2max)

を測定し統計学的に比較・解析した。

【研究の結果】
●性別に関係なく、高い持久力(心肺フィットネス)は、腹囲(ウエスト周囲径)減少と関連し、この関連は、BMI、教育歴、喫煙・飲酒習慣、健康の自己評価に関係なく認められた。

●男性では、持久力(心肺フィットネス)の+5mL/kg/min上昇で腹囲(ウエスト周囲径)は-1.50 cmと減少 (95% 信頼区間: -1.62~ -1.39 cm、 統計学的に有意 p<0.001)し、炎症の指標の高感度CRPは -0.22mg/Lと減少した (95% 信頼区間: -0.255~-0.185mg/L、統計学的に有意 p<0.001)。

●女性では、持久力(心肺フィットネス)の+5mL/kg/min上昇で腹囲(ウエスト周囲径)が-1.26 cm と減少(95%信頼区間: -1.39 ~-1.13cm、統計学的に有意 p<0.001) し、炎症の指標の高感度CRPは -0.26mg/Lと減少した (95% 信頼区間: -0.3~-0.22mg/L、統計学的に有意 p<0.001)。

●大きい腹囲(ウエスト周囲径)は、炎症の指標の高感度CRPの高値と関連し、この関連は性別とBMIに関係なく認められた。

●+1 cm腹囲(ウエスト周囲径)が大きくなると、男性では高感度CRPが0.03mg/L 上昇し(95%信頼区間: 0.02~ 0.037 mg/L、統計学的に有意 p<0.001) 、女性では高感度CRPが0.025mg/L 上昇し(95%信頼区間: 0.017~0.034mg/L、統計学的に有意 p<0.001)、この関連は、BMI、教育歴、喫煙・飲酒習慣、健康の自己評価に関係なく認められた。


【結論】
持久力(心肺フィットネス)は、BMIとは独立して、腹部(内臓)肥満と慢性炎症と逆相関を認めた。
これらのデータは、BMIとは無関係に、持久力(心肺フィットネス)を向上させることで、腹部(内臓)肥満と慢性炎症を改善させることができることを示している。
BMI, ミトコンドリア, リンゴ型肥満, 運動, 運動不足, 筋トレ, 筋肉, 持久力, 心肺フィットネス, 内蔵脂肪, 肥大化脂肪細胞, 肥満, 有酸素運動, 洋ナシ型肥満,
持久力(心肺フィットネス)を向上させることで、腹部(内臓)肥満と慢性炎症を改善

運動能力が高い=持久力が高くミトコンドリアが元気

いかがですか。
やはり、運動能力を高め、それを維持することが重要なのです。

運動能力が高い人は、当然、心肺機能が鍛えられていて持久力があり、運動習慣がありますので、同じ体重の肥満者よりも筋肉が多いことが予想できます。

恰幅が良くて、一見、太って見える人でも、健診で問題を指摘されないような元気な人がいますね。
こんな人に訊いてみると、たいていスポーツを趣味にしています。
そんな人は、スポーツで鍛えた強い心肺があり、体重やBMIは高くても、筋肉が豊富にあります。
体重やBMIの増加分が、脂肪よりも筋肉で占められている割合が高いと考えられます。

実際に、筋肉量が多いと、死亡する危険性(リスク)が低下するという報告もあるのです。
体重・BMIより筋肉量が大事


同じ体重やBMIでも、それに占める割合が筋肉が多いのか、腹部(内臓)脂肪が多いのかで明暗を分けてしまうというわけです。

言うまでもなく、脂肪細胞は、脂肪をため込み過ぎると、炎症性のサイトカインなどを慢性的に放出する慢性炎症を引き起こします。
脂肪細胞はパンパンに膨らみ、増えて、炎症!


同じ体重なら、身体の構成として、脂肪ではなく筋肉を多めとすることが大切なのです。

さらに、腹囲(ウエスト周囲径)が増える原因は腹部の内臓脂肪の増加です。

内臓脂肪の蓄積は異所性脂肪とも呼ばれ、本来脂肪を貯める役割を持つ皮下脂肪以外の組織・臓器に脂肪をため込みます。
脂肪の収納場所の皮下脂肪以外にたまる脂肪なので、異所性脂肪と命名されたのです。
これが炎症を引き起こし代謝異常など様々な疾患の原因になると考えられています。

異所性脂肪が恐ろしいのは、軽くても長い時間にわたって炎症性のサイトカインなどが全身を炎症に陥れることです。

この慢性的な炎症が恐ろしいのです。
打撲や虫刺されなどによる炎症は、やがて治癒して、長い時間続くことはありません。
異所性脂肪による炎症は、減量して異所性脂肪をなくさない限り収まりません。
つまり、過体重や肥満であった期間=何年もにわたって炎症が続いてしまうのです。

上記の研究とは別の、5,115人を25年間追跡した最近の研究では、健康な成人で肺機能(呼吸機能)が急速に低下すると、メタボリックシンドロームを発症する危険性があることが分かりました。
これらの人は、胸腔内に内臓脂肪が蓄積していることが分かりました。
Moualla M et.al. Thorax. 2017 Dec;72(12):1113-1120. doi: 10.1136/thoraxjnl-2016-209125. Epub 2017 Jul 20.

運動不足や過食・過飲による影響は、腹部だけではなく全身の異所性脂肪となり、様々な病気の原因となるようです。

運動の仕方のコツ

また、上記の研究で注目すべきなのは、高い持久力(心肺フィットネス)による腹囲(ウエスト周囲径)減少効果は、BMIだけでなく、教育歴、喫煙・飲酒習慣、健康の自己評価に関係なく認められたことです。

ミトコンドリアの数で若さが決まる
つまり、過体重・肥満の人、喫煙・飲酒習慣のある人、健康に自信がない人ほど、運動して持久力を維持することが必要だといえます。

忘れてはならないのは、心肺が丈夫で持久力があり、筋肉が豊富ということは、我々に活力を与えてくれるミトコンドリアもたくさんいるということです。
ミトコンドリアがエネルギーを充電してくれるわけです。

運動は、心肺機能を高める有酸素運動と、ミトコンドリアを増やして活性化させる筋トレを並行して行うのがベストですね。

持久力 心肺機能 筋肉 ミトコンドリア

2017年3月24日金曜日

老化を遅らせる運動法は?

例えば、傷の治りが遅くなるとか、打ち身の痛みや、寝違え、捻挫、筋肉痛など、年とともに、治りが遅くなることを感じたことはありませんか?

モチロン若い方は想像もできないでしょうが、アラフォーを過ぎたあたりからこのことを感じている方は多いはずです。

ヒトだけでなくすべての生物(真核生物)は老化と死はプログラムされていて避けられないのですが、それを遅らせることはできます。

ヒトの場合の唯一の方法は、
本来の体の機能を十分に引き出すこと
つまり、運動することです。


では、どうして運動が老化を遅らせることができるのでしょうか。
そして、老化を遅らせるための運動はどうやって行えばよいのでしょうか?
このブログをお読みの方はお察しがつくでしょう。
キーワードはミトちゃんです。
ミトコンドリアの数で若さが決まる

今日はそのヒントになる研究を紹介して、老化に対抗する運動法と、老化にブレーキを掛ける仕組みについてみてみましょう。

運動によるタンパク質生合成の向上で、加齢に伴う身体・代謝の変化へ対応できる

Matthew M. Robinson et.al. Enhanced Protein Translation Underlies Improved Metabolic and Physical Adaptations to Different Exercise Training Modes in Young and Old Humans.Cell Metab. 2017 Mar 7;25(3):581-592. 

How exercise -- interval training in particular -- helps your mitochondria stave off old age

【研究の参加者】
18~30歳の若年者群と、65~80歳の高齢者群それぞれ36名(男女)

【研究の方法】
上記の若年者群と高齢者群に
  1. 高強度インターバルトレーニング(自転車マシーン)
  2. 筋力トレーニング
  3. 高強度インターバルトレーニング+筋力トレーニング
をそれぞれ行ってもらい、参加者の大腿筋群から細胞のサンプルを取って、
  • 細胞内での小器官の働き
  • 筋肉量
  • インスリン感受性(低下により糖尿病リスクとなる)
について測定し、それぞれの運動との関連を調べた。

【研究の結果】
  • 筋力トレーニングはどちらの群でも筋肉量を増加させた
  • 高強度インターバルトレーニングは、若年者群ではミトコンドリアの能力を49%増加させ、高齢者群では69%も増加した
  • 高強度インターバルトレーニングではこれらの効果に加えて、インスリン感受性を改善した
  • 高強度インターバルトレーニングは加齢に伴う筋肉量低下はあまり改善させなかった

【研究から考えられること】
  • 老化を遅らせるためには、週当たり3~4回の高強度インターバルトレーニングと、筋力トレーニングを組み合わせることがよいと考えられた。
  • 仮に、忙しいので1つの運動パターンを選択しなくてはならないとすれば、高強度インターバルトレーニングはお勧めだが、それだけでは、筋肉量低下は防げそうもない。
  • しかし、全く運動しないよりははるかにましであろう、と研究者らはコメントしている。

いかがでしょうか。
研究者らはこの論文で、
老化に対抗していくには、どのような運動が良いか
だけでなく、
この研究によって、運動が細胞内の器官の機能を向上させる仕組みがいくつか明らかになった 
ことを強調しています。

具体的には、
自転車マシーンによる高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)では、ミトコンドリアが独自に持つミトコンドリア遺伝子からのRNAの複製が増加し、ミトコンドリアタンパク質*ができて、老化に伴うミトコンドリア機能低下が抑えられ、さらには改善さえして、筋力増強に有用なタンパク質の生合成も増加していた
ことが示されました。

老化防止の鍵はミトコンドリア にある

この研究では、高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)で、ミトコンドリアの機能と質が改善し、タンパク質生合成の能力が向上したということは、細胞の小器官としてタンパク質の製造工場を務めるリボソームの若返りを促したものと考えられる、としています。

*ミトコンドリアタンパク質とは
ミトコンドリアタンパク質のうち約21%は、ミトコンドリアが総ての細胞や細胞内小器官のエネルギーであるATPを作るために必要な、ミトコンドリア内膜にある電子伝達系(図)と呼ばれるところにあるタンパク質(酵素)のセットに使われています。
ミトコンドリア, アンチエイジング, 運動, 運動習慣, 運動不足, 筋トレ, 筋肉, 高齢者, 有酸素運動, 老化, ATP, 電子伝達系,
ミトコンドリアは外膜と内膜で囲まれ、内膜には電子伝達系という5つの酵素のセットがある。ミトコンドリア内では、食物から得られた化合物から水素イオンと電子を取り出す。水素イオンは内膜を通じて大半が汲み出され、電子は電子伝達系で受け渡されて、最終的に、これも取り込まれた酸素と、汲み出されなかった分の水素イオンとが反応して水ができる。その時にできる外膜-内膜のすき間と内膜内の水素イオンの数の差(電位差)が電気エネルギー(電荷の流れ=稲妻に相当)を生み出して、電子伝達系のタービン(電子伝達系のATP合成酵素)を回して、ATPを効率よく作る。同時に、TCA(クエン酸)回路も回して、ATPを作り、食物からの化合物の反応で二酸化炭素もできる。この一連の反応が呼吸(細胞呼吸)である。このように、ミトコンドリアの活動には酸素が不可欠である。有酸素運動がミトコンドリアを活性化させることが解る。

この酵素セットによって、ミトコンドリア内で呼吸が行われて、エネルギーであるATPができるのです。
このATPを受け取ったリボソームは、エネルギーとしてATPを使って、細胞に必要なタンパク質を作ることができます。
ミトコンドリアは、体(細胞)が要求するエネルギーに見合った数の酵素セットを作って、要求に応えていると考えられます。
その要求とはつまり運動することですね。
運動をしない人のミトコンドリアは、わざわざ酵素セットを新たに作らないと思われます。
ミトコンドリアの数で若さが決まる
   ミトコンドリアが酵素セットである電子伝達系を新たに作る能力が若さの秘訣
   と言えるでしょう。

さらに、この研究者らは、
参加者から細胞のサンプルを取った大腿筋は筋肉細胞である。
筋肉細胞は、脳などの神経細胞や心筋細胞などと同様に、細胞分裂しにくい細胞の一種であり、再生しにくい。
高齢者群でも運動によって、ミトコンドリアの機能が改善し、筋肉量が増えるということは、運動による筋肉の再生が観察されたということである。
筋肉細胞と同じく、再生しにくい脳の細胞や心筋細胞の再生にも運動の効果が期待できる
としています。

アンチエイジングとして、食べ物や、健康食品・サプリメント、各種ダイエット法などがいろいろ宣伝されていますが、やはり運動に勝るものはありませんね。
外からあれこれ栄養素や成分を摂ったところで、ミトコンドリアに代表される細胞の中の器官を運動で刺激して、自ら大切な体の部品(タンパク質)を作らせて補修させることに上回る効果はないということです。

例えば、骨の構成成分のコラーゲンは筋肉と似た性質のタンパク質で出来ています。
コラーゲンはサプリメントなどでそのままの形では外からは取りこめませんから、骨が脆くなりつつある人は、運動してその人の骨にぴったり合ったコラーゲンを、ミトコンドリアとリボソームに作ってもらうことが骨粗鬆症防止に有効ということですね。その原料となるアミノ酸で構成されるコラーゲン(ペプチド)をゼラチンなどで摂ることには、原料を補給するという意味があると考えられます。

まとめると、健康に役立って老化を防ぐベストな運動法は、基本的には、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)+筋力トレーニング
ですが、忙しければ、最低でも
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)
を行えば効果ありということでしょう。

中高年や高齢者では、
高強度インターバルトレーニング(有酸素運動)だけでは筋肉の低下を防げないので、筋力トレーニングをプラスする
のがお勧めということですね。

また、老化にブレーキをかけるのは、
有酸素運動によりミトコンドリアとリボソームを活性化して、細胞の中で修復のためのタンパク質を生合成させること
にあるようです。

このことから、運動と合わせて、普段の食生活でも修復するタンパク質の原料となる食事由来のタンパク質(アミノ酸)の摂取も大切であることがわかります。

サプリメントも健康食品も薬も、運動してこそ役に立つ

逆に言えば、どんなに食事やサプリメントや健康食品で、良い栄養成分を摂っても、運動しなければ、せっかくの原料を体の修復用のタンパク質や化合物に作り変えてもらえないということになります。
昔からよく言われる、「良好な新陳代謝」とは、運動と適正な食事の2本立てで初めて成り立つものなのですね。

恐らく、運動せずにこれらの栄養成分をせっせと食べたり飲んだりしても、体が過剰なカロリーと判断して、脂肪としてため込むか、吸収されずに消化器に負担をかけるだけの素通りになる可能性が高いと思います。

 サプリメント健康食品が効果を発揮するには、上でお話ししたミトコンドリア電子伝達系が働く必要があります。
「これを飲んでいればOK!」と宣伝するサプリメント健康食品???ですね。

このことは多くの生活習慣病の薬にも当てはまると思います。
糖尿病の薬も、高血圧治療薬も、高脂血症治療薬も、骨粗鬆症治療薬も、 運動と併用して初めて効果が出る 
と思ったほうが良いと思います。

運動とミトコンドリアについてはこちらの記事も読んでください。
運動・ミトコンドリア
ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!
運動不足のリスクは喫煙なみ
たくさん動いていれば何を食べてもOK

2016年9月10日土曜日

運動不足のリスクは喫煙なみ

スウェーデンで45年間にわたり、死亡リスクを増やす原因について調査をしたところ、第1位は喫煙であることが認められました。

ここで問題です。
喫煙に次ぐ第2位は、次のうちどれでしょう。

  1. 血清コレステロール
  2. 運動不足
  3. 高BMI


回答に替えて、研究の概要をご紹介しましょう。

中年男性の45年間の死亡リスクに影響を及ぼす因子について

Per Ladenvall et.al.; Low aerobic capacity in middle-aged men associated with increased mortality rates during 45 years of follow-up.

【研究の方法】
  • 1963年に50歳だった男性の792人のデータを使用した、45年間にわたる前向き観察研究(プロスペクティブコーホート研究)。
  • 参加者が54歳の1967年に、792人のうち656人が自転車(エルゴメーター)に乗ってマスクをつけて、最大酸素摂取量(VO2max)を測定して、運動能力の上限を測定した。
  • 2012年の99歳まで参加者を観察して、約10年ごとに運動能力検査をした。
  • 参加者の死亡および一般国民の死亡率は、スウェーデン国民死亡原因登録のデータで確認した。
  • 参加者の身体測定・血圧や血液検査データと、運動能力と死亡のデータを比較して分析した。
【研究の結果】
  • 運動能力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)で、次の3つのグループに分けて比較した。
  1. VO2maxが高いグループ
  2. VO2maxが中等度のグループ
  3. VO2maxが低いグループ
  • VO2maxが高いグループは、特に運動しない場合と比べ45年間の死亡リスクが21%低下すると推算できた[ハザード比0.79 (95%信頼区間0.71–0.89; p < 0.0001)]。
  • つまり、運動しないと45年間で21%死亡しやすくなるといえる。
  • 運動しないことの死亡リスク増加へのインパクトは、喫煙に次いでの2位で、高BMI、血清コレステロール高値などよりもはるかにリスクが高かった。
  • 喫煙での死亡リスク増加は58%の上昇であった[ハザード比1.58 (95%信頼区間1.34–1.85; p < 0.0001) ]。
いかがですか。

この研究は45年にわたる長期間参加者の656人を追跡して、10年ごとに運動テストも実施しているのでかなり信頼できる研究結果といえるでしょう。
現在では、喫煙は最もはっきりした健康へ悪影響のあるリスクの1つです。

運動不足はその喫煙に次いで、死亡リスクを上げてしまうのです。

エバーグリーン研究室では、運動の習慣をつけることが、生涯の健康にどれほど良い影響を与えるかについて、皆さんといろいろ勉強してきました。

でも、運動不足がどれだけのデメリットであるかについては、解説するのが難しいところでした。
この研究で、実感いただけたでしょうか?

禁煙に成功した方、次は運動習慣ですね。

運動のメリットを復習

運動することを習慣にできれば、まず筋肉が太目に維持され、筋肉内のミトコンドリアが増加し、その働きが向上します。
筋トレと有酸素運動を組み合わせた適度な強度がお勧めです。

肩こり、腰の痛み、関節痛など、筋肉がつくだけで解消できる痛みも多くあります。
また、有酸素運動をして心拍数を上げると血流がよくなり、肺や心臓や血管の健康にも役立ちます。
定期的に骨が刺激を受けることで、骨も強くなります。

代謝が上がるので、体の中の不要なものが排泄されやすくなり、何より太らず健康に美味しいものを楽しめます。

また、運動ががん認知症などいろいろな病気を予防する証拠も数多くあります。
さらに、適切な運動で病気を回復に向かわせたり、進行を遅らせることさえできます。

エバーグリーン研究室では、健康な生活の基礎となるのが、運動習慣と考えています。
どんなダイエットや健康法、サプリメントや薬も、適切な運動習慣の効果にはかないません。

また、これらのダイエットや健康法も、運動と組み合わせなければ効果が発揮されないと考えて間違いありません。


キーワードは、
  • 筋肉の量が増加
  • ミトコンドリアが増加して活性化
  • 有酸素運動+筋肉トレーニング
  • 心肺機能向上(血流を良くする)
  • 動脈硬化予防
  • 骨の健康
  • 肥満回避
  • 代謝向上
  • 老廃物除去(デトックス)
  • 汗をかく能力(熱中症予防)
  • 体温調節
  • 自律神経活性化
  • 認知機能改善(ボケ防止)
  • 精神の健康
  • がん予防
  • メタボ防止(血圧、血糖値の正常化)
など、たくさんあげられます。

関係する話題は、下記をご参照ください。

ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!

2016年8月12日金曜日

熱中症対策、誤解していませんか?

熱中症になったら「水だけ飲んでも汗で出てしまった塩分やミネラルが不足してしまうので、塩分やミネラルも補いましょう」といわれますね。
そのようなときには、OS-1のような経口補水液が役に立ちます。

ここで、よく誤解されていることがあります。


熱中症で誤解されやすいポイント1

熱中症にならないようにするために一番必要なのは、水分を摂り続けることではありません。
予防で大切なのは
  • 体の中から余分な熱を発散させること。
  • 熱を発散させるには汗をかくのが一番なので、普段から上手に汗をかけるようになるために、筋肉を鍛えること。
  • お年寄りや体力がなくて汗がかけないような方は、暑い場所を避けること。
  • スポーツなどで大量の汗をかく可能性ある場合は予防的に水分補給をする。
です。

熱中症で誤解されやすいポイント2

熱中症で脱水になってしまったら、

水分+塩分(ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質)+糖

を補わなければなりませんが、

熱中症にならないようにするために、1日中水分+塩分+糖を摂り続ける必要はありません。

そのようなことをしたら、むしろ、塩分(特にナトリウム)も、糖も摂りすぎになってしまいます。

そして何よりも、熱中症になってしまったら、まずは体を冷やしましょう。
クーラーの効いたところに駆け込んだり、水を浴びるなどして、とにかく体を冷やすことです。


熱中症とは

ここからは、熱中症について詳しくお話しします。

熱中症対策を考える前に、熱中症とは何か、正しく理解しましょう。

熱中症は「熱にあたる(中る)」と書きます。
漢字のとおり、熱が体の中から出ていけなくなった状態です。

健康な人は、気温の高いところで長時間過ごしたり、激しい運動をしたりして体が熱くなると、汗をかくことで体温を調節します。

汗をかけば乾くときに身体の表面から気化熱が奪われ、体温が下がります。
また、顔が赤くなるのは顔の表面に血管、血液が拡がってきて身体の表面から熱を外に逃がそうとするためです。

ですから、体の中の水分が少なくなると汗をかけなくなって、体温調節がうまくいかなくなります。
この状態が熱中症です。

正しい熱中症予防策とは?

熱中症を予防するにはどうすればよいでしょうか。

上手に汗をかくことができる人は、水分補給をすることで熱中症を予防できます。
若い人や、体力のある人は、比較的上手に汗をかけます。

汗をかきにくい人は、お年寄りや体力のない方に多いようです。
まさに、熱中症になりやすいと言われている方々ですね。

では、どうすれば汗をかけるようになるのでしょうか。

答えは、筋肉をつけてミトコンドリアを増やすことです。

どうして筋肉をつけてミトコンドリアが増えると汗がかけるようになるかは、とても難しいので別の機会にお話ししましょう。

ミトコンドリアについては、こちらをご覧ください。
⇒ミトコンドリアの数で若さが決まる

うまく汗をかけない人の熱中症予防策は

高齢者など、筋肉が少ない方は、体の中に水分があってもうまく汗をかけないために熱中症になる危険があります。
このような方が熱中症にならないためには、体温が高くなるような環境に、長くいないようにすることが肝心です

特に高齢者は、部屋の温度が高くなっていることに気付かない場合がありますので、室温と湿度をまめにチェックして、温度は28度以下、湿度は50~60%を超えないように、エアコンを使いましょう。

「熱中症対策に経口補水液」に異議あり!

熱中症対策にOS-1(オーエスワン)のような経口補水液が盛んに勧められていますね。
あたかも、経口補水液を飲み続けていれば熱中症にならないかのような印象を受けます。

が、正確には
「熱中症で少しでも脱水症状が見られたら経口補水液」
「暑いところに行ったり、沢山汗をかくスポーツをするような状況で脱水する可能性がある場合に予防的に経口補水液」
と言わなければいけません。

脱水するリスクの少ない生活をしている場合は、夏だからと言って経口補水液を飲み続ける必要はありません。

普通の生活をしていて(激しい運動をしないで)汗をかくだけならば、お水で十分、脱水は予防できます。


ただの水というのも味気ないので、我が家では、レモンミント水を常備しています。

朝、レモンジュースを作ったあとのミキサーに、ミントと水を入れて、もう一度回します。

レモンミント水より、もう少し味の濃い飲み物がほしいというときには、フルーツジュースに比べて糖質の低い、トマト水はいかがでしょうか。

【材料】
  • トマト   小1個(約100g)
  • 水+氷  700mL
  • お好みでバジル 1/3枚
  • 汗をかいたなと思ったら、塩  1g (塩は、小さじ1=6g なので、1gは小さじ1/6)

経口補水液での塩分の摂りすぎに注意

経口補水液は、水分を効率よく吸収できるように、グルコース(ブドウ糖)と塩分を含んでいるため、1日中飲むには糖分も塩分も高すぎます。

参考までに、厚生労働省が定める日本人のナトリウム(食塩相当量)の目標量は、
  • 男性8.0g/日(ナトリウムとして3144mg)未満
  • 女性7.0g/日(ナトリウムとして2751mg)未満
です。

食塩1gには、ナトリウムが約393mg含まれています。

OS-1には100mL中に115mgのナトリウムが含まれているので、500mL(ペットボトル1本)飲むと、575mgのナトリウムを摂取することになります。

飲み物からの1日の水分摂取量は、少なくとも1500mLとされています。
これをOS-1にすべて置き換えて、ペットボトル3本(1500mL)飲んだとすると、
575mg×3=1725mg
のナトリウム摂取。

1日の目標値の半分強です。
食事などでもナトリウムは摂取されるので、目標値を超えてしまう可能性があります。

塩飴もNG

暑くなると、よくレジの周りにおかれる塩飴
これは糖質の塊です。

塩の辛さを甘さでマスクして美味しくしています。
ですから、飴とほぼ同じ量の角砂糖をなめているのと変わらない糖質を摂ることになります。

一見、健康に良いようなコピーがかかれているパッケージをよく見かけますが、塩分(塩、NaCl、ナトリウムなどの表示)の量と、糖質の量を確かめたうえで買うようにしましょう。

脱水状態になったら経口補水液!

経口補水液が適しているのは、
  • 感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を伴う脱水状態
  • 高齢者の経口摂取不足による脱水状態
  • 過度の発汗による脱水状態
どれも、普通の健康状態ではなくなってしまったときです。

経口補水液は、自宅でも簡単に作れます。

【材料】  
  •  500 mL
  • 1.5g (小さじ3/10)
  • 砂糖 20g (大さじ2と1/5)
※ミネラルを含む水で作れば、ミネラルも摂取できます。

経口補水液が良いと言われる理由は正しい??

小腸から体内に水分を吸収するには、ブドウ糖とナトリウムイオン(Na+)が不可欠です。

経口補水液を勧める理由として、

「ブドウ糖とナトリウムイオンは、1:1の割合で取り込まれるので、1:1の割合で含まれる経口補水液を飲むと、最も効率よく水分を吸収することができる」

と、メーカーは言っています。

しかし、実際には、ブドウ糖とナトリウムイオンが含まれてさえいれば、小腸はブドウ糖とナトリウムイオンを1:1の割合で水とともに拾い上げて吸収するので、元の飲料水に含まれる割合は問題になりません。

つまり、ブドウ糖とナトリウムイオンがある程度入っていれば、厳密に1:1でなくても構わないということです。

ということで、安く簡単にできる経口補水液もどきのレシピをご紹介します。

経口補水液もどき

【材料】
  • ポカリスエット 500mL 
  • 水        500mL 
  • 塩        3g

〈参考〉小腸で水分を吸収する仕組み

小腸の吸収のシステムについては、少々、専門的なお話になります。
興味のある方はご覧ください。
エネルギーが必要なトランスポーター:SGLT1 Na+/K+ポンプ エネルギーを使わないトランスポーター:GLUT2 アクアポリン   Na+とブドウ糖濃度が適切な経口補水液を飲むと、この SGLT1が働き、Na+とブドウ糖が小腸の壁の細胞の中に移動します。⇒①  小腸の壁の細胞に入ったブドウ糖は、今度はGLUT2というトランスポーターで小腸の壁を囲んでいる血管の中へ移動します(⇒②)。  ブドウ糖と一緒に小腸の壁に入ってきたNa+は、Na+/K+ポンプ(ナトリウムイオン カリウムイオン ポンプ)というトランスポーターで、血液中のカリウムイオン(K+)と入れかわる形で血管の中に出ていきます(⇒③)。  Na+とブドウ糖が血液中に入ると、小腸の中と小腸を囲む血管の中とで浸透圧に差ができます。 (血管の中、つまり血液のほうが、小腸の中より浸透圧が高くなります。)  体の反応は、この浸透圧の差を元に戻す方向に進みます。  ここで、もう一度、腸肝の壁をみてみましょう。 腸管の壁の細胞には、水を取り込むアクアポリンというトランスポーターがたくさん存在しています。  腸管の中と血液と間にできた浸透圧の差の分、水はアクアポリンを通って腸管の膜を通過し、血液の中へ入っていきます。(⇒④)  このようにして、経口補水液に含まれるブドウ糖とナトリウムと水は、血液中に入り、全身に送られます。イラスト 画像 糖尿病

食塩は、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)が化合してできています。

小腸には、ナトリウムイオン(Na+)ブドウ糖(グルコース)の両方が存在すると働くSGLT1というトランスポーターがあります。

トランスポーターというのは、細胞膜の外から中に特定の物質を汲み入れたり、中から外に特定の物質を汲み出したりするポンプのようなものです。
トランスポーターには、働くのにATPというエネルギーが必要なものと、エネルギーを使わないで働くものがあります。
ここでは、次の4種類のトランスポーターが登場します。
  • エネルギーが必要なトランスポーター:SGLT1 Na+/K+ポンプ
  • エネルギーを使わないトランスポーター:GLUT2 アクアポリン
Na+ブドウ糖濃度が適切な経口補水液を飲むと、この SGLT1が働きます。
SGLT1は、エネルギー(ATP)を使ってNa+を小腸の壁の細胞の中に取り込み、流れを引き起こすことで一緒にブドウ糖も引き込みます。⇒①

小腸の壁の細胞に入ったブドウ糖は、今度はGLUT2というトランスポーターで小腸の壁を囲んでいる血管の中へ移動します(⇒②)

ブドウ糖と一緒に小腸の壁に入ってきたNa+は、Na+/K+ポンプ(ナトリウムイオン カリウムイオン ポンプ)というトランスポーターで、血液中のカリウムイオン(K+)と入れかわる形で血管の中に出ていきます(⇒③)

Na+ブドウ糖が血液中に入ると、小腸の中と小腸を囲む血管の中とで浸透圧に差ができます。
(血管の中、つまり血液のほうが、小腸の中より浸透圧が高くなります。)

体の反応は、この浸透圧の差を元に戻す方向に進みます

ここで、もう一度、腸管の壁をみてみましょう。
腸管の壁の細胞には、を取り込むアクアポリンというトランスポーターがたくさん存在しています。

腸管の中と血液との間にできた浸透圧の差の分、アクアポリンを通って腸管の膜を通過し、血液の中へ入っていきます。(⇒④)

このようにして、経口補水液に含まれるブドウ糖ナトリウムは血液中に入り、全身に送られます。

ここで気が付くことがあります。
  • ブドウ糖=糖尿病の原因
  • ナトリウム=高血圧の原因
  • =むくみの原因=高血圧の原因
ブドウ糖ナトリウムも、摂りすぎてはいけないとされているものの代表格です。

昔は、塩も砂糖も貴重品でした。
これらを摂ることが難しい環境だったために、わざわざ取り込むためのトランスポーターができ、現在は過剰摂取によって病気を引き起こすことになったのでしょう。

健康な人が経口補水液を常飲することがいかに無駄なことかがお分かりいただけると思います。

個人的には経口補水液よりお勧め アミノ酸スープ

経口補水液 だし汁 
アミノ酸スープ レシピはこちら

脱水で身体がだるいときには、アミノ酸スープをお試しください。
経口補水液より、格段においしいです。

OS-1に含まれるアミノ酸は、グルタミン酸ナトリウムだけですが、アミノ酸スープには、30種以上のアミノ酸が含まれています。
旨み成分として有名なイノシン酸も含まれます。

ビタミンやミネラルも、OS-1よりたくさんの種類が含まれています。

経口補水液がいいというけれど

「脱水には経口補水液」といってきましたが、ここにも重要な落とし穴があります。

原因が熱中症であっても下痢や嘔吐であっても、脱水状態になってしまったら、口からの水分・電解質の補給では間に合わないことが多いです。
特に、重症な下痢や嘔吐の時には口から水分をとっても吸収できません。

このようなときには、経口補水液を買いに走るのではなく、病院に行って点滴してください。

2015年8月21日金曜日

運動すればボケを防げる!

いつまでも健康で楽しく人生を送ることを目指して、エバーグリーン研究室は活動していますが、健康でいることの最終目標は、元気ボケずに老年期を過ごして穏やかな最後を迎えることにあると思います。

知り合いの医師たちは、ほとんどの患者さんが、
「自分は重い病気にならない」
「自分はがんにはならない」
と思っていると口を揃えていいます。
みな病気の怖さはなんとなく知っていても、自分は例外と思いがちなのです。

生活習慣を改善すれば、認知症にならない

不健康な生活習慣が原因になることが多い高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病や、喫煙による肺疾患、アルコール過飲による肝臓・膵臓疾患、がん、など、日本の人口が高齢化すればするほど、病気になる確率は高くなります。
やはり、避けられる病気は、できる限り生活習慣を改善して、回避することが大切です。

運動, 運動不足, 有酸素運動, 認知症, 筋トレ, 筋肉, 認知機能,
2025年には65歳以上の5人に1人が認知症、730万人!
認知症の原因はまだよくわかっていませんが、高血圧や糖尿病の患者さんに認知症が多いことがわかっていますし、脳卒中を起こした人は認知症になりやすいこともわかっています。
つまり、生活習慣の改善で、認知症も防げるということです。

自分だけは認知症にはならない、と思っていませんか?

図を見てください。

あと10年後にはなんと65歳以上の5人に1人が認知症という予測されているのです。
私もあと約15年で65歳になりますので、とても他人事ではありません。

では、どうすればよいのでしょうか?

そのヒントとなる研究結果が報告されましたので、ご紹介しますね。

運動は高齢者の認知機能(脳機能)を良くする


Eric D. Vidoni et al. Dose-Response of Aerobic Exercise on Cognition: A Community-Based, Pilot Randomized Controlled Trial. PLoS ONE 10(7): e0131647. doi:10.1371/ journal.pone.0131647


【研究の方法】
  • 認知機能に問題のない65歳以上の101人の高齢者をコンピューターソフトで、下記の4つのグループにランダム(無作為)に分けた。
  1. 特別に運動をしないグループ
  2. 中等度の運動を週あたり150分程度行うグループ
  3. 中等度の運動を週あたり75分程度行うグループ
  4. 中等度の運動を週あたり225分程度行うグループ
  • 研究の開始時に参加者の心肺機能と脳機能をテストして測定した。
  • 研究参加者は26週間、それぞれのグループの運動を続けた。
  • 研究参加者は研究の終了時にも同じテストをして、それぞれの成績を比較した。
  • 脳機能は言語の記憶、視覚空間認知機能、注意力・集中力、問題への柔軟性・対応力、論理力・推察力の脳機能についてテストした。

【研究の結果】
  • 中等度の運動を行う2、3、4のどのグループでも、程度の差はあるが、脳機能が改善した。
  • なかでも、特に4の週あたり225分運動行うグループは、視覚空間認知機能の成績が良くなった。この機能は、物体がどこにあるかを理解し、そこまでの距離などの見当をつける能力。
  • 注意力・集中力も2、3、4のどのグループでも改善していた。         

【研究から考えられること】
  • 脳の機能は、運動量が多いほど改善する傾向があった。
  • しかし、単純に運動量を増やすため運動時間を長くすればいいのではなく、運動時間よりも運動の強度のほうが大切である可能性がある。
  • 運動に慣れてきて、以前の運動の強度が楽に感じるようなら、ダンベルを重くするなど運動の強さをだんだん上げていかないと、脳機能の改善には効果が発揮されないと考えられた。

いかがでしょう?

運動で脳機能が改善するなんて、とても心強いですね。
認知症を予防するには、運動は欠かせないようです。

運動のステップアップが脳の快感に

筋トレをしているとわかりますが、たとえばダンベルの重さを慣れに従って少しずつ重くしていかないと、筋肉は付いてきません
また、骨折などで動けない期間など、身体の機能を使わない期間があると、筋肉をはじめとして、体の機能はどんどん落ちていきます。

⇒筋肉を保つためにはどの程度の運動が必要か
⇒筋肉を維持するにはどうすれば良いか

身体の機能を使わない期間が長い寝たきりの患者さんなどでは、廃用症候群といって(生活不活発病ともいいます)、筋肉が大幅に落ちて、床ずれがでてきたりして、身体の機能がどんどん落ちていくのですが、身体の機能だけでなく、精神的な機能も落ちることが知られています。

運動と脳機能の関係もきっと同じですね。

運動を始めて、慣れてきたころに、さらに強さを上げて運動することで、目標を達成した快感を繰り返し得ることができます。
これが脳にとって刺激になるのでしょう。
刺激を受け続けることが、脳の機能を維持するカギなのでしょうね。

身体の運動や、脳の運動も続けて、その強度を上げていくことは、言い換えれば、チャレンジし続けることです。



 重い植木鉢を力いっぱい押しのけて障害物を乗り越え、達成感に浸る 
エバーグリーン研究室所属リクガメ うらら研究員(愛称:うらちゃん)
カメにも運動は欠かせない。リクガメの空間認知機能は優れている。



こうすることで、我々は歳をとっても常に新たな目標を得ます。
理想の体型に一歩ずつ近づく。
素敵なことです。
目標に向かって、ささやかにでも努力を続ければ、体はそれに応えて機能を維持してくれるようです。

また、慣れてくれば、運動の後の爽快感は格別です。
この爽快感は、運動により脳の報酬系が活性化されドパミンが分泌されるためです。
報酬系は、目標を定め、努力して、それを達成することで活性化されます。
この達成感は、アスリートはみな経験しています。

運動を習慣化すれば目標ができて、ストレスを解消でき、かつボケ防止にも役立つ。

もう運動しない手はありませんね。

2015年7月18日土曜日

ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには

ミトコンドリアの
ミトちゃん
エバーグリーン研究室では、いつまでも健康で若さを保つために、運動の大切さをお伝えしています。

運動すると、筋肉がつきます。
定期的な運動によって筋肉を保つことが大切です。
⇒体重・BMIより筋肉量が大事
⇒筋肉は脚から落ちる

なぜなら、筋肉は我々ヒトに活力=エネルギーを生み出して、与えてくれるミトコンドリアの住処だからです。
筋肉量が多ければ、ミトコンドリアの量と質が良い状態と言えるでしょう。
⇒ミトコンドリアの数で若さが決まる
でも、いったいどれくらいの頻度で運動をすれば筋肉を保てるのでしょう?

今日は、筋肉を保つためのヒントになる研究をご紹介します。

筋肉を保つためにはどの程度の運動が必要か

Six weeks’ aerobic retraining after two weeks’ immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but does not fully rehabilitate leg strenght in young and older men

【研究の目的】
  • 運動をしないとどの程度の割合で筋肉が落ちるか、そして、筋肉を回復させるにはどの程度の運動が必要かを若者と高齢者で調べる。
【研究の参加者】
  • 17人の男性若者(平均23歳)と15人の男性高齢者(平均68歳)。

【研究の方法】
  • 2週間、片方の脚に脚枷(脚が動かないような装具)をつけたあと、脚力、筋肉量を調べてそれぞれ比較した。
  • その後、筋力リハビリのため、1週あたり3~4回の自転車漕ぎトレーニングを6週間して、筋肉の回復を測定した。
【研究結果】
2週間の足枷で、
  • 若者グループでは脚の筋肉の収縮力(脚力)が平均28 %低下し、高齢者グループでは平均23%低下した。
  • 若者グループでは脚の筋肉量が平均で485g減少し、高齢者グループでは平均250g減少した。     
6週間の自転車漕ぎ筋力リハビリトレーニングで、
  • 若者グループでは脚力が平均34 %回復し、高齢者グループでは平均17%回復した。
  • 脚の筋肉量は、若者グループでのみ、平均669g回復した。
【研究から考えられること】
  • 足枷によって不活動にして2週間過ごさせると、若者では最大で筋力の約3分の1が失われ、高齢者では約4分の1を失った。
  • 若者では2週間の不活動によって40~50代の筋力と同程度にまで筋力が低下したことになる。
  • これは、若者のほうが高齢者より片脚につき1kgずつ筋肉量が多いためと考えられる。
  • 若者では筋肉が多い分、運動しないと筋肉の減少が激しいようだ。
  • しかし、高齢者では、筋肉の絶対量が少なく、運動能力が落ちているため、筋肉量の減少幅は若者より少なくてもその悪影響は大きいと思われる。
  • 筋力リハビリのための、週あたり3~4回の自転車漕ぎトレーニングは、6週間続けても、若者グループの一部を除いて、以前の筋力に戻るには十分な運動と言えなかった。
  • 一度失った筋力を取り戻すには、有酸素運動である自転車漕ぎトレーニングにプラスして、筋トレが必要であると考えられた。
  • わずか2週間の不活動な状態による筋力低下を、ある程度まで回復させるにも、自転車漕ぎトレーニング6週間という3倍の期間が必要であった。
健康な人でも、ケガなどをすれば否応なく不活動な期間ができてしまう。

いったん落ちた筋力の回復にこれだけの時間がかかることを考えると、不活動による筋力の急速な低下の仕組みが理解できる。

高齢者では筋肉を失うと、回復が難しい

いかがですか、
日常的な運動の大切さがわかる研究ですね。
筋肉の維持には、定期的な有酸素運動だけでなく、筋トレが大切なことも理解できる研究ですね。

特に注目すべきなのは、週3~4回の自転車漕ぎトレーニングを6週間続けても、高齢者では元の筋力まで戻らなかったことです。

高齢者では一度、筋肉・筋力を失うと、回復が簡単ではないことがわかります。

これは、感覚的にもわかりますね。

若者は、まだ細胞に活力があるので、細胞分裂が活発になって、回復が早いのでしょう。

歳をとってくると、いろいろなことに気力が起きなくなって、億劫になり、不活動になりがちです。

歳をとったらなおさら意識して運動に励まなくてはならないと研究は教えてくれたのです。

若いときから運動する習慣を

歳を取ってから一念発起して運動を始めるというのは現実的ではありませんから
中年に差し掛かったくらいから定期的な有酸素運動+筋トレをはじめて、準備しておくほうがよさそうですね。
腕に付けられるタイプもあって、アンクルリストウエイトといいます。 500gなら、女性でも使えますよ。
女性でも使える、アンクルリストウエイト。これでラジオ体操はいかが?

仕事が忙しい中でも週末にはスポーツジムに通っている!という習慣は重要です。

これにプラスして、毎日少しの時間でも筋トレができれば理想的です。
お勧めは、体力・筋力に合わせたダンベルを使ってラジオ体操をすること。

腕に付けられるタイプもあって、アンクルリストウエイトといいます。
500gなら、女性でも使えますよ。

2015年5月14日木曜日

1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる


座りがちの生活は、危険なことは以前お話ししました。

今日は、それを裏付ける研究がいくつか発表されたのでご紹介します。



1時間にたった2分の運動で死亡リスクが減る

【研究参加者】
2003-2004年のアメリカ国民健康栄養運動調査の対象となった3626人のアメリカの一般人で、うち383人が慢性腎臓病患者だった。
  
 【方法】
1時間相当の活動を加速度センサーで計測して、
①座りがち 
②低い活動 
③軽い活動 
④中等度活動~活発
の四段階に分類した。

①の座りがちの人が1時間ずっと座りがちを続けた場合と、1時間に2分間、上の②~④の活動をした場合とで、死亡率に差が出るかどうかを、最長3年間観察して分析した。

【結果】
●座りがちでも、1時間に2分間、③の軽い活動を行えば、全参加者で死亡リスクが約33%低下した。
●慢性腎臓病患者を選り分けて分析すると、1時間に2分間、③の軽い活動を行うと死亡リスクが41%低下していた。

なお、③の軽い活動は(加速度センサーで500-2019カウント/分)だった。

ずっと同じ姿勢でいるのは不自然なこと?

いかがですか。
上の研究の「加速度センサーでのカウント」というのがわかりにくいですね。
要するに、1時間に2分間、歩くか、ちょっと早歩きしなさいと理解すればいいと思います。
個人差はありますが、2分間歩くまたは早歩きで7-9kcalぐらい消費する運動です。

デスクワーク 猫背 サルコペニア 運動不足 エコノミークラス症候群職場でのデスクワークなどで、ずっと座っていると、伸びをしたくなったり、トイレに立ったり、無意識にしていると思います。
これは、同じ姿勢でいることに体が警告を出しているのでは?と個人的には思っています。

エコノミークラス症候群はご存じでしょう。

長時間座っていると、下半身(脚)の静脈に血の塊が出来やすくなって、この血の塊が肺に飛んで肺の血管を塞いでしまい、呼吸困難になったりするのがエコノミークラス症候群です。

私たちの体は、下肢(特にふくらはぎ)の筋肉が動くことで、下肢の静脈が押されて、血液が心臓に還っていくのを助けています。
ミルキングアクション、筋ポンプ作用とも言います)。

血液の循環はとても大切です。
特に、重力で下に下がった静脈の血を心臓に還すことが重要なのです。
心臓は血液を送り出すポンプですが、吸い上げる機能は弱いのです。
血液の循環から考えても、ずっと同じ姿勢でいるのは1時間が限度で、それを超えそうなら、最低2分歩くことが必要ということですね。

職場の上司の方にも教えてあげてください。

死亡の原因は肥満よりも運動不足が多い

つぎは、ヨーロッパで行われた観察研究です。

Physical activity and all-cause mortality across levels of overall and abdominal adiposity in European men and women: the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition Study (EPIC)

【研究参加者】
33万4,000人の男女のデータを集めた。
平均12年の観察期間中、参加者は身長、体重、胴囲を測定し、身体活動レベルを自己申告してもらった。
観察期間中の死亡リスクと、身体活動のレベルとの関係を分析した。

【結果】
●参加者の約4分の1(22.7%)が座りがちな職業で、レクリエーションもしない、“非活動的”に分類された。

●“非活動的”な人のグループと全く運動しないわけではないが軽い運動はする“ある程度非活動的”な人のグループでの死亡リスクをを比較した結果に大きな差があった。

●これらの結果から、1日に90~110カロリーを消費する運動(1日20分ぐらいの早歩き)により、死亡リスクを16~30%低減できると研究者たちは推定した。

●さらに、研究者たちははヨーロッパでの死亡に関する最新データを分析して、ヨーロッパでの男女の死亡920万件のうち、33万7,000件は肥満によるものと推定し、この約2倍(67万6,000件)が、運動不足によるものと推定した。

筋肉がないことが危険?

いかがですか?

肥満と健康についての数多くの研究の中には、ちょっと太り気味の人のほうが、死亡リスクが低いというものが結構あります。

肥満も程度の問題で、明らかなリンゴ型肥満で慢性的に炎症が起こってしまっていると死亡リスクが上がると思います。
りんご型肥満でおなかが炎症

でも、BMIや体重だけでは判断できないと思います。
私の個人的な解釈ですが、肥満というより、筋肉が脂肪に置き換わった場合が危険だと思います。
体重・BMIより筋肉量が大事

ですので、運動不足のひとの死亡が多かったのっではないでしょうか?
この研究者たちの推定が正しければ、痩せていても、筋肉がない人はリスクが高いはずです。
筋肉量と死亡リスクについての研究を行えばよいと思います。

定期的に運動すれば、筋肉が落ちてしまうことはありません。
筋肉は脚から落ちる

始めの研究では1時間に2分運動するだけでも、死亡リスクが下がるとしていました。
1日16時間活動(起きて)いるとして、2分間を15回、1日当たり30分の軽い運動=歩行か早歩きとなります。
2つ目の研究での、1日に90~110カロリーを消費する運動(1日20分ぐらいの早歩き)とだいたい同じぐらいの運動量です。

この2つの研究は全く関係がありませんが、死亡リスクを減らすのに必要な最低限の運動量がだいたい一致しているのが興味深いですね。


2015年4月7日火曜日

高齢者は使わない方がいい薬

年をとれば誰でも故障は多くなるもの。
血圧が高くなれば降圧薬を、腰が痛ければ鎮痛薬を、眠れなければ睡眠薬を、加えて便秘薬、胃薬、目薬、骨粗鬆症の薬・・・・悪くなったところを薬でカバーすればいい、そんな風に思っていませんか?
でも実は、そんなに単純じゃないんです。

一緒に使うと副作用が出やすくなる薬があることはよく知られていますね。
それだけでなく、胃の薬が認知症を悪化させたり、降圧薬が喘息をひどくしたりと、ある疾患を治すために飲んだ薬が別の疾患を悪化させてしまう原因になることもあります。

そんな、高齢者が使うと危険な薬のリストが改訂される予定で、現在パブリックコメントを募っています(2015年4月07日現在)。
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(案)
日本老年医学会、厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「高齢者の薬物治療の安全性に関する研究 (H25-長寿-一般-001)研究班、国立長寿医療研究センター

高齢者が使ってはいけない薬が調べられる

このリストは、1か月以上続けて使う薬の中で、高齢者が使うべきでないものを「ストップ」、高齢者でも有効性が期待できて副作用が少ないと思われるものを「スタート」として掲載しています。

誰でもインターネットで見ることができるので、高齢のご家族が今使っている薬が該当しないかどうか、確認できます。

ただし、使ってはいけない薬にリストアップされているからといって、すぐに飲むのを止めないで、まず、医師に相談してみましょう。
ずっと飲み続けていた薬を突然やめることは、とても危険です。

高血圧の薬を例にとってみても、これまで、薬の力で血圧が下がっていたわけですから、副作用が出るかもしれないといって自己判断でやめてしまうと、血圧が突然上がってしまいます。
高齢者でも問題なく使える血圧の薬もありますから、そのような薬に変えてもらわなければなりません。

薬によっては、徐々に減らさないとよくない作用が現れることもあります。

高齢者に注意が必要な理由は

このリストは、75歳以上の高齢者と、75歳未満でも筋力が落ちて元気がないような高齢者が対象です。
これらの人たちには、薬が本来期待された効果を示さず、副作用が出やすくなる危険があるためです。
なぜ副作用が出やすいか・・・理由は次のようにたくさんあります。

年をとると、細胞の水分が減る

これは、30代を過ぎたころから誰でも実感することでしょう。
薬には、水に溶けやすいタイプと油に溶けやすいタイプがあります。
血液中に入った水に溶けやすいタイプの薬は、組織の細胞の中に水分がたくさんあれば、毛細血管から組織の中にたくさん入っていきますが、細胞の水分が少なければ、細胞の中に入る量が減るので、血液中の薬の濃度が濃くなります。
血液中の濃度が上がれば、作用を示す場所へたくさん薬が届くことになりますから、作用は強く現れます。

年をとると、脂肪組織の量が増えることが多い

年齢に関係なく、脂肪組織の量が多いなあと思う人は注意が必要です。
ただ、年を取って動くことが少なくなると、筋肉が落ちて脂肪組織が増えることが多いですね。
そうなると、脂肪に溶けやすいタイプの薬が血液中から脂肪組織にたくさん移行してしまいます。
その結果、血液中の薬の量が減るので、作用は弱まります。

年をとると、血液中のアルブミンの量が減る

血清アルブミンという名前を聞いたことがあると思います。

イラストでみる 経口薬の体内動態 ADME健康診断で、肝機能のマーカーとして測定する、「Alb」と書かれているものです。
肝臓で作られて血液中に放出されるタンパク質なので、肝機能が落ちたり、栄養失調になると減少します。
年を取っても減少します。
肝機能が落ちてくるのですから、仕方ありませんね。

血清アルブミンには、薬を吸着する性質があります。

どのくらい吸着するかは薬によって異なりますが、血清アルブミンに吸着していると組織に入っていかないので効果を示しません。
言い換えると、薬が目的の臓器に到達して作用を示すためには、血清アルブミンに吸着していないフリーの状態である必要があります。

ですから、血清アルブミンに吸着する割合が高い薬では、血清アルブミンが少なくなるとフリーの薬が増えて、作用が強く現れます。

年をとると肝臓で薬が代謝されにくくなる

薬物を飲んでから胃、小腸を通って肝動脈 肝臓 全身 イラストで見ると
①薬を飲むと
②胃を通過して小腸へ
③小腸から吸収されて、門脈(緑)を通って肝臓へ
☆肝臓で代謝
④肝臓から肝静脈を通って心臓へ
⑤心臓から全身へ
⑥肝臓へ戻って、もう一度代謝
飲み薬は、小腸から吸収されると、まず肝臓へ行き、それから全身の血管を巡ります。
数%が壊されたり、形を変えられたりして本来の作用を示せなくなります。

これを肝臓における代謝といいます。
小腸から取り込んだ食べ物などの中に、身体に体に害を与えるものがあるといけないので、まず、肝臓でチェックする仕組みになっているのですね。

1回目に肝臓を通ったときに代謝されなくても、血液中をぐるぐる回って何度か肝臓を通過するうちに効果を示す形の薬はなくなっていきます。

年を取ると、この代謝の力が落ちるので、排泄されるまで、効果を示す形の薬が血液中を回ります。
そのために、本来期待する以上の強い作用が現れてしまいます。

薬によっては、肝臓で代謝されることで効果を示す形になるものもあります。
この場合は反対で、なかなか効果を示す形になれず、期待したほどの効果が得られません。

年をとると、腎臓からの排泄が遅くなる

体中の血管を巡る薬は、肝臓で代謝されるのと同時に、腎臓から尿として排泄されたり、肝臓から腸管へ便として排泄されたりして、最終的にはすべて体の外へ出されます。

どこから排泄されるかは薬によって違いますが、腎臓から排泄される方が多いです。

年を取ると腎臓の機能も落ちてくるので、一度に排泄される量が減って、長い時間体の中にとどまるようになり、作用が強く、しかも長い時間現れるようになります。

これは、糖尿病など、他の原因で腎臓の機能が低下した人も同じです。

年をとると、薬に対する体の反応が変わる

薬によっては、血液中の濃度が同じでも、身体の反応が変わってくるものがあります。

例えば、交感神経に働く薬は効果が強く現れることがあります。
血圧の薬や、喘息の薬、排尿障害の薬などのなかに、そのような薬がありますが、すべてが該当するわけではありません。

反対に、睡眠薬や、副交感神経に働く薬の効果が弱くなる場合があります。
排尿障害の薬や便秘の薬などに該当するものがありますが、やはりすべてではありません。

同じ疾患に効く薬でも、効き方はいろいろあるので、医師や薬剤師に確認してみるとよいでしょう。

色々な疾患の薬を飲んでいる人は、相互作用にも注意

これも高齢者に限ったことではありませんが、一緒に飲んだ薬が別の薬の作用を弱めたり、強めたりすることがあります。
薬が影響しあうのは、胃や腸管の中だったり、肝臓での代謝に際してだったり、血液の中だったり、様々です。
同時に飲まなくても、影響してしまう場合もあります。

ひとりの医師が処方する薬の中にそのような薬が混ざっていることは少ないと思いますが、別の病院でもらった薬には注意が必要です。

皮膚科でもらった薬だから皮膚にしか効かないだろうと思ったら、大きな間違いです。
特に、皮膚の感染症の薬には、一緒に飲んだ薬の作用が強く現れてしまうものが多いので、よその病院で別の薬をもらうときには、必ず、自分が他の病院でもらっている薬について伝えてください。

最近は薬局で「お薬手帳」をもらいますね?
この手帳は、こういう時に医師や薬剤師に見せるためにあるので、活用してみてください。

少しずつ変わっていくので気づきにくい

このように色々な要素が重なって、年を取るにしたがって適切な薬の量や、使ってはいけない薬の種類が変わってきます。

ただ、この変化は少しずつ起こるので、だんだん副作用が強くなってきていたりしても、薬のせいだとは感じることは難しいです。
医師も、薬のせいだとは思わずに、原因となる薬を減らすことは思い至らず、さらに薬を追加してしまうことが多いといいます。

なので、たくさん薬を飲んでいる方は、「こういうふうに体調が悪いのですが、薬のせいではありませんか?」と医師に相談してみましょう。


薬を開発するときの臨床試験は、65歳未満の成人を対象に行われることがほとんどなので、高齢者にどのような作用を示すかは、発売になって使われてみないとわかりません。
つまり、高齢者にどのような副作用が現れやすいかは科学的に確かめられていないので、医師だって知りようがないのです。

今回のリストは、使用経験に基づいて作られていますが、高齢者を対象とした試験は実施しにくく、エビデンスが得られにくいという問題点があります。

睡眠薬についてみてみよう

リストで取り上げられた薬を、睡眠薬を例にとって紹介しましょう。

薬剤と注意事項

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬

( )は商品名、青字はジェネリック医薬品
  • フルラゼパム(ダルメート、ベノジール)
  • ハロキサゾラム(ソメリン)
  • ジアゼパム(セルシン、ホリゾン、エリスパン、ジアパックス
  • トリアゾラム(ハルシオン、アスコマーナ、ハルラック
  • エチゾラム(デパス、パルギン
注意事項
  • 長時間作用型の薬剤(フルラゼパム、ハロキサゼパム、クアゼパムなど)は使用すべきでない。
  • 他のベンゾジアゼピン系薬もできるだけ使用しない。
  • 使用する場合、最低必要量をできるだけ短期間使用に限る。
  • 長時間作用型は翌日まで作用が続く持ち越し効果、短時間作用型(トリアゾラム、エチゾラムなど)では健忘、依存のリスクがある。
  • 代替薬として、非ベンゾジアゼピン系薬、ラルメテオンがあげられる。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

  • ゾピクロン(アモバン、メトロール、ドパリール
  • ゾルピデム(マイスリー)
  • エスゾピクロン(ルネスタ)

注意事項
  • 漫然と長期投与せず、減量・中止を検討する。
  • 少量の使用にとどめる。

●以上の睡眠薬の主な副作用
  • 過鎮静:必要以上に薬物の鎮静効果が出現した結果,日中にボーっとして動きが少なくなったり傾眠傾向となる状態。注意力が落ちる。
  • 認知機能低下:いわゆる「ぼけ」の症状
  • せん妄:幻覚・錯覚を伴う意識障害
  • 転倒・骨折
  • 運動機能低下

睡眠薬はどうしても必要な場合に限って短期的に使う

睡眠障害では、まず、薬以外の方法で対応するように指導されています。
運動をしたり、昼寝を止めたり、睡眠時の環境を整えたり・・・それでも眠れない場合には、短期間に限って睡眠薬を使うようにします。

長期間睡眠薬を使い続けると、認知機能や運動機能が低下するほか、夜間のせん妄が現れることがあります。
睡眠薬は、脳の活動を抑制する作用を持つので、認知症のリスクが高くなります。
夜間のせん妄でころんで骨折する場合もあります。

また、睡眠薬には筋肉の力を緩める作用があるので、筋力が低下した高齢者が睡眠薬を飲むと、ふらついて、転倒・骨折につながります。
さらに、高齢者では代謝が遅いので、翌朝まで効果が残ってしまい、起きて立ち上がった途端に倒れて骨折、ということもあります。

高齢者の骨折は寝たきりの最大の原因です。


このリストには取り上げられていないものも含めて、同じようにベンゾジアゼピン受容体に作用する薬をまとめましたので、ご覧ください。
作用機序についても解説しました。
睡眠薬でアルツハイマー型認知症になる?

薬が原因で普通の生活が送れなくなることがないように

睡眠薬の例を見ても、薬の服用が寝たきりの生活につながるケースが多いことがわかります。

感染症などの急性疾患は別ですが、慢性疾患に対しては、まず、運動や食事を見直すことが肝心。
薬は、最終手段だと思いましょう。

すでに使用中の薬についても、このリストを参考に、主治医に相談してみてはいかがでしょうか?
ただし、今まで飲み続けていた薬を突然やめるのは危険なことなので、自己判断で止めないでくださいね。

2015年2月7日土曜日

筋肉は脚から落ちる

座りがちなライフスタイルは、健康に良くないことをお話ししました。
⇒デスクワークは危険!

また、座り時間を短くすれば老化しにくいこともご紹介しましたね。
⇒座り時間を短くすれば老化しにくい

健康と若さの源は、筋肉に多いミトコンドリアが鍵であることもお話ししましたね。
筋肉を鍛えて維持すれば、ミトコンドリアが活性化して、生きるエネルギーを生み出してくれるわけです。
⇒ミトコンドリアの数で若さが決まる
⇒体重・BMIより筋肉量が大事

言い換えれば、運動して筋肉を維持することが、究極のアンチエイジングともいえます。
今日は、年をとると自然に落ちてしまう筋肉をどうすればいいかをお話しします。

日本人の筋肉量の加齢による特徴

大阪医科大学の研究グループが、18歳以上の日本人 4,003 人(男性 1,702 人,女性 2,301 人)を調べた研究「日本人筋肉量の加齢による特徴」があります。

⇒谷本 芳美ら 日本人筋肉量の加齢による特徴 日本老年医学会雑誌 Vol. 47 (2010) No. 1 P 52-57

それによると、

  1. 加齢に伴う筋肉量の減少の割合は男性の方が女性よりも大きい
  2. 脚は 20 歳代ごろより年を取るにつれて大幅に減少し
  3. 腕は高齢期になって緩やかに減少しはじめて
  4. 胴体は中年頃まで緩やかに上昇した後、減少し
  5. 全身筋肉量は中年頃まで微量に増加あるいは横ばい状態から減少する
  6. 筋肉量の加齢変化は部位により異なり,減少率が最も大きいのは脚で、次に全身、上肢、胴体の順で落ちていく。

ということがわかりました。



解説すると

イラスト,サルコペニア, ミトコンドリア少ない, 座りがちだと危険, 座り時間が長いと危ない, 筋肉少ないとやばい, 運動しないとサルコペニア, 運動不足で炎症,
脚(腿、ふくらはぎ)の筋肉量は全身の筋肉量の
約50%を占める
1.は、男の人は、思春期以降、男性ホルモンであるテストステロンが多く分泌されるので、筋肉がつきやすい状態にあり、学生時代の部活などのスポーツや運動の経験や習慣があることが多いために、女性よりも筋肉が多い傾向があり、このため、落ちる割合も大きいと考えられます。

2.は、おそらく、現代社会では、20歳代で社会人になって、デスクワークにつく人が多いため、運動量が減り、大幅に減少してゆくと考えられます。

3.は、でも、腕は、座りがちの生活でも使っているので、なかなか落ちにくいのでしょう。

4.は、胴体(体幹部)の筋肉、つまり、背筋や腹筋などは、座ったり、立ったりしているだけでも使われているので、中年までの時間でゆっくりと鍛えられているために、こうなるのでしょう。

5.は、とくに運動しなければ、全身の筋肉は増えることはないということですね。

6.は、つまり、現代の普通の社会生活を送れば、年を取るにつれて、自然と筋肉は落ちていくということで、特に脚の筋肉が落ちるということです。

筋肉を維持するにはどうすれば良いか

脚(腿、ふくらはぎ)の筋肉量は全身の筋肉量の約50%を占めます。
ですから、運動によって脚の筋肉を落とさないことが最低限必要なわけです。
『足腰立たなくなったら、おしまい』みたいなことをよく言いますが、まさにそうなのです。

最近では、加齢で筋肉が落ちていくことをサルコペニアといって、医学的な病気として考えるようになってきました。

カナダで 60 歳以上の 4,449人を対象とした研究では、食事、入浴、着替えなどの基本的な日常の 動作ができなくなることとサルコペニアが関係していることも報告されています。
⇒Janssen et al. Skeletal muscle cutpoints associated with elevated physical disability risk in older men and women. Am J Epidemiol. 2004 Feb 15;159(4):413-21.

年をとって、食事、入浴、着替えなどが満足にできなくなるのなんて嫌ですよね。

まずは、脚を鍛えることから始めましょう。

いきなり筋トレはつらいでしょうから、まずは、ストレッチから始めるのがよいでしょう。
ストレッチをしている暇がない方は、日常生活で文明の利器に頼っていた部分を、自分の力を頼ることにしてみるのも一案です。

例えばこんなことで脚を鍛えてみませんか?


エスカレーター、エレベータを使わないで階段で上がる 近距離は、自転車やバス、電車を使わないで歩く 電車で座らない ちょっとした買い物するとき、カートを使わないで手でカゴをもつ なるべく速足で歩く ルンバを使わないで掃除機を使う リモコンを使わずに操作できる電気機器は手で操作する 座りっぱなしにならないように、1時間に5分は歩くようにする
筋肉が落ちないようにする
  • エスカレーター、エレベータを使わないで階段で上がる
  • 近距離は、自転車やバス、電車を使わないで歩く
  • 横断歩道の代わりに、歩道橋を渡る
  • 電車で座らない
  • ちょっとした買い物するとき、カートを使わないで手でカゴをもつ
  • なるべく速足で歩く
  • ルンバを使わないで掃除機を使う
  • リモコンを使わずに操作できる電気機器は手で操作する
  • 座りっぱなしにならないように、1時間に5分は歩くようにする
こうやって挙げてみるといろいろあって、ため息が出そう・・・
まず、ため息が出ないものからはじめてみる、というのはいかがでしょう?

2014年7月15日火曜日

体重・BMIより筋肉量が大事

BMI, ミトコンドリア, 有酸素運動, 筋肉, 肥満, 脂肪組織 筋肉 ミトコンドリア 筋肉指数 BMI 筋肉量 運動

ミトコンドリアは元気の元とお話ししました。
今日はその証拠となる研究を2つご紹介しますね。

筋肉量が多い高齢者は元気で長生き

BMI, ミトコンドリア, 有酸素運動, 筋肉, 肥満, 脂肪組織 筋肉 ミトコンドリア 筋肉指数 BMI 筋肉量 運動
アメリカ人(参加者の85%は白人)で55歳以上の男性と65歳以上の女性計3659人を5年間分析した研究があります。
その結果、筋肉量が多いと、死亡する危険性(リスク)が低下する
ことがわかりました。

具体的には、

・身長と筋肉量を指標とした、筋肉指数(muscle mass index)が最も高い人は、最も低い人に比べて死亡するリスクが約20%低い

という結果でした。

これは、運動する習慣のある人では、筋肉がつき、筋肉の中のミトコンドリアの働きが高まるためと考えられます。
また、そのような身体になれば、有酸素運動がとても効率的になるので、ダイエット効果もばっちりでしょう。

でも、この研究でも、肥満の指標となるBMIは、死亡リスクと関係ありませんでした。

ほかの研究では、

・明らかな肥満(BMIが35 kg/m2以上、肥満3度以上)の高齢者の死亡リスクは確かに上がるが、
・BMIが30-35kg/m2の範囲の肥満(2度)では死亡リスクが上がらず、
・過体重といわれるBMIが25-30g/m2の範囲の人々が一番死亡リスクが低かった

との結果もあります。

つまり、大事なのは、単なる体重やBMIだけでなく、体格の質であることがわかります。

体重や、BMIが適正でも、筋肉が少なく、体脂肪や内臓脂肪が多ければ、不健康な質の悪い体格?!

といえるのではないでしょうか。

この研究で一番死亡リスクが低かったBMIが25-30g/m2の範囲の人々は、実は肥満でBMIが高いのではなく、筋肉の量が多いことが予想できます。

ミトコンドリアは、エネルギーを貯めている脂肪細胞より、筋肉に多いことからも、これらの研究の結果が納得できますね。

体重やBMIを気にしてダイエットするだけではなく、筋肉の量(除体脂肪量)を多くすることが大切なようです。


筋肉はゆっくり成長します。
にわかな運動や不定期な運動では筋肉はつきません。
研究の参加者たちの多くは運動の習慣があったに違いありません。

BMI, ミトコンドリア, 有酸素運動, 筋肉, 肥満, 脂肪組織 筋肉 ミトコンドリア 筋肉指数 BMI 筋肉量 運動人類は長い間食べ物を得るために、採集したり、狩りをしたり、農作業をしたり……運動するための筋肉がなければ、食物にありつけなかったのです。
そのような環境の中で進化してきたのです。

もっと言えば、生物はすべて、特にわれわれ「動物」は運動して、食物によって吸収したエネルギーを発散することを前提に出来上がっているのです。
それは、自然の摂理の1つの物理法則(熱力学の第二法則)に従いながら、それを利用しているのです。

しかし、人類の発明した文明は、その摂理に反することをすることを行ってきました。

人類が文明の恩恵を受けているはずの現代社会は、自動車、エレベーター、エスカレーターなど人間に身体を動かさないことを強要しているようなものです。
これではエネルギーを発散できません。

その上、文明がもたらした、近代化された便利な食生活は、糖質・脂質・塩分漬けのオーバーカロリー
……エネルギーが蓄積される一方です。
これでは、病気になるはずです。

このへんはまた詳しくお話ししますね。


さて、このようにいろいろ問題はあるものの、やっぱり文明を捨てては生きられないのが我々。
では、健康を保つためにどうすればよいか・・・
BMI, ミトコンドリア, 有酸素運動, 筋肉, 肥満, 脂肪組織 筋肉 ミトコンドリア 筋肉指数 BMI 筋肉量 運動

高齢者と呼ばれる歳になる前に、運動の習慣をつけ、筋肉を増やしてミトコンドリアを元気にして、健康で長生きしましょう。