いきいき!エバーグリーンラブ: 2018

2018年12月2日日曜日

生涯女性をキープするための手引書『女性ホルモンメンテナンス』、発刊!

女性ホルモンの様々な疾患に対する予防効果と、ホルモン補充療法(HRT)をはじめとする女性のアンチエイジング対策の具体的な方法を、エバーグリーン研究室が女性医学の専門医 宮地清光先生とともに執筆した書籍『女性ホルモンメンテナンス』が発刊されました。

ブログで紹介した、年齢とともに女性ホルモンの分泌がどう変わるか、HRTの実践や安全性に加えて、認知症や骨粗鬆症にHRTがどうして効くかなど、知っておきたい情報を200ページに盛り込みました。


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  • 宮地清光・天野礼子 著 
  • エバーグリーン研究室 宮崎睦士 編集 
  • 発行:エバーグリーン研究室
  • ​発売:Amazon  
  • ​Kindle版:230ページ 
  • 定価:1250円(税込み)
もくじはこちら

病態のメカニズムから医薬品業界の裏話まで、コラムも充実しています。
コラム目次はこちら
 



本誌に掲載された、冒頭のメッセージをご紹介しましょう。

Q:周りの高齢者(65歳以上)の女性を見ると杖を突いて猫背の人が多いですが、なぜそうなってしまうのでしょうか?

A:女性はたとえ生活習慣に問題がなくても、必ず、閉経後のエイジング(加齢)に伴っていろいろな疾患に罹りやすくなります。
特に、閉経周辺期(更年期)に骨粗鬆症の予防をはじめなければ、高齢になるとほとんどの人が背骨を折って、猫背になります。

Q:予防できるのに、なぜ、みなさん、杖を突いて猫背なのでしょうか?

A:それは、女性医学と加齢医学に基づく予防医学的なホルモン補充療法(HRT)の知識があり、それを実践している医師が日本にはほとんどいないからです。

Q:では、私たちはどうすればよいですか?

A:女性医学と加齢医学に基づく予防医学的なHRTの知識があり、それを実践できる医師を探すことです。

Q:そうは言っても、周りにそんな医師は見当たりません。

A:残念ですがその通りです。ですから、自衛のために、あなた(読者)から医師に相談を持ちかけましょう。

Q:相談しても、話を聞いてもらえるような気がしません。 

A:大丈夫です。患者さんがどのように適切な治療や予防を受けたいかをはっきり意思表示すれば、医師には応じる義務があります。

Q:”受けたい治療”について説明するのは難しそうですね。

A:いいえ簡単です。この本を医師に読ませてください。
この本は医師を説得するための資料としても使えるように、あえて医学的に専門性の高い内容まで網羅しています。難しいと感じる内容もあるかもしれませんが、その場合は読み飛ばして、医師への情報提供のためのテキストと考えてください。 

Q:自分自身でできることはあるのかしら? 

A:できることはたくさんあります。詳しくは本書をお読みください。
よい医師を見つけることをはじめ、あなたの体をあなたが守らなければ、やがてエイジングに伴う疾患が確実にあなたを蝕みます。猫背になるだけではありません。生命に関わる疾患もあります。しかし、適切に対策をすれば、エイジングに伴ういろいろな疾患を予防できます。
病気になってはじめて受診するのでは遅いのです。
予防は40歳~65歳までの間にはじめないと手遅れになります。
この本は、アクティブな女性の「年を取っても女性であり続ける」ための実践マニュアルです。この本を読んで、受け身ではなく行動しましょう!

『女性ホルモンメンテナンス』コラム目次


女性ホルモンの様々な疾患に対する予防効果と、ホルモン補充療法(HRT)をはじめとする女性のアンチエイジング対策の具体的な方法を、エバーグリーン研究室が女性医学の専門医 宮地清光先生とともに執筆した書籍『女性ホルモンメンテナンス』が発刊されました。

本書では、次のようなコラムも掲載しています。




コラム目次

  • ホルモン補充療法(HRT)の安全性
    Amazon 購入ページ
  • ステロイドホルモンの生合成カスケード
  • 卵胞-黄体と女性ホルモンと月経周期
  • 月経周期をコントロールしている5つのホルモン
  • エストラジオールのポジティブフィードバック
  • FSHの様々な作用
  • 予防医学・医療のススメ
  • 収縮期血圧・拡張期血圧と心臓と血管の関係 
  • LDLHDLはコレステロールの一種」は誤解!
  • 一酸化窒素(NOを増やすエストロゲンの働き
  • 経口エストロゲン製剤で見られる静脈血栓塞栓症
  • エストロゲンと各臓器での血管攣縮と病態
  • 皮下脂肪内臓脂肪の違い
  • エストロゲンとT細胞炎症性サイトカイン骨吸収の関係    
  • 認知症に対するエストロゲンの作用 ①神経の伝達をよくする
  • 認知症に対するエストロゲンの作用 ②アミロイドβに対抗する
  • 妊娠・出産によるエストロゲンの変動と頭痛の関係         
  • エストロゲンとセロトニンの関係
  • 関節の構造
  • 関節リウマチ免疫
  • HLAの働きと免疫応答
  • HLAのタイプによって関節リウマチの罹りやすさが異なる
  • 感度と特異度
  • DFSdense fine speckle70抗体
  • エストロゲンはTNF-αを抑えて関節リウマチを防ぐ
  • 角層(角質層)
  • 薬の血中濃度と時間の関係
  • 経口投与した薬の動き
  • 経口投与と経皮投与の違い
  • 子宮内膜増殖症とエストロゲン、プロゲステロンの関係
  • 産業界主導の医療システムの問題点
  • 保険が適応となる疾患」とは
  • 私の各種HRT製剤の使用感
  • エストロゲンの代謝とリスクの関係
  • 私の女性ホルモンメンテナンス

専門医が教える!薬剤師が実践する! 
『女性ホルモンメンテナンス』 
宮地清光・天野礼子 著
エバーグリーン研究室 宮崎睦士 編集
発行:エバーグリーン研究室
​発売:Amazon
​Kindle版:230ページ
定価:1250円(税込み)

『女性ホルモンメンテナンス』もくじ


女性ホルモンの様々な疾患に対する予防効果と、ホルモン補充療法(HRT)をはじめとする女性のアンチエイジング対策の具体的な方法を、エバーグリーン研究室が女性医学の専門医 宮地清光先生とともに執筆した書籍『女性ホルモンメンテナンス』が発刊されました。
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本書の目次をご紹介しましょう。


読者のみなさんへ

序章 生涯現役女性でいるために ―女性ホルモンメンテナンスの勧め―

1 ホルモン補充療法の現状
2 女性ホルモンメンテナンスに取り組むきっかけ
3 乳がん治療後の関節痛の解決
4 月経不順・月経前症候群に伴う関節痛の解決
5 女性ホルモンメンテナンスで乳がんを予防
6 女性ホルモンメンテナンス普及のために

第1章 更年期に考えなければいけないこと

1-1 女性には不健康な長い老後が待っている
1-2 閉経周辺期以降、女性に起こる障害
1-3 女性ホルモンの枯渇は外見の老化も進める
1-4 問題は、更年期症状だと気づきにくいこと
1-5 賢い患者になって、無駄な治療を受けない!

第2章 女性ホルモンの偉大な効果

2-1 ホルモンて何?
2-2 女性ホルモンの種類
2-3 閉経周辺期を境にエストロゲンはほとんど出なくなる
2-4 妊娠のためのホルモン分泌システム
2-5 FSHは卵巣でエストラジオールを分泌させる
2-6 加齢による卵巣機能の低下とエストラジオールの分泌
2-7 閉経周辺期はどうかというと・・・
2-8 更年期症状がなくなっても、身体の中の不調は悪化
2-9 閉経周辺期の指標にはFSHも有用
2-10 HRTで解決できること・できないこと

第3章 エストロゲン不足で起こる疾患

3-1 エストロゲン不足が時間をかけて重大な疾患に
3-2 エストロゲンが影響する疾患の男女別の患者数の推移
3-3 エストロゲンが影響する疾患
3-3-1 高血圧
3-3-2 脂質異常症
3-3-3 動脈硬化・血流障害・血栓症
3-3-4 微小血管(攣縮型)狭心症
3-3-5 糖尿病
3-3-6   肥満(内臓脂肪の蓄積)
3-3-1~6 生活習慣病とエストロゲンについてまとめると
3-3-7   骨粗鬆症
3-3-8 アルツハイマー型認知症
3-3-9 頭痛
3-3-10 うつ症状
3-3-11 めまい

第4章 エストロゲン不足と関節痛・関節リウマチ

4-1 関節リウマチとはどういう病気?
4-2 関節リウマチの症状
4-3 関節リウマチはどのような人に多いか
4-4 関節リウマチの原因
4-5 関節リウマチの発症が多く見られる年齢
4-6 経産婦は未産婦に比べ関節リウマチに罹りにくい
4-7 関節リウマチの診断基準
4-8 関節リウマチの診断で行われる検査
①リウマチ因子
②抗CCP抗体
③C反応性タンパク(CRP: C-reactive protein)
④赤血球沈降速度(赤沈)
⑤抗核抗体
4-9 関節痛のある更年期の患者さんに必要な治療は?
4-10 45~55歳の女性には、まず更年期障害の診断を
4-11 どうして閉経周辺期に関節症が現れるのか
4-12 閉経周辺期の関節症状はHRTで改善・消失する
4-13 HRTは、リウマトイド因子陽性、または抗CCP抗体陽性で関節リウマチと診断されない患者さんの関節リウマチ発症を防ぐ
4-14 隠れリウマチを見逃さないことが重要
4-15 エストロゲンが関節リウマチを抑える理由
4-16 閉経直前の関節痛にはビタミンEが有効
4-17 45歳未満の関節痛には超低用量ピルが有効
4-18 当院の関節痛治療のまとめ

第5章 ホルモン補充療法(HRT)で使う薬と使い方

5-1 HRTのスケジュール
①50歳前後~60歳
②50歳前後~60歳で子宮がない場合
③60歳以上
④60歳以上で子宮がない場合
5-2 HRTで使われるエストロゲン製剤
5-2-1 エストロゲン製剤開発の歴史
5-2-2 エストラジオール製剤の比較
5-2-3 エストラジオール製剤選択のポイント
①血液中のエストラジオールの濃度が安定しているか
②どのくらいのエストラジオールが血液中に入るか
③不要な(有害な)代謝物ができないか
④外用剤使用による皮膚症状(副作用)がないか
5-2-4 血中濃度を確認しながら継続
5-3 エストリオール製剤
5-4 プロゲスチン製剤
5-4-1 プロゲスチン製剤開発の歴史
5-4-2 HRTに使われるプロゲスチン製剤
5-5 HRTに使われるエストラジオール+プロゲスチン製剤

第6章 女性ホルモンメンテナンスを安全で効果的に行うために

6-1 HRTの継続に乳がんの検査は必要か?
6-2 HRTで乳がん・アルツハイマー型認知症は予防できる
6-3 HRTを注意しながら行う必要がある疾患
6-4 HRTを行ってはいけない人
6-5 運動はHRTの副作用を減らす
6-6 自分でできる女性ホルモンメンテナンス
6-7 HRTの効果を正しく評価するために必要なこと

第7章  ホルモン補充療法(HRT)を行った患者さんの例

7-1 HRTを急に止めたために関節痛が発症した例
 [症例]HRT中止によりシェーグレン症候群を発症した症例
 [症例]HRTによって線維筋痛症が改善した症例
 [症例]関節リウマチと誤診されHRTにて改善した関節痛の症例
7-2 抗うつ薬、抗精神病薬が関節痛の原因となった例
 [症例]うつ治療で高プロラクチン血症となり、HRTで改善した症例
 [症例]抗精神病薬の変更で高プロラクチン血症が消失した症例
7-3 いったん治まった関節症状が更年期に再発した例
 [症例]関節リウマチと診断された関節痛がHRTで解決した症例
 [症例]関節リウマチ治療で取れない痛みがHRTで改善した症例
7-4 閉経前の関節の痛みに超低用量ピルが奏功した例
 [症例]関節リウマチ発症素因があり、超低用量ピルで発症を予防した症例

終章 ホルモン補充療法(HRT)と自己免疫疾患の原因解明について

8-1 なぜHRTが普及しないのか?
8-2 抗DFS70抗体を用いた自己免疫疾患に進展しない症例の見極め
8-3 関節の痛みとHRT
8-4 年齢に応じた関節症状の診療・研究目標
8-5 自己免疫疾患の発症原因の解明に向けて

あとがき
参考文献
女性ホルモンメンテナンスに用いる主な薬剤
用語解説
索引
図版索引
著者略歴

専門医が教える!薬剤師が実践する! 
『女性ホルモンメンテナンス』 

宮地清光・天野礼子 著
エバーグリーン研究室 宮崎睦士 編集
発行:エバーグリーン研究室
​発売:Amazon
​Kindle版:230ページ

定価:1250円(税込み)

2018年10月9日火曜日

女性ホルモンの急激な低下は認知機能によくない

前回、
 妊娠回数の多い女性の方が将来、認知症になりにくい
というコホート試験の結果をご紹介しました。


今回は、
出産経験が5回以上の女性はアルツハイマー病になりやすく
流産を経験した女性はアルツハイマー病になりにくい
という、ソウル大学(韓国)の報告をご紹介します。

ン?言っていることが反対?
一見、そう思われそうな結果ですね。

実は、女性ホルモンの乱高下を視野に入れて考えると、納得できる結果と言えます。
まずは、臨床試験の概要をご紹介し、その読み解き方を解説しましょう。

出産、流産とアルツハイマー病リスクの関係

Jang H, et al. Neurology. 2018; 91(7):e643-e651. 

【対象】
  • 予め登録された3,549例の女性を対象に、軽度認知障害あるいはアルツハイマー病が発症した人としなかった人とで、出産・流産の経験に違いがあるかどうかを検討した(後ろ向きコホート研究、ロジスティック回帰分析)。
  • 認知症にならなかった女性については、出産・流産の経験とミニメンタルステート検査(MMSE)スコアとの相関を検討した(共分散分析)。
※ミニメンタルステート検査(MMSE):認知症の診断に用いられる検査。11項目の質問で判定する。

【結果】
  • 出産経験5回以上(多産)の女性は、1~4回の女性と比較して、アルツハイマー病に罹るリスクが約1.7倍高かった(オッズ比[OR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.04~2.72)。
  • 流産を経験した女性は、未経験の女性と比較して、アルツハイマー病に罹るリスクが約半分だった(1回の流産[OR:0.43、95%CI:0.24~0.76]、2回以上の流産[OR:0.56、95%CI:0.34~0.92])。
  • 認知症に罹らなかった女性において、出産経験が5回以上の女性は、1~4回の女性と比較し、MMSEスコアが不良だった(p<0.001)。
  • 認知症に罹らなかった女性において、流産を経験した女性は、未経験の女性と比較し、MMSEスコアが良好だった(p=0.008)。
まとめると・・・
  • 出産経験が5回以上の女性は、1~4回の女性に比べて、認知機能が低下しやすい
  • 流産を経験した女性は、認知機能が低下しにくい。 

流産が認知症予防に有効な理由

前回、「妊娠するとエストロゲンがたくさん分泌されるので、年を取ってから認知症になりにくい」というお話をしました。
女性ホルモンが認知症を予防する

今回の研究報告では、出産経験が多過ぎる場合も認知症になりやすくなる、というもので、一見、矛盾します。
(ただし、今回の報告は、出産経験のない女性と比較したデータではありません)

では、もう一度、妊娠・出産とエストロゲンの分泌の関係を見てみましょう。

血中エストロゲン濃度は、妊娠中は通常の月経の何十倍も高い値を示しますが、産後は非常に低い値となります。
これは、授乳によって分泌されるプロラクチンが排卵を抑制するために、卵胞からのエストロゲンの分泌がストップするためです。

出産直後は、次の子どもを妊娠できないように、コントロールされているのでしょう。
このエストロゲンの低値は、ほぼ授乳している期間中、続きます。

妊娠しただけで出産に至らなければ、エストロゲンの高値だけを経験して、産後のエストロゲン低値を経験しないで済むことになります。
これは、
生涯を通じて分泌されるエストロゲンの量が増える
だけでなく、
エストロゲンの異常高値からの急激な低下を経験しない
ことでも、認知症の予防に働くと考えられるのではないでしょうか。

産後の体調不良は、エストロゲンの急低下の影響

認知症は、出産したばかりの女性には遠い先の話ですが、産後に起こる様々な体調不良も、エストロゲンの急低下が影響していると考えられています。

産後うつは有名ですね。
関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患も、出産を機に発症するケースがあることが知られています。

エストロゲンは様々な疾患から女性を守るホルモンなのに、出産という人生の一大事の後に急激に低下することで身体に悪い影響を及ぼすというのは、納得がいかないように感じますね。
これは、生物の進化の歴史を考えると、納得できます。
生物は、母親が出産することで継代されるのですから、優先されるのは確実に子どもを産むことであって、産後の母体の健康は二の次なのでしょう。

更年期のエストロゲンの乱高下について考える

閉経後、女性には加齢とともに様々な疾患が現れる(黄色囲み)。
男性では、若い頃から継続して少量のエストロゲン分泌がある
(水色線)。
そのため男性では更年期症状は見られず、認知症や骨折も女性に比べて少ない。
出産後のエストロゲンの急激な低下に比べれば程度は軽いものの、更年期・閉経周辺期には月経周期が乱れて、エストロゲンが急激に高くなったり低くなったりを繰り返します。
これをエストロゲンの乱高下といいます。
詳細はこちらを⇒ホルモンの非常事態が更年期症状に!

乱高下の後、最終的にエストロゲンはほとんど分泌されなくなり、月経がみられなくなります。

更年期・閉経周辺期のエストロゲンの乱高下、その後のエストロゲンの枯渇のいずれの事態も、その後の健康に非常に悪い影響を及ぼすことが容易に想像できます。

実際に、憂うつや関節の痛みなど、出産後に見られるのと同じ症状が、更年期・閉経周辺期にも見られます。

妊娠・出産や流産に関しては、コントロールのしようがありませんが、更年期以降・閉経周辺期のエストロゲンの変動は、ホルモン補充療法(HRT)で防ぐことが可能です。

認知症をはじめ、図に示した多くの疾患の予防のために、HRTを考えてみてはいかがでしょうか。

2018年9月26日水曜日

女性ホルモンが認知症を予防する

もし、認知症を予防する方法があるとしたら、あなたは試してみますか?

女性ホルモンが、認知症に予防的に働く可能性があることが、アメリカとイギリスから報告されました。

簡単にまとめると・・・
  • 出産回数が多い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 初経から閉経までの期間が長い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長い女性ほど、認知症、アルツハイマー病のリスクが低い。 
  • 閉経の時期が遅い方が、認知能力が高い。
初経から閉経までの期間が長いということは、エストロゲンが分泌されていた期間が長いということです。
また、妊娠中はエストラジオールの分泌量が通常の50倍~100倍に増えます。

生涯を通じてのエストロゲンの分泌量が多いことが、認知症の発症を予防するのではないか、と考察されています。
※女性ホルモンにはプロゲステロンとエストロゲンがあり、エストロゲンにはエストラジオールエストロンエストリオールなどがあります。
⇒参考:精巧!女性ホルモン調節システム  ホルモンの非常事態が更年期症状に!

アルツハイマー病協会国際会議(AAIC、2018年7月、シカゴ)で報告

 FROM THE ALZHEIMER’S ASSOCIATION INTERNATIONAL CONFERENCE 2018 PREGNANCY AND REPRODUCTIVE HISTORY MAY IMPACT DEMENTIA RISK PLUS, THE MOVE TO RE-THINK THE IMPACT OF HORMONE THERAPY ON COGNITION: Plus, Sex-Based Approaches May Improve Diagnostic Accuracy in Alzheimer’s

①Paola Gilsanzらの報告

【方法】
  • 1964~1973年に40~55歳であった女性1万4,595人の医療記録を用いて、出産歴と認知症の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 子どもが3人以上いる女性は、子どもが1人の女性に比べて認知症リスクが12%低かった。
  • 妊娠可能な期間が38~44年だった女性に比べて、21~30年だった女性では、認知症リスクが33%高かった。
  • 初潮を13歳で迎えた女性に比べて、16歳以上で迎えた女性では、認知症リスクが31%高く、45歳以降も月経があった女性に比べて、45歳以下で自然閉経した女性では28%高かった。
 【考察】
  • エストロゲンが認知症に対して予防的に働く可能性がある。 

②Molly Foxらの報告

【方法】
  • 英国の高齢女性133人を対象に、妊娠歴とアルツハイマー病の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長いほどアルツハイマー病リスクは低かった。
  • 妊娠していた期間が1カ月延びるごとに、アルツハイマー病リスクは5.5%低下していた。

【考察】
  • 妊娠が女性の免疫系に有益な作用をもたらし、その後の脳の健康にも何らかのよい影響をもたらした可能性が考えられる。

アメリカ神経学会雑誌Neurologyに掲載

③Diana Kuhらの報告

Kuh D et al. Neurology. 2018 May 8;90(19):e1673-e1681. doi: 10.1212/WNL.0000000000005486. Epub 2018 Apr 11.

【方法】
  • 出生コホート研究に登録された1,315例の英国の女性を対象に、閉経の時期が認知能力と関連するかどうかを検討した。
  • 認知能力の評価は、言語記憶および処理速度について、43歳から69歳までのあいだに4回行い、加齢による変化の度合いを比較した。
  • 結果の解析に当たっては、小児期の認知能力(8歳時に標準的指標で評価)やHRTの使用、体格指数、職業、教育で補正した。

【結果】
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は早期に自然閉経した女性と比べて、1歳あたり0.17語良好だった。
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は、外科的に卵巣を切除することで閉経した女性に比べて0.16語良好だった。
  • 処理速度は、自然閉経時または外科的閉経時の年齢とは関連しなかった。 

【考察】
  • 妊娠可能な期間が晩年まで続くことが、特に言語記憶に関する認知機能に良い影響を及ぼすと考えられる。

以上の報告から言えること

以上の報告から、
  • 妊娠期間が長い方が、認知機能に良い。
  • 妊娠可能な期間が長い方が、 認知機能に良い。
と言えそうです。
③の報告では、69歳までの比較的若い時点での認知機能を調べています。
また、③の報告では、約6割の人がホルモン補充療法(HRT)を行っていましたが、HRTの有無にかかわらず、妊娠可能な期間が長いことが認知機能に良いという結果が得られました。
妊娠中は、通常の月経と比べてエストロゲンが大量に分泌されます。
妊娠期間の長さが後々の認知機能を左右するという結果から、生涯に分泌されたエストロゲンの量が多いことが、認知機能に良い影響を与えると考えられます。

妊娠時には、エストラジオールの分泌が劇的に増加

妊娠に際してエストラジオールの血中濃度がどのように変化するかを見てみましょう。

ホルモン補充療法 hrt HRT エストロゲン 女性ホルモンと妊娠出産

右上のグラフは妊娠時エストラジオールの血中濃度の基準値の上限(ピンク)と下限(黄色)を示しています。
多くの人は、妊娠中のエストラジオール濃度が、この上限と下限の間のピンク黄色のグラデーションの範囲の値を取ります(基準値=95%の人々が当てはまる値の範囲)。

エストラジオールは、妊娠していないときには卵胞から分泌されますが、妊娠すると胎盤から大量に分泌されるようになり、しかも、胎児の成長とともにその量が増えていきます。
そして出産と同時に胎盤がなくなることで、分泌は一気に下がります。

出産直後は排卵が起こらないためにエストラジオールはほとんど分泌されません。
その後も、授乳によって分泌されるプロラクチンが排卵を抑制することから、授乳を続けている間は、排卵は起こらず、エストラジオールの分泌が低い状態が続きます。

妊娠時に分泌が増えても、産後に分泌が減るのであれば、 妊娠してもしなくてもトータルのエストラジオールの分泌量は差し引き変わらないのではないかと思われるかもしれませんね。
ここで、妊娠時と、妊娠していないときとのエストラジオールの血中濃度を比較してみましょう。

左下のグラフは、通常の月経周期のエストラジオールの血中濃度を示しています。
上のグラフと、単位を比べてください。
妊娠時とそうない場合とでは、2桁も違います。
月経周期の増減など、誤差のようなものですね。

これらのグラフから、妊娠時のエストラジオールの分泌の増加分は、産後の分泌の低下分に比べて圧倒的に多いことがわかります。

ホルモン補充療法(HRT)でエストロゲンを補うという人生設計

若い女性の中には、「いずれは結婚したいし、子供も欲しい」と考える方もいれば、「結婚するより、社会の中で活躍したい」、「子供に束縛されない人生を送りたい」と考える方もいるでしょう。
でも、「認知症にならないために、とにかく子供はたくさん作ろう」という理由で結婚を急ぐ方は、まずいませんね。 

更年期にさしかかっても、自分の両親が認知症にならないようにするにはどうすればよいかは考えても、自分自身の認知症対策は”まだまだ先のこと”と思いがちです。

しかし、ここで紹介した研究を見ると、認知症対策はもっとずっと若い頃から必要だと考えられます。

とはいえ、更年期になって「もっと子供を産んでおけば認知症になりにくかったのに」と言われても今さらどうにもなりません。
唯一、”今さら”でも可能な対策が、ホルモン補充療法(HRT)です。
ご紹介した研究からも、閉経後にHRTを行い、エストロゲンが枯渇するのを防ぐことで、多少なりとも、認知症を遠ざけることができるのではないかと考えられます。

「結婚する・しない」、「子供を作る・作らない」などの人生設計の一環として、「若いときに十分に分泌する機会を得られない分のエストロゲンを、更年期からHRTで補う」という選択肢も検討すると良いのではないでしょうか。

今から始める認知症対策

認知症の危険因子には、エストロゲンの他にも、高血圧や2型糖尿病など、若い頃からの生活習慣病が影響する可能性が指摘されています。

認知症は、ある日突然、発症するわけではなく、何十年という年月をかけて、徐々に進んでいく疾患です。
脳の神経や血管などの衰えに、閉経によるエストロゲンの欠乏が拍車をかけ、さらにそこから10数年の年月をかけて、いよいよ本格的な症状が現れてくるのです。

若い頃から運動や正しい食事を心がけ、子供もたくさん産んだうえで、更年期以降はHRTにも助けてもらう、というのが理想なのでしょうが、現代社会に生きる女性では、理想通りはいかないのが現実でしょう。

でも、今からでも遅くありません。
日々の運動年齢に見合った食事HRTという女性ホルモンメンテナンスで、認知症を遠ざける生活をはじめませんか?

女性ホルモンメンテナンスのメリットは他にもたくさんあります。
このことについてはまたお話ししますね。

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2018年9月6日木曜日

HRTはいつまで続ける?

ホルモン補充療法(HRT)は、いつまで続ければよいの?
HRTをお勧めすると、よく尋ねられます。

答えは、「ずっと続けることをお勧めします」です。
ただし、年齢に応じて使う薬を変更します。

では、どのように続ければよいかと、その理由についてお話しましょう。

HRTの継続方法

HRTを更年期からスタートする場合、エストラジオール製剤とプロゲスチン製剤を使います。

エストラジオール女性ホルモンそのものですので、強い薬のように感じるかもしれませんが、避妊や月経困難症に使われる低用量ピル(OC)や、低用量ピルよりさらにエストロゲンの量を減らした超低用量ピルに比べても、ずっと活性の低い薬です。
HRT ホルモン補充療法 エストラジオール プロゲスチン製剤 
更年期から60歳くらいまではエストラジオール製剤+プロゲスチン製剤、
それ以降はエストリオール製剤を使用




低用量ピルや超低用量ピルは、生理のある人がエストラジオールの分泌をコントロールするための薬ですから、 エストラジオールより強い作用が必要です。
そのため、エストラジオールの活性を高めたエチニルエストラジオールという成分が使われています。

一方、HRTでは、分泌されなくなったエストラジオールを少しだけ補えばよいので、エストラジオールそのものを、必要最低量使うだけで済みます。
これは、もともと分泌されていた量に比べてもずっと少なめですし、周期的に濃度が非常に高くなることもありません。

ですから、低用量ピルや超低用量ピルで見られる、吐き気や頭痛などの副作用は、エストラジオールでは見られません。

更年期からHRTを始めた方も、年齢を重ねて活動性が落ちてきたなと思ったら、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤から、さらに活性の低いエストリオール製剤に変更します。
そうすれば、生涯、副作用を生じることなくエストロゲンが枯渇するのを防げます。

60歳を過ぎてからHRTを始めるときには、エストリオール製剤を用います。
使い方の詳細はこちらをご覧ください。  
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤

更年期が終わってHRTを止めたらどうなるの?


一般的に、更年期障害で婦人科を受診してHRTを始めた場合、5年程度で「もう更年期は過ぎたから、HRTは終了します」と言われます。
これは、アメリカの臨床試験の見誤った報告などから、いまだに間違った認識が広まっているためと思われます。
問題となった臨床試験についてはこちらをご覧ください。
 ⇒HRTは乳がんの原因になる??
更年期が終わったときに、急にHRTをやめても問題はないのでしょうか?

HRTを5年で中止したとき、更年期症状が再発する場合があります。
ホットフラッシュや動悸など、HRTを始める前と同じ症状が現れれば、自分自身で気づきますから、医師に相談してもう一度HRTを始めれば解決します。

問題なのは、HRTのおかげで発症しないですんでいた”更年期症状とは気づきにくい病気”が発症する場合です。
例としては、うつ、めまい、関節痛などが挙げられます。

HRTを中止したために関節痛が現れたとしても、婦人科の医師はそれがHRTを中止したためだとは気づかずに、整形外科の受診を勧めるでしょう。
整形外科の医師が更年期障害と関節痛の関係を知っているケースはほとんどありませんから、痛み止めが処方されたり、重症な場合には副作用の多い関節リウマチの治療をされてしまうことになりかねません。

そのようなことにならないためにも、HRTは継続することをお勧めします。
”月ごとの出血がどうしても嫌”というような場合には、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤の代わりにエストリオール製剤を使えばよいでしょう。

どうしてもHRTを中止したいという方も、突然やめるのではなく、しばらくエストリオール製剤に切り替えてから終了することで、副作用が起こりにくくなると考えられます。

HRTを継続する期間について、 日本産婦人科学会の「HRTガイドライン2017年度版」では、”HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない”としています。
HRTは、”何年か続けたら、あるいは何歳以上になったら、止めた方が良い”という制限は設けなくてよいということです。

なのに、一般の婦人科では5年程度HRTを続けると、ぷっつり中止されてしまいます。
何故なのか、疑問ですね。

おさらい!

更年期症状の治療より重要なHRTの目的

HRTを続けることの大切さを、もう一度確認しましょう。

ここでは、HRTの目的を「閉経に伴う身体の衰えを予防すること」と考えてお話します。

閉経してエストロゲンが分泌されなくなると、どのような疾患に罹る可能性があるかを図にしました。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 
更年期以降エストロゲンの分泌が低下すると、
はじめは症状としては現れない身体の異常(黄色)が起こり、
年を取るに従い重篤な疾患(ピンク)となって現れる。
ここにかかれている疾患は、どれもエストロゲン不足が原因の1つとなっている可能性が、医学的に確認されているものです。

黄色エストロゲン不足で起こる目に見えない身体の異常、ピンクはその状態が進行して発症する疾患を表します。

例えば、骨粗鬆症エストロゲン不足で起こる病気の代表ですが、骨粗鬆症になっても特に症状はなく、体調は変わりません。
ところが、脆くなった骨が折れると、一日中痛みが続き、折れた場所によっては寝たきりになってしまいます。

”骨粗鬆症と診断されてから骨粗鬆症のくすりを飲み始めればいい”と思っている方もいるかもしれませんね。
骨粗鬆症というのは、骨がスカスカになってしまった状態です。
骨粗鬆症の薬は、スカスカになった骨を、これ以上スカスカにしないようにはできても、元に戻す力には限界があります。
はじめから、スカスカにならないようにすること、50歳の時点での骨の状態を維持することが重要なのです。

図に示した骨粗鬆症以外の病気についても、同じことが言えます。
これらの病気を予防するためにHRTを行うのであれば、生涯継続することをお勧めします。

”本来の女性ホルモンがある状態を維持する”のがHRT

高血圧や糖尿病などの生活習慣病の薬を飲むのと、HRTを同じように考えている方が多いので、追加の説明をさせてください。

運動や食事療法をしても血圧が下がらない方は、「血圧の薬はずっと飲み続けなければいけない」ことは、皆さん、よく理解されていると思います。
 正常な血圧を保つ機能がうまく働かなくなってしまったとき、そのままにしておくと血管に負荷がかかって動脈硬化や、脳卒中、心筋梗塞などになってしまいます。
これを防ぐために、薬で血管を緩めるのが、「血圧の薬」の目的です。
血圧の薬」を飲んでも、血圧が正常だったころの元の身体に戻るわけではありません

HRTは、血圧の薬とは使う意義が少し違います。

HRTは、もともと身体を正常に保つために出ていた女性ホルモンが閉経して出なくなってしまったので、身体の機能が損なわれないように、薬として女性ホルモンを補いましょう、というものです。
つまり、HRT「本来の状態を保つ」ためのメンテナンス作業といえます。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 HRT ホルモン補充療法 
女性ホルモンメンテナンスで、健康に年を取る!


ただし、女性ホルモン(エストロゲンプロゲスチンを補充しただけでは片手落ちです。
補った女性ホルモンが正しく働くように、それに見合った運動や食事を心がける必要があります。
⇒運動すればHRTの乳がんリスクが減少

HRTは、前向きに生きる女性を補佐するもの。
故障を防ぎながら 楽しく年を取りましょう、というのが「女性ホルモンメンテナンス」の目的です。

ヒトが生物である限り、身体の老化は、どうしたって止めることはできません。
でも、その老化のカーブを緩やかにして、幸せな高齢期を過ごすことは可能です。
そのために、更年期や閉経周辺期を迎えたら、自分の身体を過信せず、HRT+正しい食事や運動、そして禁煙=女性ホルモンメンテナンスが必須となるのです。


女性ホルモンについての詳細は、こちらをご覧ください。
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
⇒精巧!女性ホルモン調節システム
⇒女性ホルモンはこうして作られる
⇒ホルモンの非常事態が更年期症状に!

2018年8月3日金曜日

レシピ*低糖質 黒ごまアイス

黒ゴマとカシューナッツと豆乳で作る、砂糖なしのアイスです。
混ぜて固めるだけなので、お手軽です。

低糖質でビタミンたっぷり。
暑さで食欲のないときの栄養補給にも最適です。

 【材料】(7cm×7cmの容器に軽く12個分)
  • 黒ごま 80g
  • カシューナッツ 60g
  • エリスリトール 80g(甘さ控えめ)
  • 卵 2個
  • 豆乳(牛乳でも) 400mL 
  • ごま油 小さじ1

【作り方】
  1. バイタミックスに材料を全部入れて混ぜる。
  2. 容器に分けて冷凍庫へ。
  • 小さいミキサーで作るときは、半量で。
  • 低糖質でなくてよければ、エリスリトールと同量の砂糖を使ってください。
  •  冷凍庫に入れてから、何度か混ぜ直せばコチコチにならずに作れますが、面倒なのではじめから小さい容器に分注してしまいました。
  • カシューナッツは無塩。なければ塩味が付いていても、支障ありません。

ごまは、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛と、ミネラルが豊富に含まれます。
植物にしてはビタミンB群が多いこと、葉酸、ビタミンKが多いことも特徴的です。
不飽和脂肪酸も多いのですが、惜しいことに大部分はオメガ3ではなくオメガ6です。

ちなみに、カシューナッツにはさらに多くのビタミンKが含まれます。
カルシウム 、マグネシウム、ビタミンKといえば、骨を丈夫にするのに必要な栄養素で有名ですね。

たんぱく質も、ごま、カシューナッツともに、大豆に負けないくらい含まれています。

暑いとのど越しのよいお素麺や冷や麦を選びがちですが、これでは糖質ばかりで、かえって暑さに負けてしまいます。
ミネラル、ビタミン、たんぱく質豊富な、黒ごまアイスはいかがですか?

2018年7月25日水曜日

脳は美味しさであなたを騙す!!

暑いですね。
熱中症にご注意ですが、食欲も落ち気味だし、涼をとるために、アイスクリームやシェイクの誘惑に負けてしまう人も多いと思います。

暑いと、スイーツも冷たさと喉ごしの良さを求めて、アイスクリームやシェイクなどの流動食を選びがちです。
アイスクリームやシェイクは、冷たさやのどごしの良さだけでなく、糖質と脂質がたっぷり入っていて、とても美味しいものですね。

これ以外にも、様々な状況で人間の生活に楽しみと彩りを与えてくれるように思える、現代先進国での「美味しい」食品は私たちの周りに溢れかえっています。

美味しさについて考える

でも、「美味しさ」って何でしょうか?
もちろんヒトをはじめとする動物は栄養やエネルギーを食事(食餌)の形でとらないと生存できません。

ですので、生物は食べ物の「味」を感じるように味蕾などのセンサーを発達させて、安全に食べることができ、栄養やエネルギーとなる食物を選別できるように進化してきました。
味覚といえば、酸味、甘味、塩味、苦味、うま味の5味が有名ですね。
この5味は食物に栄養があるか、毒性がないかを判別するのに役立ってきたと考えられます。

例えば、私たちは、塩分(ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質)がなければ、生きていけません。
山間・内陸地域では昔から塩は貴重品でした。
土や泥を食べる植物食の動物は少なくありません。
あれは土や泥のなかに塩味を感じて、塩分を補給しているのです。
塩味を感じ取る味覚は、貴重な塩分を摂取するためのセンサーだったのですね。

甘味について言えば、哺乳類の中で、唾液にアミラーゼを含む種は少数です。
アミラーゼはでんぷんを分解して麦芽糖に分解して甘味を感じさせます。
たまたま、唾液中にアミラーゼを分泌する能力を持った種が、ドングリやナッツ、根菜や球根、未精製の穀物のでんぷん中の糖質を甘いと感じるようになり、穀物を食餌として取り入れていったのです。

肉食目の動物として進化してきた野生のネコ科の動物は、酸味、苦味、塩味しか味覚を持っていません。
酸味は腐敗した食物、苦味は毒性のある食物を警告する役割でしょう。
塩味は特に肉食のネコ科動物にとって肉や血の味で、「美味しい」のでしょうね。

もっとも、聞くところによると最近の飼いネコは、甘いものも好むそうですが…。
家畜化による味覚の破壊でしょうかね。

このように、本来、味覚とは、生物の進化の観点から見れば、安全に食餌を確保するために備わった感覚の1つに過ぎません。

例えば、ゾウやキリンは、海から遠く離れたサバンナに住み、塩分をほとんど含まない木の枝や葉、皮、草などを主食とする植物食のため塩分が不足しがちです。
塩分が不足すると何十キロも歩いて、壁から塩が染み出す洞窟に塩を舐めに行くそうです。
ゾウやキリンは、脳が塩味を感じると同時に、それが「美味しい」=「快い」と感じるように進化したおかげで、わざわざ体力を使って洞窟まで行き、生命を維持することができているわけです。

このように、我々の行動を「快い」というご褒美(報酬)で制御する神経システムが脳内に備わっています。
報酬が与えられたときに快感を感じるように働くこの脳のシステムを報酬系といいます。

「美味しさ」とは、進化に伴って、味覚と報酬系が連携して、得難い栄養素やミネラルなどを摂食させる行動を制御しているうちに発達した感覚と思われます。

実は、この報酬系が、現代文明を生き抜く人間にとっていろいろな問題を引き起こしているのです。

今日は、そんな、味覚と嗜好と報酬系の罠を解明した研究をご紹介しようと思います。

脂肪と炭水化物は、同時に摂るとより満足できる

Supra-Additive Effects of Combining Fat and Carbohydrate on Food Reward

DiFeliceantonio et al., 2018, Cell Metabolism 28, 33–44

【研究の参加者】
 206人の成人

【研究の方法】
 全く同じカロリーとなる量の3種類のスナック食品
  ①主に炭水化物(糖質)を含む(例えばキャンディー)
  ②主に脂肪を含む(例えばチーズ)
  ③脂肪と炭水化物を両方を含む(例えばクリームサンドビスケット)
 の写真を参加者に見せて、その時の脳の活動を、脳の機能情報を測定するfMRI
   (functional MRI、機能的MRI)で計測した。

さらに、1、2、3の食品に含まれる、見た目で推定したカロリーの(密度の)順位を聞いた。
また、どのスナック食品にお金を払う気があるか、その順位を聞いた。


【研究の結果】
 ・脂肪と炭水化物を両方を含むクリームサンドビスケットなどを見た時に、報酬系の神経
  回路がより強く活性化されることが分かった。

 ・試験参加者は②の脂肪の多い食品が高カロリーだとの推定はかなり正確にできた
  が、炭水化物を含む食品のカロリーの推定は個人によってばらつきが大きかっ
  た。

 ・また、試験参加者は脂肪と炭水化物を両方を含むクリームサンドビスケットなどが
  一番お金を払ってもよい、と回答した。

【研究の考察】
脳の報酬系は単に摂取できそうなカロリーの増加に比例して活性化するのではない。
脂質と炭水化物(糖質)を両方含む食品を摂取する見込みが立つと相乗作用が発揮され、より報酬系が活性化する。

これが、脂肪と炭水化物の両方を含むクリームサンドビスケットのような加工食品の過剰摂取の原因の1つと考えられる。

炭水化物(糖質)のみ、脂肪のみの食餌と、炭水化物(糖質)+脂肪の食餌への報酬系の反応では異なるメカニズムが存在すると思われる。

実際に、マウスやラットに炭水化物(糖質)のみ、脂肪のみを好きなだけ与える実験を行うと、マウスやラットは食餌量を自ら調整して体重は変わらないが、炭水化物(糖質)+脂肪の食餌を無制限に与えると歯止めがきかず、たちまち太ることが分かっている。

脳の報酬系があなたを騙して炭水化物(糖質)+脂質を食べさせる

いかがですか?

食べれば速やかに血糖値が上がり、すぐにエネルギーとなる炭水化物(糖質)と、そのままエネルギーとして貯蔵できる脂質が揃っている食物をヒトやげっ歯類は見分けて、好むということですね。

エバーグリーン研究室では、炭水化物(糖質)と脂質の報酬系への影響は以前も、『糖・脂質・塩~おいしさの罠』でお伝えしてきました。
実はこのことは、食品業界ではよく研究され、加工食品開発では常識のことのようです。

食品企業は、報酬系を刺激する=自社製品にいかに消費者を依存させるかの研究に余念なく、またそれを公表することもなかったわけです。

上記の研究の結果は、研究者への企業の資金提供による利益相反もなく、参加者も多い介入研究で、信頼性が高くかなり説得力があります。

やはり、我々が幸せに感じている「美味しさ」は、脳の報酬系が我々の行動を制御するための、感覚や感情の1つに過ぎないのです。

美味しい食品や料理は、脳の報酬系を刺激する糖・脂質・塩などの要素をそろえていけばいくらでも作り出すことができるわけです。

しかし、そこに、報酬系による「おいしさの罠」があることをお忘れなく。
脳は美味しさであなたを騙す!! のです。

先ほど例に挙げた飼いネコのように、文明による家畜化=飽食=美食の環境は、本来の味覚を破壊してしまうようです。
そして、報酬系の「欲望」を満たすために、甘く、コクがあり(脂質)、塩味の効いた美食をたらふく繰り返す飽食を嗜好し、やがて肥満、高血圧、糖尿病をはじめとする不健康に陥るわけです。

報酬系を活性化させる刺激糖+脂質や塩味ばかりではありません。
薬物、アルコール、タバコ、糖・脂質・塩分にまみれた美味と飽食、ギャンブル、セックス、ゲーム、SNS、収集癖、物欲、ファッション、新しいもの好き、これらを得るための貨幣…報酬系を満たす刺激と欲望とその依存には限りがありません。

糖・脂質・塩分などは、滅多にありつけないけれど、おなじみの物質でしたから、環境に過剰に存在しなければ生物にとって問題にはなりませんでした。
しかし、現代先進国では人々がSNSでその日に食べたグルメ食のスナップを競ってアップするなど、美食・飽食の限りを尽くしているように見えます。

さらに、文明が進んで発明・発見された薬物やアルコール、ニコチン、カフェインや、社会システムが生み出した貨幣などがもたらす優越感・射幸心・安心などの、生物として未経験の刺激に報酬系のA10ドパミン神経系が過剰に活性化するのは容易に想像できます。


報酬系~依存 との戦いに勝って、心と身体の健康を保つ

現代文明社会の先進国に住むヒトにとっての報酬系の問題点は、報酬系が「依存」を生みやすいことです。

先にお話ししたように、もともと報酬系は、得難い栄養素などを苦労を労わずに探させるために、進化に伴って脳が仕組んだものでした。
昔々、塩や、果物の中の糖類などは、容易く手にはいるものではなかったからこそ、報酬系は努力してでも手に入れさせるように仕向けるようになったのです。
ですから報酬系の指令には強力な強制力があります。

しかし、現代文明社会の先進国に住むヒトは上にあげた「欲望」を容易に満たすことができるので、報酬系の指令はだんだんエスカレートしていきます。
「依存」を招く事柄の特徴は、それを満たしてもまた更に「欲望」が「もっと、もっと」と輪をかけて湧いてくることです。
その結果、報酬系の指令を満たし続けざるを得なくなる「依存症」に陥ります。
薬物依存だけでなく、アルコール、ニコチン、カフェイン、美味と飽食、ギャンブル、セックスなど依存症を引き起こす欲望はなんと身近なものでしょうか。
依存症は「病気」というより、報酬系が引き起こす過剰な環境への適応障害という側面が大きいといえるでしょう。

現在の先進諸国と呼ばれるコミュニティの貨幣経済に代表される社会システムも、社会の構成員の多くを占める企業などの様々な法人や、政治・行政組織やその外郭団体などに属する人々が、「貨幣依存症」に陥って行き詰まっているのかもしれません。
個人的には、ヒトは文明を開いて約1万年を経た現在、様々な依存症の1つとして「貨幣依存症」の問題点をやっと認識し始めたところと感じています。
貨幣依存症」は収入や資産の多いお金持ちや、地位が高いとされる人、国家資格取得者や公務員などの身分を保証されているという人に好発しているようですね。
恐らく、これらの人々は、貨幣を手に入れる目算が付くと沢山ドパミンが分泌され、充足感を得るのでしょう。
同時に、裕福であることに強迫されて、失うことが恐ろしくなり、ますます「貨幣依存症」に陥っていくのでしょうね。
単なる依存症より質が悪い気がします。

なぜこんなにも様々な依存が蔓延るのでしょう?
人間は文明を発明し、ヒトの生存に有利な環境を手にしましたが、脳の報酬系に代表される我々の体の生物学的(生理学的)システムは、文明化された環境に適応するためのものではなかったことを忘れてはなりません。
現代文明の利便性に、生物としてのヒトは適応できていないのです。

現代文明社会の先進国に住むヒトの健康と心の豊かさの鍵は、欲望を満たすことに溺れがちな自分を客観視して、報酬系ではなく、前頭葉の機能=理性で判断し自制することにあるようです。
一方で、ホモサピエンスになって初めて発達した前頭葉の新機能としての理性は、古い脳機能である報酬系のA10ドパミン神経系の生理的指令に打ち勝つことが困難のようです。

「欲望」という報酬系の指令を疑うことなく素直に従っていては、健康や心の豊かさは遠のいていくばかりでしょう。

また、「欲望」と、「それを満たせない不安と恐怖」を巧みに刺激し、貨幣獲得や購買行動を制御しようとする他者が発信する「情報」=広告や商品の宣伝、メディアコンテンツあるいは保険などを鵜呑みにしないという、客観性も必要となるでしょう。

貴方が感じている「美味しさ」「愉快」「快楽」「幸福」「裕福」「安心」が、本当に健康や心の豊かさに結び付いているか、点検してみてもよいかもしれません。

自分の感覚や価値観を常に点検する姿勢が必要なようです。

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