いきいき!エバーグリーンラブ: 糖・脂質・塩~おいしさの罠

2015年1月24日土曜日

糖・脂質・塩~おいしさの罠

健康に良い食べ物、良くない食べ物のそれぞれの特徴はなんでしょうか?

子供のころ、母親にお菓子は控えて、野菜を沢山食べなさいと促された経験は誰しもお持ちと思います。


さて、このように皆さんがイメージする、健康に良い食べ物の典型が、ビタミンと食物繊維が豊富な「野菜」で、健康に悪い食べ物の典型が、味が濃い目のお菓子の類でしょう。

  • 健康に良い食べ物=あまりおいしくない、あまり箸が進まない
  • 良くない食べ物=とてもおいしく、癖になる

どうでしょう、みなさん同意なさるのでは?

行政の健康政策が成功しないのには理由がある

今日は、行政などの行う健康意識を向上させるキャンペーンが、なぜ、肥満やそれに伴う病気の防止に成功しないのかを考察したドイツのキール大学での研究を紹介します。
⇒How to Combat the Unhealthy = Tasty Intuition: The Influencing Role of Health Consciousness
⇒Health consciousness: Do consumers believe healthy food always tastes bad?

この研究をした、キール大学のロバート・マイさんとステファン・ホフマンさんは、

「近年、健康的食生活が流行しているが、消費者は相変わらず健康に良くない食品を食べすぎている。原因は、健康に良くないものは、大抵おいしいもので、おいしいかどうかが、(消費者が)食べるものを選ぶ基準だからだ」
と書いています。

【研究テーマ】
  • 行政などの行う健康意識を向上させるキャンペーンが、肥満やそれに伴う病気の防止に成功しない理由は?

【研究の結果、わかったこと】
  • この研究の参加者に、砂糖と脂肪の含まれる量が違うヨーグルトを与えて、どのヨーグルトを選ぶかを観察したところ、含まれる成分が健康に良いという情報があったからといって、健康的なヨーグルトを選ぶとは限らなかった。
  • 健康志向が全くない人は、健康情報にも全く興味がないので、含まれる成分が健康に良いという情報も効果がない。
  • ある食品が健康に良いものだという情報が与えられると健康志向の人たちは少しは食習慣を変えるが、健康志向のない人たちは、情報の量に関わらず、健康的なヨーグルトにおいしいものはないと信じている。
  • これらのことから、おいしいかどうかが、健康志向の人にとっても、そうでない人にとっても食品を選ぶとき重視されて、キャンペーンで健康意識を高めたからといって、簡単にこれを乗り越えられるものではない。
研究者たちは、

  • 「行政機関は、商品の包装表示や食品会社のマーケティングを改善させるだけでなく、味そのものも改善し、また、健康的な食事をすることが、粋で“クール”と消費者が思えるような、消費者の感情に訴える社会活動に資金援助するなどの、これまでとは違う健康的食品の宣伝方法を考えるべきである」
  • 「世界的に流行する肥満を抑えるためには、食品会社、消費者、行政が互いに足を引っ張り合うのをやめ、みなにとってメリットのある方法を見つけ、全体的にアプローチすることが早急に必要だ」

と結論しています。
皆さんはいかがお考えでしょう。

おいしさは砂糖・脂肪・食塩で決まる

この研究で用いられたヨーグルトでは、ヨーグルトに含まれる砂糖と脂肪がおいしさのポイントのようですが、実は、食品の味付けのキーポイントとなるのは、「砂糖=甘さ」「脂肪=油っぽいコク」「食塩=しょっぱさ」であり、これは、食品業界では常識のようです。

おいしくて癖になる食べ物の代表選手、ポテトチップスを思い出してください。
まさに、「砂糖=甘さ」「脂肪=油っぽいコク」「食塩=しょっぱさ」の塊です。

ほかにも、たとえば、ハンバーガーのソースはケチャップの甘さにマヨネーズの油っぽさにそれぞれの調味料中の食塩のしょっぱさがハーモニーとなっています。
天ぷらでも同じです、衣の油に、甘辛い天つゆがよく合いますよね。

この「砂糖=甘さ」「脂肪=油っぽいコク」「食塩=しょっぱさ」を味付けの基本にして、ほかの風味を加えて、加工食品は開発されています。
これらを基本に消費者が癖になる味付けを日夜研究しているのです。

『フードトラップ』が明かす食品業界の罠

ここで、一冊の本を紹介したいと思います。

マイケル モス 著、 本間 徳子 訳 日経BP社刊
「フードトラップ-食品に仕掛けられた至福の罠」

砂糖・脂肪・塩の習慣性を利用したビジネス

この本の原題は写真の表紙にもあるように“Salt, Sugar,Fat”でまさに、塩、砂糖、脂肪です。

この本は、「砂糖」「脂肪」「塩」のもつ習慣性(癖になる)を巧みに利用した、加工食品や清涼飲料水、菓子などを問題視して警告を鳴らしています。

この中にも繰り返し、「砂糖」「脂肪」「塩」のもつ習慣性と危険性が登場します。
それらが、食品会社の研究所で研究しつくされている様子がわかります。

アメリカの食品会社が、1980年代以降、消費者が癖になる「砂糖」「脂肪」「塩」を多く含んだ商品を次々に開発して、売り上げを伸ばし、株主の要求に答えていく様子やこれらの商品が肥満や虫歯などを増加させ、ひいては病気の原因となっていることへの、医療従事者や、研究者などからの批判を企業がうまくすり抜ける様子もかかれています。

ビジネスの根底にある文明社会が生み出した欲望

しかし、著者は、一方的に食品会社の「悪」を暴くという論調ではありません。
資本主義と企業間競争、株主への配当、消費者の嗜好と欲望、欲望を利用するマーケティング・メディア、規制当局と企業の駆け引き、農業などの産業と企業と政治など、現代文明社会全体の問題としてとらえているところが真摯さを持っていると思います。

私たちは、改めて、「おいしさ」などの自分の欲望がどのようなものかを考えなければなりません。

少なくとも、味覚と嗅覚が作り出す「おいしさ」は、それをもたらす、糖質、脂肪、塩分などが、人類の歩んだ歴史の中で、長らく得難いものであったからこそ、発達した感覚であることは間違いないことです。

砂糖・脂肪・塩の必要性から「嗜好」が生まれた

私たちは、塩分がなければ、生きていけません。
山間地域では昔から塩は貴重品でした。

脂肪

脂肪は苦労して得た獲物にほんの少し含まれるものでした。
野生の獲物は、家畜と違い脂肪は少ないのです。

搾油技術が発達したのも長い歴史の中でごく最近のことですので、食用植物油は存在しませんでした。

糖類

糖類の精製技術の完成も、同様に長い歴史の中でごく最近のことですので、私たちの祖先は精製されていない炭水化物のほんのりした甘味を感じる能力を時間をかけて発達させました。
ご飯を口にいれて、長く噛むと甘みを感じる実験を経験した方も多いと思います。
これは、ヒトは唾液の中にアミラーゼという消化酵素があるからこそ味わえます。

哺乳類の中で、唾液にアミラーゼを含む種はごく少数です。
たまたま、アミラーゼを分泌する能力を持った種が、ドングリやナッツ、根菜や球根、未精製の穀物の中の糖質を甘いと感じるようになった。
これらの種は、好んで穀物を多く食べたことで、厳しい環境を生き残った。
さらに、火による調理により、糖質を脳の効率の良い栄養素として充分に使えるようになり、人類は脳を発達させることができたと考えられます。

生き残るための報酬系が仇に

報酬が与えられたときに快感を感じるように働く脳のシステムを報酬系といいます。
私たちの味覚・嗅覚のもたらす「おいしさ」は、まさに報酬系が働いた結果得られる快感です。
貴重な栄養素を感知して、それを摂取させるように長い年月をかけて脳が鍛えられてきたといえます。

いいかえれば、「おいしさ」などの欲望は、報酬系の挙動に過ぎません。
欲望を満たすことが「良いこと」と脳に思い込まされているということです。

このように私たちの祖先が、長い時間を経て環境に適応して、安定的に栄養素を獲得できる遺伝子を獲得するうちに、やがて人類となり、厳しい天候をしのぐため、捕食者から逃れ逆にそれを狩るため、飢えを克服するため、火の利用の発明、道具の創意、被服の発明、定住・農耕などを始めとする文明を発達させてきました。
それは、ある意味では、素晴らしい人類の英知の結晶でしょう。

一方で、私たちの英知は、最も基本的な生き物としての自分の身体について、まだ何も理解していないとも言えるでしょう。

生物学的新文明社会を目指す 

私たちの身体は、飽食とほど遠い環境=飢餓を生き抜いてきた遺伝子で設計されています。
欲望をもたらす報酬系の機能は、現代文明社会の飽食に対応したものではありません。

欲望という、古いシステムに騙され、欲望に頼り、それを経済活動などの社会の営みに利用する悪循環をどこかで断ち切らない限り、先に紹介したキール大学の研究者達のいうような、新しい社会システムを作ることはできないと思います。

自然の流れに従って進化を遂げてきた報酬系による欲望を、満たすことで文明が進歩したことも事実です。
でも、欲望をどんどん満たせば、古い遺伝子しか持たない私たちの体はその早い食性の変化についていけずに病気になる。
これに打ち勝つには、欲望に流されない確かな意志で、消費に頼らない新たな価値観、新たなおいしさを創造していくことが大切と思います。

生物の仕組みを理解した、新しい文明社会を目指す必要がありそうです。

食べ物については、こちらもご覧ください。

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