プロゲステロン受容体に作用するホルモンをプロゲステロン(黄体ホルモン)といい、合成したプロゲステロン様作用を示す物質をプロゲスチンと呼びます。
プロゲスチンの使い方
更年期障害のHRTでは、1か月に約10日間、エストラジオールにプロゲスチンを併用することをお勧めします。
プロゲスチンの量や併用期間は、年齢や状況に応じて調整します。
60歳くらい以降の方には、エストロゲンとしてエストリオールが勧められますが、この場合も6か月~1年に1度の間隔でプロゲスチンを併用します。
エストロゲンとプロゲスチンを併用したあと休薬すると、月経のように子宮内膜の脱落(出血)が起きます。
人によっては、エストロゲンだけや、エストロゲンとプロゲスチンの併用中に出血が見られる場合もありますが、継続するうちに 落ち着くことが多いようです。
高齢になると出血は少なくなります。
高齢になってからHRTを始めた方では出血が起こらない場合も多いようです。
プロゲスチン製剤を併用する目的
「更年期になってせっかく生理がなくなったのに、出血は面倒」と思われるかもしれませんが、子宮内膜を脱落させ子宮内膜が肥厚しすぎないようにすることでがん化を防ぐことができます。とても大事なことなので、HRTは、面倒がらずにしっかりスケジュール管理して行うようにしましょう。
エストリオールは、エストラジオールに比べると1/100~1/10の活性ですが、それでも使い続けると子宮内膜は厚くなってくるので、念のため、6か月~1年に1度はプロゲスチンを併用することをお勧めします。
プロゲスチンを併用しない場合でも、何か月もエストラジオールを使い続けると、厚くなった子宮内膜から出血することがあります。
エストリオールでも、稀に出血がみられます。
子宮を摘出してしまった女性は子宮内膜がんにはならないので、プロゲスチンは必要ありません。
プロゲスチン製剤開発の歴史
プロゲステロンはエスラジオールと同様に、経口投与すると肝臓で代謝されてしまい血液中に届かせることができません。ですから、体内のプロゲステロンと同じ物質を経皮投与できれば理想的ですが、残念ながらプロゲステロンの経皮製剤は日本では発売されていません。
プロゲステロンは製剤化しても薬価が安く需要が少ないため、製薬会社が開発しないのですね。
そこで、プロゲステロンと同じ受容体に作用して化学構造が類似であるプロゲスチンの経口薬を使います。
プロゲスチン製剤もエストロゲン製剤と同じように、当初は、強力な子宮内膜の肥厚促進作用や妊娠維持作用を持つ薬剤が、月経異常の治療や妊娠維持を目的に開発されました。
これらの薬剤は若干の男性ホルモン様作用も持っており、ニキビ、多毛症、肥満、性欲亢進、男性化症状や、脂質代謝や糖代謝に悪い影響を及ぼすなどの副作用が見られました。
ジドロゲステロン(製品名:デユファストン)は男性ホルモン様作用、排卵抑制作用を持たないプロゲスチンで、1964年に製造販売承認を取得しました。
プロゲステロンの立体異性体(分子構造は同じで空間配置が異なる化合物)で、子宮内膜に対してプロゲステロンと同じ分泌作用を持つことが確認されています。
デユファストンには排卵抑制作用がないので、不妊治療における黄体機能の補充や、妊娠を希望している女性の月経困難症、子宮内膜症、習慣性早流産にも用いられます。
一方、子宮内膜症の治療薬としてもプロゲスチン製剤が開発されました。
子宮内膜症は子宮の内側以外の場所に子宮内膜ができてしまう病気で、以前は、デュファストンなどのプロゲスチン製剤が使われてきましたが、十分な効果が得らませんでした。
現在では、ジエノゲスト(製品名:ディナゲスト、2008年発売)が男性ホルモン様作用を持たないプロゲスチン製剤として子宮内膜症に使われています。
ディナゲストは、プロゲステロンそのものよりも高いプロゲスチン活性を示します。
HRTに用いるプロゲスチン製剤には、そこまでの強さは必要ないこと、また、薬価がデュファストンの10倍以上と非常に高価なことから、ディナゲストをHRTに使用することはありません。
子宮内膜とエストロゲン、プロゲステロンの関係
子宮内膜が異常に分厚くなった(肥厚した)病態を子宮内膜増殖症といいます。(先ほど紹介したディナゲストの適応となる”子宮内膜症”は、子宮の内側以外の場所に子宮内膜ができてしまう病気で、子宮内膜増殖症とは異なります。)
子宮内膜増殖症のなかでも、特に細胞に異型のあるタイプでは子宮体がんに発展する可能性が高くなります。
子宮内膜は、エストロゲンの作用で厚くなります。
更年期を過ぎれば本来は子宮内膜の肥厚は起こりませんが、HRTによるエストロゲンの投与で肥厚した場合、子宮内膜増殖症が発症して子宮体がんへ発展するリスクが高いとされています。
プロゲスチンは、この子宮内膜の肥厚を抑えるために使います。
HRTと子宮内膜の関係を理解するために、もう一度、月経周期と女性ホルモンの分泌の様子を見てみましょう。
子宮内膜は月経後に卵胞から分泌されるエストロゲンの作用で、増殖して厚くなります。
排卵後は卵胞が黄体となってプロゲステロンの分泌が増え、エストロゲンの作用を上回ります。
このプロゲステロンの作用により、子宮内膜は妊娠に適した状態に変化していきます。
ここで妊娠が成立しなければ(受精卵が子宮に着床しなければ)黄体は消失するので、黄体からのプロゲステロンの分泌は止まり、肥厚した子宮内膜は月経血となって脱落します。
HRTでエストロゲンのみを投与した場合、プロゲステロンによる子宮内膜の性状の変化が起こらないために子宮内膜が異常に肥厚すると考えられます。
月経周期のある場合でも、エストロゲンが過剰に分泌されたり、エストロゲンへの感受性が過剰だったりすると子宮内膜増殖症となります。
HRTに使われるプロゲスチン製剤
HRTでエストロゲンに併用するプロゲスチン製剤としては、ジドロゲステロン(製品名:デユファストン)が勧められます。デュファストンは男性ホルモン様作用、排卵抑制作用を持たない経口のプロゲスチン製剤です。
プロゲステロンの立体異性体(2次元での分子構造は同じだけれど構成する元素の空間配置が異なる化合物)で、子宮内膜に対してプロゲステロンと同じ分泌作用を持つことが確認されています。
デユファストンには排卵抑制作用がないので、不妊治療における黄体機能の補充や、妊娠を希望している女性の月経困難症、子宮内膜症、習慣性早流産にも用いられます。
また、脂質代謝に影響を及ぼさず、 エストロゲンによる善玉コレステロール(HDL-コレステロール増加)や 悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)減少を妨げない、他の黄体ホルモン製剤に比べてインスリン抵抗性を改善するなどの効果が確認されています。
Mueck AO, Seeger H, Buhling KJ.: Use of dydrogesterone in hormone replacement therapy. Maturitas. 2009; 65 Suppl 1: S51-60
HRTに使われるエストラジオール+プロゲスチン製剤
エストロゲンとプロゲスチンの両方が含まれる製剤は、避妊を目的としたピル、低用量ピルや、月経異常などの治療薬として、多くの種類が作られています。そのなかで、エストロゲンとしてエストラジオールを配合し、プロゲスチンの用量を低く抑えた製剤が、更年期以降の女性の骨粗鬆症や更年期障害の治療を目的として開発されました。
日本では2009年に2剤発売され、HRTに用いられています。
エストロゲンとして配合されているのは、どちらの薬もエストラジオールです。
プロゲスチンとして配合されているのは、メノエイドコンビパッチでは酢酸ノルエチステロン、ウェールナラではレボノルゲストレルです。
いずれも、男性ホルモンの作用が認められます。
レボノルゲストレルはアンジュ、トリキュラーなどの低用量ピルにも配合されている成分ですが、ウェールナラでは低用量ピルに比べて低い用量が配合されています。
表に示した「保険が適応となる疾患」とは、メーカーが製造販売承認を取るときに国に申請した疾患名であって、この疾患にだけ効果が認められているというわけではありません。
したがって、骨粗鬆症にはウェールナラがメノエイドコンビパッチより効くけれど、更年期障害にはメノエイドコンビパッチの方が効く、ということはありません。
配合剤では、1錠中、あるいは1枚中にエストラジオールとプロゲスチンが一定量配合されているので(当然ですが)、はじめに紹介した”HRTの治療スケジュール”のように、プロゲスチンの併用期間を調整することはできません。
HRTの目的はエストロゲンの補充ですから、 プロゲスチンは必要最低限の使用にとどめるのがよいと思われます。
生理的に見ても、子宮内膜に対して常にプロゲスチンが働くのは不自然です。
したがって、これらの配合剤より、エストラジオール製剤とデユファストンの併用をお勧めします。
注意
- HRT を行う際には、定期的に運動することをお勧めします。
- HRT に用いる薬を入手するには、病院で医師に処方していただく必要があります。
- 基礎疾患がある方などでは、HRTが行えない場合もあります。
- HRT には注意すべき副作用があります。
- HRT 実施にあたっては、婦人科を受診して、医師に相談してください。
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