いきいき!エバーグリーンラブ: 認知症
ラベル 認知症 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 認知症 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年11月17日日曜日

女性ホルモンの分泌期間が短いと認知症になりやすい

女性のほうがアルツハイマー型認知症になりやすい?

 下のグラフは、アルツハイマー型認知症で受診している人の割合を人口動態統計の男女の人数で、それぞれ割った値です。
男性に比べて女性に明らかに多いことがわかります。
この原因は、更年期を過ぎた女性では、女性ホルモンの血中濃度が男性に比べて低いことにあると考えられます。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
アルツハイマー型認知症の受療率(受診者割合 男女別)

初潮から閉経までの期間が長いと認知機能障害のリスクが低い

今回は、初潮から閉経までの期間が長い女性は認知機能障害のリスクが低いという、国内の調査結果をご紹介します。
国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの報告です。
Shimizu Y, et al. Maturitas. 2019 Jul 2. [Epub ahead of print]

【研究期間】
1990年の「健康関連調査」と2014~2015年に行った「こころの検診」

【対象】
長野県南佐久郡の一般住民
40~59歳の「健康関連調査」の回答者約1万2,000人のうち、「こころの検診」にも参加した女性から、うつと診断された人を除外した670人。
【方法】
670人中227人が認知機能障害(軽度認知障害が196人と認知症が31人)と診断された。
この227人について、アンケート調査から得た月経に関連する情報(初潮年齢、月経規則性、月経周期、出産回数、初産年齢、授乳経験、女性ホルモン剤服用経験、閉経年齢、初潮から閉経までの期間など)と、認知機能障害の発症リスクとの関連を検討した。
認知機能に影響があるとわかっている因子(年齢、BMI、教育歴、喫煙習慣、余暇・運動活動状況、高血圧や糖尿病・うつの既往)の影響は調整した。

【結果】
初潮から閉経までの期間が長いほど、認知機能障害のリスクが有意に低下することが認められた(傾向性P=0.032)。
具体的には、初潮から閉経までの期間が33年以下の人の認知機能障害発症リスクを1とした場合、38年以上の人のリスクは0.62となり、38%の有意なリスク低下が認められた(P<0.05)。
なお、初潮から閉経までの期間が34~37年の人のリスクは0.89だが、この低下率は有意でなかった。
以上の結果から、生理のある期間、つまり女性ホルモンが分泌している期間が長いほど認知機能障害を防ぐように働く可能性が示唆されました。
閉経後もホルモン補充療法を継続すれば、より、認知機能障害の予防効果が上がることが予想されます。

認知機能に対するエストロゲンの効果

認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対するエストロゲンの効果については、動物を使った試験で有効性が確認されています。

脳の神経細胞には、たくさんのエストロゲン受容体があります。
中でも海馬という記憶にかかわる部位からの情報を伝えるGABA(γアミノ酪酸:ギャバと読みます)を分泌する神経細胞に多く存在していることがわかっています。

GABAというのは、神経の信号の伝達を弱める神経伝達物質です。
GABA神経にエストロゲンが作用すると、神経の末端からGABAが出るのを抑え、その先の神経の働きが弱められなくなります。
つまり、海馬から発信される記憶に関する信号は、エストロゲンによって強さを保たれるのです。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
認知機能に対するエストロゲンの効果
GABAがたくさん働くと、その先の神経細胞からの信号が弱くなる(上)
エストロゲンの作用でGABAが抑えられると、その先の神経細胞からの信号が強くなる(下)

現在日本では、まだ、ホルモン補充療法(HRT)を行っている女性が非常に少ないため、HRTの認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対する人での臨床試験はまだ行われていませんが、いずれ、「いつまでも認知機能が衰えず、ボケない女性はHRTを続けている」と言われるようになる日が来ることが期待できそうです。

2018年10月9日火曜日

女性ホルモンの急激な低下は認知機能によくない

前回、
 妊娠回数の多い女性の方が将来、認知症になりにくい
というコホート試験の結果をご紹介しました。


今回は、
出産経験が5回以上の女性はアルツハイマー病になりやすく
流産を経験した女性はアルツハイマー病になりにくい
という、ソウル大学(韓国)の報告をご紹介します。

ン?言っていることが反対?
一見、そう思われそうな結果ですね。

実は、女性ホルモンの乱高下を視野に入れて考えると、納得できる結果と言えます。
まずは、臨床試験の概要をご紹介し、その読み解き方を解説しましょう。

出産、流産とアルツハイマー病リスクの関係

Jang H, et al. Neurology. 2018; 91(7):e643-e651. 

【対象】
  • 予め登録された3,549例の女性を対象に、軽度認知障害あるいはアルツハイマー病が発症した人としなかった人とで、出産・流産の経験に違いがあるかどうかを検討した(後ろ向きコホート研究、ロジスティック回帰分析)。
  • 認知症にならなかった女性については、出産・流産の経験とミニメンタルステート検査(MMSE)スコアとの相関を検討した(共分散分析)。
※ミニメンタルステート検査(MMSE):認知症の診断に用いられる検査。11項目の質問で判定する。

【結果】
  • 出産経験5回以上(多産)の女性は、1~4回の女性と比較して、アルツハイマー病に罹るリスクが約1.7倍高かった(オッズ比[OR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.04~2.72)。
  • 流産を経験した女性は、未経験の女性と比較して、アルツハイマー病に罹るリスクが約半分だった(1回の流産[OR:0.43、95%CI:0.24~0.76]、2回以上の流産[OR:0.56、95%CI:0.34~0.92])。
  • 認知症に罹らなかった女性において、出産経験が5回以上の女性は、1~4回の女性と比較し、MMSEスコアが不良だった(p<0.001)。
  • 認知症に罹らなかった女性において、流産を経験した女性は、未経験の女性と比較し、MMSEスコアが良好だった(p=0.008)。
まとめると・・・
  • 出産経験が5回以上の女性は、1~4回の女性に比べて、認知機能が低下しやすい
  • 流産を経験した女性は、認知機能が低下しにくい。 

流産が認知症予防に有効な理由

前回、「妊娠するとエストロゲンがたくさん分泌されるので、年を取ってから認知症になりにくい」というお話をしました。
女性ホルモンが認知症を予防する

今回の研究報告では、出産経験が多過ぎる場合も認知症になりやすくなる、というもので、一見、矛盾します。
(ただし、今回の報告は、出産経験のない女性と比較したデータではありません)

では、もう一度、妊娠・出産とエストロゲンの分泌の関係を見てみましょう。

血中エストロゲン濃度は、妊娠中は通常の月経の何十倍も高い値を示しますが、産後は非常に低い値となります。
これは、授乳によって分泌されるプロラクチンが排卵を抑制するために、卵胞からのエストロゲンの分泌がストップするためです。

出産直後は、次の子どもを妊娠できないように、コントロールされているのでしょう。
このエストロゲンの低値は、ほぼ授乳している期間中、続きます。

妊娠しただけで出産に至らなければ、エストロゲンの高値だけを経験して、産後のエストロゲン低値を経験しないで済むことになります。
これは、
生涯を通じて分泌されるエストロゲンの量が増える
だけでなく、
エストロゲンの異常高値からの急激な低下を経験しない
ことでも、認知症の予防に働くと考えられるのではないでしょうか。

産後の体調不良は、エストロゲンの急低下の影響

認知症は、出産したばかりの女性には遠い先の話ですが、産後に起こる様々な体調不良も、エストロゲンの急低下が影響していると考えられています。

産後うつは有名ですね。
関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患も、出産を機に発症するケースがあることが知られています。

エストロゲンは様々な疾患から女性を守るホルモンなのに、出産という人生の一大事の後に急激に低下することで身体に悪い影響を及ぼすというのは、納得がいかないように感じますね。
これは、生物の進化の歴史を考えると、納得できます。
生物は、母親が出産することで継代されるのですから、優先されるのは確実に子どもを産むことであって、産後の母体の健康は二の次なのでしょう。

更年期のエストロゲンの乱高下について考える

閉経後、女性には加齢とともに様々な疾患が現れる(黄色囲み)。
男性では、若い頃から継続して少量のエストロゲン分泌がある
(水色線)。
そのため男性では更年期症状は見られず、認知症や骨折も女性に比べて少ない。
出産後のエストロゲンの急激な低下に比べれば程度は軽いものの、更年期・閉経周辺期には月経周期が乱れて、エストロゲンが急激に高くなったり低くなったりを繰り返します。
これをエストロゲンの乱高下といいます。
詳細はこちらを⇒ホルモンの非常事態が更年期症状に!

乱高下の後、最終的にエストロゲンはほとんど分泌されなくなり、月経がみられなくなります。

更年期・閉経周辺期のエストロゲンの乱高下、その後のエストロゲンの枯渇のいずれの事態も、その後の健康に非常に悪い影響を及ぼすことが容易に想像できます。

実際に、憂うつや関節の痛みなど、出産後に見られるのと同じ症状が、更年期・閉経周辺期にも見られます。

妊娠・出産や流産に関しては、コントロールのしようがありませんが、更年期以降・閉経周辺期のエストロゲンの変動は、ホルモン補充療法(HRT)で防ぐことが可能です。

認知症をはじめ、図に示した多くの疾患の予防のために、HRTを考えてみてはいかがでしょうか。

2018年9月26日水曜日

女性ホルモンが認知症を予防する

もし、認知症を予防する方法があるとしたら、あなたは試してみますか?

女性ホルモンが、認知症に予防的に働く可能性があることが、アメリカとイギリスから報告されました。

簡単にまとめると・・・
  • 出産回数が多い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 初経から閉経までの期間が長い女性ほど、認知症のリスクが低い。
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長い女性ほど、認知症、アルツハイマー病のリスクが低い。 
  • 閉経の時期が遅い方が、認知能力が高い。
初経から閉経までの期間が長いということは、エストロゲンが分泌されていた期間が長いということです。
また、妊娠中はエストラジオールの分泌量が通常の50倍~100倍に増えます。

生涯を通じてのエストロゲンの分泌量が多いことが、認知症の発症を予防するのではないか、と考察されています。
※女性ホルモンにはプロゲステロンとエストロゲンがあり、エストロゲンにはエストラジオールエストロンエストリオールなどがあります。
⇒参考:精巧!女性ホルモン調節システム  ホルモンの非常事態が更年期症状に!

アルツハイマー病協会国際会議(AAIC、2018年7月、シカゴ)で報告

 FROM THE ALZHEIMER’S ASSOCIATION INTERNATIONAL CONFERENCE 2018 PREGNANCY AND REPRODUCTIVE HISTORY MAY IMPACT DEMENTIA RISK PLUS, THE MOVE TO RE-THINK THE IMPACT OF HORMONE THERAPY ON COGNITION: Plus, Sex-Based Approaches May Improve Diagnostic Accuracy in Alzheimer’s

①Paola Gilsanzらの報告

【方法】
  • 1964~1973年に40~55歳であった女性1万4,595人の医療記録を用いて、出産歴と認知症の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 子どもが3人以上いる女性は、子どもが1人の女性に比べて認知症リスクが12%低かった。
  • 妊娠可能な期間が38~44年だった女性に比べて、21~30年だった女性では、認知症リスクが33%高かった。
  • 初潮を13歳で迎えた女性に比べて、16歳以上で迎えた女性では、認知症リスクが31%高く、45歳以降も月経があった女性に比べて、45歳以下で自然閉経した女性では28%高かった。
 【考察】
  • エストロゲンが認知症に対して予防的に働く可能性がある。 

②Molly Foxらの報告

【方法】
  • 英国の高齢女性133人を対象に、妊娠歴とアルツハイマー病の発症リスクとの関連を調べた。

【結果】
  • 生涯のうち妊娠していた期間が長いほどアルツハイマー病リスクは低かった。
  • 妊娠していた期間が1カ月延びるごとに、アルツハイマー病リスクは5.5%低下していた。

【考察】
  • 妊娠が女性の免疫系に有益な作用をもたらし、その後の脳の健康にも何らかのよい影響をもたらした可能性が考えられる。

アメリカ神経学会雑誌Neurologyに掲載

③Diana Kuhらの報告

Kuh D et al. Neurology. 2018 May 8;90(19):e1673-e1681. doi: 10.1212/WNL.0000000000005486. Epub 2018 Apr 11.

【方法】
  • 出生コホート研究に登録された1,315例の英国の女性を対象に、閉経の時期が認知能力と関連するかどうかを検討した。
  • 認知能力の評価は、言語記憶および処理速度について、43歳から69歳までのあいだに4回行い、加齢による変化の度合いを比較した。
  • 結果の解析に当たっては、小児期の認知能力(8歳時に標準的指標で評価)やHRTの使用、体格指数、職業、教育で補正した。

【結果】
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は早期に自然閉経した女性と比べて、1歳あたり0.17語良好だった。
  • 言語記憶スコアは、閉経時の年齢が晩期の女性は、外科的に卵巣を切除することで閉経した女性に比べて0.16語良好だった。
  • 処理速度は、自然閉経時または外科的閉経時の年齢とは関連しなかった。 

【考察】
  • 妊娠可能な期間が晩年まで続くことが、特に言語記憶に関する認知機能に良い影響を及ぼすと考えられる。

以上の報告から言えること

以上の報告から、
  • 妊娠期間が長い方が、認知機能に良い。
  • 妊娠可能な期間が長い方が、 認知機能に良い。
と言えそうです。
③の報告では、69歳までの比較的若い時点での認知機能を調べています。
また、③の報告では、約6割の人がホルモン補充療法(HRT)を行っていましたが、HRTの有無にかかわらず、妊娠可能な期間が長いことが認知機能に良いという結果が得られました。
妊娠中は、通常の月経と比べてエストロゲンが大量に分泌されます。
妊娠期間の長さが後々の認知機能を左右するという結果から、生涯に分泌されたエストロゲンの量が多いことが、認知機能に良い影響を与えると考えられます。

妊娠時には、エストラジオールの分泌が劇的に増加

妊娠に際してエストラジオールの血中濃度がどのように変化するかを見てみましょう。

ホルモン補充療法 hrt HRT エストロゲン 女性ホルモンと妊娠出産

右上のグラフは妊娠時エストラジオールの血中濃度の基準値の上限(ピンク)と下限(黄色)を示しています。
多くの人は、妊娠中のエストラジオール濃度が、この上限と下限の間のピンク黄色のグラデーションの範囲の値を取ります(基準値=95%の人々が当てはまる値の範囲)。

エストラジオールは、妊娠していないときには卵胞から分泌されますが、妊娠すると胎盤から大量に分泌されるようになり、しかも、胎児の成長とともにその量が増えていきます。
そして出産と同時に胎盤がなくなることで、分泌は一気に下がります。

出産直後は排卵が起こらないためにエストラジオールはほとんど分泌されません。
その後も、授乳によって分泌されるプロラクチンが排卵を抑制することから、授乳を続けている間は、排卵は起こらず、エストラジオールの分泌が低い状態が続きます。

妊娠時に分泌が増えても、産後に分泌が減るのであれば、 妊娠してもしなくてもトータルのエストラジオールの分泌量は差し引き変わらないのではないかと思われるかもしれませんね。
ここで、妊娠時と、妊娠していないときとのエストラジオールの血中濃度を比較してみましょう。

左下のグラフは、通常の月経周期のエストラジオールの血中濃度を示しています。
上のグラフと、単位を比べてください。
妊娠時とそうない場合とでは、2桁も違います。
月経周期の増減など、誤差のようなものですね。

これらのグラフから、妊娠時のエストラジオールの分泌の増加分は、産後の分泌の低下分に比べて圧倒的に多いことがわかります。

ホルモン補充療法(HRT)でエストロゲンを補うという人生設計

若い女性の中には、「いずれは結婚したいし、子供も欲しい」と考える方もいれば、「結婚するより、社会の中で活躍したい」、「子供に束縛されない人生を送りたい」と考える方もいるでしょう。
でも、「認知症にならないために、とにかく子供はたくさん作ろう」という理由で結婚を急ぐ方は、まずいませんね。 

更年期にさしかかっても、自分の両親が認知症にならないようにするにはどうすればよいかは考えても、自分自身の認知症対策は”まだまだ先のこと”と思いがちです。

しかし、ここで紹介した研究を見ると、認知症対策はもっとずっと若い頃から必要だと考えられます。

とはいえ、更年期になって「もっと子供を産んでおけば認知症になりにくかったのに」と言われても今さらどうにもなりません。
唯一、”今さら”でも可能な対策が、ホルモン補充療法(HRT)です。
ご紹介した研究からも、閉経後にHRTを行い、エストロゲンが枯渇するのを防ぐことで、多少なりとも、認知症を遠ざけることができるのではないかと考えられます。

「結婚する・しない」、「子供を作る・作らない」などの人生設計の一環として、「若いときに十分に分泌する機会を得られない分のエストロゲンを、更年期からHRTで補う」という選択肢も検討すると良いのではないでしょうか。

今から始める認知症対策

認知症の危険因子には、エストロゲンの他にも、高血圧や2型糖尿病など、若い頃からの生活習慣病が影響する可能性が指摘されています。

認知症は、ある日突然、発症するわけではなく、何十年という年月をかけて、徐々に進んでいく疾患です。
脳の神経や血管などの衰えに、閉経によるエストロゲンの欠乏が拍車をかけ、さらにそこから10数年の年月をかけて、いよいよ本格的な症状が現れてくるのです。

若い頃から運動や正しい食事を心がけ、子供もたくさん産んだうえで、更年期以降はHRTにも助けてもらう、というのが理想なのでしょうが、現代社会に生きる女性では、理想通りはいかないのが現実でしょう。

でも、今からでも遅くありません。
日々の運動年齢に見合った食事HRTという女性ホルモンメンテナンスで、認知症を遠ざける生活をはじめませんか?

女性ホルモンメンテナンスのメリットは他にもたくさんあります。
このことについてはまたお話ししますね。

【関連ぺーじ】
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤
HRTで使われる薬剤~プロゲスチン製剤
18年のフォローでHRTの安全性を検証 
運動すればHRTの乳がんリスクが減少
HRTはいつまで続ける? 

2016年9月10日土曜日

運動不足のリスクは喫煙なみ

スウェーデンで45年間にわたり、死亡リスクを増やす原因について調査をしたところ、第1位は喫煙であることが認められました。

ここで問題です。
喫煙に次ぐ第2位は、次のうちどれでしょう。

  1. 血清コレステロール
  2. 運動不足
  3. 高BMI


回答に替えて、研究の概要をご紹介しましょう。

中年男性の45年間の死亡リスクに影響を及ぼす因子について

Per Ladenvall et.al.; Low aerobic capacity in middle-aged men associated with increased mortality rates during 45 years of follow-up.

【研究の方法】
  • 1963年に50歳だった男性の792人のデータを使用した、45年間にわたる前向き観察研究(プロスペクティブコーホート研究)。
  • 参加者が54歳の1967年に、792人のうち656人が自転車(エルゴメーター)に乗ってマスクをつけて、最大酸素摂取量(VO2max)を測定して、運動能力の上限を測定した。
  • 2012年の99歳まで参加者を観察して、約10年ごとに運動能力検査をした。
  • 参加者の死亡および一般国民の死亡率は、スウェーデン国民死亡原因登録のデータで確認した。
  • 参加者の身体測定・血圧や血液検査データと、運動能力と死亡のデータを比較して分析した。
【研究の結果】
  • 運動能力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)で、次の3つのグループに分けて比較した。
  1. VO2maxが高いグループ
  2. VO2maxが中等度のグループ
  3. VO2maxが低いグループ
  • VO2maxが高いグループは、特に運動しない場合と比べ45年間の死亡リスクが21%低下すると推算できた[ハザード比0.79 (95%信頼区間0.71–0.89; p < 0.0001)]。
  • つまり、運動しないと45年間で21%死亡しやすくなるといえる。
  • 運動しないことの死亡リスク増加へのインパクトは、喫煙に次いでの2位で、高BMI、血清コレステロール高値などよりもはるかにリスクが高かった。
  • 喫煙での死亡リスク増加は58%の上昇であった[ハザード比1.58 (95%信頼区間1.34–1.85; p < 0.0001) ]。
いかがですか。

この研究は45年にわたる長期間参加者の656人を追跡して、10年ごとに運動テストも実施しているのでかなり信頼できる研究結果といえるでしょう。
現在では、喫煙は最もはっきりした健康へ悪影響のあるリスクの1つです。

運動不足はその喫煙に次いで、死亡リスクを上げてしまうのです。

エバーグリーン研究室では、運動の習慣をつけることが、生涯の健康にどれほど良い影響を与えるかについて、皆さんといろいろ勉強してきました。

でも、運動不足がどれだけのデメリットであるかについては、解説するのが難しいところでした。
この研究で、実感いただけたでしょうか?

禁煙に成功した方、次は運動習慣ですね。

運動のメリットを復習

運動することを習慣にできれば、まず筋肉が太目に維持され、筋肉内のミトコンドリアが増加し、その働きが向上します。
筋トレと有酸素運動を組み合わせた適度な強度がお勧めです。

肩こり、腰の痛み、関節痛など、筋肉がつくだけで解消できる痛みも多くあります。
また、有酸素運動をして心拍数を上げると血流がよくなり、肺や心臓や血管の健康にも役立ちます。
定期的に骨が刺激を受けることで、骨も強くなります。

代謝が上がるので、体の中の不要なものが排泄されやすくなり、何より太らず健康に美味しいものを楽しめます。

また、運動ががん認知症などいろいろな病気を予防する証拠も数多くあります。
さらに、適切な運動で病気を回復に向かわせたり、進行を遅らせることさえできます。

エバーグリーン研究室では、健康な生活の基礎となるのが、運動習慣と考えています。
どんなダイエットや健康法、サプリメントや薬も、適切な運動習慣の効果にはかないません。

また、これらのダイエットや健康法も、運動と組み合わせなければ効果が発揮されないと考えて間違いありません。


キーワードは、
  • 筋肉の量が増加
  • ミトコンドリアが増加して活性化
  • 有酸素運動+筋肉トレーニング
  • 心肺機能向上(血流を良くする)
  • 動脈硬化予防
  • 骨の健康
  • 肥満回避
  • 代謝向上
  • 老廃物除去(デトックス)
  • 汗をかく能力(熱中症予防)
  • 体温調節
  • 自律神経活性化
  • 認知機能改善(ボケ防止)
  • 精神の健康
  • がん予防
  • メタボ防止(血圧、血糖値の正常化)
など、たくさんあげられます。

関係する話題は、下記をご参照ください。

ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!

2016年2月17日水曜日

運動不足で脳がしぼむ!

運動の習慣をつけようと思っても、三日坊主になってしまうのは、運動の効果を実感しにくいことが原因となっていると思います。

運動して、体重が減ったり、筋力がついてくるのも、即効性はなく、最低でも2~3か月は時間がかかります。

本当は、ポジティブなことで、運動するモチベーションを上げるべきなのですが、今日は、中年・壮年期の我々には身につまされる、アメリカのボストン大学などの研究チームの報告をご紹介します。

中年期の運動不足で脳が萎縮

中年期の運動による血圧と心拍数、フィットネスが20年後の脳の容積に影響する

Nicole L. Spartano et.al. Midlife exercise blood pressure, heart rate, and fitness relate to brain volume 2 decades later. Neurology 10.1212/WNL.0000000000002415

People who exercise at middle age might have bigger brains later on

【研究の目的】
  • 低い心肺機能や、運動時の血圧、心拍の状態が、後年の脳の形態にどのように影響するかを調べる。
【研究の参加者】
  • マサチューセッツ州フラミンガム市の住民を対象としたフラミンガムオフスプリング研究の参加者のうち、認知症や他の神経症状がなく心疾患や脳卒中の経験がない20歳以上平均年齢 40±9歳の1,094人。そのうち53.9%が女性
【研究の方法】
  • 研究開始当初に参加者にランニングマシンで運動してもらうテストを実施し、脳の状態を磁気共鳴断層撮影(MRI)装置で調べた。併せて認知機能など神経学的検査も行った。
  • 約20年後(その時点での参加者の平均年齢58±8歳)に再び同じ運動テストと検査を行った。
  • 運動の能力は、心拍数が限界の値に達するまでに走り続けることのできる時間で測定した。
【研究の結果】

●研究当初と20年後の成績をそれぞれ比較したところ、運動能力の低い人や、運動時の拡張期血圧(下の血圧)と心拍数が高い人は、運動能力や血圧・心拍が正常な人と比較して、脳の容積が少ないことが統計学的にはっきり認められた。

●脳の容積と神経学的検査を総合して計算すると、20年後のテストで運動能力が低かった人のうち、
・心疾患の症状がなく、降圧薬を飲んでいない人は、脳の老化が1年分加速していると推算された。
・心疾患の症状があり、降圧薬を飲んだりしている人は、脳の老化が2年分加速していると推算された。
・研究開始時に高血圧(140/90 mmHg以上)であったり、境界域高血圧(120/80 ~139/89 mmHg)の人も20年後の脳の容積が少ないことも統計学的に明らかだった。

●運動能力の平均値から1標準偏差(-1SD)値が低いと、約1年分の脳の老化と換算できた。
つまり、運動能力が低い人ほど、脳の老化が進んでいると推算できた。

【研究結果から考えられること】
  • 脳の健康には中年期の運動が大切で、「運動によって血流が増え、より多くの酸素が脳に運ばれることで、高齢になったときの認知機能の低下を防げる可能性がある」と研究のリーダーNicole Spartanoさんはコメントしている。



5年後、20年後にボケないために運動しよう

いかがでしょうか。

アメリカでの別な研究でも、平均 45.5 (±3.5)歳の研究参加者565人に同様な試験を行ったところ、運動能力の高い人では、5年後の脳の萎縮も少ないという結果が得られています。

この結果は、参加者の年齢、性別、人種、BMI、飲酒状況、喫煙状況、血圧値、糖尿病の有無、血中コレステロール値、肺機能の個人差に関係なく同じでした。

つまり、個々人のライフスタイルや身体の状態に少々の差があっても、運動して運動能力を高めれば、皆、脳が萎縮しにくくなると言えるわけです。

Na Zhu. et.al. Cardiorespiratory fitness and brain volume and white matter integrity.Neurology June 9, 2015 vol. 84 no. 23 2347-2353


これらの研究から、運動の効果は、即効性はなくても、少なくとも5年後、20年後には、認知機能に良い影響があることがわかります。


運動習慣をポジティブに考えよう

他の生物と違って、人間の持つ最大の能力の1つは、長期的な視野を持てることです(でも、ネガティブになると、これが人類の不幸の原因なのかもしれませんが…)。

ポジティブな視点で、運動の目標を立てて努力できれば、歳をとっても、健康というお金では買えない幸せが手に入るようです。

目標は、1日40分ほどの軽い運動でよいのです。
そして継続することが大切です。


「物忘れがひどくなってきているんだけど、いい薬はないかしら」
と訊かれることがあります。
「アルツハイマー型認知症」の進行を遅らせるとされている薬は発売されていますが、「物忘れ」の進行を遅らせる薬はありません。
「運動が、物忘れに効く最良の薬」ということです。


運動についてはこちらもどうぞ

ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?



2015年8月21日金曜日

運動すればボケを防げる!

いつまでも健康で楽しく人生を送ることを目指して、エバーグリーン研究室は活動していますが、健康でいることの最終目標は、元気ボケずに老年期を過ごして穏やかな最後を迎えることにあると思います。

知り合いの医師たちは、ほとんどの患者さんが、
「自分は重い病気にならない」
「自分はがんにはならない」
と思っていると口を揃えていいます。
みな病気の怖さはなんとなく知っていても、自分は例外と思いがちなのです。

生活習慣を改善すれば、認知症にならない

不健康な生活習慣が原因になることが多い高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病や、喫煙による肺疾患、アルコール過飲による肝臓・膵臓疾患、がん、など、日本の人口が高齢化すればするほど、病気になる確率は高くなります。
やはり、避けられる病気は、できる限り生活習慣を改善して、回避することが大切です。

運動, 運動不足, 有酸素運動, 認知症, 筋トレ, 筋肉, 認知機能,
2025年には65歳以上の5人に1人が認知症、730万人!
認知症の原因はまだよくわかっていませんが、高血圧や糖尿病の患者さんに認知症が多いことがわかっていますし、脳卒中を起こした人は認知症になりやすいこともわかっています。
つまり、生活習慣の改善で、認知症も防げるということです。

自分だけは認知症にはならない、と思っていませんか?

図を見てください。

あと10年後にはなんと65歳以上の5人に1人が認知症という予測されているのです。
私もあと約15年で65歳になりますので、とても他人事ではありません。

では、どうすればよいのでしょうか?

そのヒントとなる研究結果が報告されましたので、ご紹介しますね。

運動は高齢者の認知機能(脳機能)を良くする


Eric D. Vidoni et al. Dose-Response of Aerobic Exercise on Cognition: A Community-Based, Pilot Randomized Controlled Trial. PLoS ONE 10(7): e0131647. doi:10.1371/ journal.pone.0131647


【研究の方法】
  • 認知機能に問題のない65歳以上の101人の高齢者をコンピューターソフトで、下記の4つのグループにランダム(無作為)に分けた。
  1. 特別に運動をしないグループ
  2. 中等度の運動を週あたり150分程度行うグループ
  3. 中等度の運動を週あたり75分程度行うグループ
  4. 中等度の運動を週あたり225分程度行うグループ
  • 研究の開始時に参加者の心肺機能と脳機能をテストして測定した。
  • 研究参加者は26週間、それぞれのグループの運動を続けた。
  • 研究参加者は研究の終了時にも同じテストをして、それぞれの成績を比較した。
  • 脳機能は言語の記憶、視覚空間認知機能、注意力・集中力、問題への柔軟性・対応力、論理力・推察力の脳機能についてテストした。

【研究の結果】
  • 中等度の運動を行う2、3、4のどのグループでも、程度の差はあるが、脳機能が改善した。
  • なかでも、特に4の週あたり225分運動行うグループは、視覚空間認知機能の成績が良くなった。この機能は、物体がどこにあるかを理解し、そこまでの距離などの見当をつける能力。
  • 注意力・集中力も2、3、4のどのグループでも改善していた。         

【研究から考えられること】
  • 脳の機能は、運動量が多いほど改善する傾向があった。
  • しかし、単純に運動量を増やすため運動時間を長くすればいいのではなく、運動時間よりも運動の強度のほうが大切である可能性がある。
  • 運動に慣れてきて、以前の運動の強度が楽に感じるようなら、ダンベルを重くするなど運動の強さをだんだん上げていかないと、脳機能の改善には効果が発揮されないと考えられた。

いかがでしょう?

運動で脳機能が改善するなんて、とても心強いですね。
認知症を予防するには、運動は欠かせないようです。

運動のステップアップが脳の快感に

筋トレをしているとわかりますが、たとえばダンベルの重さを慣れに従って少しずつ重くしていかないと、筋肉は付いてきません
また、骨折などで動けない期間など、身体の機能を使わない期間があると、筋肉をはじめとして、体の機能はどんどん落ちていきます。

⇒筋肉を保つためにはどの程度の運動が必要か
⇒筋肉を維持するにはどうすれば良いか

身体の機能を使わない期間が長い寝たきりの患者さんなどでは、廃用症候群といって(生活不活発病ともいいます)、筋肉が大幅に落ちて、床ずれがでてきたりして、身体の機能がどんどん落ちていくのですが、身体の機能だけでなく、精神的な機能も落ちることが知られています。

運動と脳機能の関係もきっと同じですね。

運動を始めて、慣れてきたころに、さらに強さを上げて運動することで、目標を達成した快感を繰り返し得ることができます。
これが脳にとって刺激になるのでしょう。
刺激を受け続けることが、脳の機能を維持するカギなのでしょうね。

身体の運動や、脳の運動も続けて、その強度を上げていくことは、言い換えれば、チャレンジし続けることです。



 重い植木鉢を力いっぱい押しのけて障害物を乗り越え、達成感に浸る 
エバーグリーン研究室所属リクガメ うらら研究員(愛称:うらちゃん)
カメにも運動は欠かせない。リクガメの空間認知機能は優れている。



こうすることで、我々は歳をとっても常に新たな目標を得ます。
理想の体型に一歩ずつ近づく。
素敵なことです。
目標に向かって、ささやかにでも努力を続ければ、体はそれに応えて機能を維持してくれるようです。

また、慣れてくれば、運動の後の爽快感は格別です。
この爽快感は、運動により脳の報酬系が活性化されドパミンが分泌されるためです。
報酬系は、目標を定め、努力して、それを達成することで活性化されます。
この達成感は、アスリートはみな経験しています。

運動を習慣化すれば目標ができて、ストレスを解消でき、かつボケ防止にも役立つ。

もう運動しない手はありませんね。

2015年6月1日月曜日

睡眠薬でアルツハイマー型認知症になる?

不眠症の方、多いですね。
特に高齢者で昼間の活動量が少ない方は、なかなか眠れないことが多いようです。

不眠症については厚生労働省も対策をいろいろ考えています。
みんなのメンタルヘルス「睡眠障害」
e-ヘルスネット「不眠症」
わかりやすく書かれているので、不眠症対策についての解説は厚生労働省に譲ることにします。

高齢者が睡眠薬を使いすぎると認知症になる

ここでは、高齢者がベンゾジアゼピン系薬と呼ばれる睡眠薬を長い期間使うとアルツハイマー型認知症になりやすいというお話をします。

カナダで66歳以上の高齢者を対象にして行った調査の結果、3か月以上ベンゾジアゼピン系薬を使用した場合にアルツハイマー型認知症に罹りやすくなることがわかりました。

Benzodiazepine use and risk of Alzheimer’s disease: case-control study
BMJ 2014; 349 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.g5205 (Published 09 September 2014)
Cite this as: BMJ 2014;349:g5205

【対象】
66歳以上のアルツハイマー型認知症患者群 1796名、対照群 8784名

【方法・結果1】
アルツハイマー型認知症患者群と対照群のそれぞれを
  1. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:3か月以下
  2. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:3~6か月
  3. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:6か月以上
の3群に分けて解析したところ、ベンゾジアゼピン系薬の使用はアルツハイマー型認知症のリスク上昇に関係することがわかりました。

具体的には、
  1. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:3か月以下群は、オッズ比1.09(統計学的にみると関連性なし)
  2. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:3~6か月群は、オッズ比1.31
  3. 累積ベンゾジアゼピン系薬使用期間:6か月以上群は、オッズ比1.84
オッズ比とは何かというと…
「オッズ比1」のとき、ベンゾジアゼピン系薬使用者と非使用者の認知症発症率が同じくらい、
オッズ比が1より大きければ大きいほど、ベンゾジアゼピン系薬使用者の方が認知症を発症しやすいことを意味します。

【方法・結果2】
さらに、ベンゾジアゼピン系薬の効いている時間の長さによる違いを見るために
  1. 短時間型ベンゾジアゼピン系薬使用者(半減期20時間未満)
  2. 長時間型ベンゾジアゼピン系薬使用者(半減期20時間以上)
の2群に分けたところ、
  1. 短時間型ベンゾジアゼピン系薬使用者では、オッズ比1.43
  2. 長時間型ベンゾジアゼピン系薬使用者では、オッズ比1.70
と、長時間型の方がアルツハイマー型認知症を発症しやすいという結果になりました。

ベンゾジアゼピン系薬の使用は、短期間に

ベンゾジアゼピン系薬では、高齢者でなくても、耐性や依存性が生じる危険があるために、短期間の使用にとどめるべきということは、以前から指摘されていました。

簡単にいうと、耐性とは、薬剤がだんだん効かなくなること、依存性とは、薬剤を止められなくなることです。

この試験の結果から、アルツハイマー型認知症になる危険性から考えても、ベンゾジアゼピン系薬は、長くとも3か月の使用にとどめるべき、ということが確認されました。

また、

どうしても使用を続けなくてはいけない場合は、短時間型が良い

ともいえますが、短時間型の薬剤は長時間型に比べて耐性・依存性が形成されやすいという傾向もあります。
主治医とよく相談する必要がありますね。

ベンゾジアゼピン系薬とは

ベンゾジアゼピン骨格
従来、ベンゾジアゼピン系薬とは、ベンゾジアゼピン骨格と呼ばれる化学構造をもつ薬を指します。
これらの薬が脳の神経細胞のベンゾジアゼピン受容体に作用すると、脳神経の活動を鈍らせるので、眠くなります。

新しいタイプの睡眠薬では、非ベンゾジアゼピン薬と呼ばれ、ベンゾジアゼピン骨格を持たないものもあります。
とはいっても、これらの薬の多くはベンゾジアゼピン受容体に作用します。
結局、脳神経の活動を低下させるという作用は同じなので、アルツハイマー型認知症になる危険性は同じと考えられます。

ベンゾジアゼピン系薬の作用

 ベンゾジアゼピン系薬がどのようにして眠くさせるのかについて、もう少し詳しく説明しましょう。

私たちの神経細胞は、細い線維でできています。
この線維にカリウムイオン(K+)やナトリウムイオン(Na+)などのプラスイオンが入ってくると、神経細胞は興奮した状態になります。
この興奮が伝わっていくことで、私たちが熱いと感じたり、喜んだり、怒ったりする情報が伝わります。


脳の中には、神経を休ませようとする物質があります。
γアミノ酪酸(GABA)といって、「ギャバ」とよばれています。


脳の神経は、たくさんの神経線維が複雑につながって、信号を送りあって、働いています。
ベンゾジアゼピン系薬の作用機序 神経終末 GABA受容体 イラスト 睡眠薬はどうして効くのか
脳の神経線維の端からGABAが放出されて
次の神経線維のGABAA受容体に作用すると
「お休みモード」の信号が伝わる
神経線維には、脳の活動を活発にしたりする、興奮性の神経と、活動を鎮静する抑制性の神経があります。

働きすぎてオーバーヒートしないように抑制性の神経線維はたくさん張り巡らされています。


この神経と神経の間には、隙間があって、この隙間にGABAが放出され、受け取る側の神経に「休め」の信号を送ります。

信号を受け取るのは、神経線維の末端にあるGABA受容体です。
GABA受容体には、GABAA受容体とGABAB受容体があり、ベンゾジアゼピン系薬が関係するのはGABAA受容体の方です。

ベンゾジアゼピン系薬の作用機序 神経終末 GABA受容体結合部位 イラスト 睡眠薬はどうして効くのか 睡眠障害 不眠症の薬の効き方 塩素イオン Cl-
GABAA受容体にGABAが作用すると、
塩素イオンが神経線維の中に入って
神経の興奮が抑えられる。
ベンゾジアゼピン系薬はこの作用を強める
GABAA受容体にGABAが作用すると、GABAA受容体の中心にある穴が開いて、ここからマイナスのイオンである塩素イオン(Cl-)が入っていきます。

さっき、「神経線維はプラスのイオンで興奮状態になって信号が伝わる」といいましたが、この塩素イオンが入ってくると、神経線維は興奮しにくい「お休みモード」になります。

ベンゾジアゼピン系薬は、GABAA受容体のGABAとは違った場所に作用します。
そうすると、GABAがGABAA受容体に作用した時に塩素イオンの通る穴が開きやすくなります。

そして、神経の「お休みモード」を増強します。


なんだか難しい話になりましたが、まとめると

私たちの脳は、このGABAが神経の先端にあるGABAA受容体に作用することで、休むことができるシステムになっていて、ベンゾジアゼピン系薬はその作用を助ける

ということです。

ベンゾジアゼピン受容体に働く睡眠薬

これらの薬を表にまとめました。
睡眠薬を使っている方がいらっしゃいましたら、この中に該当する薬がないかどうか、確認してみてください。
「睡眠薬」とは呼ばれず、「精神安定剤」や「抗うつ薬」として使われる薬も含まれます。

眠れない方の中には、不安が強いことが原因になっている方もいるので、医師の判断で使い分けているのですね。

ベンゾジアゼピン系受容体に作用する睡眠薬 作用時間 超短時間 トリアゾラム ハルシオン、トリアゾラム、アスコマーナ、ハルラック ゾピクロン アモバン、ゾピクロン、アモバンテス、 ドパリール、メトローム エスゾピクロン ルネスタ ゾルピデム酒石酸塩 マイスリー、ゾルピデム クロチアゼパム リーゼ、クロチアゼパム リルマザホン塩酸塩水和物 リスミー、リルマザホン 短時間 エチゾラム デパス、パルギン、エチゾラム、 セデコパン、デゾラム ブロチゾラム レンドルミン、ブロチゾラム、グッドミン、 ソレントミン ノクスタール、ネストローム、ブロメトン ロルメタゼパム エバミール、ロラメット アルプラゾラム ソラナックス、コンスタン アルプラゾラム、カームダン ブロマゼパム レキソタン、セニラン クロキサゾラム セパゾン 中間 ニメタゼパム エリミン フルニトラゼパム ロヒプノール、サイレース、 フルニトラゼパム、ビビットエース エスタゾラム ユーロジン、エスタゾラム ニトラゼパム ベンザリン、ネルボン、ニトラゼパム、 ネルロレン オキサゾラム セレナール、オキサゾラム フルジアゼパム エリスパン メキサゾラム メレックス ロフラゼプ酸エチル メイラックス、ロフラゼプ酸エチル、 ジメトックス フルトプラゼパム レスタス 長時間 フルラゼパム塩酸塩 ダルメート ハロキサゾラム ソメリン クアゼパム ドラール、クアゼパム

繰り返しますが、これらの薬を長く使うと、
  • 依存性がある
  • 耐性を生じやすい
  • 認知症になりやすい(高齢者)
と、よくないことがたくさん起こります。

日本老年医学会が発表した、高齢者は使わない方が良い薬のリストにもあげられています。

ただし、今この薬を使っているからと言って、いきなりやめてしまうのも危険です。
まず、
「この睡眠薬は長く使うとよくないと聞いたのですが、止めることはできますか?」
と、お医者さんに相談してみてください。

最近では違った作用を持つ睡眠薬も発売されています。
  • ロゼレム(一般名:ラメテオン)
  • ベルソムラ(一般名:スボレキサント)
どちらも、お医者さんに処方してもらう薬です。

どの睡眠薬が効くかは人によって違います。
薬を変えたいときにもお医者さんに今の症状や、昼寝をしていないか、運動をしているかなど、生活習慣をしっかり伝えるようにしてくださいね。

2014年8月20日水曜日

飲酒でボケが早まる!

アルコール, 認知機能, 認知症, 飲酒,
今日はお酒好きの男性にはちょっとショッキングな研究をご紹介します。


お酒は認知機能低下の原因となる可能性を示した研究です。
認知機能とは記憶・学習・判断・コミュニケーション能力など普段の基本的な脳の機能のことを言います。
歳をとると誰でも、この機能が落ちてきます。
つまり遅かれ早かれある程度はぼけていくんですな。
この機能が何らかの原因で、病的に低下してしまうのが、アルツハイマー病などの認知症です。


研究の方法は、
・イギリス人で5054人の男性、2099人の女性(44から69歳)で

・過去14年間で3つの時点での研究参加者のアルコールの消費量を調査して

・研究開始時点で、参加者の認知機能をテストして、その後10年間で2回追加してテストした

・研究開始時点でのテスト結果と比較して、参加者の認知機能のテスト結果低下率を計算した


結果として、
・アルコールを飲めない下戸の男性と、やめた男性、アルコール量にして20g未満飲む男性では認知機能の低下はなかった

・アルコール量にして1日に36g以上飲む男性は、0.1g~19.9g飲む男性と比較して、10年間での認知機能の低下スピードが明らかに早かった(10年で11.5年から15.7年分の低下率に相当)

・女性では、男性と対照的に、下戸なので飲めない女性のほうが、1日に0.1g~9.9g飲む女性と比較して、10年間での認知機能の低下スピードが明らかに早かった(10年で約15年分の低下率に相当)

つまり、

男性では、アルコールを1日に36g以上飲むと10年間で最大5.7年分余分に認知機能が衰える

女性では、全く飲まないよりたしなむ程度に飲んだほうが認知機能が衰えない


という結果です。

うーん。
私もお酒は嫌いとはいえないので…。ショック…。

ちなみに、アルコールの36gって具体的にどれくらいのアルコール飲料の量なのでしょう。

アルコール飲料のアルコール重量の計算方法は

アルコールの重量=お酒の体積(mL)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8

となります。
0.8はアルコールの比重です。

アルコール, 認知機能, 認知症, 飲酒, アルコール量,飲みすぎ,二日酔い,ボケ,アルツハイマー,
例として5%のビール中びん500mL1本では、
500×[5÷100]×0.8=20gとなります。

36gのアルコールを私の好きなワイン(アルコール14%とします)に換算すると、

36g=ワインのmL×[14÷100]×0.8
となって、
ワインのmL=321mLとなります。
ハーフボトルにちょっと足りないぐらいですね。

このくらいの量は毎日飲んでしまっている私は、日々、認知機能を衰退させ続けているということです(^_^;)