いきいき!エバーグリーンラブ: ホルモンの非常事態が更年期症状に!

2017年4月16日日曜日

ホルモンの非常事態が更年期症状に!

女性ホルモンとホルモン補充療法(HRT)について、何回かお話してきました。

今回は、更年期のエストラジオールの分泌の変化をもう少し詳しく示しながら、更年期症状との関係について考えます。



女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる

エストラジオール についておさらい

女性ホルモンには、プロゲステロンとエストロゲンがあり、エストロゲンにはエストラジオール、エストロン、エストリオールなどがあります。

プロゲステロンが子宮、卵巣、乳腺などの生殖に関する器官に主に作用するのに対し、エストロゲンは子宮、卵巣、乳腺のほか、骨、筋肉、骨髄、脳、血管、大腸、(男性では前立腺、精巣)など、全身に作用しています。
エストロゲンの中で最も活性が高く、分泌量も多いのはエストラジオールですので、通常、エストラジオールの血中濃度が指標として使われます。

エストラジオールは、卵巣から大量に分泌されます。
血液中に分泌されるエストラジオールのほとんどは卵巣で作られたものです。
脂肪細胞で作られたエストラジオールも血液中に分泌されますが、ほんの少しです。
卵巣機能のなくなった60歳以降に分泌されるエストラジオールは、脂肪細胞で作られたものです。

エストラジオール分泌のシステム

エストラジオールの生合成に必要な酵素は
卵胞の莢膜細胞と顆粒膜細胞の両方にまたがって存在しているため、
生合成過程で莢膜細胞から顆粒膜細胞へ移動して作られる。
まず、莢膜細胞の細胞膜のコレステロールを原料に、
主に莢膜細胞に発現するLH受容体にLHが作用することで活性化される酵素の働きで
プログネノロン、プロゲステロンを経てアンドロステンジオンが作られる。
アンドロステンジオンは顆粒膜細胞に移動してテストステロンを経て、
アロマターゼの働きでエストラジオールとなる。
アロマターゼは顆粒膜細胞でFSHの刺激により活性化する。
顆粒膜細胞から分泌されたエストラジオールは、
視床下部と下垂体の両方に抑制的に働くと同時に
顆粒膜細胞のエストロゲン受容体に働いてFSH受容体を増やす。 
FSH顆粒膜細胞のFSH受容体に作用して、
下垂体のFSH産生を抑制するインヒビンを産生する

FSHは卵巣でエストラジオールを分泌させる


卵巣が元気なときの、卵巣の卵胞(卵子を作る袋)の細胞からのエストラジオールの分泌の様子を見てみましょう。

卵巣(正確には卵巣にある卵胞の顆粒膜細胞)からのエストラジオールの分泌は、卵胞刺激ホルモン(FSH)の指令で調整されています。
FSHは、更年期にキーになるホルモンですので、覚えておいてください。

FSHは卵胞の顆粒膜細胞にあるFSH受容体に働いて、アロマターゼという酵素を活性化することで、テストステロンをエストラジオールに変換させ、分泌させます。

卵巣から分泌されたエストラジオールは主に子宮に働きますが、血液中にも分泌して、血液を介して脳に働きかけ、自分自身(エストラジオール)の分泌を抑えるように指令を出します。


このように、ホルモンが”たくさん分泌されたら減らすように働く”作用は大切なので、詳しく見てみましょう。



エストラジオールは、脳の2か所に作用してFSHを低下させる

FSHは脳の下垂体から分泌されます。
このFSHの分泌は、脳の視床下部から分泌される卵胞刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の指令で行われます。

血液中のエストラジオールの濃度が高くなるとGnRHからのFSH分泌の指令が出なくなって、FSHの分泌は低下します。

エストラジオールには、下垂体に直接働いてFSHの分泌を抑える働きもあります。


以上のように、”多くなりすぎると減らす方向”に働き、”少なくなりすぎたら増やす方向”に働くことをネガティブフィードバックといいます。

多くのホルモンは、ネガティブフィードバックにより、自分自身の血中濃度が一定になるよコントロールしています。

エストラジオールがFSHの分泌を促進させる場合がある

ところが、エストラジオールには、ネガティブフィードバックとは違ったふるまいをする場合があります。

”そのホルモンの濃度がより高まることで他のホルモンの分泌を高める方向”に働くポジティブフィードバックと呼ばれる作用です。
これは、特別な目的のために起こります。

エストラジオールポジティブフィードバックの”特別な目的”・・・それは排卵です。
排卵は、生物にとって重要なイベントなのです。

卵胞が成熟していってエストラジオールの血中濃度が一定以上になる(200~300pg/mL以上が2~3日続く)と、下垂体に働いてLH(黄体化ホルモン、黄体形成ホルモン)を一気に分泌させます。

これをLHサージといいます。
LHサージが起こると36時間以内に、卵巣の卵胞から排卵が起こります。
LHサージではFSHも分泌されますが、必ずしも排卵に必要というわけではないようです。

排卵後、卵胞は黄体に変化して、主にプロゲステロンを分泌するようになります。
排卵した卵子が受精しなければ(つまり、妊娠が成立しなければ)、この黄体は消滅します。
そして、FSHの分泌が低下して、新しい卵胞からエストラジオールの分泌が始まり、月経周期が繰り返されます。

女性ホルモン分泌の精巧なシステムは種(しゅ)を残すためのもの

女性・・・雌が子どもを産むことが種(しゅ)が生き残ることの基本ですから、女性ホルモンの最大の目的は排卵を起こし、卵子を育てることにあります。
そのために、このように複雑で精巧なシステムが進化してきたのですね。

このシステムは、生物にとってはたいへん優秀なのですが、私たち人間の女性には大きな問題を生み出しています。
大きな問題・・・それは、このシステムが生殖年齢を過ぎた後の身体を守ることには何の配慮もされていないために、更年期以降に様々な支障をきたす、というものです。

では、更年期以降にホルモンがどうなっていくかを見てみましょう。

更年期とエストラジオールの分泌の変化

加齢により卵巣機能が低下すると・・・

卵巣の機能低下によるエストロゲンの低下、HRTホルモン補充療法 更年期障害更年期(45歳~55歳くらい)を過ぎ、卵巣機能が働かなくなるとどうなるのでしょうか。

エストラジオールが大量に分泌されることはないので、LHサージは起こりません。
したがって、排卵は起こらず、妊娠することはありません。

卵巣からのエストラジオールの分泌がないとFSHの分泌を抑える指令が出ないので、FSHは分泌し続けます。

更年期以降にも、エストラジオールは、脂肪細胞からごく少量分泌されていますが、FSHを抑えるほどの作用は示しません。

FSHはいくらたくさん分泌しても、FSHの受容体を持つ卵巣の細胞が機能していないので、FSHはどこにも働きません。

更年期はどうかというと・・・

では、更年期にはどうなっているのでしょう。
かなり個人差がありますが、一般的に次のように考えられています。

エストラジオールの濃度が低下すると、FSHを抑える指令が出ないので、FSHの分泌が亢進します。
ここまでは、更年期過ぎの場合と一緒です。

更年期には、まだ、エストラジオールを分泌する機能が卵巣にいくらか残っているので、FSHの濃度がとても高くなると、エストラジオールが一時的に大量に作られます。

しかし、卵巣の機能は衰えているので、すぐに力尽きてエストラジオールはまた非常な低値に戻ります。
それに反応してFSHが上がってくると、また一時的に大量に分泌する・・・ということを繰り返します。

この分泌の間隔や量は一定ではありません。
 
右の図に、エストラジオールの分泌の乱高下のイメージを示しました。

月経周期は不規則になり、間隔が長くなったり短くなったり、出血が増えたり減ったりします。
迷惑な話ですが、身体にとって本当に 迷惑なことは、もっと目に見えにくいところで進みます。

エストラジオールの分泌の乱高下で、これまでエストラジオールによって守られてい様々な器官が悲鳴を上げます。
そして、ほてりや、めまい、発汗、不眠、憂鬱、関節の痛み、疲労感など、様々な症状が現れます。
これが更年期症状です。

更年期症状は、卵巣の機能がいよいよ衰えて、エストラジオールの乱高下すらできなくなると治まります。

しかし、更年期症状に悩まされることはなくなったあとも、エストラジオール不足は続きます。
エストラジオール不足の影響は血管や骨、神経系など全身に及び、徐々に体を蝕みます。
そして、あるとき突然、骨が折れたり、脳梗塞が起きたり、認知症が現れたりすることになります。

更年期の指標にはFSHが有用

更年期障害の診断には、自覚症状のほかに血液検査でエストラジオールFSHが測定されます。

それぞれの基準値は、
    HRT ホルモン補充療法 更年期障害 
  • エストラジオール:6 ~ 37pg/mL(更年期以前に比べて低値)
  • FSH:157.79以下(更年期以前に比べて高値)
ただし、更年期にはエストラジオールの血中濃度は乱高下することから、エストラジオールの値だけで判断することはできません。

一方、FSHはいったん分泌されると代謝されるまでの時間が長くかかり、多くの場合、継続して高値を示します。

そのために、更年期かどうかを判断する際には、女性ホルモンであるエストラジオールよりFSHの値の方がより参考になります。

ホルモン補充療法(HRT)で解決できること・できないこと

エストロゲン(場合によってプロゲステロンも)を補う治療法をホルモン補充療法(HRT)といいます。
更年期にHRTを行えば、更年期症状は改善します。
更年期が過ぎればHRTなしでも、多くの場合、更年期症状は治まるので、更年期の間だけHRTが勧められる場合が多いようです。

しかし、深刻な病態にならないようにするには、更年期が過ぎてもHRTを継続したほうがよいと思われます。

ただし、HRTで必ずすべてが解決するわけではありません。
ヒトの身体は、とても複雑にできています。
卵巣のエストラジオールの分泌が、非常にたくさんのホルモンや酵素によってコントロールされていることからも想像できますね。

ホルモンの分泌の仕方も一律ではなく、FSHLHの分泌を促すGnRHは、律動的に、規則的な振幅で分泌していることがわかっています。
これは、薬でホルモンを補ってもまねできません。

とはいえ、やはり、HRTはデメリットよりメリットの方がはるかに多いと考えられます。
更年期以降も、年齢やHRTに対する反応に応じてエストロゲンの種類を変えるなどして、継続することが大切だと思います。
エストロゲンやFSHの血中濃度を定期的に測定しながら、副作用にも注意してHRTを長期的に行うことをお勧めします。

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