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2019年1月28日月曜日

インフルエンザにゾフルーザを使って大丈夫??

今年も、インフルエンザが流行っています。
新しい抗インフルエンザウイルス薬、ゾフルーザの人気が高く、医薬品卸や病院などが買い占めてしまって、品薄になっているとか。
副作用がまだよくわからないような使用経験の少ない薬が好まれるというのは、日本独特の現象のようですが、健康に直接関わることだけに見過ごせないように思います。

今日は、ゾフルーザの長所、短所を説明して、タミフルやイナビルを含む抗インフルエンザウイルス薬を本当に使う必要があるかどうかについて考えてみます。

ゾフルーザの長所とされている事柄を鵜呑みにしてよいか?

ゾフルーザの長所とされている点を挙げて、1つ1つ検証してみましょう。

長所1

1回錠剤を服用するだけで治療が終わる。


長所1の問題点

1回飲んだ薬が長時間作用するため、副作用が出たときに、なかなか治まらなくなります。
新薬では、どのような副作用が現れるかの検証は十分にできていません。
ゾフルーザは吸入薬ではなく、内服薬なので、血流を介して全身に薬が届きます。
エイズウイルスの治療薬や、肝炎ウイルスの治療薬など、ウイルスに作用する薬は、副作用が多い傾向があります。
インフルエンザ*タミフルよりはリレンザ・イナビルが安心

確かに1回錠剤を飲むだけの治療には魅力がありますが、未知の内服薬を使うリスクについて、まず、考える必要があるように思います。


長所2

インフルエンザの症状を約1日早く治す。


長所2の問題点

開発時の臨床試験での解析結果であって、平均値です。
何週間も咳や鼻水が続く方もいます。
1日早く症状を回復させるために、副作用の危険を冒してまで抗インフルエンザウイルス薬を使う必要があるか、考える必要があります。
因みに、タミフルでも同じ結果でした。
タミフルについても、有効性には疑問がありますが。
インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?


長所3

体内からウイルスが検出されなくなるまでの期間を、タミフルや薬を使わなかった場合と比べて2~3日短縮する。


長所3の問題点

ゾフルーザには、耐性化を生じやすいという大きな欠点があります。
どういうことかと言うと、ゾフルーザを飲んだ人では、感染しているインフルエンザウイルスの遺伝子が変異して、ゾフルーザが効きにくくなる場合があるということです。
ゾフルーザ開発時の臨床試験では、成人で約10人に1人、小児では約4.3人に1人に耐性化が認められ、これらの人では、ゾフルーザを使わなかった場合よりウイルスが体内からなくなるまでの時間が長くかかっています1,2)
あなたの体内でインフルエンザウイルス薬がゾフルーザに耐性となり、それがお子さんに感染したら、お子さんはゾフルーザが効きにくくなります。

現在のようにゾフルーザを頻繁に使用し続けたら、あっという間にゾフルーザが効かないウイルスだらけになってしまうでしょう。
実際に、小学生を対象とした検査で、ゾフルーザ耐性ウイルスが見つかっています。
2019/1/24 IASR

以上、もっと詳しく知りたい方は。下記の『日本感染症学会』のページをご参照ください。
日本感染症学会でも、ゾフルーザは勧められていません。
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ)について

抗インフルエンザウイルス薬を使わないでもインフルエンザは治る

私は薬局で薬剤師をしていますが、「タミフルやイナビルを使わなくても、インフルエンザは治ります」というと、驚かれる若いお母さんがたくさんいらっしゃいます。
お子さんがタミフルのドライシロップはまずくて飲めず、イナビルの吸入もうまくできないでいると、薬なしでは脳炎にでもなってしまうと思っているような慌てぶりです。

でも、ちょっと前までは、インフルエンザの薬なんてありませんでした。
自分の免疫の力で治すので、免疫がしっかり鍛えられて、同じ型のインフルエンザにはかかりにくくなったものです。

2009年にA(H1N1)pdm09と呼ばれる新しいタイプのインフルエンザが流行したときに、通常では罹患率が高くなる高齢者の罹患が少なかったことは有名です。
A(H1N1)pdm09は、実は昔、流行していた時期があり、高齢者では、同じ型のインフルエンザウイルスに子供のころ罹った際の免疫が残っていたのですね。

検査キットを使った診断の問題点

熱が高くて異常にだるいので受診したところ、検査キットでインフルエンザウイルスが陰性だったから、「明日も熱があればもう一度受診してください」と医師に言われ、翌日、熱は下がり始めているのに改めて受診して検査したら陽性になったからといって、抗インフルエンザウイルス薬が処方された、とうい患者さんも多くいらっしゃいます。

検査キットで陰性でも、症状からインフルエンザと診断できれば、抗インフルエンザウイルス薬を処方することは、保健適応上、可能です。
抗インフルエンザウイルス薬は感染初期に投与したほうが効果が高いのに、翌日まで待たせるというのはおかしな話です。
そもそも、自分の力で熱が下がり快復してきているのであれば、もう、抗インフルエンザウイルス薬は必要ないでしょう。
先ほども言いましたが、あえて副作用の危険を冒すことのリスクに、もっと意識を向けるべきです。

辛くて苦しいときには薬を出してもらえず、治り始めてから薬を出す・・・何のための医師だかわかりませんね。
あなたの主治医が、検査などせずに、ご自身の診療の経験からインフルエンザの診断を迅速に行い、合併症がなく、高齢でもない患者に対しては抗インフルエンザウイルス薬は処方しない方針であれば、その医師はとても信用できると思ってよいでしょう。

なぜ、皆、抗インフルエンザウイルス薬を使いたがるのか

こんなに抗インフルエンザウイルス薬を使いたがるのは、日本人だけです。
なぜ、このような状況になったのでしょう。

国民皆保険制度で国民の医療費の負担が少なくて済むのも一因でしょう。
抗インフルエンザウイルス薬は高額です。
特に、新しい薬ほど高い薬価が付いています。

タミフルはジェネリック医薬品も発売されて安価になりましたが、今の主流はイナビルとゾフルーザ。
両剤とも1回の治療で済みますが、タミフルやリレンザを決められた日数使うより、高額です。
医療費を抑制しようとしている国の政策に逆行していますね。

いくら保険で自己負担額が少なくて済むとはいえ、国民一同、検査にお金をかけたうえ、わざわざ高い薬を使いたがる・・・そのように仕向けている仕掛けがありそうです。

ゾフルーザは塩野義製薬、イナビルは第一三共の製品で、両剤とも日本のメーカーが開発して販売しています。
製薬メーカーが宣伝しているのに加え、マスメディアでも、新薬を大げさなまでにセンセーショナルに取り上げています。
とても不自然な印象を受けます。
もしかしたら、厚生労働省や政府が、画期的な新薬を出せないでいる日本国内の製薬メーカーを守るために、陰ながら応援しているのでは?と考えてしまいます。

因みに、イナビルは、十分な有効性が証明できなかったことから、海外では発売されていません。
日本でこの薬の承認をおろしたのは、当然ながら厚生労働省です。
詳しくは下記をご参照ください。
インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

「でも、やっぱり少しでも早く楽になりたい」という方に

そうはいっても、いつも忙しい日本の皆さん、辛い症状を我慢するのは嫌だし、やはり1日でも早く良くなりたいと思われても当然です。

そこでお勧めなのが漢方薬の麻黄湯です。
タミフル以上の効果も検証されています。
Nabeshima S, J Infect Chemother 2012; 18: 534-43 

費用も圧倒的に安く、タミフルのジェネリック医薬品を使った場合の1/10程度です。
医師の処方箋なしに、薬局で買うこともできます。

抗インフルエンザウイルス薬はインフルエンザ以外のウイルスや細菌による風邪には効きませんが、麻黄湯ならば、風邪の引き初めに正しく使用すれば、風邪の病原体が何であっても有効です。

麻黄湯が有効な症状や使い方については、下記をご参照ください。
麻黄湯が合わないと思われる方と、体質に合わせた別の漢方薬の選択についても解説しています。
インフルエンザ*漢方薬で早めの対策

麻黄湯に関しては、最近、作用メカニズムも、研究されています。
麻黄湯に含まれる4種類の生薬が、それぞれの作用機序で炎症を抑えることがわかってきました。
Nishi A et al. NPJ Syst Biol Appl. 2017; 3 32.

とはいえ、抗インフルエンザウイルス薬を使うことが勧められる場合もあります。
詳細は下記をご参照ください。
インフルエンザにタミフルやイナビルは本当に必要?
  1. Omoto S, et al. Sci Rep 8: 9633, 2018 
  2. Hayden FG, et al. N Engl J Med 379: 913-923, 2018

2018年2月1日木曜日

インフルエンザにタミフルやイナビルは本当に必要?

インフルエンザに罹ったら、抗ウイルス薬を使わないといけない、と思っていませんか?

「病院でインフルエンザウイルスの迅速診断キットで調べてもらったらインフルエンザ陽性だった」
といって、タミフルやイナビルを処方された方がたくさん薬局に来られます。

中には熱があってだるそうな方もいますが、「もう、熱は下がった」とか、「具合はたいして悪くないんだけど、学校で流行っているから念のため検査をした」という方も多いようです。

インフルエンザに感染している方が学校や職場へ行くと感染を広げてしまうので、インフルエンザかどうかを調べることには意義があると思います。
ですが、検査で陽性だったら、必ず抗インフルエンザウイルス薬を使わなければならないわけではありません。

若くて健康な人であれば、むしろ、使わない方が身体によいと思われます。
その理由は次のとおり。
抗インフルエンザウイルス薬を使わなくてもインフルエンザは治る 抗インフルエンザウイルス薬を使わない方がインフルエンザウイルスに対する免疫が付く 抗インフルエンザウイルス薬を使っても早くウイルスが消失するわけではない 抗インフルエンザウイルス薬を使っても効果はたいしたことはない 抗インフルエンザウイルス薬は使うタイミングが遅ければ効かない 抗インフルエンザウイルス薬にも副作用のリスクがある  リスクが高い人は抗インフルエンザウイルス薬の使用が勧められる イナビル タミフル リレンザ

    それぞれの理由については、あとで1つずつ説明しましょう。

    抗ウイルス薬の使用が勧められる方

    抗インフルエンザウイルス薬を投与が勧められるのは次のような方です。
    亀田総合病院の作っているガイドラインを参考にしました。)
    ただし、症状が現れてから48時間以内でなければ効果は保障されません。
    • 肺炎になっている人
    • 5歳未満の小児(特に2歳以下)
    • 65歳以上の人
    • 妊婦
    • 以下の基礎疾患のある人:慢性呼吸器疾患(喘息を含む)、慢性心疾患(高血圧症以外)、慢性腎疾患、慢性肝疾患、血液疾患、慢性神経疾患、慢性神経筋疾患、代謝異常(糖尿病を含む)、肥満(BMIが30以上)
    • リウマチなどで免疫抑制剤投与中の人
    • がんを治療中の人
    このような方には、迅速診断の結果を問わず、抗ウイルス薬の投与が勧められます。
    迅速診断では、感染していても30~90%で検査結果が陰性になる可能性があるとされています。

    抗ウイルス薬の使用が勧められない方

    高リスクにあたらない健康な5歳以上の小児や65歳未満の成人に対しては、WHO(国際保健機関)やCDC(アメリカ疾病管理予防センター)は抗インフルエンザウイルス薬の投与を推奨していません。

    日本感染症学会は重症化を防ぐために投与を推奨していますが、その根拠となるデータが十分にあるわけではありません
    日本(厚生労働省も、日本の製薬会社も、関連学会も、国民皆保険があるために自己負担の少ない国民も)は、薬を使うのが好きですね。
    当面のあるかないかわからない重症化の可能性を防ぐために一様に抗インフルエンザウイルス薬を使うことで、先々、リスクが生じる可能性については議論に上がりません。

    抗ウイルス薬を使わない方が良いと考えられる理由

    健康な5歳以上の小児や65歳未満の成人で入院を要しない軽症患者に、抗インフルエンザウイルス薬を使わない方が良いと考えられる理由を説明しましょう。


    1.抗ウイルス薬を使わなくてもインフルエンザは治る

    当たり前ですね。
    抗インフルエンザウイルス薬がなかったころは、誰も使わなかったのですから。

    抗インフルエンザウイルス薬を使ったことで、重症化が防げたという報告は見つけられませんでした。
    もっとも重篤な「脳症」は、抗インフルエンザウイルス薬を使っても減らないことが、確認されています。
    抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、治る人は治るし、治らない人は治らないのです。

    2.抗ウイルス薬を使わない方が、抵抗力が付く

     コクラン共同計画という、世界的に様々なデータを集めて解析して薬剤などの有効性を検討する計画があります。その1つとして、2014年に抗インフルエンザウイルス薬に関する解析結果が報告されました。
    Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI: 10.1002/14651858.CD008965.pub4

    この中で、オセルタミビル(商品名:タミフル)の試験20件(対象患者 9,623人)、ザナミビル商品名:リレンザ)の試験26件(対象患者 14,628人)の有効性・安全性を検討した結果、
    • タミフルを使った成人・小児には、感染と戦うための抗体を作る力が低下した人が、使わなかった人に比べて多く見られた
    と、報告されました。

    どういうことかというと・・・
    病原体が感染すると、ヒトの免疫細胞はその病原体と闘う戦闘員である抗体を作ります。
    抗体ができるのには1週間から10日と時間がかかるので、インフルエンザだと、多くの人は治りかけた頃に戦闘員が充実してくることになり・・・ちょっと遅い感じですね。
    でも、一度抗体を作ると、2度目に同じ病原体が感染した時には、すぐに出動して、感染を防いでくれます。

    この抗体は血液中に流れているので、どのくらいあるか、採血して調べることができます。
    インフルエンザに罹った後に血液検査をしたところ、タミフルを使った人は使わなかった人に比べて抗体が少ない場合が多かったのです。

    同じシーズンに2回もインフルエンザに罹ったという話を聞くことがありますが、そういう人は、ひょっとしたら、抗インフルエンザウイルス薬を使ったために抗体があまり作られなかったのかもしれません。

    3.抗ウイルス薬を使っても、早くウイルスが消失するわけではない

    抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、体の中からウイルスがいなくなるまでにかかる期間は変わりません 

    現時点で発売されている抗インフルエンザウイルス薬には、ウイルスそのものを破壊して消し去る薬効はありません。
    インフルエンザウイルスが増殖するのを邪魔する作用があるだけです。
    インフルエンザウイルスを排除するには、感染した人の細胞を免疫細胞がお掃除してくれるまで待つしかありません。
    抗インフルエンザウイルス薬の作用機序については、下記をご参照ください。
    インフルエンザ*タミフルで予防できる?

    ですので、病院で「熱が下がってから2日間は外出しないように」と言われるかと思いますが、この期間は、薬を使っても使わなくても変わりません。

    4.抗ウイルス薬を使っても、効果はたいしたことはない

    先ほどのコクラン共同計画の報告から、抗インフルエンザウイルス薬の効果について紹介しましょう。
    • 成人でインフルエンザ様症状が現れている期間を、タミフルは7日間から6.3日間に、リレンザは6.6日間から6日間に短縮した
    • 小児での効果は成人よりも不確かだった
    • リレンザは成人で気管支炎の発症を約1.8%減らした
    インフルエンザ様症状とは、「頭痛、筋肉または関節痛、疲労感、悪寒または発汗、鼻症状、喉の痛み、咳」を指します。
    それが、抗インフルエンザウイルス薬で半日くらい早く良くなるという結果でした。
    発熱に関しては、統計学的に分析して意味のある差が認められなかったようです。

    5.抗ウイルス薬を使うタイミングが遅ければ、効かない

    何れの抗インフルエンザウイルス薬も、症状発現から48時間以内に投与開始しなければ、効果は保障されません
    これは、抗インフルエンザウイルス薬の作用機序を見てもわかります。

    家族がインフルエンザに罹っていて、自分も寒気がしてきて「移ったかな?」と思いすぐに受診した患者さんに、「検査の結果が今はまだ陰性だから、明日、症状がひどくなったらまた来てください」 と言う医師がいます。
    全く、何のための医師なのか?と思ってしまいます。

    薬の効果が一番得られやすいタイミングをわざわざ逃して、症状が重くなって、薬が効きにくくなるまで待たせるのですから。

    薬はいつ使っても、同じように100%効果があるものではありません。
    頃合いや、さじ加減…言葉を換えれば患者さんの状態を見て、使うかどうかを判断するのが、本来の医師の役目です。
    それを判断できない医師は、やがてAIに先を越されるでしょうね。

    6.副作用のリスクがある

    抗インフルエンザウイルス薬にも、もちろん副作用があります。
    先ほどのコクラン共同計画の報告では、
    • タミフルでは、成人で約4%、小児で約5%、吐き気と嘔吐の副作用リスクが増加した
    とされています。

    異常行動を心配される方がいらっしゃいますね。
    異常行動は、抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、インフルエンザで高熱が出ることで現れるとされています。
    薬の使用との因果関係は認められていません。

    ここで、副作用について考えていただきたいことが、他にあります。
    体内に共生しているウイルスを人為的にむやみに排除することが、思わぬ被害を身体に与えている可能性についてです。

    細菌、ウイルスのサイズ 肺炎球菌、ミトコンドリア、人の細胞 ヘモグロビンの大きさ イラストで比較これまで、抗菌薬が腸内細菌に作用することで生涯を通して、悪影響を及ぼすというお話をしてきました。
    抗ウイルス薬も同じです。
    ウイルスは、細菌のように顕微鏡で見ることができないほど小さいので、細菌以上に未知の存在です。
    細菌以上に、私たちの身体に深いかかわりを持っているかもしれません。

    生物の進化にウイルスが関わっているという学説もあります。
    そんな、人類よりはるかに昔から存在している偉大な存在に、浅はかな人知でむやみに手を出して、大丈夫なのでしょうか?

    インフルエンザでは家で安静にするのがおすすめ

    ということで、具合が悪いのに病院に行って痛い検査をされて、たいして効かない薬を出されるより、家でしっかり休むことをお勧めします。

    特に小さなお子さんには、検査はかわいそうですね。
    そのうえ、タミフルの散剤は量が多くてまずいし、イナビルはむせて苦しいです。

    病院や薬局へ行けば、そこに集まるお年よりなど、もっとインフルエンザに感染しては困る方々にうつしてまいます。 

    効果が期待できるインフルエンザ対策

    個人的には漢方薬を使った対策をお勧めします。
    薬局で売っている薬で対応できます
    詳細は、こちらをご覧ください。

    コクラン共同計画の報告については、こちらに詳しくまとめましたので、ご参照ください。
    インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?

    今、一番よく使われているイナビルについて触れませんでしたね。
    イナビルは効くのでしょうか?

    イナビルは発売されたのが最近なので、コクラン共同計画の報告では調査対象になっていません。
    それに、イナビルは、海外では有効性が認められなかったために開発が中止された薬です。
    海外でレビューされるはずがありませんね。

    詳細はこちらをご覧ください。
    インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

    R1と豆乳、牛乳で作るインフルエンザ予防ヨーグルト
    ご参考まで・・・
    インフルエンザの予防に、ヨーグルトのレシピをご紹介します。

    本当に効くかどうかは・・・? 
    これを食べ始めて3シーズン目ですが、薬局勤務にもかかわらず、予防接種を受けなくても一度もインフルエンザに罹っていません。
    R1ヨーグルトでインフルエンザ&風邪対策

     

    2016年1月17日日曜日

    インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

    タミフル オセルタミビル イナビル リレンザ 吸入 作用機序 使い方 ザナミビル ラニナミビル ペラミビル 経口薬 ノイラミニダーゼ阻害薬イナビル(一般名:ラニナミビル)は2010年に発売された抗インフルエンザウイルス薬です。

    2016年現在、日本で保険適応が認められている、A型にもB型にも有効で、経口で投与できる抗インフルエンザウイルス薬は、タミフル、リレンザ、イナビルの3剤です。

    このうち、リレンザとイナビルは吸入薬。

    なかでも、イナビルは、1回吸入するだけで有効、という手軽さからか、今年はよく使われているようです。

    海外でイナビルは効果を認められなかった

    ところが、このイナビル、海外での開発が中止になりました。
    アメリカのビオタ(Biota Pharmaceuticals Inc)という製薬メーカーが行った臨床試験で、効果が認められなかったのがその理由です。

    効かない薬を開発するのは無駄ですから、当然の判断でしょう。

    この試験結果をご紹介します。

    IGLOO試験

    試験期間 : 2013年6月~14年4月
    対象 : 12か国 639例(うち248例にPCRによりインフルエンザウイルス感染を確認)
    試験方法 : ①イナビル80㎎投与群 
             ②イナビル40㎎投与群(日本での成人に対する投与量)
             ③プラセボ群(偽薬群)
            の3群にランダムに分け、二重盲検法により比較試験を実施
    結果

    • プラセボ群に比べ、イナビル40mg群、80mg群のいずれも、予後調査票によるインフルエンザ症状が改善するまでの期間(中央値)の有意な短縮は見られなかった(40㎎群:102.3時間 p=0.248、80㎎群:103.2時間 p=0.776、プラセボ群:104.1時間)。 
    • 定量的RT-PCR法による試験開始から3日時点でのウイルス排出量は、プラセボ群に比べ、イナビル40mg群(p<0.001)、80mg群(p=0.070)と有意な改善が見られた。
    • 試験開始から3日時点におけるウイルス陰性化率は、プラセボ群に比べ、イナビル40mg群(p=0.002)、80mg群(p=0.020)と有意な改善が見られた。
    • イナビル40mg群ではプラセボ群に比べ細菌二次感染の有意な減少(p=0.013)が確認された。 
    つまり、イナビルによって、患者から検出されるウイルスの量は若干減ったけれど、症状の改善の具合はイナビルを使っても使わなくても変わらなかったということです。

    Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 "IGLOO" Trial of Laninamivir Octanoate

    日本の臨床試験でも、イナビルはプラセボ群と有意差なし

    では、日本では効果が認められたのでしょうか。
    疑問に思ったので、調べてみました。


    開発段階で日本の製薬メーカーが行った臨床試験の結果でも、プラセボ(偽薬)と比較した試験で、イナビル投与群とプラセボ群の効果に、差は認められませんでした。

    日本では、タミフルと同等の有効性が確認されたことを理由にして、イナビルが承認されていたのです。

    イナビルとプラセボを比較して差がなかった、という臨床試験についてご紹介します。

    この試験は、台湾で行われています。
    日本では、インフルエンザの患者さんにプラセボを投与するのが難しかったのでしょう。
    日本人は、抗インフルエンザウイルス薬を盲信していますから(笑)


    対象 : A型またはB型のインフルエンザウイルス感染症患者
    試験方法 : ①イナビル20㎎投与群 47例
             ②イナビル10㎎投与群 53例
             ③プラセボ群(偽薬群) 47例
            の3群にランダムに分け、二重盲検法により比較試験を実施
    結果:

    • 体温が平熱(37.2℃以下に下がるまでの時間の中央値は次の通り
    ①イナビル20㎎投与群 38.5時間
    ②イナビル10㎎投与群 39.7時間
    ③プラセボ群(偽薬群) 41.0時間

    • イナビル投与群とプラセボ群に統計学的に有意な差は認められなかった(一般化ウイルコクソン検定)
    • 副次評価項目であるインフルエンザ罹病期間の中央値についても、イナビル投与群とプラセボ群に統計学的に有意な差は認められなかった(一般化ウイルコクソン検定)
    注意:日本での成人に対する投与量は40㎎です。

    この試験については論文が投稿されていません。
    下記の厚生労働省の審議結果報告書のp55に書かれている内容が、一番詳しい情報だと思います。

    日本では、開発段階のデータを学術論文として公表しなくても済むというのも、おかしな話です。
    2000年までは、このようなデータを学術論文として公表することが義務付けられていたのですが、規制緩和によって、撤廃されてしまいました。

    ナビル第Ⅱ相臨床試験
    厚生労働省医薬食品局審査管理課 審議結果報告書 平成22年8月3日 P55 台湾第Ⅱ相臨床試験

    第Ⅲ相臨床試験では、患者の主観で効果を判定

    前述の日本の第Ⅱ相臨床試験では、主要評価項目として「体温が平熱(37.2℃以下)に回復するまでの時間」を見ていたのですが、統計学的に有意差が認められなかったためか、その後に日本で行われた臨床試験では、主要評価項目が「インフルエンザ罹病時間」に変更されました。

    「インフルエンザ罹病時間」とは
    治験薬の初回投与から患者日記に記載される各インフルエンザ症状(頭痛、筋肉または関節痛、疲労感、悪寒または発汗、鼻症状、喉の痛み、咳)について、
    0~3 の4 段階
     0:なし
     1:ほとんど気にならない[軽度]
     2:かなり気になる[中等度]
     3:がまんできない[重度]
    で、患者自身で評価し、
    すべての症状が「なし」または「軽度」に改善し、それらが21.5時間以上継続する最初の時点までの時間と規定されています。

    つまり、イナビルの効果は最終的に、数値による医師の判定ではなく、患者の主観によって評価されたということです。

    第Ⅲ相臨床試験の結果は、『イナビルはタミフルと同等』

    A型H1N1 H3N3 Sugaya N and Ohashi Y:Antimicrob Agents Chemother 2010;54(6):2575-2582製薬メーカーが行った最終的な臨床試験の結果は、
    イナビルは、タミフルと同等に「インフルエンザ罹病期間を短縮する」
    というものです。

    ただし、このときの対象には、「タミフル抵抗性インフルエンザウイルス(H275Y変異ウイルス)」に罹患した患者さんが、63~66%含まれています。

    なので63~66%の患者さんには、タミフルは効きにくかったと考えられます。

    イナビルは、タミフル抵抗性インフルエンザを含むインフルエンザに対するタミフルの効果と同等の有効性を示す
    と考える必要がありそうですね。

    A型 B型 H1N1 H3N2 Antimicrob Agents Chemother. 2010 Jun;54(6):2575-82. doi: 10.1128/AAC.01755-09. Epub 2010 Apr 5.


    そして、その効果のほどは、表の通りです。

    A型(H1N1)ではタミフル群と同じくらいの効果が認められています。

    特に、小児では、イナビル群の方が罹病期間が短く、イナビル20㎎群では統計学的な有意差が認められています(中央値の差のタミフル群を対照群とした一般化ウイルコクソン検定:P=0.001)。

    しかし、A型(H3N2)に対しては、タミフルの方が効果が高くなっていますね。

    イナビル第Ⅲ相臨床試験
    Long-Acting Neuraminidase Inhibitor Laninamivir Octanoate versus Oseltamivir for Treatment of Influenza: A Double-Blind, Randomized, Noninferiority Clinical Trial Watanabe A, et al.:Clin Infect Dis 2010;51(10):1167-1175

    イナビル第Ⅲ相臨床試験(小児)
    Long-acting neuraminidase inhibitor laninamivir octanoate (CS-8958) versus oseltamivir as treatment for children with influenza virus infection.Antimicrob Agents Chemother. 2010 Jun;54(6):2575-82. doi: 10.1128/AAC.01755-09. Epub 2010 Apr 5.

    イナビルは小児ではA型には効かない?

    小児のA型(H1N1)、A型(H3N2)の結果を見ると、イナビル20㎎の方がイナビル40㎎よりも、罹患期間が短く、高い効果が得られています。

    一般的に、薬は、用量を増やすにしたがって有効性が高くなり、やがて、頭打ちになります。

    ですから、薬を開発するとき、その物質の用量が増えるにしたがって有効性が高くなることを確認することで、その物質が有効であると考えます。

    つまり、小児で見る限り、A型に対してはイナビルは効かない=薬と言えないと考えられるわけです。

    イナビルはどこで効いているか確認できていない

    タミフル リレンザ イナビルがどのくらい血液中に入るか 血中濃度 半減期 AUC 分子量 表 
    タミフル(経口薬)に比べると、リレンザ、イナビルは
    血液中に入る薬剤の量(総AUC)が少ない
    タミフルは経口投与だから、全身性の副作用が現れやすいけれど、イナビルとリレンザは吸入だから全身性の副作用は少ないと思われるというお話を、以前紹介しました。

    インフルエンザ*タミフルよりはリレンザ・イナビルが安心

    健康な成人への投与で、血液中に比べて肺胞粘液中に107倍のイナビル(活性体)が検出されたということです。

    しかし、本当にイナビルがのどの辺りの局所に作用しているかわからないという問題が、厚労省での承認の際に、専門家の間で討議されていました。

    どういうことかというと・・・
    イナビルはどうやって効くのか 本当に効くのか 有効性 イラスト
    インフルエンザウイルスは主に咽頭に感染して増殖。
    イナビルは肺胞に分布することが確認されている
    インフルエンザウイルスは肺ではなくて主にのど(上気道)に感染して、のどで増殖します。
    肺胞中にいくらたくさん薬が到達していても、あまり意味がありません。

    イナビルが、のどにどのくらい到達するかというデータは、報告されていません。


    ちなみに、喘息などに使われる吸入薬では、どのくらいのサイズの粒子が肺まで移行しやすいかという研究が、しっかり行われています。
    吸入器(デバイス)についても、かなり研究されていて、使い勝手がよくなりました。

    局所投与の抗インフルエンザウイルス薬は、肺ではなくて、のどに留まる割合が重要です。
    特に、お子さんや高齢者では、上手に吸入できない可能性もありますから、デバイスや粒子径などの研究も、進めていただきたいですね。

    ちなみに、イナビルの作用部位については、承認後の製薬会社の検討課題として残されています。
    国産の新薬ですから、国も一刻も早く承認を下したかった・・・ということ?でしょうか。

    イナビルは約1/4が血液中に移行

    イナビルの長所は、吸入なので全身性の副作用が現れにくいと考えられるという点にあります。

    「作用がタミフルと同程度ならば、副作用が少ないだけやっぱりイナビルがいい」と考えられそうです。

    そこで、イナビルがどのくらい血液中に入るのかを調べました。

    健康な成人にイナビルを投与したところ、尿中にイナビル(活性体)が投与から6日間で23.1%排泄されました。
    ということは、少なくとも23.1%は血液中に入り活性体となって、全身を回った後、腎臓から排泄されたことになります。

    残念ながら、脳への移行については、人では確認されていません。
    (これは、イナビルに限ったことではありません)

    また、ラットでは、67%が尿中、残りの20数%が糞便中に排泄されています。
    通常、気道で作用した薬は、気道から痰などに混ざって出ていくので、血液中に入ったとしても微量と考えられます。
    ですから、イナビルが本当に気道で作用しているかどうかに疑問を持っている研究者もいるようです。

    イナビル吸入粉末剤20㎎ インタビューフォーム

    血液中に入るということは、全身性の副作用が現れる可能性も考えられます。

    参考までに、イギリスの研究結果では、タミフルの服用で、成人で約4%、小児で約5%、吐き気と嘔吐の副作用リスクが増加したと指摘されています。
    インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?

    私は・・・「抗ウイルス薬」は怖いです

    では、インフルエンザに罹ったらどうすればよいのでしょう?

    個人的にお勧めする対処法は、こちらをご覧ください。

    これまで、抗菌薬が、腸内細菌に作用することで生涯を通して、悪影響を及ぼすというお話をしてきました。
    抗ウイルス薬も同じです。
    細菌、ウイルスのサイズ 肺炎球菌、ミトコンドリア、人の細胞 ヘモグロビンの大きさ イラストで比較ウイルスは、細菌のように顕微鏡で見ることができないほど小さいので、細菌以上に未知の存在です。
    細菌以上に、私たちの身体に深いかかわりを持っているかもしれません。

    生物の進化にウイルスが関わっているという学説もあります。

    そんな、人類よりはるかに昔から存在している偉大な存在に、浅はかな人知でむやみに手を出すのは恐ろしいと思います。

    抗インフルエンザウイルス薬を投与したところで、インフルエンザ脳症を防げないことは、確認されています。

    たった1日早く、咳や鼻水を鎮めるために、抗インフルエンザウイルス薬を使うことに意味があるかどうか、よく考えましょう。

    感染症の多くは、自然に感染することで免疫が鍛えられて、次に同じ細菌やウイルスに出会ったときに罹りにくくなることを忘れないでください。

    ご参考までに、イナビルを承認した際の、薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会の議事録をご紹介します。
    イナビルに関しては、今後の検討課題が残されているようです。
    医薬食品局2010年7月29日 平成22年7月29日 薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会議事録


    R1と豆乳、牛乳で作るインフルエンザ予防ヨーグルト
    ご参考まで・・・
    インフルエンザの予防に、ヨーグルトのレシピをご紹介しています。
    R1ヨーグルトでインフルエンザ&風邪対策


    2018.02.01

    2015年8月6日木曜日

    ピロリ菌は除菌して大丈夫??

    ヘリコバクター ピロリって、よく聞きますね。
    H.ピロリとか、ピロリ菌と書かれていることも多いです。

    胃がんの原因になるといわれて有名になりました。
    このピロリ菌が胃の粘膜の中に棲みついてしまうと、胃潰瘍になったり、胃がんになったりする。
    だから、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などのある人の胃の中に見つけたら“除菌”しようということで、病院ではピロリ菌除菌用のお薬パックを処方します。

    パックにはなっていないけれど同じ作用を持つ薬剤を組み合わせて使うこともできますが、ここではパックを中心に説明します。

    ピロリ菌除菌に使われる薬

    このお薬パックには、1次除菌用と、1次除菌が効かなかったときの2次除菌用の2種類があり、それぞれ2つの製薬メーカーから、発売されています。
    • 1次除菌用:ランサップ(武田薬品工業)、ラベキュアパック(エーザイ)
    • 2次除菌用:ランピオンパック(武田薬品工業)、ラベファインパック(エーザイ)

    どれも、胃酸を抑える薬と2種類の抗菌薬の3剤がパックになっていて、1日2回、1週間飲みます。

    抗菌薬は強い酸性の胃の中では効きにくいため、胃酸を抑える薬で胃の中を中性に近づけてから、抗菌薬を効かせるわけです。

    パックに入っている薬は次の通り。

    1次除菌用
    • ランサップ :ランソプラゾール(胃の薬)アモキシシリンクラリスロマイシン(抗菌薬)
    • ラベキュアパック :ラベプラゾール(胃の薬)アモキシシリンクラリスロマイシン(抗菌薬)

    2次除菌用
    • ランピオンパック  :ランソプラゾール(胃の薬)アモキシシリンメトロニダゾール(抗菌薬)
    • ラベファインパック :ラベプラゾール(胃の薬)アモキシシリンメトロニダゾール(抗菌薬)

    1次除菌用の2つのパックを見てみると、胃の薬以外は同じ抗菌薬が入っています。
    2次除菌用も一緒。

    1次除菌用と2次除菌用の違いは、抗菌薬のクラリスロマイシンが、メトロニダゾールになっているところ。
    同じピロリ菌でも、クラリスロマイシンが効かなくなっているものもいるので、その時にはメトロニダゾールでもう一度チャレンジする、というシステムです。

    ただし、メトロニダゾールは細菌だけでなく、原虫と呼ばれるようなもっと大きな生物にも効果を示します。
    副作用も現れやすいので、できれば1次除菌だけで解決させたいですね。

    そのためにも、薬はきちんと決められた通りに飲むようにしましょう。

    ピロリ菌除菌が保険で認められている疾患

    薬でピロリ菌を除菌する治療が保険で認められているのは、次の通り。

    • 胃潰瘍
    • 十二指腸潰瘍
    • 胃MALTリンパ腫
    • 特発性血小板減少性紫斑病
    • 早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

    胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、ピロリ菌除菌で再発する可能性が低くなります。
    特発性血小板減少性紫斑病は難治性の病気ですが、理由はわかりませんがピロリ菌除菌で改善することがあります。

    ただの胃炎や、いつも胃の具合が悪い程度の症状であれば、除菌治療は保険では認められていません。
    これは、次に説明する、常在菌や耐性菌のことを考慮すれば、妥当な適応だと思います。


    ピロリ菌感染が胃がんの主な原因と考えられることから、ピロリ菌感染がみられたら、誰でも直ちに除菌するのがよいのではないか、という意見もあります。

    ピロリ菌を除菌することに何の問題もないとすれば、この意見はごもっともです。
    しかし、抗菌薬をたくさん使うことには、色々な意味で問題があります。

    ヒトの体の中で今、生きている100兆を超える細菌を、その一部であるとはいえ、安易に殺してしまっても、身体は大丈夫なのでしょうか。

    ここからは、ピロリ菌を例に、抗菌薬を使うことの弊害を考えてみます。

    抗菌薬 使い過ぎの弊害

    抗菌薬が他の薬と違う点は、生き物を殺す作用を持つというところにあります。

    もちろん、ヒトに害がないように、細菌にあってヒトにないもの・・・細胞壁とかDNAを作る酵素とか・・・をターゲットにした殺菌力を持つように作られています。


    抗菌薬はたくさんの種類の菌に効かないものを選ぶのが原則

    まずは、数多い抗菌薬のどれを選ぶか、という考え方をお話しします。

    抗菌薬は何の菌にでも効果がある方がいい薬、というイメージがありませんか?
    これは間違いです。

    抗菌薬は、目的とする細菌以外は殺さない作用をもつものを選ぶのが正解。
    ピロリ菌を除菌したければ、なるべくピロリ菌以外の菌には効かない抗菌薬を選びます。

    理由は2つあります。

    理由1 常在菌を殺さないようにするため

    私たちの体の中・・・特に腸管の中には、私たちになくてはならない細菌がたくさん棲みついています。
    これらの細菌を常在菌といいます。

    身体に良い菌を善玉菌、身体に悪い菌を悪玉菌とする呼び方がありますが、これはあまり正確ではありません。
    なぜならば、同じ細菌でも、体調や細菌の数や、身体のどの部分にいるかによって、身体に良い菌として働いたり、悪い菌として働いたりすることがあるからです。
    除菌は人類を滅ぼす?

    何の役にも立っていないように見えて、実は、重要な役割を担っている菌もたくさんいます。

    腸内細菌が免疫のシステムを作る話はこちらをご覧ください。

    色々な細菌に効く抗菌薬を使ってしまったら、身体に必要な常在菌まで殺してしまうことになります。

    抗菌薬を飲むとおなかをこわすことがありますね?
    あれは、抗菌薬が必要な常在菌を殺してしまって、腸が正常に働けなくなってしまった結果です。

    理由2 耐性菌を作らないため

    耐性菌って聞いたことはありますか?

    細菌Bに対して抗菌薬Aがはじめは効いていたのに、使っているうちに効かなくなってきた場合、
    細菌Bは抗菌薬Aに耐性化した
    といい、
    細菌Bは抗菌薬Aに対して耐性菌になったと考えられます。

    細菌が耐性化する仕組み

    例えば、細菌Bが抗菌薬Aに耐性化する仕組みをみてみましょう。

    細菌Bの中には、抗菌薬Aがとてもよく効くタイプもいれば、あまり効かないタイプもいます。

    細菌は人間と比べてかなり頻繁に増殖します。
    人間はせいぜい30年に数人子供を産む程度ですが、大腸菌は条件が良い場合20分に1回分裂する、つまり子孫を増やしています。

    遺伝子は、増殖する際に間違ってコピーされることが多く、このコピーミスが違った性質の子孫を作ることになります。
    ですから、増殖の機会の多い細菌は、ちょっと性質の違う子孫ができる確率がヒトより高くなります。


    抗菌薬が細菌を耐性化する仕組みのイラスト 耐性菌を作らないようにするために抗菌薬の使用はよく考えて。ピロリ菌除菌 抗生物質の正しい使い方 イラスト 
    右の図を見てください。

    細菌Bが増殖したところへ抗菌薬Aを投与したとします。
    細菌Bは、中でも抗菌薬Aがよく効く性質をもったものから順に死んでいきます。

    抗菌薬Aがよく効くことを「抗菌薬Aに感受性が高い」といいます。

    何回か抗菌薬Aを投与すると、抗菌薬Aが効きにくい性質を持った細菌B、つまり、耐性化した細菌Bだけが生き残った状態になります。

    この段階で抗菌薬Aの投与をやめるとどうなるでしょう。
    抗菌薬Aに耐性化した細菌Bには、周囲に競合する細菌Bがいなくなりましたから、抗菌薬A耐性細菌Bばかりが増えます。

    そして、次に細菌Bが増えすぎて肺炎の症状を起こした時には、抗菌薬Aを投与しても効果が得られなくなってしまいます。


    医師や薬剤師から、抗菌薬を決められた期間、きちんと飲むようにと言われたことはありませんか?
    それは、中途半端に感受性の高い菌だけを殺して、耐性化することのないようにするためです。

    とはいっても、やっぱり耐性化は防げないようで、ピロリ菌の除菌に用いるクラリスロマイシンもメトロニダゾールも、耐性化が進んでいることが実験で確かめられています。
    Sasakiら:J Clin Biochem Nutr 2010; 47:53-58
    和田真太郎他 感染症学雑誌 77(4); 187-194

    どんな菌にでも効く抗菌薬が必要な場合

    「特定の細菌にしか効かない抗菌薬を選ぶ」という原則には例外があります。

    お腹をこわしたり、肺炎になったりしたときなど、原因の細菌が何かを調べるのを待っていられないこともあります。
    原因の細菌は、痰や便を調べることで確認することができますが、何日か時間がかかってしまいます。

    こういうときに限って、何にでも効く抗菌薬をとりあえず飲むことになります。

    これを「エンピリックセラピー」といいます。

    インフルエンザに罹ったときには、10分くらいで簡単に調べて薬を処方されますが、インフルエンザは患者さんがたくさんいるので、検査薬メーカーもがんばってインフルエンザウイルス用に特別な検査薬が開発したのですね。

    ピロリ菌ワクチンは必要??

    現在、中国ではピロリ菌を感染させないためのワクチンの開発が進んでいます。

    6~15歳の小児4,464例を対象に、ワクチン投与群とプラセボ(偽薬)投与群とを3年間フォローした結果、ピロリ菌感染がみられた人数は次の通り。
    • プラセボ群:2年目22例、3年目13例
    • ワクチン群:2年目10例、3年目6例
    Lancet. 2015 Jun 30. pii: S0140-6736(15)60310-5.

    さて、ここからはみなさんに考えていただきたいことです。
    このワクチンを使うべきかどうか。

    衛生状態が良くなったことで、ピロリ菌の感染者は減少したと考えられています。
    また、ピロリ菌が原因で胃がんが発症するのは高齢になってからです。

    ということは、近年までほとんどの人は生まれてすぐにピロリ菌に感染し、感染したまま60歳程度の天寿を全うしていたということになります。

    これは、ピロリ菌と人間がお互いに持ちつ持たれつの共生関係を保っている証拠なのではないでしょうか。

    ピロリ菌除菌で食道がんにはなりやすくなる

    ピロリ菌除菌によって発症率が高くなる病気もあります。
    食道がんがその一つ。

    ピロリ菌は胃の中で、胃酸という強力な酸の中で生息しています。
    これは、ピロリ菌が胃粘膜にある尿酸を塩基性のアンモニアに変えるウレアーゼという酵素を分泌して、胃酸を適度に中和して住みやすくできるためです。

    ピロリ菌はウレアーゼのほかにもCagA(カグエー)など、色々なタンパク質を出すのですが、これらが胃粘膜に炎症を起こします。
    この炎症が何十年もの長期間続くことで、がんが発症すると考えられています。

    さて、食道について考えてみましょう。
    健康な人でも、胃の中のものが食道に入ってきてしまうことがありますね。
    この時、胃の中の強い酸は、食道の壁を攻撃してしまいます。

    ピロリ菌が胃の中にいれば、ウレアーゼが胃酸を中和してくれることで、食道に胃の中のものが逆流した時にも、強い酸が食道に触れずにすみます。

    つまり、図らずもピロリ菌は胃酸から食道を守る働きをしているわけです。

    ピロリ菌感染で、免疫の働きが鍛えられる

    ピロリ菌が感染している人は、小児ぜんそく、アレルギー性鼻炎、皮膚アレルギーなどの疾患に罹る割合が低いことも報告されています。
    Yu Chen and Martin J.Blaser  Journal of Infection Diseases 2008; no.4: 198

    さらに、乳児期にピロリ菌に感染することで、ピロリ菌に対して強い炎症反応を起こさなくなることも確認されました。
    A.Amberbir et al. Clinical and Experimental Allergy 2011; no.10: 41

    つまり、3歳くらいまでにピロリ菌に感染していれば、年をとってから胃の中にピロリ菌がいたとしても強い炎症が起こらないからがんにならない。
    さらに、喘息や花粉症、アトピーなどの免疫が過剰に働いてしまう病気にもならない、ということです。

    これは、細菌がヒトの体の中に棲むことで、ヒトの免疫反応が教育されて、「ほどほどに外敵と闘う力」を身につけるためと考えられます。

    衛生的な環境が整うまでの何100万年という歳月の中で、ヒトは様々な細菌と出会い、お互いに一番うまく生き抜く方法を作り上げてきたのです。
    いきなり環境が変わっても、100年足らずの年月で簡単には適応できません。

    抗菌薬で常在菌を殺すのは、身体に優しくない

    ヒトの体からいなくなったのはピロリ菌だけではありません。
    私たちのおじいさん、おばあさんの時代ですら、お腹の中に寄生虫がいたり、頭にシラミがいたりするのが当たり前でした。

    水洗トイレができて、ごみの回収が徹底されて、快適になった暮らしは、もう元には戻せませんね。
    寄生虫も、シラミも勘弁・・・です。

    天然痘やはしかのように、致死率の高い感染症がワクチンで防げるのもありがたいことです。

    一方で、こうして一つひとつきれいに、安全にするたびに、他の危機・・・アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症など・・・が生まれます。

    と、考えると解決策は思い浮かびませんが、せめて、過剰な抗菌薬の使用だけは避けたいものです。

    風邪の原因はほとんどがウイルス。
    抗菌薬は効きません。

    抗菌薬を飲むこと=薬で過剰に菌を殺すことのデメリットをしっかり考えて、薬を使いましょう。

    といっても、自分で判断するのは難しいですから、風邪で医師から薬を処方された時、
    「この中に抗菌薬はありますか?
    私の症状には、抗菌薬が必要ですか?
    と聞いてみてください。

    医師の中には、抗菌薬を処方しないと患者さんが満足しないと思って、効かないと思いながら処方している方もいます。



    もちろん、先に書いたピロリ菌除菌の適応に相当する方・・・放っておくと胃がんになる可能性の高いような方には、除菌することをお勧めします。


    ピロリ菌について、詳細を知りたい方は
    JACRI 日本臨床検査薬協会のウェブサイトがわかりやすいです。
    寄生虫なき病
    参考図書
    モイセズ・ベラスケス=マノフ/著 赤根洋子/訳 福岡伸一/解説『寄生虫なき病』 文芸春秋 2014年3月発行


    2015年6月14日日曜日

    「除菌」は人類を滅ぼす?

    いきなりですが

    クイズ1

    次のグループのうち、一番健康なのはどれでしょう?

    グループ3では炎症を起こす遺伝子が多く発現していた グループ2と3では、1に比べて病原性を持った細菌がたくさん腸内に認められた グループ1の腸内細菌は3/4以上が乳酸菌だったのに対し、グループ2では13%、グループ3では3.6%だった

    1. 戸外で泥まみれになって生活する
    2. 屋内で雑居する
    3. 屋内で、一匹ずつ個室を与えられ、定期的に抗生物質を服用する




    実際にブタで行われた試験の結果、1のグループが一番健康であることがわかりました。

    どのような点で健康かというと、
    • グループ3では炎症を起こす遺伝子が多く発現していた
    • グループ2と3では、1に比べて病原性を持った細菌がたくさん腸内に認められた
    • グループ1の腸内細菌は3/4以上が乳酸菌だったのに対し、グループ2では13%グループ3では3.6%だった
    乳酸菌とは、炭水化物をエサにして発酵させて乳酸を作る細菌のことです。
    悪臭の原因となる腐敗菌に対抗することから、善玉菌と呼ばれていますね。

    腸内細菌は運命共同体

    ブタの実験では、衛生的な環境で育つと、本来必要な腸内細菌が育たないということが証明されたことになります。

    クイズ2

    では、健康な成人にはどのくらい腸内細菌がいると思いますか?
    参考まで、ヒトの体は約40兆個の細胞で出来ているとされます。
    1. 10億
    2. 1兆
    3. 100兆

    こたえは 3.の100兆。
    自分自身の細胞の数より多いんです。

    そして、これらの腸内細菌は、ヒトが人類になるずっと前から、環境の変化に応じて利害関係を保ちつつ、共存してきました。

    中には病原性の高い細菌もいて、感染した相手(宿主)を殺してしまったこともあるでしょう。
    そういう細菌は、感染する相手を失ってしまう、つまり宿主を殺してしまうので、次第にヒトの間では受け継がれていかなくなります。
    あるいは、宿主を殺さない程度に病原性が弱くなることで、仲良く共生できるようになる場合もあります。

    ヒトは細菌を食べて成長する!

    遺伝子を受け継ぐならば理解できるけれど、「細菌を受け継ぐ」ってどういうこと?と思われるかもしれませんね。

    腸内細菌は、生まれるときにお母さんの腟で譲り受けることができます。
    妊娠すると腟の性状が変わって(腟内が酸性に傾く)、細菌が住みやすくなり、腸管から細菌が移動してきて赤ちゃんが生まれる準備をするそうです。
    帝王切開で生まれた赤ちゃんは、自然分娩で生まれた赤ちゃんに比べて、腸内細菌が少ないといいます。
    帝王切開では赤ちゃんが産道(腟)を通らないからですね。
    産道で、赤ちゃんはお母さんの細菌を飲み、自分の腸内に受け継ぐというわけです。

    生まれてからも、スキンシップや、離乳食を摂る時期にお母さんが噛んだ物を食べさせてあげることでも、受け継がれます。

    赤ちゃんには、何でもかんでも口に入れる時期がありますね。
    そうすることで、身の回りの細菌を体の中に取り込んでいるんです。
    これも、「何でも口に入れる」好奇心を持った赤ちゃんが成長しやすいために、遺伝子としてそういう性格(?)が定着していったということなのでしょう。

    なので、おもちゃを消毒したり、外で地面に座らせなかったりするのは、大事な感染源を取り除いてしまうことになります。

    腸内細菌は、一度体内に入ればOKというものではなくて、常に接触し続けていないと維持できないようです。

    腸内細菌が免疫のシステムを作る

    では、腸内細菌は一体、腸の中で何をしてくれているのでしょう?

    ヒトが自分では栄養素として利用できないものを、代謝してくれる細菌もいます。
    ヒトの代謝酵素の代わりをしてくれるわけです。

    でも、もっと大切な役割があります。
    腸内細菌は、ヒトの免疫の作用を鍛えてくれるのです。
    これは、生まれて間もない時期の方が効果が大きいようです。

    免疫というのは、身体を病原ウイルスや病原菌から守るシステムです。

    免疫が働きすぎてしまうと、アレルギーやリウマチなどが起こります。

    詳細は宿便のウソをご覧ください
    自分の体を、ウイルスや細菌などの外敵から守る反応が強すぎて、自分を攻撃するはずのない花粉やハウスダストに反応して、花粉症や喘息、アトピーなどになる、これがアレルギーです。

    自分自身の細胞に対して攻撃してしまうと、関節リウマチや潰瘍性大腸炎、クローン病などの自己免疫疾患になります。

    外敵に対して「ほどほどに」攻撃することが、生きていく上では大切なことがわかりますね。
    この「ほどほど感」を学ばせてくれるのが、腸内細菌です。

    別なページでお話ししましたが、便秘やダイエット対策に腸内洗浄などをするのは、危険なことなのです。
    宿便のウソ

    腸内細菌には謎が多い。けど、仲良くしておこう

    腸内細菌が具体的に何をしているかには、まだ、たくさんの謎が残されています。

    ファブリーズは使わない方がいいかも 子どもは雑菌に囲まれて成長した方が健康になる。除菌された生活で花粉症、アトピー、喘息が起こる 除菌はよくない イラスト何しろ、身体の外に取り出してしまったら、身体の中での作用は調べられませんし、色々な種類の細菌がそれぞれ関係を持ちながら、色々な働きをしているわけですから。

    皆さん、生き物ですからね。
    生き物は複雑に絡み合って生きているのです。
    地球上に、ほかの生物から孤立して生きている生物はおそらく存在しません。

    免疫の作用もとても複雑なので、簡単には説明できません。
    腸内細菌だって細菌だし、病原菌だって細菌です。
    どこまでが敵で、どこまでが味方か、という線引きはできません。

    実際に、普段は体の中でおとなしくしているけれど、年を取ったり病気をしたりして体力が落ちると攻撃してくる細菌もたくさんいます。

    「ならば、健康なうちにこのような細菌はあらかじめ除菌してしまえばいい」なんて考えると、免疫系が混乱してアレルギー体質になってしまったりするわけです。

    大切なのは、長い長いヒトの歴史の中で育まれてきた細菌との持ちつ持たれつの関係は、私たちが想像するよりもずっと意義深いもので、安直に排除してしまうのはナンセンスだと心しておくことでしょう。

    生物としては、細菌の方が遥かに先輩なのですから。

    「除菌、除菌」と盛んに宣伝していますが、そのうち、菌と一緒に人類も取り除かれてしまうかもしれません・・・

    寄生虫なき病
    参考図書
    モイセズ・ベラスケス=マノフ/著 赤根洋子/訳 福岡伸一/解説『寄生虫なき病』 文芸春秋 2014年3月発行

    2014年12月29日月曜日

    インフルエンザ*漢方薬で早めの対策

    インフルエンザに効くとされている抗ウイルス薬はあまり効果がないようだし、思っていたより副作用があるかもしれない、というお話をしてきました。

    インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?
    インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

    では、インフルエンザに罹ったら、ひたすら寝て、じっと治るのを待つしかないのか??
    さすがに私たちも、そんなに暇ではないし、辛いのは嫌いです。
    では、どうするか?

    私ならこうして対処する、という方法をご紹介します。
    実は、エバーグリーン研究室では、西洋新薬はめったに使いません。
    漢方は私の守備範囲なので、今回はちかしがお話しします。

    漢方薬@インフルエンザの前に知っておきたいこと

    漢方薬はウイルスを排除しようとする身体の力を助ける

    はじめに復習しておきたいことがあります。

    いわゆる風邪とインフルエンザは、病院へ行って検査をしない限り、正確には区別がつきません。
    ですから、ここでは、インフルエンザの流行期に、「のどがおかしい」とか、「関節が痛い」とか、「くしゃみ・鼻水が出てきた」などの症状が現れたときの対処方法をお話しすることになります。

    いわゆる風邪を引いたときの対応は、こちらをご覧ください。
    風邪のひきはじめに飲む薬

    ここでご紹介する薬は、インフルエンザウイルスに直接働いて退治する薬ではありません。
    自分自身の身体の力を高めて、入ってきたウイルスを退治する薬です。

    ヒトの体は、外敵を体の中に入れないようにする力をもともと持っています。
    ただ、インフルエンザウイルスはかなりの強敵で、負けてしまうことが多いのです。
    ここを、負けないように漢方薬で加勢してあげようというものです。

    ならば、どんなウイルスにも効くのでは?と思われた方、そのとおりです。
    ただ、いわゆる風邪のウイルスは、インフルエンザウイルスのように感染力が強くなく、進行が遅いので、処方が違う薬の方がより適切な場合が多いです。
    詳しくは、しつこいですが、先ほどの風邪のひきはじめに飲む薬を。

    もう一つ、とても大切なことがあります。
    普通の風邪と、インフルエンザとどちらにかかったかを見分けることが大切です。
    でも、これは難しいことでもあります。

    でも、ポイントがありますので、覚えておきましょう。

    インフルエンザを疑う症状は?

    インフルエンザでは、まず、発熱が特徴で、微熱ではなく38℃以上の発熱をします。

    そして、
    • 寒気や震え
    • だるさ(倦怠感)
    • 肩こり、首のはり
    • 関節や場合によっては筋肉の痛み
    • 頭痛
    • 鼻水
    • くしゃみ
    • 喉の痛み
    症状が、出る順番は人によって違いますが、いくつもいっぺんに起こるのが特徴です。

    普通の風邪はどうかというと

    普通の風邪では、これも人によって異なりますが、症状が病気の進行とともに順番に出てきます。
    私の典型的な風邪の症状のパターンは、

    寒気(ざわざわした感じ)
    ~肩こり
    ~のどの痛み(咳が出ないことも多い)
    ~頭痛
    ~発熱
    ~汗をかく
    ~関節の痛み
    ~くしゃみと水っぽい鼻水
    ~熱が下がってくる
    ~くしゃみは出ないで鼻が詰まり、鼻をかむと緑色のどろっとした鼻水が出る
    ~1週間ぐらいで治る

    です。


    このインフルエンザ以外での、自分の風邪の症状パターンを覚えておくとよいです。

    インフルエンザは、感染力が強いので、発熱とともに、症状が激しく、症状が複数いっぺんに出るのが特徴なのです。

    インフルエンザに罹ったと思った時の漢方薬

    インフルエンザに罹ったかなと思ったら、麻黄湯(マオウトウ)

    麻黄湯はメディアでも紹介されているけれど、使い方は難しい

    近頃、メディアでもインフルエンザに効くとして話題の漢方の処方ですね。
    麻黄湯は、漢方の感染症の処方でも、感染して初期に使うべきものです。
    漢方では風邪の初期を傷寒中風(しょうかんちゅうふう)の病といいます。
    意味は、風に中(あた)って寒さに傷つけられた病ということです。

    漢方の概念では、傷寒中風の病には、漢方や中国医学では解表剤(げひょうざい)といって、身体(筋肉や血液循環)を活性化させて汗をかかせ、ウイルスや細菌を物理的に外に出してしまう、そんな作用があります(これらの作用は西洋的医科学では充分には説明できません)。

    傷寒中風の病の症状の特徴は寒気や悪寒がすることです。
    風邪の病原体は熱に弱く、そのため身体が体温を上げようとして、寒く感じさせて、筋肉を震わせて体温を上げようとします。

    寒気を感じ、発熱していて汗をかいていない人に、汗をかかせるのが処方の目標です。
    この治療法を中国医学では「汗法」と言います。

    体温を上げようとしているので、このような状態で解熱薬を使っては台無しにしてしまいます。
    解熱剤はほとんどの風邪では必要ないことも覚えておいてください。
    傷寒中風の時期を過ぎて、高い熱が続く場合は、漢方では地竜(ミミズの乾物)を使い、とてもよく熱を下げ副作用もありません。

    さて、麻黄湯などの解表剤は、身体(筋肉や血液循環)を活性化させるので、比較的体力のある人にあった処方です。
    筋肉がない人、虚弱な人には向いていません。
    また、喉が渇いたり、喉に熱感がある場合や、喉に痛みを感じる場合は麻黄湯を使うべき時を過ぎてしまっています。
    使わないほうがよいでしょう。

    また、これらに当てはまる高齢の人や乳児、就学前の小児などは避けたほうがよいかもしれません。

    副作用としては胃の不快感、食欲が落ちる、吐き気、動悸や不眠、発汗過多などが出ることがあります。

    麻黄湯の処方

    少し処方を詳しく見ましょう。

    キョウニン(杏仁) マオウ(麻黄)、  ケイヒ(桂皮)、  カンゾウ(甘草)

    で構成される処方です。

    生薬の作用を中国医学的に解説しましょう。

    杏仁(キョウニン)

    杏仁は 「あんにん」とも読み、中華料理でおなじみの杏仁豆腐に使われる、アンズの種です。
    主として胸にたまった水分、痰などを出すことで、呼吸困難や嗽に効く。息切れ、みぞおちのあたりがつかえて痛む、胸の痛み、むくみなどにも良い、とされます。
    ただし、たくさん食べたりすると毒物である青酸と似た化学構造を持つアミグダリンが含まれているので、危険です。

    麻黄(マオウ)

    麻黄は、喘息様の呼吸困難、咳、むくみを治します。
    寒気、汗が出ない、身体(筋肉)の痛み、関節の痛み、全身がむくんで肌色が黄色っぽい場合も良い、とされます。
    成分のエフェドリンは西洋薬として、咳どめや喘息の治療にも使われます。

    桂皮(ケイヒ)

    桂皮は、シナモンという名前でおなじみです。
    のぼせ(体の下から上のほうへつき上げてくるような症状)を治します。
    のぼせが激しくなって、心臓がどきどきする、頭痛、発熱、軽い寒気、汗が出て、筋肉や関節が痛む場合に良い、とされます。
    私の解釈では、のぼせは血や気が頭に集中してしまう体質を持つ人がなりやすく、桂皮はこれに効くようです。
    不思議とのぼせやすい人は、シナモンティーなどの薬味の桂皮が好きなことが多いですね。

    甘草(カンゾウ)

    甘草は、急迫した症状を治します。
    たとえば、腹部のケイレン、差し込み(痛み)などです。
    手足の冷え、何か気がかりして悩んで落ちつかないとき、のぼせ(体の下から上のほうにつきあげてくるような症状)などにも良い、とされます。
    成分のグリチルリチン(酸)は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍や去痰薬として使われ、またステロイド薬に似た作用があります。

    麻黄湯を使うタイミング

    麻黄湯は、寒気を感じて悪寒がして、「インフルエンザにかかったかな」と感じ、節々(関節)が痛み、発熱しているけれど汗をかいていない場合にすぐに飲むことがコツです。

    先ほどもお話ししたように、特に感染症に用いる漢方薬には使うべき時期があります。
    上の状態にあるごく初期につまり傷寒中風(しょうかんちゅうふう)の時期に使えば効果は高いと思います。
    そして、一枚多く着るか、布団をかぶって体を温めて軽く汗をかくことで、効果が高まると考えられます。

    汗をかいて、高い熱が下がってくればやめ時です。
    人によって異なりますが長くて2日ぐらい飲んで効かないようならやめます。
    あまり長く飲むと、汗をかきすぎて体力を消耗します。

    麻黄湯が効く時期は風邪やインフルエンザのごく初期で、体表で生気が病原体と戦っている時だけです。
    麻黄湯で効いてしまえば、ほかの薬が必要ないかもしれません。
    この時に麻黄湯などのっ解表剤が効いてしまえば、ごく初期のうちに、病原体を駆逐できたことになるからです。

    喉が渇いたり、喉に熱感があったり、痛んだりする場合や、全身のほてりや熱感があったり、鼻水やくしゃみが出ているようなら、もう病原体は体の中に入ってしまっています。

    この場合は麻黄湯は無効で、かえって汗をかかせようと体力を消耗しますので飲まないでください。

    後にお話しする温病の処方が必要になります。


    葛根湯(カッコントウ)は、解表剤の中では麻黄湯より応用範囲が広い

    葛根湯は、皆さんよくご存じですね。
    葛根湯も、麻黄湯と同じく風邪の初期=傷寒中風に使う処方です。

    カッコン(葛根)、マオウ(麻黄)、タイソウ(大棗)、ケイヒ(桂皮)、シャクヤク(芍薬)、カンゾウ(甘草)、ショウキョウ(生姜) 

    で構成されます。

    葛根湯にも麻黄が入っていて、麻黄湯と同じ解表剤ですが、使う目標が異なります。

    葛根湯の目標は、風邪の初期で、汗をかいていなくて、弱い寒気がして、首の裏側や肩(項背部)が凝り、頭痛、咳がでる場合です。

    麻黄湯との目標の最大の違いは、寒気がそれ程強くなく、節々の痛みがないことです。

    麻黄湯と同じように、喉が渇いたり、喉に熱感があったり、痛んだりする場合や、全身のほてりや熱感があったり、鼻水やくしゃみが出ているようなら飲まないでください。

    私の印象では、葛根湯は麻黄湯に比べて応用範囲が広い処方です。

    普通の風邪の初期で、上の症状が当てはまる場合は試してみる価値があります。
    インフルエンザがはやっている時期だといっても、急激に症状がひどくならなければ、インフルエンザではないことが多いです。
    そんな時は、麻黄湯よりも葛根湯を選ぶのが良いかと思います。

    葛根湯も長くても2日飲んで効かなければ中止してください。

    桂枝湯(ケイシトウ)

    普段から風邪をひきやすくのぼせやすい人には、葛根湯は強力すぎる場合があります。
    こんな人で、風邪で少しだけ汗をかいた場合の漢方薬として、桂枝湯があります。

    風邪を引いたと感じて、少し汗をかいていて、外に出たり、薄着で風にあたると寒気を感じる状態で、のぼせ、発熱、頭痛、関節や場合によっては筋肉の痛み、くしゃみ、鼻水、鼻が詰まる、を目標にするとよいでしょう。

    私の経験では、のぼせ易い人で、少しの温度上昇や厚着で汗をかきやすいタイプの人の風邪には桂枝湯が合う場合が多いようです。
    比較的活発で、鼻血がよく出るようなのぼせやすいタイプの子供の風邪には、桂枝湯が合っています。

    小青竜湯(ショウセイリュウトウ)

    足の冷える人で、風邪を引くと水分の多い鼻水が出る人の風邪には小青龍湯がよいでしょう。

    麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)

    高齢者で、こたつに入ったりカイロを充てるなどいくら温めても、寒気が取れない人は、麻黄附子細辛湯がよいでしょう。

    柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)

    傷寒中風の時期をすぎて、風邪をこじらせてしまい、食欲がなく、胃がもたれ、胃が痛い、腹痛がある、下痢をするような場合は柴胡桂枝湯があっています。
    最初からこれらの胃腸の症状がある風邪には、まず柴胡桂枝湯を試してみてください。
    柴胡桂枝湯はちょっと長めに5日間くらいを目安に飲んでみてください。

    本格的にのどが痛くなったら、銀翹散(ギンギョウサン)

    銀翹散を使うタイミング

    皮膚と消化管は一筆書きができるように、連なっている。
    漢方の概念では、大まかにオレンジから赤色のところを表と呼ぶ
    さて、今までお話してきたように、風邪などの感染症は、漢方的・中国医学的な概念では、病気の時期(病期)がとても大切です。

    ウイルスや細菌などの病原体が、身体に入ってくるのに、必ず順番があります。

    西洋医学的には気道感染とよばれる、風邪などの一般的な感染症では、病原体は、まず、表皮と鼻の粘膜に入ってきます。

    この状態を漢方的・中国医学的な概念では病原体(漢方では風邪[ふうじゃ]とよびます)が表(ひょう)にあるといいます。
    身体のおもてなので「表」というわけです。



    この状態を漢方では傷寒中風の病(やまい)と呼ぶのです。

    麻黄湯も、葛根湯も桂枝湯も風邪が表にある傷寒中風の病のうちに使うべき処方です。
    麻黄湯や葛根湯を使うのが難しいのは、この短い時期を逃すと、効かないし、使うべきではないことです。

    病原体が表皮と鼻の粘膜に入って1日もすると、もう少し進攻してきて喉が渇いたり痛くなったります。
    この時期は体がすでに入ってきてしまった病原体を駆逐しようと免疫が働き始めていると考えられます。

    悪寒は無いか、軽い悪寒で高い熱が出る風邪を中国医学では温病(うんびょう)と呼びます。
    よくある風邪の経過は、短い傷寒中風の時期からこの温病に移行していくことが多いようです。

    しかし、インフルエンザでは、この傷寒中風の時期が自覚できないことも多く、いきなり発熱する温病として現れることが多いようです。

    この時に使うと効果的なのが銀翹散です。

    銀翹散を使う目安

    目標としては、
    風邪の初期で、発熱して、頭痛があり、ちょっと風にあたると寒気がして、喉が渇いたり痛む状態です。
    汗をかいたり、かかなかったりどちらのケースもありますが、汗をかいても熱が下がらないのが特徴です。

    咳が出ることもありますが、咳が出てくるとだいぶ身体の内側に進攻されていて、銀翹散でも力が及ばないこともあります。

    銀翹散の処方

    処方内容を見ておきましょう。

    キンギンカ(金銀花)、連翹、荊芥、香豉、牛蒡子、桔梗、竹葉、甘草、薄荷、芦根

    で構成されています。

    金銀花(キンギンカ)

    金銀花はスイカズラの花蕾です。
    味は甘くて、体を冷やす作用(解熱作用)があり、抗菌作用があります。
    中国医学的には、体表の熱を発散させて熱を下げ、同時に風邪も発散させてしまう作用(疏散風熱)があるとされます。

    連翹(レンギョウ)

    連翹は、レンギョウの果実です。
    味は苦くて、少し体を冷やす作用があります。
    漢方では皮膚の膿があるできものやニキビなどやヒゼンダニによる感染症(疥癬)に効果があるとされ、中国医学的には、金銀花と組み合せて疏散風熱作用を強めるされています。

    荊芥(ケイガイ)

    荊芥はシソの仲間のケイガイの花穂で、l-ミントンというミントのような香りの成分が入っています。
    味は辛くて、体を少し温めます。
    発熱、頭痛、鼻づまり、のどの痛み、蕁麻疹、風疹、麻疹、結膜炎や軽い皮膚潰瘍に良いとされます。
    また、止血作用もあります。
    中国医学的には発汗作用があり、風邪を発散させますが、発汗力は弱めです(祛風解表)。

    香豉(コウシ)=淡豆豉(タントウチ)

    香豉(こうし)は、大豆を蒸して発酵させた日本の納豆のようなものです。似たものに豆豉(とうち、どうち)とも呼ばれる中華料理に使われる調味料があります。
    味は塩味のない味噌のような味で、身体をわずかに冷やします。
    中国医学的には発汗させ解熱作用があり、発熱、頭痛に用います。精神的なイライラを解消する作用もあるとされ、不眠などにも用いられます。

    牛蒡子(ゴボウシ)

    牛蒡子(ごぼうし)は、ゴボウの実です。
    味は辛くて苦く、体を冷やす作用があります。
    漢方的には、咽の塞がり、喉のはれ、のどの痛みを治すとされ、中国医学的には、発汗させ解熱作用(疏散風熱)があり、発疹すべき箇所に発疹させて解毒をすすめ(透疹)、のどを潤して腫れを治める(利咽散腫)とされ、咳、痰のからみ、発疹に用います。
    おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)や母乳の出が悪い時にも用いられます。

    桔梗(キキョウ)

    桔梗はキキョウの根です。
    味は苦くて辛く、身体を冷やしたり温める作用はありません。
    漢方的にも中国医学的にも、膿みを出す作用があるとされ、各種の腫物、膿を伴うできものや中耳炎、痰のからみ、喉の痛み、喉の腫れ、声が出にくい、しわがれ声に用います。
    肺の気を発散させて、肺の機能を高める作用(開宣肺気)もあり、肺炎や気管支炎にも用います。

    竹葉(チクヨウ)

    竹葉(ちくよう)は、ハチクの葉です。
    かすかに甘く、体を冷やす作用があります。
    中国医学的には、身体に滞った熱を逃がして、精神的なイライラを解消する作用(清熱除煩)があり、体液(津液)を生み出させて体を潤す作用(生津)、利尿作用があり、これらから解熱、喉の渇き、口内炎、口角炎、小児の発熱性のひきつけ(熱性痙攣)に用います。

    薄荷(ハッカ)

    薄荷はハッカの葉と茎です。
    味は辛くて、体を少し冷やします。
    中国医学的には、体表の熱を発散させて熱を下げ、同時に風邪も発散させてしまう作用(疏散風熱)があり、頭や目を冷やしすっきりとさせる(清利頭目)作用があり、発疹すべき箇所に発疹させて解毒をすすめ(透疹)、のどを潤して腫れを治める(利咽散腫)とされます。
    発熱、軽い悪寒、頭痛、目の赤み、喉の腫れ・痛み、初期の麻疹、胸のつかえなどに用います。

    芦根(ロコン)

    芦根はアシの根です。
    味は甘くて、体を冷やします。
    中国医学的には、身体に滞った熱を逃がして、体液(津液)を生み出させて体を潤す作用(生津)があり、吐き気を止め、精神的なイライラを解消する作用(除煩)もあるとされます。
    口が渇いて熱っぽいとき、舌の乾燥、水分を多く飲む、吐き気、肺の膿(肺膿瘍)に用います。

    このように銀翹散は全般的に体の発汗させたり、解熱させたり、膿を出したり、炎症を鎮める作用を持つ生薬を上手に組み合させた温病の標準的な処方といえるでしょう。

    漢方薬でない解熱鎮痛剤は使っていいの?

    私たちエバーグリーン研究室では風邪の発熱に薬局などで手に入る解熱鎮痛剤の安易な使用はおすすめしませんが、温病の漢方薬が手に入らない時には、風邪のこの時期(温病)にこそ、アスピリンなどの解熱鎮痛剤を使ってもいいと思います。
    それ以外の時期の風邪に、解熱鎮痛剤は必要がありませんし、余計な副作用が出ることもあります。

    風邪を引いたと思って、頭痛、発熱、くしゃみ、鼻水、咳、痰、のどの痛みなど、いろいろな症状にきくとうたっている総合感冒薬をのんでも、風邪の病期に合うはずがないので、メリットはないでしょう。
    参考:総合感冒薬って、何に効くの?
       風邪薬の選び方【解熱薬】

    温病に香蘇散(コウソサン)も

    ほかに温病の代表的な処方として、香蘇散があります。

    香附子、紫蘇葉、陳皮、甘草、乾生姜 

    で構成されます。

    中国医学的には、自律神経系(交感神経と副交感神経)の緊張(バランスの崩れ)のため、胃や腸、血管などの平滑筋が緊張して、けいれん・ひきつれ・胃腸の運動障害などが起こる気滞を治め、体表の血管を拡張させて軽く発汗させます。
    これを理気解表(りきげひょう)と呼びます。

    悪寒がするけれどひどくはなく、発熱も軽めで、汗はかかず、頭痛、胸苦しさ、おなかが張る、食欲不振を目標に使うとよいと思います。

    銀翹散との目標の違いは、発熱が軽いことと、のどの痛みがないこと、胃腸の症状があることです。

    香蘇散は比較的穏やかな処方なので、妊婦や高齢者の風邪にも良いと思います。
    特に、マタニティブルーのように気分がすぐれない妊婦に良く効いた例があります。


    ちょっとへんかな?と思ったら、板藍根(バンランコン)も

    板藍根(ばんらんこん)という生薬があります。
    抗ウイルス作用を持つ生薬として、注目されています。
    板藍根は現在日本では、医薬品ではなく食品としての扱いです。

    インフルエンザをはじめ、帯状疱疹、ウイルス性の難聴、肝炎などのウイルス性感染症に効果があるとされます。

    板藍根は、アブラナ科のタイセイの根です。
    味は苦く、よく体を冷やす作用があります。
    中国医学的には、その冷やす作用で、熱を冷まして、腫れを抑え、病原体を駆逐する作用(清熱解毒)があり、血の熱を冷まし(涼血)、のどを潤す作用(利咽)もあります。

    中国では、インフルエンザがはやる時期に、板藍根の煎じたお茶でうがいをしたり、お茶代わりに飲んだりするそうです。
    予防的に使っているようです。

    日本でも板藍根の予防使用を勧めている方もおられます。
    しかし、板藍根をインフルエンザがはやる時期にずっと使用するのはちょっと考えたほうがいいと思います。
    板藍根は体を冷やす作用が強いので、あまり長く飲むべきではありません。
    体力のない高齢者や乳幼児も、控えたほうがよいでしょう。

    ご参考まで、板藍根には粉薬(顆粒)、飴、お茶などがありますが、店頭では探せませんでした。
    私は、インターネットで顆粒を購入しました。

    板藍根の使い方

    私のおすすめの利用の仕方は、うがいと頓服(必要なときだけに服用)です。

    インフルエンザがはやる時期に外で、いかにもそれっぽい咳をしている人と会ったときとか、病院に行かなければならない用がある場合などです。
    板藍根はとても苦いので、甘い味で味付けした顆粒のタイプが市販されています。
    それを、お湯に溶かして、水に薄めて、帰宅時にうがいをしてそのまま飲んでしまいます。

    また、ちょっと喉がいがらっぽく、のどが渇くかなと異常を感じた時に、1包頓服します。

    これで、大抵ののどの違和感は消えます。

    インフルエンザの予防にどれだけ効果を発揮しているかは証明できませんが、少なくとも板藍根の頓服をした後、風邪を引いたことはありません。

    板藍根+銀翹散という使い方

    もう一つ、もし、インフルエンザや温病を自覚して、銀翹散を飲む場合で、喉の痛みが強く、熱が高い(38℃以上)場合は、板藍根と一緒に飲むことをお勧めします。

    銀翹散と、板藍根が相乗してよく効くようです。


    最後にひとこと

    インフルエンザに罹ったら何を飲めばいいの?という、皆さんの疑問にお答えしようと調べるうちに、抗インフルエンザウイルス薬は思ったより効果がなく、副作用を考えると使わない方がいいということがわかってきました。
    やはり、夢の新薬など、そうそうできる訳はないのですね。
    そこで、私たちが慣れ親しんだ、漢方薬をご紹介しようとしたのですが、ずいぶん長くなってしまいました。
    ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。

    時間をかけて読んでくださった皆さんは、理解されたと思いますが、漢方薬は、その人が持っている体の個性に合わせて、その人がウイルスや細菌などの外敵と闘う力を助けるものです。
    インフルエンザウイルスを特に敵として定めているわけではありません。

    ですので、インフルエンザの特効薬になる漢方薬は、人によって違います。

    自分の年齢や体質、風邪の症状や、風邪の進行状況によって、何を使うか変わってきます。
    ここで説明したことはごくごく大まかなことですので、皆さんの「今、必要な処方」にまで、責任を持てるものではないことは、ご理解ください。

    もし、普段から備えるために、もう少し個人的に知っておきたいと思われる方がいらっしゃいましたら、右のメールの枠からご相談ください。
    ただし、症状が出ていて、どう対応すれなよいかというような診断や治療に関わるご相談には応じかねます。
    また、商用目的でのご相談は、ご遠慮ください。


    2014年12月12日金曜日

    インフルエンザ*タミフルで予防できる?

    タミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬には、インフルエンザへの感染を防ぐ効果があるといわれていますね。
    受験生を抱える家庭など、家族が感染した時にはタミフルを使えばいい、と考えている方も多いかと思います。
    とはいえ、副作用が出ることもありますし、悩みどころ。
    今回は、抗インフルエンザウイルス薬で、感染を防ぐべきかどうかを考えてみます。

    抗インフルエンザウイルス薬の予防投与の対象

    インフルエンザに効くとされる抗インフルエンザウイルス薬には、どれも予防使用が認められています。
    薬の費用は患者の3割負担(保険者が7割払ってくれる)にはならず、自費となりますが、次のような人を対象に厚生労働省の承認が下りています。

    インフルエンザ感染症を発症している患者の同居家族や共同生活者で

    • 高齢者(65歳以上)
    • 慢性呼吸器疾患患者
    • 慢性心疾患患者
    • 代謝性疾患患者(糖尿病など)
    • 腎機能障害患者

    ただし、健康成人と13歳未満の小児は予防使用の対象にならない。

    実際には、お医者さんに行って「子供が受験だから…」など、事情を説明すると、インフルエンザに罹っていることにして処方してくれることも多いようです。

    抗ウイルス薬の予防投与の効果

    日本で発売前に行われた臨床試験の成績

    日本で予防に使われた際の効果をみた試験をご紹介しましょう。
    タミフルの予防使用が、統計学的に有意にインフルエンザの発症を予防したというデータです。

    試験: プラセボ(偽薬)を対照とした第Ⅲ相臨床試験(JV15824)
    投与期間: 42日間投与
    対象: 高齢者を含む健康成人308例(プラセボ;153例、タミフル;155例)
    インフルエンザが発症した割合: プラセボ群13例 8.5%、タミフル群2例1.3%

    リン酸オセルタミビルのインフルエンザ発症抑制効果に関する検討

    これだけみると、予防接種よりは効くかな?という感じはします。
    が、この試験結果には続きがあります。

    インフルエンザが発症したのがプラセボ群13例 8.5%、タミフル群2例1.3%というのは、「37.5℃以上の発熱があり、インフルエンザの症状が2つ以上みられ、鼻の検査でインフルエンザウイルスが認められたか血液検査で抗体価が上が
    タミフル(オセルタミビル)のインフルエンザ予防効果 柏木征三郎ほか リン酸オセルタミビルのインフルエンザ発症抑制効果に関する検討―プラセボを対照とした第III相二重盲検並行群間比較試験成績― 感染症誌2000; 74: 1062-1076.よりEvergreenLov作成
    高齢者を含む健康な人を対象に行った試験。
    155人にタミフルを、153人にプラセボ(タミフルとよく似た偽薬)を投与して、
    インフルエンザに感染するかどうかを、42日間調査した。
    155人にタミフルを、153人にプラセボ(タミフルとよく似た偽薬)を投与して、
    インフルエンザに感染するかどうかを、42日間調査した。
    観察期間中に症状が見られた人を、次の3つの症状に応じて
    4つのパターンに分類し、タミフル群とプラセボ群の人数を比較した。
    1. 37.5℃以上の熱が出たか
    2. インフルエンザの症状が2つ以上現れたか
    3. 鼻の検査でインフルエンザウイルスが認められたか、または、血液検査で
       抗体価が上がったことが確認された
    ったことが確認された人」の結果を示しています。

    抗体価というのは、インフルエンザウイルスが感染した時に、これをやっつけようとしてリンパ球が作るイムノグロブリンG(IgG)の量のこと。

    抗体の量が多くなることを「抗体価が上がる」といいます。
    感染してからIgGが増えるまでには、1週間から10日かかるとされています。
    免疫系が弱っている人では、抗体価が上がるのに時間がかかる可能性があります。

    つまり、インフルエンザに罹っていても、血液検査で抗体価が上がっていないために「インフルエンザウイルスが感染していない」と診断されてしまうことがあり得ます。

    ここで、右の表の一番下の列を見てください。
    これは「検査ではインフルエンザウイルスが感染したと認められなかったけれどもインフルエンザと同じ症状の風邪をひいた人」の結果です。

    この中には、実はインフルエンザに感染していたけれど、抗体価が上がるのが遅かったために「インフルエンザ感染なし」とされた人が含まれる可能性があります。
    タミフルで予防した人40人、予防しなかった人44人が該当します。
    他のパターンに比べて人数が圧倒的に多いですね。

    この試験の結果をまとめると、

    タミフルで予防すると、インフルエンザ感染が確認できる風邪にはかかりにくくなるけれど、インフルエンザ感染が確認できない風邪のかかりやすさは変わらない

    ということになります。

    発売後の世界のデータをまとめた報告

    前回ご紹介したコクラン共同計画の結果に、予防使用に関するコメントがあるので紹介しましょう。
    コクラン共同計画とは世界的に様々なデータを集めて解析して有効性を検討する計画で、タミフル・リレンザを使った14,628人の患者さんについて調べています。

    タミフルをインフルエンザの予防に使用した場合、精神科関連の副作用リスクが約1%増加した

    Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI: 10.1002/14651858.CD008965.pub4

    タミフルは予防に使っても副作用がみられる場合があるということです。

    予防使用は飲み続けなければNG

    予防に関して、大切な注意事項があります。
    それは、抗インフルエンザウイルス薬を予防に使うときには、予防したい期間中、ずっと飲み続ける必要があるということ。
    予防接種のように、1回飲めば1シーズン効く、というものではありません。

    厚生労働省も、「予防の基本は予防接種」としていて、お医者さんが1回に処方できるのは10日間分までです。

    抗ウイルス薬の作用機序から考えられること

    では、なぜ、インフルエンザの予防は、抗インフルエンザウイルス薬よりも予防接種で行った方が良いといわれるのでしょうか?
    それは、予防接種が自分自身の免疫の力を高めるのに対して、抗インフルエンザウイルス薬はウイルスのタンパク質に直接作用するためです。

    今、インフルエンザに使われている薬はどれも、ノイラミニダーゼ阻害薬といって、ノイラミニダーゼというインフルエンザウイルスのもつタンパク質を阻害する薬です。

    といっても、よくわからないですよね。
    もう少し詳しく説明しましょう。

    インフルエンザウイルスの増え方

    ちょっと話がそれますが、インフルエンザウイルスがどのようにして増えるかをみてみましょう。
    薬の作用を理解するのに知っておいた方がいいと思います。

    下の図は、のどの奥の細胞にインフルエンザウイルスが入っていって、分裂して、細胞から出ていく過程を示しています。
    インフルエンザウイルスは、エンベロープと呼ばれる殻の周りに、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼという棘をつけています。
    インフルエンザウイルスは、そのままでは感染力がありません。
    呼吸器と腸管にあるプロテアーゼという酵素でヘマグルチニンの形が変わることで、感染力を持ちます。
    ですので、普通のインフルエンザウイルスは呼吸器と腸管以外の細胞には感染できません。
    この棘を利用して人の細胞の中に入ったり細胞から外へ出たりします。

    順を追って説明しますね。

    A: インフルエンザウイルスがのどの奥に入ると、ヘマグルチニンが、ヒトの細胞膜にある糖鎖の先端のシアル酸にくっつきます。 B、C: 細胞膜にくっついたウイルスは、ひとの細胞膜に包まれた状態で中に入り込んでいきます。 D: 細胞の中に入ると、RNAと包まれていた膜から出て、ヒトの細胞が持っている酵素を利用して、RNAやタンパク質(ノイラミニダーゼ、ヘマグルチニンなど)を増やします。 E: 増えたタンパク質は、ヒトの細胞膜の表面に並び、その細胞膜をエンベロープにしてRNAを中に入れた状態・・・つまり、インフルエンザウイルスの形を完成させて、細胞から外に出ていきます。 外に出たときにも、ヘマグルチニンは糖鎖のシアル酸にくっつきます イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA オセルタミビル ザナビミル ラピアクタ ペラミビル ラニナミビル イナビル コクランレビュー タミフル 副作用 遺伝子 エンベロープ 

    A: インフルエンザウイルスがのどの奥に入ると、のどの粘膜にあるプロテアーゼで形が変わったヘマグルチニンが、ヒトの細胞膜にある糖鎖の先端のシアル酸にくっつきます。
    B、C: 細胞膜にくっついたウイルスは、ヒトの細胞膜に包まれた状態で中に入り込んでいきます。
    D: 細胞の中に入ると、RNAと包まれていた膜から出て、ヒトの細胞が持っている酵素を利用して、RNAやタンパク質(ノイラミニダーゼ、ヘマグルチニンなど)を増やします。
    E: 増えたタンパク質は、ヒトの細胞膜の表面に並び、その細胞膜をエンベロープにしてRNAを中に入れた状態・・・つまり、インフルエンザウイルスの形を完成させて、細胞から外に出ていきます。
    G: 外に出たときにも、粘膜にプロテアーゼがある気道(のど~気管~肺)や消化器の細胞では、ヘマグルチニンは糖鎖のシアル酸にくっつきます
    こうして、インフルエンザウイルスはのどを振りだしにして、主に上気道(のど)で増え、一部は消化器でも増えます。通常のインフルエンザウイルスは気道や消化器に感染して発病しますが、高病原性のインフルエンザウイルスは気道や消化器以外の全身の細胞の内側のプロテアーゼでもヘマグルチニンの形が変わるので、外に出たときには既にヘマグルチニンの形が変わっていて、全身の細胞に感染できます。ですので重症となるのですね。


    イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA

    くっついたまま離れなければ、インフルエンザウイルスは細胞つなぎとめられたままで体に広がっていけません。

    この、最後のGのところを拡大したのが右のイラストです。

    ここで働くのがノイラミニダーゼ。
    ヘマグルチニンにくっついたシアル酸を、ノイラミニダーゼの先端が取り込んで壊すことで、切り離すのです。
    ノイラミニダーゼの先端にはシアル酸がピッタリはまる形をしたポケットがあって、ここにシアル酸を取り込んで分解します。

    このノイラミニダーゼを阻害するのが抗インフルエンザウイルス薬です。

    抗インフルエンザウイルス薬の作用

    下の図の緑の▲はタミフルです。

    イラスト タミフル オセルタミビル リレンザ イナビル 抗インフルエンザウイルス薬 図 感染 増殖 ノイラミニダーゼとヘマグルチニン シアル酸 糖鎖 細胞膜 RNA オセルタミビル ザナビミル ラピアクタ ペラミビル ラニナミビル イナビル 医者でもらう薬 阻害薬 ウイルス感染は防げない
    タミフルはシアル酸に似た形(化学構造)をしています。
    そのために、シアル酸の代わりにノイラミニダーゼの先端のポケットに入り込み、ノイラミニダーゼがシアル酸を切り離すことができなくなります。

    現在使われているタミフル以外の抗インフルエンザウイルス薬も、似たような形をしていて、同じように作用します。

    さて、このノイラミニダーゼ、インフルエンザウイルスだけが持つものではありません。
    全く同じではありませんが、ノイラミニダーゼの兄弟のような酵素を、ヒトも持っています。

    今のところ、抗インフルエンザウイルス薬はインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼだけに作用すると、製薬メーカーは言っていますが、ヒトのノイラミニダーゼに絶対に作用しないという保証はありません。

    もうひとつ、この作用の仕組みから言える大事なことがあります。
    ここまでのお話でお気づきかと思いますが、抗インフルエンザウイルス薬は、インフルエンザウイルスがのどの細胞に感染する(細胞の中に入っていく)ところは防ぐことができません。

    タミフルの中枢神経への作用の可能性

    抗インフルエンザウイルス薬は、中枢神経を抑えて症状が治ったように見せているだけかも?

    先ほどお示ししたコクラン共同研究の報告に気になる考察があるので、ご紹介します。
    前回のインフルエンザ*タミフルはどのくらい効く?でも、お話ししました。
    それは・・・
    • タミフルが炎症促進性サイトカインの濃度を低下させることで、免疫反応が治まり、インフルエンザの症状が改善していることが考えられる。
    • とすると、タミフルには中枢神経(脳の神経)抑制作用があり、その結果、熱が下がり、見かけ上、症状が改善したようになっているという可能性がある。
    この作用については、研究されているわけではないので、本当かどうかはわかりません。
    ただ、脳の細胞の膜の表面にもシアル酸はたくさんあるし、ノイラミニダーゼもたくさんあることが考えられるので、その部分に薬が効いていないとは言い切れません。

    タミフルは脳の中に入れるの?

    では、口から飲んだタミフルのうち、どのくらいの量が血液を通して脳の中に入るのでしょうか?
    気になったので、調べてみました。

    というのは、体の中で脳というのは特別に守られていて、簡単には薬が入っていけないようになっているのです。
    もう少し、詳しくお話ししましょう。
    脳に栄養を送っている毛細血管には血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)というバリアがあります。
    ここを通過できる物質は、ごく限られています。
    グルコース(ブドウ糖)はこのBBBを通過できるから、脳の栄養になれるのです。

    さて、タミフルについて製薬メーカーの資料を調べてみると・・・
    タミフルインタビューフォームP53

    経口投与したタミフルがどのくらい脳に移行するかは、ラットの実験結果しかありません。
    ヒトで調べるわけにはいきませんからね。
    それによると、
    • 脳内に入る薬の量(AUC)は血液中の薬の量の22~34%程度(ラット)
    のようです。

    人では脳脊髄液中の薬の濃度を測定したデータがあります。
    • 血液中を100としたとき、2~3が脳脊髄液中に入る
    という結果が示されています。

    と、ここまでは2015年の「インタビューフォーム」という資料に書かれていたデータです。
    実は、2008年に作られたインタビューフォームには、違うデータが取り上げられています。
    • 生後7日のラットでは、脳中のタミフルの量は血漿中の240倍だったが、生後42日のラットでは1.4 倍で、ラットの成長と共に低下していた
    血液中の240倍の濃度のタミフルが脳の中に確認されたということは、口から飲んで消化管、肝臓を経由して血液中に入ったタミフルが、脳の中に集中的に集まって行ったということです。

    これはラットの実験ですから、ヒトに置き換えられるかどうかはわかりません。
    置き換えられない場合の方が多いかとは思います。
    でも、可能性として、小さいお子さんでは脳に移行しやすい危険があるので注意しましょう、とはいえるのでは?

    いずれにしても、13歳未満のお子さんはタミフルの予防投与の対象からは外れています。
    が、インフルエンザに罹ったときの治療薬としては、適応が認められています。

    では、予防したかったらどうすればいい?

    先ほどもお話ししたように、感染予防に抗インフルエンザウイルス薬を使うときは、予防したい期間、ずっと飲み続ける必要があります。

    受験の直前に兄弟が感染したからどうしても、というのであれば、短期間だけ使う程度にするのがよいでしょう。
    それも、タミフルよりはイナビルかリレンザの方が、まだ副作用は少ないかもしれません。
    理由はこちらをご覧ください。
    インフルエンザ*タミフルよりはリレンザ・イナビルが安心

    ただし、副作用で受験の時に気分が悪くなる可能性もあります。
    それに、もし、中枢神経抑制作用が現れたとしたら、頭が働かなくなってしまいます!

    予防だけでなく、インフルエンザに罹ったとしても、タミフルに限らず、リレンザやイナビルなどの抗インフルエンザ薬は使わないほうが良いように思います。
    使っても、副作用の心配があるだけで、たいして効果は期待できません。
    インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?

    では、どうするか?
    こちらをご覧ください。
    インフルエンザ*漢方薬で早めの対策