「病院でインフルエンザウイルスの迅速診断キットで調べてもらったらインフルエンザ陽性だった」
といって、タミフルやイナビルを処方された方がたくさん薬局に来られます。
中には熱があってだるそうな方もいますが、「もう、熱は下がった」とか、「具合はたいして悪くないんだけど、学校で流行っているから念のため検査をした」という方も多いようです。
インフルエンザに感染している方が学校や職場へ行くと感染を広げてしまうので、インフルエンザかどうかを調べることには意義があると思います。
ですが、検査で陽性だったら、必ず抗インフルエンザウイルス薬を使わなければならないわけではありません。
若くて健康な人であれば、むしろ、使わない方が身体によいと思われます。
その理由は次のとおり。
抗ウイルス薬の使用が勧められる方
抗インフルエンザウイルス薬を投与が勧められるのは次のような方です。(亀田総合病院の作っているガイドラインを参考にしました。)
ただし、症状が現れてから48時間以内でなければ効果は保障されません。
- 肺炎になっている人
- 5歳未満の小児(特に2歳以下)
- 65歳以上の人
- 妊婦
- 以下の基礎疾患のある人:慢性呼吸器疾患(喘息を含む)、慢性心疾患(高血圧症以外)、慢性腎疾患、慢性肝疾患、血液疾患、慢性神経疾患、慢性神経筋疾患、代謝異常(糖尿病を含む)、肥満(BMIが30以上)
- リウマチなどで免疫抑制剤投与中の人
- がんを治療中の人
迅速診断では、感染していても30~90%で検査結果が陰性になる可能性があるとされています。
抗ウイルス薬の使用が勧められない方
高リスクにあたらない健康な5歳以上の小児や65歳未満の成人に対しては、WHO(国際保健機関)やCDC(アメリカ疾病管理予防センター)は抗インフルエンザウイルス薬の投与を推奨していません。日本感染症学会は重症化を防ぐために投与を推奨していますが、その根拠となるデータが十分にあるわけではありません。
日本(厚生労働省も、日本の製薬会社も、関連学会も、国民皆保険があるために自己負担の少ない国民も)は、薬を使うのが好きですね。
当面のあるかないかわからない重症化の可能性を防ぐために一様に抗インフルエンザウイルス薬を使うことで、先々、リスクが生じる可能性については議論に上がりません。
抗ウイルス薬を使わない方が良いと考えられる理由
健康な5歳以上の小児や65歳未満の成人で入院を要しない軽症患者に、抗インフルエンザウイルス薬を使わない方が良いと考えられる理由を説明しましょう。1.抗ウイルス薬を使わなくてもインフルエンザは治る
当たり前ですね。抗インフルエンザウイルス薬がなかったころは、誰も使わなかったのですから。
抗インフルエンザウイルス薬を使ったことで、重症化が防げたという報告は見つけられませんでした。
もっとも重篤な「脳症」は、抗インフルエンザウイルス薬を使っても減らないことが、確認されています。
抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、治る人は治るし、治らない人は治らないのです。
2.抗ウイルス薬を使わない方が、抵抗力が付く
コクラン共同計画という、世界的に様々なデータを集めて解析して薬剤などの有効性を検討する計画があります。その1つとして、2014年に抗インフルエンザウイルス薬に関する解析結果が報告されました。Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI: 10.1002/14651858.CD008965.pub4
この中で、オセルタミビル(商品名:タミフル)の試験20件(対象患者 9,623人)、ザナミビル(商品名:リレンザ)の試験26件(対象患者 14,628人)の有効性・安全性を検討した結果、
- タミフルを使った成人・小児には、感染と戦うための抗体を作る力が低下した人が、使わなかった人に比べて多く見られた
どういうことかというと・・・
病原体が感染すると、ヒトの免疫細胞はその病原体と闘う戦闘員である抗体を作ります。
抗体ができるのには1週間から10日と時間がかかるので、インフルエンザだと、多くの人は治りかけた頃に戦闘員が充実してくることになり・・・ちょっと遅い感じですね。
でも、一度抗体を作ると、2度目に同じ病原体が感染した時には、すぐに出動して、感染を防いでくれます。
この抗体は血液中に流れているので、どのくらいあるか、採血して調べることができます。
インフルエンザに罹った後に血液検査をしたところ、タミフルを使った人は使わなかった人に比べて抗体が少ない場合が多かったのです。
同じシーズンに2回もインフルエンザに罹ったという話を聞くことがありますが、そういう人は、ひょっとしたら、抗インフルエンザウイルス薬を使ったために抗体があまり作られなかったのかもしれません。
3.抗ウイルス薬を使っても、早くウイルスが消失するわけではない
抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、体の中からウイルスがいなくなるまでにかかる期間は変わりません。インフルエンザウイルスが増殖するのを邪魔する作用があるだけです。
インフルエンザウイルスを排除するには、感染した人の細胞を免疫細胞がお掃除してくれるまで待つしかありません。
抗インフルエンザウイルス薬の作用機序については、下記をご参照ください。
インフルエンザ*タミフルで予防できる?
ですので、病院で「熱が下がってから2日間は外出しないように」と言われるかと思いますが、この期間は、薬を使っても使わなくても変わりません。
4.抗ウイルス薬を使っても、効果はたいしたことはない
先ほどのコクラン共同計画の報告から、抗インフルエンザウイルス薬の効果について紹介しましょう。- 成人でインフルエンザ様症状が現れている期間を、タミフルは7日間から6.3日間に、リレンザは6.6日間から6日間に短縮した
- 小児での効果は成人よりも不確かだった
- リレンザは成人で気管支炎の発症を約1.8%減らした
それが、抗インフルエンザウイルス薬で半日くらい早く良くなるという結果でした。
発熱に関しては、統計学的に分析して意味のある差が認められなかったようです。
5.抗ウイルス薬を使うタイミングが遅ければ、効かない
何れの抗インフルエンザウイルス薬も、症状発現から48時間以内に投与開始しなければ、効果は保障されません。これは、抗インフルエンザウイルス薬の作用機序を見てもわかります。
家族がインフルエンザに罹っていて、自分も寒気がしてきて「移ったかな?」と思いすぐに受診した患者さんに、「検査の結果が今はまだ陰性だから、明日、症状がひどくなったらまた来てください」 と言う医師がいます。
全く、何のための医師なのか?と思ってしまいます。
薬の効果が一番得られやすいタイミングをわざわざ逃して、症状が重くなって、薬が効きにくくなるまで待たせるのですから。
薬はいつ使っても、同じように100%効果があるものではありません。
頃合いや、さじ加減…言葉を換えれば患者さんの状態を見て、使うかどうかを判断するのが、本来の医師の役目です。
それを判断できない医師は、やがてAIに先を越されるでしょうね。
6.副作用のリスクがある
抗インフルエンザウイルス薬にも、もちろん副作用があります。先ほどのコクラン共同計画の報告では、
- タミフルでは、成人で約4%、小児で約5%、吐き気と嘔吐の副作用リスクが増加した
異常行動を心配される方がいらっしゃいますね。
異常行動は、抗インフルエンザウイルス薬を使っても使わなくても、インフルエンザで高熱が出ることで現れるとされています。
薬の使用との因果関係は認められていません。
ここで、副作用について考えていただきたいことが、他にあります。
体内に共生しているウイルスを人為的にむやみに排除することが、思わぬ被害を身体に与えている可能性についてです。
抗ウイルス薬も同じです。
ウイルスは、細菌のように顕微鏡で見ることができないほど小さいので、細菌以上に未知の存在です。
細菌以上に、私たちの身体に深いかかわりを持っているかもしれません。
生物の進化にウイルスが関わっているという学説もあります。
生物の進化にウイルスが関わっているという学説もあります。
そんな、人類よりはるかに昔から存在している偉大な存在に、浅はかな人知でむやみに手を出して、大丈夫なのでしょうか?
インフルエンザでは家で安静にするのがおすすめ
ということで、具合が悪いのに病院に行って痛い検査をされて、たいして効かない薬を出されるより、家でしっかり休むことをお勧めします。特に小さなお子さんには、検査はかわいそうですね。
そのうえ、タミフルの散剤は量が多くてまずいし、イナビルはむせて苦しいです。
病院や薬局へ行けば、そこに集まるお年よりなど、もっとインフルエンザに感染しては困る方々にうつしてまいます。
効果が期待できるインフルエンザ対策
個人的には漢方薬を使った対策をお勧めします。
薬局で売っている薬で対応できます。
詳細は、こちらをご覧ください。
コクラン共同計画の報告については、こちらに詳しくまとめましたので、ご参照ください。
インフルエンザ*タミフルはどのくらい効くの?
今、一番よく使われているイナビルについて触れませんでしたね。
イナビルは効くのでしょうか?
イナビルは発売されたのが最近なので、コクラン共同計画の報告では調査対象になっていません。
それに、イナビルは、海外では有効性が認められなかったために開発が中止された薬です。
海外でレビューされるはずがありませんね。
詳細はこちらをご覧ください。
インフルエンザ治療薬 イナビルは本当に有効?
R1と豆乳、牛乳で作るインフルエンザ予防ヨーグルト |
インフルエンザの予防に、ヨーグルトのレシピをご紹介します。
本当に効くかどうかは・・・?
これを食べ始めて3シーズン目ですが、薬局勤務にもかかわらず、予防接種を受けなくても一度もインフルエンザに罹っていません。
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