いきいき!エバーグリーンラブ: ホルモン補充療法(HRT)
ラベル ホルモン補充療法(HRT) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ホルモン補充療法(HRT) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年11月30日土曜日

HRTで関節痛、頭痛、ふらつきが改善!るるママさん 


ペンネーム るるママ
年齢 51
慶宮医院をはじめて受診した年齢 50
主訴 手、股関節、肩、かかとの痛み、頭が締め付けられる感じ、ふらつき
HRTに使っている薬 エストラーナテープ(休薬なし)、デュファストン

2年くらい前の夏、“むくんでるかな”と思ったのが始まりでした。
次第に股関節や肩、手の関節が腫れて痛み出しました
つり革につかまると、痛みでその手をおろせなくなります。

痛いのは関節だけでなく、かかとの骨が棘のようになる“踵骨棘(そうこつきょく)”もできてしまい、歩くと突き抜けるような痛みが走ります。
ブロック注射も一時的にしか効きませんでした。
頭もきゅっと締め付けられるように痛くなり、景色が目に入ってくるのも、音が耳に入ってくるのも辛く感じます。
スーパーの陳列棚のように囲まれた場所は特にダメで、頭を押さえながら買い物をしていました。

義理の母の介護があり、ひどく神経を使うことが重なっていたので、こんなにあちこち痛くなるのは神経の病気かとも思いましたが、特に朝の痛みが強く“リウマチだったらたいへん”と、まずは整形外科に行きました。
が、検査をしたところ異常がなく、「うちではなくて、婦人科に行ったほうがいいよ」と言われました。

そこで、大きな病院の婦人科はどうかと電話をしたところ、予約がいっぱいだったのでやめました。
悪性腫瘍で予約されている方が多いようで、関節が痛いくらいでは予約を入れるのに気が引けてしまいます。
それに、まだ生理も続いていたし、更年期障害というには点数も足りません。

どこか、開業医さんで関節痛と更年期障害を見てくださるところはないものかとインターネットで検索し、慶宮医院にたどり着きました。
初診時にはまだ生理があったので、ユベラを処方していただきました。
ユベラでは、症状は改善しませんでしたが、悪くはならないから効いているのかな、と思いながら半年くらい経つうちに生理がなくなり、エストラーナテープとデュファストンを使いはじめました。

これは、すぐに効果を感じました。
ところが、休薬期間に症状が悪化してしまい、エストラーナテープを休薬なしで使い続ける方法に変えました。
宮地先生には「最初2か月、そのあと6か月で効いてくる」と言われました。

その言葉の通り、2か月くらいで家事がこなせるようになってきて、6か月くらいで、スーパーの陳列棚の間をふらふらせずに歩けるようになりました。
かかとの痛みはインソールを使いはじめたこともあり、今では普通に歩けています。

手の指は今でも朝は携帯が持てないくらいの痛みが残っており、天気の悪い日はまだまだ体調が悪くなりますし、デュファストンを使う期間に生理中のような体調の悪さがあり、これがなくなる方法があればいいな、と思います。
でも、日常生活ができるようになったのは素晴らしいです。
HRTはずっと続けていこうと思っています。

2019年11月17日日曜日

女性ホルモンの分泌期間が短いと認知症になりやすい

女性のほうがアルツハイマー型認知症になりやすい?

 下のグラフは、アルツハイマー型認知症で受診している人の割合を人口動態統計の男女の人数で、それぞれ割った値です。
男性に比べて女性に明らかに多いことがわかります。
この原因は、更年期を過ぎた女性では、女性ホルモンの血中濃度が男性に比べて低いことにあると考えられます。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
アルツハイマー型認知症の受療率(受診者割合 男女別)

初潮から閉経までの期間が長いと認知機能障害のリスクが低い

今回は、初潮から閉経までの期間が長い女性は認知機能障害のリスクが低いという、国内の調査結果をご紹介します。
国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの報告です。
Shimizu Y, et al. Maturitas. 2019 Jul 2. [Epub ahead of print]

【研究期間】
1990年の「健康関連調査」と2014~2015年に行った「こころの検診」

【対象】
長野県南佐久郡の一般住民
40~59歳の「健康関連調査」の回答者約1万2,000人のうち、「こころの検診」にも参加した女性から、うつと診断された人を除外した670人。
【方法】
670人中227人が認知機能障害(軽度認知障害が196人と認知症が31人)と診断された。
この227人について、アンケート調査から得た月経に関連する情報(初潮年齢、月経規則性、月経周期、出産回数、初産年齢、授乳経験、女性ホルモン剤服用経験、閉経年齢、初潮から閉経までの期間など)と、認知機能障害の発症リスクとの関連を検討した。
認知機能に影響があるとわかっている因子(年齢、BMI、教育歴、喫煙習慣、余暇・運動活動状況、高血圧や糖尿病・うつの既往)の影響は調整した。

【結果】
初潮から閉経までの期間が長いほど、認知機能障害のリスクが有意に低下することが認められた(傾向性P=0.032)。
具体的には、初潮から閉経までの期間が33年以下の人の認知機能障害発症リスクを1とした場合、38年以上の人のリスクは0.62となり、38%の有意なリスク低下が認められた(P<0.05)。
なお、初潮から閉経までの期間が34~37年の人のリスクは0.89だが、この低下率は有意でなかった。
以上の結果から、生理のある期間、つまり女性ホルモンが分泌している期間が長いほど認知機能障害を防ぐように働く可能性が示唆されました。
閉経後もホルモン補充療法を継続すれば、より、認知機能障害の予防効果が上がることが予想されます。

認知機能に対するエストロゲンの効果

認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対するエストロゲンの効果については、動物を使った試験で有効性が確認されています。

脳の神経細胞には、たくさんのエストロゲン受容体があります。
中でも海馬という記憶にかかわる部位からの情報を伝えるGABA(γアミノ酪酸:ギャバと読みます)を分泌する神経細胞に多く存在していることがわかっています。

GABAというのは、神経の信号の伝達を弱める神経伝達物質です。
GABA神経にエストロゲンが作用すると、神経の末端からGABAが出るのを抑え、その先の神経の働きが弱められなくなります。
つまり、海馬から発信される記憶に関する信号は、エストロゲンによって強さを保たれるのです。
アンチエイジング, エストロゲン, ホルモン補充療法(HRT), 認知症, アルツハイマー病, 認知機能障害,閉経,初経,GABA,海馬,
認知機能に対するエストロゲンの効果
GABAがたくさん働くと、その先の神経細胞からの信号が弱くなる(上)
エストロゲンの作用でGABAが抑えられると、その先の神経細胞からの信号が強くなる(下)

現在日本では、まだ、ホルモン補充療法(HRT)を行っている女性が非常に少ないため、HRTの認知機能障害やアルツハイマー型認知症に対する人での臨床試験はまだ行われていませんが、いずれ、「いつまでも認知機能が衰えず、ボケない女性はHRTを続けている」と言われるようになる日が来ることが期待できそうです。

2018年9月6日木曜日

HRTはいつまで続ける?

ホルモン補充療法(HRT)は、いつまで続ければよいの?
HRTをお勧めすると、よく尋ねられます。

答えは、「ずっと続けることをお勧めします」です。
ただし、年齢に応じて使う薬を変更します。

では、どのように続ければよいかと、その理由についてお話しましょう。

HRTの継続方法

HRTを更年期からスタートする場合、エストラジオール製剤とプロゲスチン製剤を使います。

エストラジオール女性ホルモンそのものですので、強い薬のように感じるかもしれませんが、避妊や月経困難症に使われる低用量ピル(OC)や、低用量ピルよりさらにエストロゲンの量を減らした超低用量ピルに比べても、ずっと活性の低い薬です。
HRT ホルモン補充療法 エストラジオール プロゲスチン製剤 
更年期から60歳くらいまではエストラジオール製剤+プロゲスチン製剤、
それ以降はエストリオール製剤を使用




低用量ピルや超低用量ピルは、生理のある人がエストラジオールの分泌をコントロールするための薬ですから、 エストラジオールより強い作用が必要です。
そのため、エストラジオールの活性を高めたエチニルエストラジオールという成分が使われています。

一方、HRTでは、分泌されなくなったエストラジオールを少しだけ補えばよいので、エストラジオールそのものを、必要最低量使うだけで済みます。
これは、もともと分泌されていた量に比べてもずっと少なめですし、周期的に濃度が非常に高くなることもありません。

ですから、低用量ピルや超低用量ピルで見られる、吐き気や頭痛などの副作用は、エストラジオールでは見られません。

更年期からHRTを始めた方も、年齢を重ねて活動性が落ちてきたなと思ったら、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤から、さらに活性の低いエストリオール製剤に変更します。
そうすれば、生涯、副作用を生じることなくエストロゲンが枯渇するのを防げます。

60歳を過ぎてからHRTを始めるときには、エストリオール製剤を用います。
使い方の詳細はこちらをご覧ください。  
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤

更年期が終わってHRTを止めたらどうなるの?


一般的に、更年期障害で婦人科を受診してHRTを始めた場合、5年程度で「もう更年期は過ぎたから、HRTは終了します」と言われます。
これは、アメリカの臨床試験の見誤った報告などから、いまだに間違った認識が広まっているためと思われます。
問題となった臨床試験についてはこちらをご覧ください。
 ⇒HRTは乳がんの原因になる??
更年期が終わったときに、急にHRTをやめても問題はないのでしょうか?

HRTを5年で中止したとき、更年期症状が再発する場合があります。
ホットフラッシュや動悸など、HRTを始める前と同じ症状が現れれば、自分自身で気づきますから、医師に相談してもう一度HRTを始めれば解決します。

問題なのは、HRTのおかげで発症しないですんでいた”更年期症状とは気づきにくい病気”が発症する場合です。
例としては、うつ、めまい、関節痛などが挙げられます。

HRTを中止したために関節痛が現れたとしても、婦人科の医師はそれがHRTを中止したためだとは気づかずに、整形外科の受診を勧めるでしょう。
整形外科の医師が更年期障害と関節痛の関係を知っているケースはほとんどありませんから、痛み止めが処方されたり、重症な場合には副作用の多い関節リウマチの治療をされてしまうことになりかねません。

そのようなことにならないためにも、HRTは継続することをお勧めします。
”月ごとの出血がどうしても嫌”というような場合には、エストラジオール製剤+プロゲスチン製剤の代わりにエストリオール製剤を使えばよいでしょう。

どうしてもHRTを中止したいという方も、突然やめるのではなく、しばらくエストリオール製剤に切り替えてから終了することで、副作用が起こりにくくなると考えられます。

HRTを継続する期間について、 日本産婦人科学会の「HRTガイドライン2017年度版」では、”HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない”としています。
HRTは、”何年か続けたら、あるいは何歳以上になったら、止めた方が良い”という制限は設けなくてよいということです。

なのに、一般の婦人科では5年程度HRTを続けると、ぷっつり中止されてしまいます。
何故なのか、疑問ですね。

おさらい!

更年期症状の治療より重要なHRTの目的

HRTを続けることの大切さを、もう一度確認しましょう。

ここでは、HRTの目的を「閉経に伴う身体の衰えを予防すること」と考えてお話します。

閉経してエストロゲンが分泌されなくなると、どのような疾患に罹る可能性があるかを図にしました。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 
更年期以降エストロゲンの分泌が低下すると、
はじめは症状としては現れない身体の異常(黄色)が起こり、
年を取るに従い重篤な疾患(ピンク)となって現れる。
ここにかかれている疾患は、どれもエストロゲン不足が原因の1つとなっている可能性が、医学的に確認されているものです。

黄色エストロゲン不足で起こる目に見えない身体の異常、ピンクはその状態が進行して発症する疾患を表します。

例えば、骨粗鬆症エストロゲン不足で起こる病気の代表ですが、骨粗鬆症になっても特に症状はなく、体調は変わりません。
ところが、脆くなった骨が折れると、一日中痛みが続き、折れた場所によっては寝たきりになってしまいます。

”骨粗鬆症と診断されてから骨粗鬆症のくすりを飲み始めればいい”と思っている方もいるかもしれませんね。
骨粗鬆症というのは、骨がスカスカになってしまった状態です。
骨粗鬆症の薬は、スカスカになった骨を、これ以上スカスカにしないようにはできても、元に戻す力には限界があります。
はじめから、スカスカにならないようにすること、50歳の時点での骨の状態を維持することが重要なのです。

図に示した骨粗鬆症以外の病気についても、同じことが言えます。
これらの病気を予防するためにHRTを行うのであれば、生涯継続することをお勧めします。

”本来の女性ホルモンがある状態を維持する”のがHRT

高血圧や糖尿病などの生活習慣病の薬を飲むのと、HRTを同じように考えている方が多いので、追加の説明をさせてください。

運動や食事療法をしても血圧が下がらない方は、「血圧の薬はずっと飲み続けなければいけない」ことは、皆さん、よく理解されていると思います。
 正常な血圧を保つ機能がうまく働かなくなってしまったとき、そのままにしておくと血管に負荷がかかって動脈硬化や、脳卒中、心筋梗塞などになってしまいます。
これを防ぐために、薬で血管を緩めるのが、「血圧の薬」の目的です。
血圧の薬」を飲んでも、血圧が正常だったころの元の身体に戻るわけではありません

HRTは、血圧の薬とは使う意義が少し違います。

HRTは、もともと身体を正常に保つために出ていた女性ホルモンが閉経して出なくなってしまったので、身体の機能が損なわれないように、薬として女性ホルモンを補いましょう、というものです。
つまり、HRT「本来の状態を保つ」ためのメンテナンス作業といえます。
エストリオール製剤 エストロゲン HRT 関節痛 関節リウマチ 骨粗鬆症 糖尿病 高血圧 脂質異常症 脳卒中 不眠 うつ病 切迫性尿失禁 神経系の異常 頭痛 更年期障害 耐糖能異常 動脈硬化 腎不全 認知機能障害 認知症 骨折 HRT ホルモン補充療法 
女性ホルモンメンテナンスで、健康に年を取る!


ただし、女性ホルモン(エストロゲンプロゲスチンを補充しただけでは片手落ちです。
補った女性ホルモンが正しく働くように、それに見合った運動や食事を心がける必要があります。
⇒運動すればHRTの乳がんリスクが減少

HRTは、前向きに生きる女性を補佐するもの。
故障を防ぎながら 楽しく年を取りましょう、というのが「女性ホルモンメンテナンス」の目的です。

ヒトが生物である限り、身体の老化は、どうしたって止めることはできません。
でも、その老化のカーブを緩やかにして、幸せな高齢期を過ごすことは可能です。
そのために、更年期や閉経周辺期を迎えたら、自分の身体を過信せず、HRT+正しい食事や運動、そして禁煙=女性ホルモンメンテナンスが必須となるのです。


女性ホルモンについての詳細は、こちらをご覧ください。
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
⇒精巧!女性ホルモン調節システム
⇒女性ホルモンはこうして作られる
⇒ホルモンの非常事態が更年期症状に!

2018年4月4日水曜日

運動すればHRTの乳がんリスクが減少

運動を習慣にしている女性では、乳がんのリスクが低いことは多くの研究で証明されています。
今日は、女性ホルモン(エストロゲン)と運動の関係についての研究を紹介します。

エストロゲンは、体の中で酵素の働きによって少しずつ形を変え、最終的に尿中あるいは糞便中に排泄されます。
このように、化学物質が体の中で形(構造)を変えることを「代謝」、形が変わった物質を「代謝物」といいます。

形が変わると、作用も変わります。
エストロゲンの代謝物の中には、作用の強いものもあれば弱いものもあり、また、発がん性と関係のあるものもあります。

エストロゲンがどのようなタイプの代謝物に変化するかに、運動が関係しているというデータが、アメリカで報告されています。

運動で乳がんリスクが低下する

以前、HRT を行うことで乳がんのリスクが高まると、多くの方に誤解されているというお話をしました。
HRTは乳がんの原因になる??   

最近のデータでは、HRTにより乳がんによる死亡はむしろ減少することが確認されています。
18年のフォローでHRTの安全性を検証

とはいっても、HRTを行うか否かにかかわらず、乳がんにはなりたくないですね。

運動を習慣にしている女性では、乳がんのリスクが低いことは多くの研究で証明されています。

今回紹介する研究は、運動が乳がんのリスクを減らす理由を検討したものです。
若い女性を対象に、運動することでエストロゲンの代謝が乳がんになりにくい方向に進むようになることが報告されました。
 Smith AJ et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2013 May;22(5):756-64.

【臨床試験報告】
対象:運動習慣のない18-30歳の391人の女性を、運動を行う群212人と行わなわない群179人に分けた。
方法:運動を行う群では1回30分間の有酸素運動を週に5回のペースで16週間行った。
16週間後に、運動を行った群と行わなかった群とで、血液中のエストロゲンの代謝物の濃度を測定した。
結果:運動を行った群では行わなかった群に比べて、エストロゲンの代謝物のうち2-OHE1(2-ヒドロキシエストロン)に対する16α-OHE1(16アルファ-ヒドロキシエストロン)の割合が統計学的に有意に少なかった(p=0.045)。

まとめると 
  • 血液中のエストロゲンが代謝された結果できる物質の中で、16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が高いと乳がんになりにくい。 
  • 運動すると16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が増える。 
  • このような仕組みで運動すると乳がんになりにくくなることがわかった。 

つまり、運動すると、エストロゲンの代謝物のうち、16α-OHE1に対する2-OHE1の割合が高くなることで乳がんになりにくくなると考えられます。

HRTでエストロゲンを補う場合も、同様に運動することで乳がんのリスクを減らすことができるといえるでしょう。

HRTで補うエストロゲンは、若いときの分泌量に比べればほんの少量ですから、過度な運動は必要ありません。
とはいえ、「HRTをしていれば安心」と思わずに、「HRTで身体を若く保っているのだから、それなりの運動をしよう」と意識することは必要です。

エストロゲンの代謝とリスクの関係

下の図は、エストロゲンの代謝経路を示しています。 

エストロゲンの代謝経路 ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ CYP COMT エストロン 
エストラジオールは、HRTに用いられるエストラーナテープやジュリナなどの主成分。
エストリオールは、HRTに用いられるホーリンなどの主成分。
ピンクは活性が高い代謝物、緑は活性が弱い物質を示す。

赤枠16α-OHE14-OHE1は、活性が高く悪玉と考えられます。

反対に、2-メトキシエストロンや2-メトキシエストラジオールなどは、ほとんど活性を示しません。
「メトキシ〇〇」というのは「CH3-O:メトキシ基」が付いた形です。
このようにメトキシ化された化学構造になると、体外に排泄されます。

したがって、エストラジオールからエストロンに代謝されたあと、16α-OHE14-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)ではなく、2-OHE1の方向に代謝が進めば、リスクを減らすことができるといえます。
ここで働いているのはシトクロムP450 1A1(CYP1A1:シップワンエーワンと読みます)という酵素です。

また、4-OHE1から4-メトキシエストロンへの代謝が進めば、悪玉が早く身体からなくなります。
この反応は、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT:コムトと読みます)という酵素が働くことで進みます。
運動することでCOMTの活性が高まり、16-OHE14-OHE1が作られにくくなると考えられます。

細胞分裂が異常に速まって歯止めが効かなくなっているのががん細胞です。
エストラジオール16α-OHE1は細胞が分裂するのを速め、2-メトキシエストラジオールはその作用を抑えるという報告もあります。
Lewis JS et al. J Mol Endocrinol. 2005; 34(1): 91-105.

また、エストリオールは60歳代以降の方のHRTに勧められるエストロゲン製剤ホーリンの主成分ですが、エストリオールからは他の物質に代謝される矢印は出ていません。
エストリオールも体外に排泄されやすい物質です。
したがって、エストリオールが乳がんを増やすことはありません

経口のエストラジオールは 16α‐OHエストロンに代謝されやすい

エストラジオールの経口薬は、飲むと腸管から吸収されて、肝臓で90%が代謝を受けます。
実はこのとき、ちょっと困ったことがあります。

肝臓には図の17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(17β-HSD)の6型CYP3A4が豊富にあるので、
エストラジオール → エストロン → 16α-OHE1
の反応が進みやすいと考えられます。

エストラジオールの経口薬にはジュリナがあります。
ジュリナの臨床試験の結果を見たところでは、代謝が原因となるような副作用は認められていませんが、経口薬では理論的には16α-OHE1が多く産生される可能性があります。

経口薬を使用する場合は、運動をしたほうがより安心と言えるでしょう。
エストラジオール製剤の種類についてはこちらをご覧ください。

経口のエストラジオールでは薬の常用、飲酒の習慣もリスクに

薬によってはCYP3A4を増やしてしまうものがあります。
飲酒の習慣のある人もCYP3A4がたくさん出ています。

他の薬を常用する必要のある人や飲酒の習慣のある人では、経口薬でのHRTは避けたほうがよいかもしれません。

禁煙はHRTでは必須

喫煙の習慣はCYP1B1を増やします。
その結果悪玉の4-OHE1が増えてしまうと考えられます。

喫煙は静脈血栓塞栓症のリスクでもありますから、HRTそのものもお勧めできません。
そもそも、喫煙の習慣があるということは、“若さも健康も諦め、老後は呼吸困難と寝たきりに甘んじる”ということと同義だと思います。

喫煙者は、HRTを行う前に禁煙することが必須でしょう。

喫煙は「ニコチン依存症」という立派な病気です。
禁煙治療は新薬が開発され、とても進歩しています。
諦めずに是非禁煙しましょう。


HRTに関するこれまでの記事は、こちらをご覧ください。

女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤
HRTで使われる薬剤~プロゲスチン製剤
18年のフォローでHRTの安全性を検証 
運動すればHRTの乳がんリスクが減少