“エネルギー効率”“エネルギー密度”の問題点
エバーグリーン研究室では、現代の食生活の問題点を、
エネルギー効率あるいは
エネルギー密度にあるとみています。
以前にも、別な表現で「早い栄養素」にご注意というコンテンツも書きました。
⇒吸収が速い栄養素は老化を進める?
⇒速い栄養にご注意
“火”による調理で、よりおいしく、より食べやすくなった
人類の築いた文明・英知は、ヒトの進化に伴って厳しい自然をヒトが生き抜くために発達しました。
その中でも「飢餓」を克服するための発明、特にインパクトが大きかったのが、「火」の使用だといわれています。
今のところ火を自分で熾して利用する生物はヒトだけだとされています。
火の効用には、食事以外にも、暖をとる、照らす、威嚇するなどの効用もありますが、なんといっても、食物を調理することで、硬いものでも食べやすくして、食中毒や寄生虫を避けるといったメリットが最大のものだったでしょう。
穀物などの農作物は植物性食品ですので、果物など以外は、火を使って調理することが必要となります。
植物細胞は細胞壁があるので、十分熱を加えないと柔らかくはなりません。
⇒高温・高圧で柔らかくなる
また、加熱することで、植物中のでんぷんが分解されて、
オリゴ糖や二糖類になり、消化・吸収されやすくなると同時に甘くおいしくなります。
⇒炭水化物の消化と吸収
調理することで、同じ穀物でも、生で食べるよりもずっと栄養価が高くなるのです。
粉砕することで、さらにおいしく食べやすく
さらに、火を使用した調理に加えて、穀物を粉砕すること、つまり挽くことも大きな技術進歩でした。
紀元前3,000年頃の古代エジプトでは、碾臼で小麦粉を挽き、パンを焼いていたといわれます。
小麦などの穀物を挽くことで、粒子は細かくなり、それを焼くことでさらにでんぷんが分解されて甘くておいしいパンとなるのです。
このように調理技術の発達は、ヒトに計り知れないメリットをもたらしました。
ヒトの脳は、調理することで、ふんだんな栄養を摂れるようになったことで発達したのかもしれません。
調理技術の発達で、エネルギー効率、エネルギー密度が向上
しかし、一方で、調理することのデメリットも生まれました。
調理することによって、食物のエネルギー効率あるいはエネルギー密度は飛躍的に向上します。
飢餓に見舞われた時代のヒトには、調理技術や、食品開発・保存技術は、ありがたいものだったのです。
しかし、約300年前の産業革命以降、ヒトは常に
エネルギー効率のよい食べ物にありつけるようになりました。
特に、砂糖の抽出と食用油を搾る搾油、精製された小麦粉などの製粉が一般的になってからは、先進国では低コストで大量生産可能な、
エネルギー密度が高い食事・食品にあふれています。
便利な生活が産んだ運動不足で、より慢性疾患が増加
こんな食環境になったうえ、産業革命以降、農業従事が低下し、デスクワークが増加しました。
鉄道や自動車、エレベーター、エスカレーターの普及による慢性的な運動不足も加わって、エネルギーの収支が大幅に過剰になりました。
そして、
肥満をはじめとして、
糖尿病、高血圧、脂質異常症、がん、関節疾患、骨粗鬆症などの慢性疾患が爆発的に増加したのです。
日本でも、戦後の自家用車の普及と、糖尿病の有病率は比例しています。
高効率のエネルギー供給と、エネルギー消費のバランスが崩れたライフスタイルが、先進国の生活です。
これでは、そのままの生活で健康を維持するのは、困難でしょう。
エネルギー効率の高い食品は血糖値が上がりやすい
エネルギー効率がよい、あるいは
エネルギー密度が高い食事は、農作業などの肉体労働をしている場合は、有利に働くこともあったでしょう。
しかし、現代先進諸国のライフスタイルでは、エネルギー高効率あるいはエネルギー高密度は、諸悪の根源のようです。
同じカロリー(熱量)を摂取しても、エネルギー高効率あるいはエネルギー高密度の食品では、
血糖値が上がりやすく、インスリンが出やすくなるため、体に余計に負担がかかるようです。
その証拠となる研究の1つを簡単に紹介します。
カロリーは同じでも性質の違う糖では、血糖値とインスリン値に差
Farnaz Keyhani-Nejad.et al. Effects of Palatinose and Sucrose Intake on Glucose Metabolism and Incretin Secretion in Subjects With Type 2 Diabetes. Diabetes Care 2016;39:e38–e39 | DOI: 10.2337/dc15-1891
【研究目的】
砂糖(ショ糖・スクロース)と同じように、
グルコース(ブドウ糖)と
フルクトース(果糖)で構成される、
イソマルツロース(パラチノース)摂取後の血糖値の上昇は、砂糖摂取後よりも低いとされる。
これまで、
イソマルツロースの代謝の詳細は不明であったので、ヒトでの代謝を調べる。
【研究方法】
2型糖尿病の成人10人(女性2名、男性 8名、61.6±4.6歳、BMI 32.1±4.06 kg/m2)をランダムに次の2群に分けて、
血糖値とインスリン値、インスリンの分泌を促進するホルモン(GLP-1とGIP)などを調べた。
- イソマルツロース(パラチノース)50gが溶けたドリンクを300mLを飲む群
- 砂糖50gが溶けたドリンクを300mLを飲む群
1週間以上時間をあけて2つのグループのドリンクを入れ替えて、同様に調べた。
【研究結果】
- イソマルツロース摂取後は砂糖摂取に比べて、血糖値のピーク値の平均が20%低く、インスリン分泌は55%低かった。
- イソマルツロース摂取後、血液中のGIP濃度が僅かに増加したが、ピーク時にもそれほど上がらなかった。
- 砂糖摂取後では、GIP濃度は15分後に倍以上と急峻に上昇して、約60分後に急落した。
- イソマルツロース摂取後では、GLP-1濃度は砂糖摂取後に比べて、素早く上昇し、より長時間持続した。
まとめると、
イソマルツロース摂取は砂糖摂取に比べて、
- 血糖値が上がりにくい
- インスリンも極端には上がりにくい
- GIPは上がりにくい
- GLP-1は素早く上昇して、長時間持続した
【研究結果から考えられること】
砂糖摂取に比べて、
イソマルツロース摂取では、血糖値もインスリンも
GIPも上がりにくいことが分かった。
砂糖は消化酵素によって速やかにグルコースとフルクトースに分解されるため、小腸上部に分布する
GIP産生K細胞を刺激し
GIPを産生する。
一方、イソマルツロースでは分解に時間がかかるため、
イソマルツロースのほとんどは分解されないまま、小腸上部を通過してしまうので
GIP分泌が刺激されない。
GLP-1を産生するL細胞は、小腸の下部にあるため、そこに到達するまでに
イソマルツロースがグルコースとフルクトースに分解され、
GLP-1は分泌される。
これまでの研究から、
GIPは肥満や脂肪肝、脂肪組織の炎症を起こす可能性が示されている。
砂糖も
イソマルツロースも、
グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)で構成されるが、化学結合が異なる。
そのため、消化酵素の働き方が異なり、砂糖は早く分解され、
イソマルツロースはゆっくりと分解される。
この違いから、このような結果となったと思われる。
イソマルツロースは、糖尿病の代替甘味料として使用されている。
このことについて、研究者たちは、次のように結論している。
- イソマルツロースは、腸の細胞でGIP分泌を減少させてGLP-1分泌を増加させ、インスリン分泌もある程度維持するので、血糖値の著しい変動を防ぐことができる。
- イソマルツロースは2型糖尿病患者に有効であろう。
ただし、砂糖も
イソマルツロースも、
グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が1:1で構成されているので、最終的には吸収されてエネルギーになる。
摂りすぎは良くないし、運動も必要だと警告もしている。
砂糖とイソマルツロースの違い
いかがですか。
下の絵は、砂糖と
イソマルツロースの化学構造を比較しています。
どちらも、
グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が1:1で構成されていいますが、化学結合の仕方が異なります。
|
砂糖(スクロース、ショ糖)とイソマルツロース(パラチノース)は
どちらもグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が化学結合したもの。
化学結合の部位が違うことで分解されやすさが変わる。
イソマルツロースでは砂糖に比べて分解のスピードが遅いことから、吸収に時間がかかり、
血糖値の上がり方やインスリンの出方が緩やかになる。
|
砂糖の赤い丸の結合は速やかに分解されますが、
イソマルツロースの青い丸の結合は、比較的ゆっくり分解されるので、血糖値の上がり方も、インスリンの出方もゆっくりです。
しかも、代謝的に好ましくない
GIPの分泌も上がらないというわけです。
でも、研究者達も注意している通り、
最終的には砂糖と同じ分のグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が吸収され摂取カロリーは同じです。
また、
イソマルツロースは
甘さが砂糖の約半分なので、砂糖と同じ甘さを求めて使用すると倍量を使うことになってしまい逆効果になることもあります。
GIPとGLP-1の違い
GIPと
GLP-1は どちらもインスリン分泌を促すホルモンですが、図のように小腸で産生する細胞がある場所が違います。
|
インスリンの分泌を促す小腸の上皮細胞で産生されるホルモンをインクレチンと呼ぶ。
インクレチンにはGIPとGLP-1がある。
GIPを産生するK細胞は図中ピンク色の上部小腸の吸収上皮細胞層にある。
GLP-1を産生するL細胞は、図中グリーン色の下部小腸の吸収上皮細胞層に分布する。 |
GIPには、
肥満や脂肪肝、脂肪組織の炎症を起こす可能性が示されていて、
GLP-1には、
脂質異常や高血圧を防いだり、慢性炎症を治めて動脈硬化が進まないようにする作用があります。
Yutaka Seino and Daisuke Yabe. Glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1: Incretin actions beyond the pancreas.Journal of Diabetes Investigation
Volume 4, Issue 2, pages 108–130, March 2013
どうして、2つのホルモンにこのような違いがあるのかまだ詳しいことは不明ですが、どうも
GIPは、飢餓にさらされたときなどに働く「
倹約遺伝子」によって現れてくるホルモンのようです。
倹約遺伝子は糖尿病・肥満に弱い
倹約遺伝子は、言葉の通り、エネルギーの使用を倹約して、余った
エネルギーを出来るだけ蓄える作用を持ちます。
最小限のエネルギー源で生きていけるようにしてくれる、本来は生物にとってありがたい遺伝子です。
日本人は倹約遺伝子が働きやすい
我々日本人やアメリカ大陸のピマインデアンは、この
倹約遺伝子が働きやすく、糖尿病や肥満に弱いとされます。
実際に、運動量の多い伝統的な生活を続けるメキシコに住むピマインデアンは健康なのに、同じ遺伝子を持つアメリカに住む近代的な生活をするようになったピマインデアンでは、肥満と糖尿病が蔓延したという事実があります。
倹約遺伝子を持っている人種は、おそらく、食料に困りがちで、食料を得るための農作業などの運動量も多く、かつ栄養価が高くて
エネルギー効率が良いあるいは
エネルギー密度が高い食べ物をあまり多く食べて来なかったと考えられます。
そういえば、昔の日本の食事は食物繊維を多く含む質素なもので、就労者は殆どが仕事でよく体を動かす一次産業でした。
倹約遺伝子に高エネルギー密度の食べ物は想定外
現代の日本のような文明国に住み、
倹約遺伝子が働きやすい体質で、忙しく、運動する暇もない我々にとって、
エネルギー密度が高い食べ物はとても危険な食料と思われます。
忙しいと言って、ファーストフード、丼もの、カレーなどのルーをかけた白飯、麺類、パンなどの外食や、コンビニ中食、インスタント食品などを利用することを考えさせられる研究です。
早い、うまい、安いで身を滅ぼさないようにしたいものですね。
“血糖値をあげにくいサプリメント”も使い方を間違えれば本末転倒
最後に、「血糖値の上昇を緩やかにする」などと謳った難消化性デキストリンなどのサプリメントについて。
最近、このような商品がたくさん市販されていますね。
上の説明のとおり、このようなサプリメントは血糖値の上昇カーブを緩やかにさせますが、それは糖の吸収スピードが遅くなっただけ。
糖が吸収されないわけではありません。
つまり、最終的に吸収される糖質の量、カロリーは同じです。
気を許してたくさん食べれば、当然、オーバーカロリーに・・・
早い、うまい、安い(高い?)食べ物を存分に食べるためのサプリメント使用は本末転倒でしょう。
よろしければ下記↓も読んでみてください。
糖質
血糖になる栄養素
何を食べると血糖値が上がる?
「糖類オフ」と「糖質オフ」の違い
ブドウ糖と果糖の毒性
果糖はブドウ糖より危険
果糖は別腹
糖類を食べるとおなかがすく?
糖質は食べ物でとる必要はない?
糖質制限で二日酔いから解放?
アルコール飲料 角砂糖いくつ分?
スポーツドリンクで糖尿病に?
お酒と糖類の依存性
あなたの1日の糖質量
糖質制限 糖質は何gまでOK?
エナジードリンクは飲んでもOK?
加糖飲料の危険性が次々証明
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の恐ろしい結果、終末糖化産物(AGEs)とは?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
糖尿病
4~5人に1人が糖尿病予備群!
糖毒性で糖尿病予備群に??
グルコーススパイクに注意
インスリンは肥満ホルモン?!
早食いはメタボの元
厚労省お墨付き栄養法で糖尿病?
低GI食品って意味ある?
やっぱりGIはあてにならない
糖尿病予備群は癌リスクが15%高い
全粒粉や玄米はなぜ体に良い?
高血糖の末路、終末糖化産物(AGEs)とは?
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
食べ物・栄養
食生活は進化の中で3回変わった
50歳超女性は夕食でタンパク50g
飲酒でボケが早まる!
砂糖入り飲料のリスク
おいしさの罠
米国マクドナルド が抗生物質与えた鶏肉の使用をやめる
食品のコレステロールは気にしなくてOK
エナジードリンクは飲んでもOK?
短い期間でも、健康な食事でがんのリスクが減る
カメはなぜ長生きか?
早い、うまい、安いが身を滅ぼす
血糖値だけでない空腹感のメカニズム
食用油
健康に良い油?悪い油?
運動・ミトコンドリア
ミトコンドリアの数で若さが決まる
有酸素運動と無酸素運動の違い
体重・BMIより筋肉量が大事
運動すると食べ過ぎる?
デスクワークは危険!
座り時間を短くすれば老化しにくい
筋肉は脚から落ちる
1時間に2分体を軽く動かせば寿命が延びる
ミトコンドリアが活発な筋肉を保つためには
運動すればボケを防げる!
歳をとってから運動を始めても遅くはない
BMIが正常でも死亡率が上がる原因?
運動不足で脳がしぼむ!