いきいき!エバーグリーンラブ: 老化
ラベル 老化 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 老化 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017年12月6日水曜日

18年のフォローでHRTの安全性を検証

HRTには非常に多くの有用な作用があり、閉経期以降の女性はHRTなしに寿命まで生活を楽しむことはほとんど不可能だと思われます。

HRTについては、こちらをご覧ください。
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤
HRTで使われる薬剤~プロゲスチン製剤
にもかかわらず、日本ではちっともHRTが普及しません。
その理由は、たいへんな副作用があると思われているからでしょう。

特に乳がんに関しては、医師から「HRTを行うときには、必ず毎年乳がんの検査をしてください」と言われるので、そんなに危ないのかしら?と思ってしまうのですね。
さて、HRTを継続するに当たって、毎年の乳がんの検査は必要でしょうか?

18年間の追跡試験の結果

このように言われるようになった根拠に、2002年に発表されたThe Women's Health Initiative(WHI)というアメリカで行われた大規模臨床試験で、HRTを行うことで乳がんが増える可能性があるという結果が報告されたことがあります。

詳細はこちらをご覧ください。
HRTは乳がんの原因になる??

2017年に、同じWHI試験において、新たに18年間の観察期間でのデータが報告されました。
HRTとして結合型エストロゲン(プレマリン®を単独で約8年間投与した後、合計18年間にわたり継続してフォローした成績です。
18年間の死亡例について、死亡率がエストロゲンの投与によって 増えるかどうかを、死因別に検討しました。


【試験期間】
登録期間は19931998年。累積追跡期間は18年。

【対象】
10,739例。登録時50~79歳(平均63.3歳)。子宮を有する閉経後女性。

【方法】
結合型エストロゲン(プレマリン®)0.625mg投与群(5,310例)、あるいはプラセボ群(5,429例)にランダム化。
結合型エストロゲンは平均約8年間、約4%の人は観察期間中も含め約18年間継続して使用していました。

【結果】
主な結果は下の絵の通りです。
HRTを行った群と行わなかった群で、
  • 総ての原因での死亡率(総死亡)に差はなかった。
  • 心血管系の疾患での死亡にも差はなかった。
  • 総てのがんでの死亡率に差はなかった。
  • 乳がんとアルツハイマー型認知症による死亡は統計学的に有意に低下していた。

エストロゲン エストラジオールと乳がん、アルツハイマー型認知症、心血管疾患、冠動脈疾患のかんけい

グラフはHRTを行ったことで各疾患での死亡リスクが増えたか、減ったかをハザード比(ハザード比±調整95%信頼区間)で示しています。
●がハザード比、●についている横線の長さがデータのばらつきの大きさを示します。
ハザード比について説明するのはたいへんなので、グラフの見方のポイントだけ理解してください。

グラフの読み方のポイント
  1. ●が1.0より小さい値(左側)の疾患はHRTで減少したこと、1.0より大きい値(右側)の疾患はHRTで増加したことを示している。
  2. ●についた横線が1.0のラインをまたいでいない場合、『統計学的に有意(意味がある)』と考えられる。
  3. ●についた横線の長さが長い場合は、●の値から離れているデータがたくさん含まれていることを示している。
その結果、乳がんとアルツハイマー型認知症による死亡が有意に減少しました。
大腸がんのリスクは増えていますが、ばらつきが大きく 有意ではありません。

乳がんのリスクはHRTで減少する

つまり、HRTは行わないより行った方が、乳がんによる死亡リスクもアルツハイマー型認知症による死亡リスクも少なくなると考えられます。
 これまで言われていた「乳がんが増える」という説とは反対の結果でした。

この研究結果から、日本でもHRTが普及するといいですね。
もし、未だにHRTでがんが増えるという医療関係者がいたら、ぜひこの研究を紹介してあげてください。
この研究報告を知らないとしたら、その医療関係者はちょっと勉強不足かも…。

「HRTの継続に乳がんの検査は必要か?」という質問に答えるとすれば、
「乳がんで死亡したくなければ、HRTを行っても行わなくても(むしろHRTを行わない人こそ)、乳がん検診を受けたほうがよい」
 ということになります。

2017年6月22日木曜日

HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤

ホルモン補充療法(HRT)が、更年期以降の女性の健康に欠かせないものであることをお話ししてきました。
今回は、HRTで用いる薬剤のうち、エストロゲン製剤についてお話しします。

言うまでもありませんが、更年期症状の原因は、卵巣の機能低下によるエストロゲンの分泌低下です。
したがって、エストロゲンを補うことがHRTの主目的です。

エストロゲンのみを補うと、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんのリスクがあるため、プロゲステロンも併用する必要があります。

しかし、体内で分泌されているプロゲステロンは製剤化しても薬価が安いため製薬会社が開発せず、日本では発売されていません。
そこで、プロゲステロンと同じ受容体に作用する化学構造が類似の薬を使います(これをプロゲスチンといいます)。

年齢によるエストロゲン製剤の選択

年齢とともに身体の機能が衰えていくことは避けられません。
年齢を重ねた身体に非常に活性の高いホルモンを若いころと同じように高用量を補ったのでは、身体は持て余してしまいます。

そこで、年齢や女性ホルモンの分泌状況に合わせたHRTをお勧めします。
  • 更年期(50歳前後~60歳):エストラジオール+プロゲスチン(28日に10日間)
  • 更年期(50歳前後~60歳で子宮がない場合):エストラジオール
  • 更年期から5年以上経過(60歳以上):エストリオール+プロゲスチン(6か月~1年に10日間)
  • 更年期から5年以上経過(60歳以上で子宮がない場合):エストリオール

エストリオールは、エストラジオールが代謝されてできる物質です。

アンドロステンジオン テストステロン エストラジオール エストリオール エストロン 構造式エストラジオールと同じようにエストロゲン受容体に働きますが、活性は エストラジオールの1/10とも1/100ともいわれています。
百枝幹雄編 『基礎からわかる女性内分泌』診断と治療社 2016; p98

60歳を過ぎてからHRTを始める方には、エストリオール製剤が勧められます。
エストリオールは作用は穏やかで、これまでに問題となるような副作用は認められていません。

更年期からHRTをはじめた方でも、身体活動が低下したと思われる年齢になったら、エストラジオール製剤からエストリオール製剤への変更を考えるとよいでしょう。

エストラジオールと比較すればわずかですが、エストリオールでも継続して使用すると子宮内膜が厚くなるので、子宮のある方は半年(場合によって3か月から1年)に12日間程度、プロゲスチン製剤を併用することをお勧めします。
出血が見られる方も見られない方もありますが、いずれの場合も、子宮粘膜に対する効果が期待できます。

下の図は、毎月1日から同じ日程で治療を続けられるように、月の日数に合わせて休薬期間を調整した場合のスケジュールです。

エストラジオール製剤開発の歴史

HRTは、乳がんや血栓症などの副作用が問題視されたために、敬遠される方が多くいらっしゃいます。
しかし、それらの副作用は過去に使われていた製剤によるものであり、新しい製剤は様々な面で改良されています。

そもそも、エストラジオール製剤は、卵巣機能不全や子宮出血の治療、避妊などを目的に開発されました。
初期のエストラジオール製剤に求められたのは、HRTに求められるようなマイルドな作用ではなかったということです。

エストラジオールは、製剤化するのが難しい物質です。
というのは、消化管から吸収されると血液中に入る前に肝臓で約90%が代謝を受け、もっと活性の低い物質に変わってしまうからです。
そのため、エストラジオールが効率よく腸管から吸収できるように、様々な工夫が行われました。

その1例が、エチニルエストラジオールやメストラノールなど、エストラジオールにエチニル基を導入した製剤です。
これらは強力なエストロゲン活性を持ち、主に排卵の抑制、つまり避妊を目的に用いられています。

その後、更年期障害の治療を目的とした薬が開発され始めました。
その1つとして、ウマの尿から約10種類のエストロゲン様物質を生成した結合型エストロゲン(プレマリン®)があります。
日本でも1964年に発売が開始され、現在も使われています。

エストラジオールそのものを腸管から吸収させるのは難しかったのですが、2006年以降に、エストラジオールのジェル製剤(ル・エストロジェル、ディビゲル)や貼付剤(エストラーナテープ)が発売されるようになりました。

2008年にはエストラジオールの錠剤(ジュリナ)も発売されました。

エストラジオール製剤の比較

更年期から60歳くらいまでのHRTでは、これらのエストラジオール製剤のいずれかの使用が勧められます。

4つのエストラジオール製剤を比較してみましょう。  ジュリナは経口剤(錠剤)、ディビゲルとル・エストラジェルは皮膚に塗るジェル剤、エストラーナはテープ(貼付剤)です。
4つのエストラジオール製剤を比較してみましょう。
ジュリナは経口剤(錠剤)、ディビゲルとル・エストラジェルは皮膚に塗るジェル剤、エストラーナはテープ(貼付剤)です。

皮膚から吸収された薬も、腸管から吸収された薬も、血液中に入って目的の臓器にたどり着いて効果を発揮します。
ですから、どのくらいの用量を投与したかではなく、どのくらいの量が血液中に入ったかが、効果の強さに関係します。

薬剤選択のポイント

薬剤を選ぶとき、次の4つがポイントになります。
  1. 血液中のエストラジオールの濃度が安定しているか
  2. どのくらいのエストラジオールが血液中に入るか
  3. 不要な(有害な)代謝物ができないか
  4. 皮膚症状(副作用)がないか
1~4について、各薬剤の製薬メーカーの資料を調べた結果をお示しします。

1.血液中のエストラジオールの濃度が安定しているか


それぞれの薬を7日間使い続けたときに、血中濃度がどのように変化するか、イメージを図にしました。

経口剤(ジュリナ)

経口剤のジュリナの血中濃度は、飲んでから8時間くらいが一番高く、そのあと次回の服用時まで徐々に低下するといった1日ごとの“山”が見られます。
“山”といっても、月経周期や更年期に見られる100~300pg/mLの大きな山ではなく、10~20pg/mL程度の小さな山です。

山はあるものの、血液中から消失するのには時間がかかり、毎日服用すれば、常に一定以上の血中濃度を保っています。

ジェル剤と貼付剤ではこの”山”はなく、24時間を通して一定の濃度を保っています。
”山”ができないことが、経皮投与する薬の大きなメリットになります。

表皮の細胞

ジェル剤(ル・エストロジェル、ディビゲル)

ル・エストロジェルもディビゲルも、皮膚に塗ると、いったん角層(角質層)に吸収され、角層から血液中にゆっくり移行します。

ル・エストロジェルはディビゲルに比べて血中濃度がゆっくり上がり、使用をやめた後もゆっくり下がります。
これは、角層から血液中への移行のスピードが、 ディビゲルよりル・エストロジェルのほうが遅いためだと思われます。

ジェル剤では、皮膚に塗った薬剤の多くは、吸収されないままになると考えられます。
ディビゲルのメーカーの資料には、投与量の5%しか血液中に入らないとの記載があります。
ディビゲル インタビューフォーム

ル・エストロジェルでは、血液中に入る割合に関する資料がありませんが、血中濃度から換算して、ディビゲルよりは高い割合で、血液中に移行すると思われます。
(血液中に入る割合はとても大切な資料なのにデータを完備・公表しないのはメーカーとして残念な姿勢ですね。)


ル・エストロジェルもディビゲルも、”塗布後1時間は、塗布部位を洗わないように”との指示があります。
これは、”塗布後1時間以上経っていれば、洗い流してしまっても効果は変わらない”ということであって、 製剤中のエストラジオールが1時間ですべて吸収されるということではありません。

ル・エストロジェルは「両腕の手首から肩まで」、ディビゲルは「左右どちらかの大腿部または下腹部に約400cm₂の範囲」に塗るように、添付文書に指示されています。
この部位と面積は、血中濃度にかかわりますので、原則として守るようにしましょう。

傷があるなど、その部位に塗れない事情がある場合には、他の部位で代替することも可能です。
医師に相談してください。

貼付剤(エストラーナ)

エストラーナは貼るとすぐに血中濃度が上がり、貼っている時間(48時間=2日間)の間、ほぼ同じ量が表皮から吸収され続け、はがすとすぐに血中濃度は下がります。
したがって、ジェル剤とは異なり、角層にとどまることはないので、はがすとすぐに血液中へ入らなくなるということがわかりす。

また、エストラーナでは、投与量と血中濃度の推移から計算上したところ、ジェル剤に比べて3倍以上効率よく吸収されるようです。

2.どのくらいのエストラジオールが血液中に入るか

血液中に入るエストラジオールの量が多ければ多いほど、効果は上がります。

ここで、HRTでは必ずしも”効果が高ければよい"わけではないということに注意が必要です。
血中濃度が高くなりすぎた場合、副作用が起こる可能性があります。

ジェル剤(ル・エストロジェル、ディビゲル)ジュリナ エストラーナテープ HRT(ホルモン補充療法)エストロゲン製剤の血中濃度推移4剤の血中濃度に関するデータを表にまとめました。
少々、専門的な数値になるので、興味のある方は、下の図を参考にしてください。

反復投与時のAUC(血中濃度-時間曲線下面積)の値が、ずっと投与を継続している場合の血中濃度の目安になります。

AUCを比べると、ル・エストロジェルとエストラーナが高めです。

ジュリナには、通常、HRTとして使われる投与量でのAUCの値の記載がありませんでしたが、最高血中濃度と半減期から、他剤に比べて血中濃度が高くないことが推定できます。
(ここでも資料不足です。せっかく、製剤化が難しい経口剤を開発したのに、データを完備・公表しないのはメーカーとして残念な姿勢ですね。)

効果の現れ方にも、副作用の現れ方にも個人差があるので、必ずしもこれらのデータのとおりになるとは限りません。

いずれの薬を使う場合も、血液検査を行って、実際にどの程度、血中濃度が上がっているかを知ったうえで、効果と副作用から問題があると考えられる場合には、薬の変更を考えることが大切です。

例えば、
  • ディビゲルで効果が足りなければ、ル・エストロジェルやエストラーナに変更する
  • エストラーナが効きすぎている(乳房が張るなど)ときには、ル・エストロジェルか、ディビゲルに変更する
  • ル・エストロジェルが効きすぎているときには、1プッシュに減量するか、ディビゲルに変更する
など、変更するのがよいでしょう。

3.不要な(有害な)代謝物ができないか


ほとんどの薬剤は肝臓で代謝を受け、排泄されやすい形に変えられます。
経口投与された薬は、体内を循環する血管に入る前に肝臓を通るため、全く代謝されることなく作用部位に届くことはありません。
これを初回通過効果といいます

エストラジオールも経口投与された場合、必ず、肝臓を通ってから血液中に入ります。
エストラジオールは、肝臓で95%がちょっと化学構造が変化した他の物質へと代謝を受け、エストラジオールのままで血液中に入るのは5%だけになってしまいます。

エストラジオールの代謝物には、数種類の少しだけ化学構造(形)の違う物質があります。
この中には、ほとんど作用を持たないものもありますが、乳がんなどの原因となると考えられる物質も含まれます。

経皮的にエストラジオールを吸収した場合・・・つまり、エストラジオールのクリームを塗ったり、テープを貼ったりして皮膚から吸収した場合には、エストラジオールは直接血管内に入り、肝臓で代謝を受ける前に血流を介して目的の臓器に届きます。
そのため、経口剤に比べて副作用の原因となる物質ができにくいと考えられます。

難しいので、詳しく説明しましょう。

例えば、薬を効かせるために、3コが作用する必要があり、肝臓で、肝臓を通過した量の1/2が代謝されてという少し違った形になる薬があったとします。

を経口投与する場合、腸管から門脈を通って肝臓へ行き、肝臓で1/2がになります。

全身を巡る血液の中に入るのは残りの1/2のです。
したがって、効かせるための3コのを血液中に確保するためには、3個のができます。

経皮投与する薬(ジェル剤や貼付剤)も、皮膚に塗った薬が100%血液中に入るわけではありません。
しかし、塗った薬の1/2しか血液中に入らないと仮定しても、ここでが作られることはありません。
3コのを血液中に届けるために6コのを投与する必要があることは経口投与の場合と同じでも、ができないために、副作用は現れにくいと考えられます。

経口薬のジュリナは、全身への血液中に入る前に、腸管の粘膜と肝臓で約95%が代謝を受けることが確認されています。
ジュリナ インタビューフォーム

ジェル剤と貼付剤は、先ほどの説明のとおり、初回通過効果を受けないので、副作用発現の可能性のある代謝物ができる割合は、経口薬に比べてかなり低いと思われます。

4.皮膚症状(副作用)がないか

以上の事実から、エストラジオールは、経口薬よりも経皮投与の薬が勧められます。
なかでも、エストラーナは、かなり優秀な製品だと思われます。

とはいえ、ジェル剤や貼付剤には、皮膚の痒みやかぶれなどの副作用が現れやすいという欠点があります。

「痒みくらいがまんすればいい」と思われるかもしれませんが、毎日使い続ける薬なので、痒くなるのは辛いです。

開発時の臨床試験(人に対して使ってみた試験)で、投与部位の皮膚の痒みと紅斑の見られた頻度は表のとおりです。

特にエストラーナは、痒みの出る割合が高くなっています。
2日間、同じテープを貼り続けることになるので、入浴して水に濡れてからの1日は、特にかゆみが出やすいようです。

痒みやかぶれなどで経皮製剤が使用できない場合には、経口剤(ジュリナ)を用いるとよいでしょう。

血中濃度を確認しながら使いましょう

HRTではエストラジオールの血中濃度が、効果を発揮できる最低の値で一定にコントロールされるのが理想です。

HRTを確実に安全に行うためには、まず、HRTを始める前に、エストラジオールとFSHの値を測定して、自分のホルモンがどの程度分泌されているかを確認する必要があります。
何故、FSHの血中濃度を測る必要があるのかについてはこちらをご覧ください。
一般に、血液中のエストラジオールの濃度が20pg/mL以下で、FSHの濃度が40mIU/mL以上の場合、閉経と判断されます。
HRT ガイドライン 2017 年度版<案>より

そのうえで、HRT開始後に、再度、エストラジオールとFSHの血中濃度を測定し、薬がしっかり吸収されているかどうかを確認します。
血中濃度は、定期的に測定する必要があります。

薬剤の吸収の程度や効果の程度は、人によって違いますし、年齢によっても変化します。
血中濃度が低すぎるまま使い続けるのは無駄ですし、反対に、血中濃度が高くなりすぎると副作用が現れる危険性が高まります。
皮膚のかぶれなどの副作用ならばすぐに気づきますが、がんや血栓は見えないところで進行しますから、注意が必要です。

ですから、更年期症状が解消されて、かつ、高すぎないエストラジオールの血中濃度を保つためには、面倒なようでも、定期的に血中濃度を測定することをお勧めします。

エストリオール製剤 

60歳以上の方でも、HRTの効果は期待できます。
ただし、更年期が終わってから5年程度経った方には、エストラジオールではなく、エストリオール製剤が勧められます。

80歳を過ぎた方でも効果を感じられるようですので、試してみる価値はあると思われます。

エストリオール製剤は4社から経口剤が発売されています。

服用する量は下記を目安に、年齢に応じて調整してください。
  • 60~75歳:1日2mg(1mg錠2錠を1日1回、または1mg錠1錠を1日2回)
  • 75~80歳:1日1mg(1mg錠1錠を1日1回)
  • 80歳~:1日0.5mg (0.5mg錠1錠を1日1回)

 

注意

  • HRT を行う際には、定期的に運動することをお勧めします。
  • HRT に用いる薬を入手するには、病院で医師に処方していただく必要があります。
  • 基礎疾患がある方などでは、HRTが行えない場合もあります。
  • HRT には注意すべき副作用があります。
  • HRT 実施にあたっては、婦人科を受診して、医師に相談してください。

HRTに関するこれまでの記事

女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤

2017年5月2日火曜日

HRTは乳がんの原因になる??

ホルモン補充療法(HRTは乳がんの原因になるという話を聞いたことのある方は多いと思います。

中でも有名なのは、アメリカで米国国立衛生研究所(NIH)が行ったWomen's Health Initiative(WHI)研究という一連の大規模臨床研究の1つです。
エストロゲンプロゲスチン(人工的に合成された黄体ホルモン様作用を持つ物質)を使ったHRTはメリットよりもリスクの方が大きいというデータが出たことから、この臨床試験は中断されました。

しかしWHI研究をよく見てみると、一概にHRTはやめた方が良いとは言えないことがわかります。

今回は、このアメリカの研究でわかったHRTのメリット・デメリットと、デメリットが起きてしまった原因についてご紹介します。
Rossouw JE, Anderson GL et alRisks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results From the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA,2002; 288(3):321-33.

エストロゲン+プロゲスチンによるHRTの有用性の検討(WHI研究)の概要

【対象・方法】
373,092例の50歳から79歳の健康女性の中から、16,608例を無作為にHRTを行ったグループと行わないグループに分け、有効性と合併症の発生率を比較した。
HRT行ったグループ(HRT) 8,506例
HRT行わないグループ(HRT)8,102例

HRTの方法】
エストロゲン: プレマリン®(結合型エストロゲン) 0.627mg/日
プロゲスチン: プロベラ®(メドロキシプロゲステロン酢酸塩 25mg/日
【試験期間】
 平均5.2年の追跡を行った時点で試験を打ち切った。

【結果】

HRTで罹患しやすくなる疾患 心筋梗塞、脳卒中、血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓)、乳がん
HRTで罹患しにくくなる疾患:骨粗鬆症(大腿骨近位部骨折、椎体骨折、すべての骨折)、大腸がん、子宮内膜がん、総死亡

WHI研究の結果の詳細


結果をグラフでお示しします。
ホルモン補充療法、エストロゲン、エストラジオール、プロゲステロン、WHI
●とー●とーハザード比の値を示します。
ハザード比とは、一方の群を基準にして他方のアウトカム発生の確率が何倍高いかを示すものです。
といっても、何のことやらわかりませんね?

の位置は 代表的な値を示す

上のグラフの大腸がんのところを見てください。
0.63のところにが付いています。

これは、HRTの人が大腸がんになる確率を1としたときに、HRTの人が大腸がんになる確率は0.63になるということを示しています。

つまり、ハザード比が1より小さい疾患は、HRTを行った方が行わないよりも罹りにくい人が多いと言えます。

ここで注意が必要なのは、は、「人によって効果に違いがある中で、統計学的に計算したときに代表となる値」を示しているということです。
この値だけで、確実な予測はできません。
人によってばらつきが大きい場合には、の値にあまり意味がなくなってきます。

直線の範囲はばらつきを示す

についている直線は、95%信頼区間といってデータのばらつきを示します。
直線が長ければ長いほど、ばらつきが大きいことを意味します。

大腸がんでは、直線は0.32から1.24までを指しています。
これは、「HRTの人から100人を選んだとき、そのうちの95人が大腸がんになる確率は、HRTの人が大腸がんになる確率の0.32倍~1.24倍の間に入る」ことを意味します。

例:静脈血栓塞栓症

では、静脈血栓塞栓症のグラフを見てください。

直線の左端が1より上にあります。
言い換えれば「95%信頼区間」が1より大きくなっています。

これは、
HRTの人はHRTの人よりも統計学的に見て有意に静脈血栓塞栓症に罹りやすい
ことを示します。
HRTを行っていると静脈血栓塞栓症罹るのは偶然ではない」
ということもできます。
  • 静脈血栓塞栓症は、HRTで罹患しやすくなる
ことがわかります。

例:すべての骨折

次にすべての骨折のグラフを見てください。

直線の右端が1より下にあります。
言い換えれば「95%信頼区間」が1以下に収まっています。
これは、
HRTを行った方が行わないよりも統計学的に見て有意に罹りにくい
ことを示します。
HRTを行っているとその疾患に罹らないのは偶然ではない
ということもできます。

したがって、グラフから、
  • 全ての骨折」は、HRTで罹患しにくくなる
ことがわかります。

 副作用を回避するためにこの臨床試験は中止となったのですが、その陰には、このように、大きなメリットがあることも確かめられていたのです。


WHI研究の結果をみるときの注意点


WHI研究はアメリカで行われた試験ですから、日本の現状とは異なる点が多くあります。
したがって、下記のような対象となった女性の状況や薬剤について、考慮して結果を読み解く必要があります。
  1. 約67%が60歳以上であり、更年期を過ぎていた人が多かった。
  2. BMIの平均値が28.5、30以上の人の割合が約34%であり、肥満者が多かった身長160cmで73kgのときBMI=28.5)
  3. 過去・現在を含めた喫煙率が50%と高かった。
  4. 高血圧(収縮期血圧/拡張期血圧≧140/90mmHg) の人の割合が約36%と高かった。
  5. 服用したエストロゲン製剤、プロゲスチン製剤に問題があった。

HRTを始める年齢について


WHI研究の対象となったのは約67%が60歳以上です。
更年期を過ぎてから5年以上たった 人が多いことがわかります。

更年期には、エストロゲンの血中濃度が乱高下することをお話ししました。
更年期からHRTを継続していれば、異なる結果が得られた可能性が考えられます。

また、エストロゲンの血中濃度が低い状態が何年も継続した後でHRTをスタートした場合、それまでの期間に、すでにがんや骨粗鬆症などの疾患に罹りやすい状態になっていたことも考えられます。 




肥満・喫煙・高血圧について


肥満、高血圧、喫煙は、様々な疾患のリスクになります。
BMI≧28.5、喫煙率=50%、収縮期血圧/拡張期血圧≧140/90mmHgというのは、日本人女性に比べて高いので、この試験の結果だけから、日本人でも同じことが言えると考えることはできません。


服用したエストロゲン製剤について

 

エストロゲン製剤: プレマリン®(結合型エストロゲン)とは


結合型エストロゲン(商品名:プレマリン®)は馬の尿から取り出した次の3種類のエストロゲンの複合体です。
  • エストロン硫酸エステルナトリウム
  • エクイリン硫酸エステルナトリウム
  • 17α-ジヒドロエクイリン硫酸エステルナトリウム
いずれもエストロゲン受容体に親和性を持っています。

プレマリン®のどこが問題点かというと、投与方法にあります。
プレマリン®は経口投与します。

右の図を見てください。

口から飲み込まれた薬剤は、多くの場合、胃を通って腸管に行き、小腸の壁から吸収されます。
小腸の壁から吸収されたものは、薬であれ、食べ物であれ、門脈という消化管と肝臓を結ぶ血管を通って肝臓へ行きます。

肝臓は、口から入ってきたものを血液の中に入れても大丈夫な形に変える働きをします。
消化管を通って身体に入ってくるものは、血管の中に行く前に必ず肝臓を通るようにできているのです。

肝臓で、毒性のあるものは解毒され(これを代謝と言います)、血液中に入ります。


経皮投与したエストラジオールは、直接血管に吸収される


WHI研究で使われたのは経口のエストロゲンでしたが、これが悪い影響を及ぼしたのではないかという見解があります。

現在では、皮膚から直接血管内へ吸収されるエストラジオールのパッチ製剤やジェル製剤が日本でも発売されています。
これらを使用すれば、副作用のリスクを減らせるのではないか、 と言われています。

経皮投与されたエストラジオールも、血液中を回った後にはやはり肝臓へ到達して代謝を受けます。
だったら、経口投与も経皮投与も同じではないか、と言われそうですが、そんなことはありません。

エストラジオールを経口投与した場合と、パッチ製剤を使用した場合とで、代謝の過程がどのように違うかを見てみましょう。

例えば、薬を効かせるために、3コが作用する必要があり、肝臓で、肝臓を通過した量の2/3が活性を失う薬があったとします。経口投与する場合、腸管からすぐに肝臓へ行き、2/3が活性を失うので、効かせるための3コを確保するためには9コを投与する必要があります。同じ薬を経皮投与した場合、肝臓を通る前に作用部位へ到達できるので、効かせるのに必要な3コ分を吸収できるだけの量を貼付すればよいことになります。ホルモン補充療法、エストロゲン、エストラジオール、プロゲステロン、WHI

例えば、薬を効かせるために、3コが作用する必要があり、
肝臓で、肝臓を通過した量の2/3が活性を失う薬があったとします。
経口投与する場合、腸管からすぐに肝臓へ行き、2/3が活性を失うので、
効かせるための3コを確保するためには9コを投与する必要があります。
同じ薬を経皮投与した場合、肝臓を通る前に作用部位へ到達できるので、
効かせるのに必要な3コ分を吸収できるだけの量を貼付すればよいことになります。

図のように、経皮投与する製剤では、肝臓で代謝を受ける前に血管などのエストロゲン受容体に作用することができるので、経口投与する場合に比べてずっと効率よく効果を発揮できます。

ジェル製剤では、皮膚に塗った薬剤はいったん角質層に吸収され、角質層から徐々に血液中に入ります。
角質層に入ったエストラジオールが、どの程度血液中に入っているかについては、詳しいデータが入手できません。
しかし、経口投与に比べて、血中濃度が一定に保たれることは確認されています。


服用したプロゲスチン製剤について

 

プロゲスチン製剤: プロベラ®(メドロキシプロゲステロン酢酸塩)とは


HRTプロゲスチンを使用する目的は、月経のように出血を起こし子宮内膜の増殖を防ぐことです。
そうすることで、子宮内膜がんのリスクを回避できます。

子宮を摘出してしまった女性は子宮内膜がんにはならないので、プロゲスチンは必要ありません。
エストロゲンだけの投与で十分です。

WHI研究で用いられたメドロキシプロゲステロン酢酸塩(商品名:プロベラ®は、日本では、プロベラ®のほかに、ヒスロン®という商品名でも発売されています。

もともと、メドロキシプロゲステロン酢酸塩は、月経異常の治療や妊娠維持のために合成されたプロゲスチンです。
当時はプロゲスチン製剤は他にありませんでしたから、プロベラ®に救われた方は多かったと思います。

プロベラ®は、強力な子宮内膜の肥厚促進作用や妊娠維持作用を持つ半面、若干の男性ホルモン様作用も示します。 
そのためにプロベラ®の影響で、HRT⊕群に乳がんをはじめとする副作用が現れたのではないかという見解があります。

また、WHI研究では、エストロゲンプロゲスチンを併用した試験とは別に、エストロゲン単独群とプラセボ群を比較した二重盲検試験が行われましたが、その結果では、 乳がんと冠動脈疾患のリスクは増加しないことが報告されました。
(ただし、脳卒中はエストロゲン単独でも増加することが示されました)
3)
Writing Group for the Women’s Health Initiative Investigators. Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy : theWomen’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA 2004 ; 291 :1701―1712

この結果からも、プロベラ®を併用したことで乳がんのリスクが高まった可能性が指摘されています。

プロゲステロン(黄体ホルモン)についても、エストロゲンと同様に純粋なプロゲステロンを経皮投与することが理想的ですが、残念ながらプロゲステロン製剤は、現在でも日本では発売されていません。
したがって、いずれかの人工的に合成された黄体ホルモン様作用を持つ物質=プロゲスチン製剤を使用することになります。
 
2008年に、男性ホルモン様作用もエストロゲン様作用もないジドロゲステロン(商品名:デュファストン®というプロゲスチン製剤が日本で発売され、大きな副作用もなく使用されています。


HRTの乳がんへの影響の有無については、結論は出ていない


WHI研究以外にも、HRTを行うと乳がんの危険性が増えるのかどうかを調べた研究はたくさんありますが、どちらのデータもあり、結論は出ていません。

WHI研究では、5年以内のHRTであれば乳がんの発症は増えないことが認められています。

エストラジオールは、細胞を元気にすることで様々な有効性を発揮します。
この恩恵は計り知れません。
一方、その有効性があるからこそ、特にエストロゲン受容体がたくさんある乳がんの細胞を活性化する可能性も否定できません。
安直に”何かを摂っただけで健康になろう”という考えは、ムシがよいと言えそうです。


ホルモン補充療法ガイドライン2012年度版では、HRTを行う際には次のことを勧めています。
  • HRT施行前、施行中には、血圧、身長、体重の測定、血液検査、婦人科がん検診、乳がん検診を年1~2回行う。
  • HRT中止後5年までは1~2年ごとの婦人科がん検診と乳がん検診を推奨する。
エバーグリーン研究室では、HRTを行うに当たっては、適切な食事と運動の習慣が必要だと考えます。
その理由については、長くなるので改めてお話ししますね。



更年期・ホルモン補充療法(HRT)に関するこれまでの記事
女性の人生は女性ホルモン次第
更年期を過ぎても元気な秘訣
精巧!女性ホルモン調節システム
女性ホルモンはこうして作られる
ホルモンの非常事態が更年期症状に!
HRTは乳がんの原因になる??
HRTで使われる薬剤~エストロゲン製剤