いきいき!エバーグリーンラブ: 脳は美味しさであなたを騙す!!

2018年7月25日水曜日

脳は美味しさであなたを騙す!!

暑いですね。
熱中症にご注意ですが、食欲も落ち気味だし、涼をとるために、アイスクリームやシェイクの誘惑に負けてしまう人も多いと思います。

暑いと、スイーツも冷たさと喉ごしの良さを求めて、アイスクリームやシェイクなどの流動食を選びがちです。
アイスクリームやシェイクは、冷たさやのどごしの良さだけでなく、糖質と脂質がたっぷり入っていて、とても美味しいものですね。

これ以外にも、様々な状況で人間の生活に楽しみと彩りを与えてくれるように思える、現代先進国での「美味しい」食品は私たちの周りに溢れかえっています。

美味しさについて考える

でも、「美味しさ」って何でしょうか?
もちろんヒトをはじめとする動物は栄養やエネルギーを食事(食餌)の形でとらないと生存できません。

ですので、生物は食べ物の「味」を感じるように味蕾などのセンサーを発達させて、安全に食べることができ、栄養やエネルギーとなる食物を選別できるように進化してきました。
味覚といえば、酸味、甘味、塩味、苦味、うま味の5味が有名ですね。
この5味は食物に栄養があるか、毒性がないかを判別するのに役立ってきたと考えられます。

例えば、私たちは、塩分(ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質)がなければ、生きていけません。
山間・内陸地域では昔から塩は貴重品でした。
土や泥を食べる植物食の動物は少なくありません。
あれは土や泥のなかに塩味を感じて、塩分を補給しているのです。
塩味を感じ取る味覚は、貴重な塩分を摂取するためのセンサーだったのですね。

甘味について言えば、哺乳類の中で、唾液にアミラーゼを含む種は少数です。
アミラーゼはでんぷんを分解して麦芽糖に分解して甘味を感じさせます。
たまたま、唾液中にアミラーゼを分泌する能力を持った種が、ドングリやナッツ、根菜や球根、未精製の穀物のでんぷん中の糖質を甘いと感じるようになり、穀物を食餌として取り入れていったのです。

肉食目の動物として進化してきた野生のネコ科の動物は、酸味、苦味、塩味しか味覚を持っていません。
酸味は腐敗した食物、苦味は毒性のある食物を警告する役割でしょう。
塩味は特に肉食のネコ科動物にとって肉や血の味で、「美味しい」のでしょうね。

もっとも、聞くところによると最近の飼いネコは、甘いものも好むそうですが…。
家畜化による味覚の破壊でしょうかね。

このように、本来、味覚とは、生物の進化の観点から見れば、安全に食餌を確保するために備わった感覚の1つに過ぎません。

例えば、ゾウやキリンは、海から遠く離れたサバンナに住み、塩分をほとんど含まない木の枝や葉、皮、草などを主食とする植物食のため塩分が不足しがちです。
塩分が不足すると何十キロも歩いて、壁から塩が染み出す洞窟に塩を舐めに行くそうです。
ゾウやキリンは、脳が塩味を感じると同時に、それが「美味しい」=「快い」と感じるように進化したおかげで、わざわざ体力を使って洞窟まで行き、生命を維持することができているわけです。

このように、我々の行動を「快い」というご褒美(報酬)で制御する神経システムが脳内に備わっています。
報酬が与えられたときに快感を感じるように働くこの脳のシステムを報酬系といいます。

「美味しさ」とは、進化に伴って、味覚と報酬系が連携して、得難い栄養素やミネラルなどを摂食させる行動を制御しているうちに発達した感覚と思われます。

実は、この報酬系が、現代文明を生き抜く人間にとっていろいろな問題を引き起こしているのです。

今日は、そんな、味覚と嗜好と報酬系の罠を解明した研究をご紹介しようと思います。

脂肪と炭水化物は、同時に摂るとより満足できる

Supra-Additive Effects of Combining Fat and Carbohydrate on Food Reward

DiFeliceantonio et al., 2018, Cell Metabolism 28, 33–44

【研究の参加者】
 206人の成人

【研究の方法】
 全く同じカロリーとなる量の3種類のスナック食品
  ①主に炭水化物(糖質)を含む(例えばキャンディー)
  ②主に脂肪を含む(例えばチーズ)
  ③脂肪と炭水化物を両方を含む(例えばクリームサンドビスケット)
 の写真を参加者に見せて、その時の脳の活動を、脳の機能情報を測定するfMRI
   (functional MRI、機能的MRI)で計測した。

さらに、1、2、3の食品に含まれる、見た目で推定したカロリーの(密度の)順位を聞いた。
また、どのスナック食品にお金を払う気があるか、その順位を聞いた。


【研究の結果】
 ・脂肪と炭水化物を両方を含むクリームサンドビスケットなどを見た時に、報酬系の神経
  回路がより強く活性化されることが分かった。

 ・試験参加者は②の脂肪の多い食品が高カロリーだとの推定はかなり正確にできた
  が、炭水化物を含む食品のカロリーの推定は個人によってばらつきが大きかっ
  た。

 ・また、試験参加者は脂肪と炭水化物を両方を含むクリームサンドビスケットなどが
  一番お金を払ってもよい、と回答した。

【研究の考察】
脳の報酬系は単に摂取できそうなカロリーの増加に比例して活性化するのではない。
脂質と炭水化物(糖質)を両方含む食品を摂取する見込みが立つと相乗作用が発揮され、より報酬系が活性化する。

これが、脂肪と炭水化物の両方を含むクリームサンドビスケットのような加工食品の過剰摂取の原因の1つと考えられる。

炭水化物(糖質)のみ、脂肪のみの食餌と、炭水化物(糖質)+脂肪の食餌への報酬系の反応では異なるメカニズムが存在すると思われる。

実際に、マウスやラットに炭水化物(糖質)のみ、脂肪のみを好きなだけ与える実験を行うと、マウスやラットは食餌量を自ら調整して体重は変わらないが、炭水化物(糖質)+脂肪の食餌を無制限に与えると歯止めがきかず、たちまち太ることが分かっている。

脳の報酬系があなたを騙して炭水化物(糖質)+脂質を食べさせる

いかがですか?

食べれば速やかに血糖値が上がり、すぐにエネルギーとなる炭水化物(糖質)と、そのままエネルギーとして貯蔵できる脂質が揃っている食物をヒトやげっ歯類は見分けて、好むということですね。

エバーグリーン研究室では、炭水化物(糖質)と脂質の報酬系への影響は以前も、『糖・脂質・塩~おいしさの罠』でお伝えしてきました。
実はこのことは、食品業界ではよく研究され、加工食品開発では常識のことのようです。

食品企業は、報酬系を刺激する=自社製品にいかに消費者を依存させるかの研究に余念なく、またそれを公表することもなかったわけです。

上記の研究の結果は、研究者への企業の資金提供による利益相反もなく、参加者も多い介入研究で、信頼性が高くかなり説得力があります。

やはり、我々が幸せに感じている「美味しさ」は、脳の報酬系が我々の行動を制御するための、感覚や感情の1つに過ぎないのです。

美味しい食品や料理は、脳の報酬系を刺激する糖・脂質・塩などの要素をそろえていけばいくらでも作り出すことができるわけです。

しかし、そこに、報酬系による「おいしさの罠」があることをお忘れなく。
脳は美味しさであなたを騙す!! のです。

先ほど例に挙げた飼いネコのように、文明による家畜化=飽食=美食の環境は、本来の味覚を破壊してしまうようです。
そして、報酬系の「欲望」を満たすために、甘く、コクがあり(脂質)、塩味の効いた美食をたらふく繰り返す飽食を嗜好し、やがて肥満、高血圧、糖尿病をはじめとする不健康に陥るわけです。

報酬系を活性化させる刺激糖+脂質や塩味ばかりではありません。
薬物、アルコール、タバコ、糖・脂質・塩分にまみれた美味と飽食、ギャンブル、セックス、ゲーム、SNS、収集癖、物欲、ファッション、新しいもの好き、これらを得るための貨幣…報酬系を満たす刺激と欲望とその依存には限りがありません。

糖・脂質・塩分などは、滅多にありつけないけれど、おなじみの物質でしたから、環境に過剰に存在しなければ生物にとって問題にはなりませんでした。
しかし、現代先進国では人々がSNSでその日に食べたグルメ食のスナップを競ってアップするなど、美食・飽食の限りを尽くしているように見えます。

さらに、文明が進んで発明・発見された薬物やアルコール、ニコチン、カフェインや、社会システムが生み出した貨幣などがもたらす優越感・射幸心・安心などの、生物として未経験の刺激に報酬系のA10ドパミン神経系が過剰に活性化するのは容易に想像できます。


報酬系~依存 との戦いに勝って、心と身体の健康を保つ

現代文明社会の先進国に住むヒトにとっての報酬系の問題点は、報酬系が「依存」を生みやすいことです。

先にお話ししたように、もともと報酬系は、得難い栄養素などを苦労を労わずに探させるために、進化に伴って脳が仕組んだものでした。
昔々、塩や、果物の中の糖類などは、容易く手にはいるものではなかったからこそ、報酬系は努力してでも手に入れさせるように仕向けるようになったのです。
ですから報酬系の指令には強力な強制力があります。

しかし、現代文明社会の先進国に住むヒトは上にあげた「欲望」を容易に満たすことができるので、報酬系の指令はだんだんエスカレートしていきます。
「依存」を招く事柄の特徴は、それを満たしてもまた更に「欲望」が「もっと、もっと」と輪をかけて湧いてくることです。
その結果、報酬系の指令を満たし続けざるを得なくなる「依存症」に陥ります。
薬物依存だけでなく、アルコール、ニコチン、カフェイン、美味と飽食、ギャンブル、セックスなど依存症を引き起こす欲望はなんと身近なものでしょうか。
依存症は「病気」というより、報酬系が引き起こす過剰な環境への適応障害という側面が大きいといえるでしょう。

現在の先進諸国と呼ばれるコミュニティの貨幣経済に代表される社会システムも、社会の構成員の多くを占める企業などの様々な法人や、政治・行政組織やその外郭団体などに属する人々が、「貨幣依存症」に陥って行き詰まっているのかもしれません。
個人的には、ヒトは文明を開いて約1万年を経た現在、様々な依存症の1つとして「貨幣依存症」の問題点をやっと認識し始めたところと感じています。
貨幣依存症」は収入や資産の多いお金持ちや、地位が高いとされる人、国家資格取得者や公務員などの身分を保証されているという人に好発しているようですね。
恐らく、これらの人々は、貨幣を手に入れる目算が付くと沢山ドパミンが分泌され、充足感を得るのでしょう。
同時に、裕福であることに強迫されて、失うことが恐ろしくなり、ますます「貨幣依存症」に陥っていくのでしょうね。
単なる依存症より質が悪い気がします。

なぜこんなにも様々な依存が蔓延るのでしょう?
人間は文明を発明し、ヒトの生存に有利な環境を手にしましたが、脳の報酬系に代表される我々の体の生物学的(生理学的)システムは、文明化された環境に適応するためのものではなかったことを忘れてはなりません。
現代文明の利便性に、生物としてのヒトは適応できていないのです。

現代文明社会の先進国に住むヒトの健康と心の豊かさの鍵は、欲望を満たすことに溺れがちな自分を客観視して、報酬系ではなく、前頭葉の機能=理性で判断し自制することにあるようです。
一方で、ホモサピエンスになって初めて発達した前頭葉の新機能としての理性は、古い脳機能である報酬系のA10ドパミン神経系の生理的指令に打ち勝つことが困難のようです。

「欲望」という報酬系の指令を疑うことなく素直に従っていては、健康や心の豊かさは遠のいていくばかりでしょう。

また、「欲望」と、「それを満たせない不安と恐怖」を巧みに刺激し、貨幣獲得や購買行動を制御しようとする他者が発信する「情報」=広告や商品の宣伝、メディアコンテンツあるいは保険などを鵜呑みにしないという、客観性も必要となるでしょう。

貴方が感じている「美味しさ」「愉快」「快楽」「幸福」「裕福」「安心」が、本当に健康や心の豊かさに結び付いているか、点検してみてもよいかもしれません。

自分の感覚や価値観を常に点検する姿勢が必要なようです。

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