朝からもりもり、食事が美味しいですか?
今日は、朝食を抜く人では動脈硬化になりやすくなるという研究を紹介しながら、生活習慣と健康について考えてみたいと思います。
動脈硬化と朝食の関係
The Importance of Breakfast in Atherosclerosis Disease: Insights From the PESA Study.【研究の目的】
朝食の摂食パターンと、心筋梗塞・脳卒中の原因となる動脈硬化の関係を調べる。
【研究の参加者】
40~54歳で、研究開始時に心臓や脳など血管が原因の疾患がないスペインのマドリードにある国際的な銀行の本社の人々4,052人
【研究の方法】
参加者から聞き取り調査をして、以下の①~③のグループに分類した。
①高カロリー朝食:朝食が1日の総エネルギー摂取量(kcal)の20%超の割合を占めていた(全体の27%が該当)
②低カロリー朝食:朝食が1日の総エネルギー摂取量(kcal)の5~20%の割合を占めていた(全体の70%が該当)
③朝食抜き:朝食が1日の総エネルギー摂取量(kcal)の5%未満の割合を占めていた(全体の3%が該当)
そのうえで、首の動脈(両側頸動脈)、下腹部の腎臓のあたりの大きな動脈(腎動脈下腹部大動脈)、太ももの動脈(両側大腿動脈)などについて、血管の中の様子を超音波で解析する画像診断法などで、血管の内側の壁に瘤(小さなコブ、 プラーク)がないかを調べた。
【研究の結果】
③の朝食抜きグループは①の高カロリー朝食グループに比べて、
・下腹部の腎臓のあたりの大きな動脈で1.79倍
・首の動脈で1.76倍
・太ももの動脈で1.72倍
血管の内側の壁に瘤を見つけやすく、動脈硬化になりやすいと考えられた。
また、全身の血管が動脈硬化になっている可能性も2.57倍高かった。
他にも、心臓に栄養を運ぶ動脈(冠動脈)が固くなる現象である石灰化も③の朝食抜きグループで多かった。
これらの傾向は、動脈硬化の危険因子である、年齢、ウエストサイズ(ウエスト周囲径)、喫煙、糖尿病の有無とは関係なく認められた。
朝食の摂食パターンと動脈硬化の関係 |
【研究のから考えられること】
研究者たちは、朝食を抜くことは、不健康な生活習慣の指標のようなもので、朝食を抜くようなライフスタイルが、巡り巡って動脈硬化を進展させてしまうのであろう、と述べています。
朝に食欲がないことは怖い
いかがですか。この研究は単に朝食を抜くことが健康に悪く動脈硬化になるということを証明しているのではありません。
研究者たちのコメントのように、おそらく、朝食を抜くようなライフスタイル全般が、不健康でその結果、動脈硬化になる、と考えるほうが自然です。
では、朝食を抜くようなライフスタイルについて考えてみましょう。
残業続きで、夕食を夜遅く外食などで済ませていれば、翌朝の食欲がないのは当たり前ですね。
晩酌の範囲を超えて、寝る前まで飲酒をすれば、二日酔いにならなくても、お酒によるカロリーオーバーと、胃や膵臓・肝臓の疲れで、翌朝の食欲がないのも頷けます。
上の研究でも、動脈硬化になりやすいのは、図のように、③の朝食抜き、②の低カロリーの朝食、①の高カロリーの朝食の順でした。
このことは、朝に食欲がなければないほど、動脈硬化になりやすい、と読み替えられます。
不健康なライフスタイル=自律神経の乱れ
朝に食欲ないとはどういうことかを生理学的に考えてみましょう。ここでは、身体がリラックスしているときに働く副交感神経と、興奮したり、活動的になっているときに働く交感神経の働きがカギになります。
交感神経も副交感神経も、ヒトの意思とは関係なく体をコントロールしている神経で、両方を合わせて自律神経と呼ばれます。
自律神経の働き
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人間の1日のリズムでは、夜~就寝中~朝は本来リラックスする神経の副交感神経の支配になるのですが、寝不足や睡眠障害があると、就寝中も副交感神経の支配にならず、興奮の神経の交感神経の支配になってしまいます。
朝食を抜くということは=朝食を食べたくない、ということです。
朝に食欲がないということは、朝に交感神経支配になっていることが考えられます。
交感神経支配になると食欲を感じないのです。
人間の1日の正常なリズムでは、夜~就寝中~朝までは、副交感神経支配であることが自然です。
副交感神経支配では、食欲もわくし、消化・吸収も進むし、排便・排尿も進みます。
朝起きてしばらくすると、喉が渇いて、おしっこに行きたくなり、お腹がすき、食後には大便通があるのが本来のリズムです。
実は、便秘の原因の大半は、多忙なライフスタイルでの夜遅くの食事・寝不足・睡眠障害による交感神経・副交感神経、つまり自律神経支配の乱れです。
女性で、OL時代にはひどい便秘だったのに、結婚して、規則正しい生活になったらいつの間にか下剤はいらなくなったという人は多いのです。
交感神経は消化管を麻痺させる作用があります。
交感神経は血圧を上げる作用があります。
高血圧気味の人は、喫煙や、過剰な飲酒や、睡眠障害などによる自律神経の乱れで、夜~就寝中~朝からずっと1日中交感神経支配になってしまっていることが1つの大きな原因でしょう。
実は動脈硬化と高血圧は鶏と卵の関係のように互いにリスク因子です。
実際に、いびきをかく人で、睡眠障害があり、高血圧で薬を飲んでも血圧が下がらない人が、就寝中に鼻に装着したマスクから空気を送りこむ治療(CPAP「シーパップ」と言います)で睡眠障害を改善すると、血圧がスーッと下がり、降圧薬が不要になることも多いのです。
リラックスするには副交感神経が働く必要があります。
リラックスのために無意識に深呼吸することがありますよね。
あれは、十分な酸素を取り込むことで副交感神経が働けるようにしているのです。
睡眠中に十分な酸素を送り込むと、交感神経の緊張がなくなり副交感神経が働くことからよく眠れるようになります。
このほかにも、ストレスが多いと交感神経支配になりがちです。
ストレスが多い仕事や、多忙、気晴らしのない生活や、喫煙、不規則な食事と暴飲暴食(食べ過ぎ・飲み過ぎ、夜中に飲食する)、慢性的な運動不足は自律神経の乱れを招きます。
朝食を食べることが大切なのではない
このように、朝食を抜いたか食べたかではなく、不健康なライフスタイルやストレスの多い生活が原因で、朝に食欲がわかないことが問題と考えるのが論理的です。よく考えてみてください。
夕食から朝食までは8時間以上間隔があいているのが普通でしょう。
なのに、お腹が減らないというのはとても不自然で不健康な感じがしませんか?
不健康なライフスタイルは、実は自律神経の乱れを招くことが最もいけないことで、食欲も、便通も、血圧も、睡眠も、その他、生物が無意識に規則正しく行っている生活のリズムと恒常性をかき乱してしまうのです。
上記の研究は、朝食を食べたくないようなライフスタイルが、実は動脈硬化だけでなく、万病のもとであることを示してくれていると考えられます。
科学研究は正しく読み解こう
最後に、このような科学研究の読み解き方が大切です。上記の研究を、「やっぱり朝食を抜くことは健康に悪い」とか「動脈硬化にならないように朝食を食べよう」などと解釈するのはあまりにも一面的です。
「朝に食欲が湧くような健康なライフスタイルにしよう」という解釈が妥当でしょう。
一般メディアはもとより、医療や健康の専門家や、医療・健康関係のメディア等でも、科学研究をきちんと読み解かずに、表面的で一面的だったり、偏向した解釈をしているものが多いようです。
メディアは記事や番組にしたときに、話題になりそうな、キャッチーでセンセーショナルな解釈をすることが問題ですし、専門家は、自分の専門分野での見方に偏りがちなことを忘れてはなりません。
情報は吟味して、正しく解釈したいものです。
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