こうしてレストレスレッグス症候群を治しました
レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)ってご存知でしょうか?「むずむず脚症候群」 「下肢静止不能症候群」とも呼ばれます。
主に脚(腿から下、ふくらはぎ)に不快を感じる病気です。
具体的には、夜眠ろうと寝床に入ったときや、新幹線や飛行機での移動中、会議やコンサートなどで、じっと座ってなければならないときに、脚を動かしたくてたまらなくなったり、脚がムズムズするという、異常な感覚があるといいます。
歩いたり、脚を動かしたりする動きをすると、不快感がなくなるという特徴があります。
夕方から夜にかけて症状が出やすくなります。
原因がまだはっきりしないため、治療がなかなか難しい病気で、患者さんは困っていることが多いようです。
この病気にかかると、睡眠の質が下がり、昼間の眠気や、疲れやすい、集中できないなど、仕事や勉強に影響することも多いのです。
エバーグリーン研究室では、れい主任研究員がこの病気を持っていて、ずっと解決策を研究してきました。
今日は、その成果をご紹介できる経験を積みましたので、この病気で苦しんでいる方々に情報提供をしたいと思います。
健康な一般の方はあまりご関心がないかと思いますが、ご家族やお友達、職場のお仲間にこの病気の人がいたら、ぜひこのブログを紹介してください。
レストレスレッグス症候群治療の試行錯誤
れい主任研究員からの報告によると、中学生のころ、30分ほどのバス通学で座席に座っていると脚がむずむずして立たずにはいられなくなったのが初めだそうです。さて、研究室長のちかしは、れい研究員の相談を受けて、まず漢方薬を試してみました。
基本の処方は
- 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
- 四物湯(シモツトウ)
これに抑肝散(ヨクカンサン)を追加することもあります。
これでだいぶ良くなりましたが、これに加えて緩い糖質制限をしてもらったところ、さらに良くなったということです。
ここら辺のいきさつは下のリンクをどうぞ。
⇒むずむず脚症候群
漢方薬と糖質制限で昼間の症状はなくなったものの、夜中の症状は抑えきれませんでした。
大事なれい主任研究員のために、ちかしは研究を重ねました。
いろいろ文献を読みましたが、医師も決定的な治療法が見つけられず、苦労していることがわかりました。
この病気の人は下の日本神経治療学会のガイドラインは一読されることをお勧めします。
⇒レストレスレッグス症候群のガイドライン
このガイドラインでも、
診断基準
- 脚を動かしたいという強い欲求が存在し,また通常その欲求が,不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
- 静かに横になったり座ったりしている状態で出現,増悪する
- 歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
- 日中より夕方・夜間に増強する
診断を補助する特徴
- 家族歴
- ドパミン作動薬による効果
- 睡眠時のperiodic leg movementsが睡眠ポリグラフ検査上有意に多く出現
ニュープロパッチが著効。でも、止めたら悪化・・・
そこで、れい主任研究員は、2013年に薬価収載されたドパミン作動薬の貼り薬ニュープロパッチ(一般名:ロチゴチン)を、試しに、医師に処方してもらい試用したところ、症状はピタリと治まりました。しかも、 ニュープロパッチの用法は
- ロチゴチンとして 1 日 1 回 2.25 mg/日からはじめ、以後経過を観察しながら 1 週間以
上の間隔をあけて 1 日量として 2.25 mg ずつ増量し維持量(標準 1 日量 4.5 mg~6.75 mg)を定める。
ところが、約1週間(4回)使った後、ニュープロパッチをやめると、症状は以前よりひどくなっていたのです。
それまでは夜中、2時ごろに目が覚めてもストレッチをすればそのあとは朝まで症状が治まっていたのに、薬を止めたあとは、朝まで目が覚めるたびにストレッチをしないと眠れなくなりました。
この病気の特徴として、このような、ドパミン作動薬を使用し続けると、使い始めるより前より症状が悪くなることも分かっています。
これは強化現象(augmentation)といわれ、ドパミン作動薬などで刺激を受けると、ドパミン受容体の1つであるD2受容体が壊れやすいことが原因とされています。
ですので、ドパミン作動薬も使い続けたくないですね。
新幹線や飛行機に長く乗らなければならない時、旅行に行く時、お芝居を見るときなどに、頓用で使うのがよさそうです。
レストレスレッグス症候群の原因究明!
以上、れい主任研究員のドパミン作動薬試用経験から、これまでわかっているレストレスレッグス症候群の原因の学説のなかで、神経伝達物質であるドパミンの生合成異常が一番説得力があるな、と感じました。
図を見てください。
上のガイドラインにも記載されている現在推定されているレストレスレッグス症候群が起こる仕組み(病態生理)を簡単に図にしてみました。
レストレスレッグス(むずむず脚)症候群が起こる仕組み(病態生理) |
図の緑色の線がドパミン神経です。
図の青色の線がセロトニン神経です。
図の橙色の線が交感神経です。
図の赤色の線が運動神経です。
図の紫色の線はノルアドレナリン・アドレナリン分泌を表します。
順番に今指摘されているレストレスレッグス症候群の原因を説明します。
① 脳の中では視床下部から前頭葉に走っているA11神経系がレストレスレッグス症候群に関係していて、ここの神経でのドパミンの働きが低下しているとされます。
② 延髄では、ドパミン神経の終末が交感神経と連絡していて、交感神経の興奮を抑える役目をしています。でも①の原因のために、ドパミン神経が十分働けず、交感神経の抑制が障害されているとされます。
② 延髄では、ドパミン神経の終末が交感神経と連絡していて、交感神経の興奮を抑える役目をしています。でも①の原因のために、ドパミン神経が十分働けず、交感神経の抑制が障害されているとされます。
③ セロトニン神経系も、延髄で交感神経と連絡していて、交感神経を興奮させる働きがありますが、セロトニン神経系にも何らかの問題があるのではないかと指摘されています。
④ 交感神経が興奮すると、副腎からノルアドレナリン・アドレナリンが多く分泌されます。ノルアドレナリン・アドレナリンは運動を命令するホルモンです。
⑤ 最終的に筋肉に動けと命令する運動神経は、①~④の原因で、過度に興奮してしまいます。
⑥ 前頭葉に走っているA11神経系の働きが十分でないので、前頭葉は情報を正確に処理できずに感覚異常が起こります。
つまり図中の天秤の絵にあるように、興奮が制御を上回ってしまって、それが症状につながると考えられますね。
上のガイドラインにも記載がありますが、レストレスレッグス症候群は機能性障害であり、パーキンソン病のような神経変性(器質性障害)ではないということがポイントだと考えました。
車のトランスミッションに例えると、器質性障害はトランスミッションの歯車が壊れてしまった状態、機能性障害は油が切れている状態です。
歯車を直すのはたいへんですが、油を補うだけならば簡単ですね。
特に、生化学的な視点で考えるとドパミンの生合成異常が原因の1つとして説明できると思いました。
つまり、油の代わりにドパミンを補えばよいわけです。
ドパミンの原料を補えばよいと考えた理由
次の図を見てください。ちょっと複雑な図ですが、順番に説明しますね。
ドパミン・セロトニン生合成経路 |
先ず、下から、
食事でとったタンパク質は、消化器で消化され、アミノ酸になって小腸から吸収されて、脳の血管までたどり着きます。
脳の血管では、脳の中に有害なものが入らないように、血液脳関門があります。
血液脳関門にはアミノ酸を血管内から脳にくみ出すポンプ(トランスポーター)があるので、 アミノ酸はこの関門を通り抜けられます。
しかし、多くのアミノ酸は同じトランスポーターを利用するので、アミノ酸同士で競合します。
ドパミンの原料になるフェニルアラニンとセロトニンの原料になるトリプトファンも脳への入り口で互いに競争するわけです。
まず、ドパミンの原料になるフェニルアラニンの経路を見ましょう。
図の緑の矢印の経路です。
フェニルアラニンから、ドパミンになるまでに、3つの酵素の働きが必要で、ドパミンになるまで4ステップです。
一方、セロトニンの原料になるトリプトファンの経路では、2つの酵素が働きセロトニンになるまで3ステップです。
セロトニンのほうがドパミンより簡単な過程で作れるようですね。
しかも、実は、ドパミンに至る経路の、フェニルアラニン水酸化酵素、チロシン水酸化酵素と、セロトニンに至る経路の、トリプトファン水酸化酵素は、ほぼ同じ形をしていて、しかも、同じ補因子(BH4と酸素)を利用して働きます。
ですので、ドパミン生合成とセロトニン生合成が競合しているようにも見えます。
さらに注目なのが、真ん中にブルーグリーンで囲った、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)です。
AADCは、ドパミンとセロトニンを作り上げる最後の段階で共通して働きます。
ここでもドパミンとセロトニンは競合しているように見えます。もちろんドパミン神経系とセロトニン神経系のそれぞれの神経細胞の中で、酵素が働くので、酵素を取り合っているわけではないでしょうが、AADCの働きに偏りがあるのかもしれません。
私が注目したのはここです。
① 脳への取り込みで、セロトニンの原料となるトリプトファンとドパミンの原料となるフェニルアラニンは競合する
② セロトニンとドパミン生合成経路の各酵素は相同で、競合するように見える
③ レストレスレッグス症候群ではセロトニン神経系とドパミン神経系とでAADCの働きに偏りがあるのかもしれない
①+②+③を考えると、
ドパミン作動薬など直接ドパミンレセプターに働きかけるものよりも、生理的にドパミンが作りやすくなる環境を整えたほうが良いと結論しました。
ちなみに、なぜドパミンそのものが医薬品やサプリになっていないかというと、ドパミンは血液脳関門を通れないからです。
なぜ、脳内で必要な神経伝達物質を血液脳関門は通してくれないのでしょう。
それは恐らく、ドパミンのような重要な神経伝達物質は「必要な時、必要な量だけ」作られるべきものだからでしょう。
このことからも、ドパミン作動薬のようなドパミンレセプターに直接働く物質を投与するのはリスクがあると思われます。
ドパミンの材料を補って、身体が必要とする分だけ脳内で身体にドパミンを作らせれば、適当な量のドパミンを補充できるわけです。
ドパミンの材料を摂ってみる
そこで、L-フェニルアラニンのサプリメントを試してもらったのです。L-フェニルアラニンはチロシンの一段階前のもの(前駆体)ですので、チロシンのサプリメントでもよいのですが、なるべく生理的なドパミン生合成量(ドパミンが多すぎないよう)にしたいので、あえて前駆体のL-フェニルアラニンを使用しました。
果たして効いたか?
効きました。
今のところ、症状が全く出ないか、出ても、ベッドから起きて、トイレまで歩くだけで治るレベルに収まっています。
飲み始めて3日目には改善を自覚できたそうです。
まず、1回425mgのL-フェニルアラニンを1日2回、空腹時(朝起きぬけと夕食の2時間前)に飲んでもらいました。飲み始めて3日目には改善を自覚できたそうです。
L-フェニルアラニンがドパミンになるために必要な、葉酸、ナイアシン、ビタミンB6が含まれるビタミンB群のサプリメントと、できれば、鉄を補充するサプリも一緒に摂ります。
先に書いたように、多くのアミノ酸は食事と一緒に取ると、ほかのアミノ酸と競合するので、空腹時が良いと思います。
一般に、ビタミン剤やサプリメントの副作用のリスクを減らす取り方のコツとして、通常は食事と一緒に飲むのが良いのですが、今回は治療的に使用するので、より吸収の良い方法を考えました。
しかし、夕方、おなかが張った感じ(腹部膨満感)が現れました。
ドパミンが増えることで考えられる副作用に、吐き気や便秘などの症状があります。
腹部膨満感もドパミンの副作用ではないかと考えました。
そこで、L-トリプトファン(305mg)も時間をずらして、空腹時(15時ごろ)に少量飲んでもらいました。
動きにくいタイプの便秘気味なので、問題になりませんでした。
腹部膨満感もなくなりました。
これで、れい主任研究員の脳内でのドパミンとセロトニンの生合成のバランスが取れたようです。
めでたし、めでたし。
服用した製品
L-フェニルアラニンリッチパウダー
L-フェニルアラニン (60カプセル 1,188円)
L-トリプトファン
リッチパウダー
L-トリプトファン(120カプセル 1,550円)
金額はアマゾンを参考にしています。
変更があるかもしれませんので、購入の際にはご確認ください。
最後に。
同じ病気で悩む方に、少しでも情報提供できれば幸いです。
用量や飲み方など、ご自分でいろいろ調節されるといいかもしれません。
でも、サプリメントとは言え、上記のように副作用が出ることもあります。
お試しになるときは、少量から初めて、身体の変化を注意深く観察して、体調不良が少しでも出たら飲むのをやめてくださいね。
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