いきいき!エバーグリーンラブ: 脂肪は悪者?

2014年11月6日木曜日

脂肪は悪者?

みなさん脂肪(脂質)にどのようなイメージをお持ちですか?
脂肪をとると太る、とか、酸化した脂肪が体に悪いとか、悪いイメージが定着しているのではないでしょうか?

でも、栄養素の中で、脂肪はとても大切です。
脂肪の構成成分の脂肪酸には、体内で作れないために食べ物でとるのが必須なものもあります。

人間の細胞の成分の割合(重さの%)は、おおよそ、水分66%、 タンパク質16%、脂肪13%、無機物4.4%、炭水化物0.4%、核酸(微量、遺伝子の成分)と言われています。
水分を除くと、脂肪はタンパク質とともに体の成分として大きな割合を占めていることがわかります。

別なページで、脂肪の消化吸収、脂肪細胞への取り込みについてはお話ししました。
⇒脂肪の消化吸収はこちらを
⇒脂肪を貯めるしくみ

今日は、脂肪が私たちの体でどのように利用されているかを順に見ていきましょう。

脂肪は細胞膜の材料

下の絵を見てください。
私たちの細胞です。
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細胞と細胞膜(脂質二重層)

上の絵のように、細胞膜は脂質二重層という脂肪の成分からできていて、脂肪は細胞膜の材料として使われています。
脂肪細胞に脂肪滴となってエネルギー源として蓄えられるだけではないのです。
むしろ、こちらの働きのほうがずっと大切。
約40兆個といわれる、私たちのすべての生きた細胞の細胞膜はこの脂質二重層でできています。
そう、脂肪は不可欠なものなのです。

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細胞膜はシャボン玉に似ている?


私たちの体はカチカチではなく、しなやかで、やわらかで、しかも丈夫です。
特に動き回る生物(動物)である私たちにはこのしなやかさはとても大切です。
細胞もしなやかに動いていて(流動的で)、自由に形や大きさを変えることができなければ機能しません。
その細胞の膜も同じ性質が必要です。

じゃあ、細胞膜をどのようにイメージすればよいでしょう。

ちょっと想像しにくいかもしれませんが、丈夫なシャボン玉のようなものと考えてみてください。
シャボン玉も膜でできていますし、シャボン玉になる石鹸水の成分は脂肪酸塩です。
シャボン玉は状況に合うように自由に形や大きさが変わりますよね。
それによく見ると表面に虹色の渦が見えて、常に動いているのがわかるはずです。
シャボン玉はずぐに割れてしましますが、これをとても丈夫にして、簡単には割れないようになったものが細胞膜といっていいでしょう。

実はシャボン玉と細胞膜の化学構造は似ているのです!!
シャボン玉と細胞膜の構造の最大の違いは、膜を構成する分子の向きが逆なことで、二重層であることもよく似ています。
ここら辺は機会があればまたお話しします。

細胞膜で脂肪が果たす役割

さて、細胞膜の脂質二重層はとても大切な役割があることがわかっています。
脂肪についてもっと理解するために、ちょと詳しく見てみましょう。

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細胞膜(脂質二重層)

上の絵のように細胞膜はおもに脂質で構成された二重の膜です。
上と下に水色の丸が並んでいて、それにオレンジ色、黄色とか緑、ピンクの足が生えていますね。
この凧のようなものが細胞膜のおもな基本単位で、グリセロリン脂質といいます。

左の絵はグリセロリン脂質の一種を拡大したものです。


青い部分は、頭のようなので頭部とよばれています。


頭部は水になじみ、油(脂質)をはじく性質をもっています。

黄色の部分は、しっぽのようなので尾部とよばれます。

尾部は油(脂質)になじみ、水をはじく性質をもっています。

つまり頭部と尾部では、性質が反対なんです。

この性質によって私たちの体は自然に細胞の中と外を隔てているのです。


上の絵のように頭部と頭部、尾部と尾部、はお互いにくっついて、頭部は膜の外方向、尾部は膜の内方向に集まって、並んでいます。

物理化学的に、同じ性質を持つ分子や形が似た分子どうしは引き付け合う法則があります。
こうして二重の膜が出来上がっているわけです。


細胞の外は、体液(リンパ液)や血液などがあり、これらは水分を多く含みます。
また、細胞の内側は、細胞液(細胞質)に満たされていて、これも水分が多いので、細胞の外側と内側には、水になじむ頭部(青い丸)が自然と並んでいきます。

一方、黄色い尻尾のような尾部は細胞膜の内側に集まっていますね。
ここでは、油(脂質)になじむ性質の尾部が、お互いに引き合っています。

このように頭部と尾部の物理化学的な性質によって、大事な細胞の中に外から勝手に余計なものが入ってこないようになると同時に、大切な細胞の中のものが出ていかないようにバリアーとなることができます。

脂質を作る脂肪酸には、いくつかの種類と役割がある


さて、この大切な細胞膜を作るグリセロリン脂質は、実は脂肪(中性脂肪)を構成している脂肪酸が部品になってできています。

下の絵を見てください。

グリセロリン脂質(ホスファチジルコリン)と中性脂肪



赤い点線で囲んだように、グリセロリン脂質は脂肪の脂肪酸の1つが、別な成分に入れ替わった形になっています。

40兆個ある細胞の膜にたくさんのグリセロリン脂質があるのですから、その原料の脂肪がとても大切なことがわかりますね。

この細胞の脂質二重層はとても高性能です。

穴が開いているわけではないのに、細胞外から必要なものを取り込み、細胞内の不必要なものは出してしまう機能をもっています。
さらに、ほかの細胞との信号をやりとりして、チームプレイもできます。
細胞の形を変えるのも上手で、自分を複製(細胞分裂)するときだって、柔軟に対応します。

つまり、細胞膜はこのような高機能を発揮せるために、しなやかで、しかも、丈夫で強いといった性質をもっているのです。
もしも細胞膜がしなやかさを持っていなかったら、あなたの皮膚や内臓はごわごわのカチカチでしょう。

さて、この、しなやかで丈夫な細胞膜で大切な役割をしているのが、今回の主役、脂質二重層の脂肪酸成分です。

下の3枚の絵を見てください。


左の絵では、尾部(オレンジ)の4つの脂肪酸部分はまっすぐです。

頭部(青)は隙間なく並んでいいて、2つのグリセロリン脂質はピッチリと隣り合っています。

左の絵では尾部のオレンジの脂肪酸部分はまっすぐですが、黄色とピンクの脂肪酸部分は足を跳ね上げたように曲がっています。

それに合わせて、2つのグリセロリン脂質の頭部(青)にちょっと隙間ができて並んでいます。













右の絵ではオレンジ色の尾部の2つの脂肪酸部分はまっすぐですが、緑色とピンクの脂肪酸部分は足を跳ね上げたように曲がっています。
特に緑色の方は大きく曲がっています。

そして、それに合わせて、2つのグリセロリン脂質の頭部にさらに隙間ができて並んでいます。






実はこの隙間が「しなやかさ」を保つために大切だと考えられています。

もう一度、脂質二重層の絵を見てみましょう。
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脂質二重層と脂質ラフト
中央の上の部分(頭部が青色)は脂質ラフトとよばれる多機能を持つ領域で比較的強固な構造。
脂質ラフトをおもに構成するのは、グリセロリン脂質ではなく、スフィンゴ脂質とスフィンゴ糖脂質


絵の中央下部には、オレンジ色で描かれた足のまっすぐな脂肪酸部分を持つグリセロリン脂質が多く、左側と右側には、今見たような、黄色ピンクの脂肪酸部分を持ったグリセロリン脂質が多くなっています。

まず中央下部です。
中央下部のグリセロリン脂質はピッチリと詰まって並んでいます。
そのためグリセロリン脂質どうしの結びつきが強くて丈夫です。

この構造の上には、脂質ラフトとよばれる強固な筏(いかだ)のような構造があります。
ラフトとは英語でまさに筏の意味です。
絵では中央の上の部分(頭部が青色)で尾部が肌色で描かれています。

この脂質ラフトは細胞への信号を受け取ったりするところなのですが、細胞膜の外側に大きな緑色のタンパク質があり、また、細胞膜を貫通しているスプリングのような形のタンパク質があったりするので、これらを支えるために強度が必要なのです。
そこでその下の中央下部には足がまっすぐなグリセロリン脂質が集まっていて、土台のように支えています。
脂質ラフトは必要に応じてしなやかなグリセロリン脂質の海を筏のように浮かんで移動できるようです。


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コレステロールの構造

コレステロールで細胞膜を強くする

中央部にグレーのタツノオトシゴみたいな形の楔(くさび)のようなものがところどころありますね。
これがコレステロールです。

コレステロールは、柱のように重いものを支えるように入っています。

コレステロールは細胞の強度が必要な個所にこのように配置されます。
コレステロールにはこれ以外にもホルモンの原料にもなります。
実は、コレステロールは体になくてはならないものなのです。

コレステロールが多いと動脈が硬くなる動脈硬化になって心筋梗塞や脳卒中の危険が高まるという話を聞いたことがあるかと思います。

一方で、コレステロールが低すぎると死亡率が上がるという研究もあります。

程度にもよりますがコレステロール値が少々高くても、遺伝的に血中の脂質が高くなる資質がある人や、糖尿病など動脈硬化のリスクが高い人を除いて、ほとんどの場合、薬は必要ないと考えます。

不必要な薬はなるべく使用しないほうが安全です。
もしも、あなたやあなたの家族がコレステロールを低下させる薬を医師から処方されているのなら、本当に必要なのかどうかもう一度、医師に相談してみてください。

話がそれました。

細胞膜の固いところ、柔らかいところ

さて、ちょっと上の細胞膜の絵の左側と右側の部分を見てください。
ここには、黄色ピンクの脂肪酸部分を持ったグリセロリン脂質が多く配置しています。

この部分には、脂質ラフトのような支えるべき重いものがありません。
なので、細胞膜をしなやかに保つため、足の曲がった黄色やピンクや緑の脂肪酸部分を持つグリセロリン脂質が集まっています。
こうして、グリセロリン脂質の隙間が比較的緩やかになり(分子同士の相互作用が弱くなり)、グリセロリン脂質が細胞膜の上を自由に動けるためしなやかになっていると考えられます。

どうですか?

脂肪やコレステロールの物理化学的な性質を自然に利用して、私たちの細胞は体の機能を発揮させていることが、細胞膜1つをとっても鮮やかにわかりますね。

私たちの体は、とても、とーっても理にかなっています。

最初のほうで、細胞膜は丈夫なシャボン玉のようなものとお話ししました。
空気中でできたシャボン玉はすぐに水分が蒸発するので割れてしまいますが、私たちの細胞膜は割れませんね。
それは、細胞の内にも外にもふんだんに水があるためです。
水が豊富な環境ではグリセロリン脂質の物理化学的な性質はかわりません(だから、簡単には割れません!)。
生命に水が必須な一面です。
丈夫なシャボン玉って、ちょっとありえないようなイメージですが、私たちの体はこれを自然の法則に従って実現しているのです。

脂肪やコレステロールが体によくないといった、一面的な迷信を安直に信じてしまっては損をします。

最新の科学の情報をきちんと理解して、自分の健康は自分で守る努力をしましょう。

われわれエバーグリーン研究室は読者=研究員の皆さんと、研究を続けていきます。

さて、今日は脂肪とコレステロールの機能がわかりました。

下の記事では、体に良い脂肪(油脂)と悪い脂肪についてお話しています。
健康に良い油?悪い油?


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2 件のコメント:

  1. 細胞膜の柔軟性は不飽和脂肪酸に由来します。通常細胞膜の不飽和脂肪酸は7:3で主要構成成分であり重要です。また不飽和脂肪酸に3個以上のオールシス体の二重結合が存在すると、分子がラセン状にカールしてバネ化できるので柔軟性を確保できます。トランス脂肪酸が悪いのは、分子がカールしてバネ化できなくなるので細胞膜の柔軟性を維持できなくなるからです。

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    1. コメントありがとうございます。
      大変詳しいご解説ありがとうございます。
      構成する脂肪酸の二重結合部分で、二重結合一個で30度曲がるので、3つ以上二重結合があると、90度以上曲がって捻じれるようにカールして、ばねのようになるわけですね。よく理解できました。するとばねのように縦方向にも柔軟性を持つということなのでしょうか?
      ところで、私の理解では、尾部がまっすぐの飽和脂肪酸はファン・デル・ワールス相互作用が大きくなり分子が相互作用(結合)しやすいため柔軟性が低くなり、一方、尾部が曲がった不飽和脂肪酸では、ファン・デル・ワールス相互作用が小さくなり分子が相互作用(結合)しにくいため柔軟性が保たれていると、理解しています。これですと柔軟性は主に横方向ですよね。不飽和脂肪酸が約7割で構成される細胞膜は、多価不飽和脂肪酸の割合が多ければ、縦と横に柔軟であると理解すればよいのでしょうか?ご教示くださればうれしいです。

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